やはり俺の仮想世界は間違っている。   作:なしゅう

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リズベット武具店

タイタンズハンドを牢獄にぶち込んでからはや数日。

未だに74層の迷宮は突破できていない。

74層の雑魚モンスターが前までより強いのが問題だろう。

 

気晴らしにでも、ブラブラと街を歩く。

気づいたら、俺の家がある48層に着いていた。

 

「……そういや、48層って何があるんだ」

 

ここで買った家は安くて大きかったから特に立地条件とか気にせずに買った。

だから48層に具体的に何があるのかなどはわからなかった。

 

せっかくだし、街巡りするか。

 

ボーッとしながら街を歩く。

 

その時。

曲がり角を曲がったあたりで女の人の叫び声が聞こえた。

圏内で叫び声……? PKの類ではないよな。

だが、もしものことだ、確認してみるか。

 

声がした方に向かう。

黒ずくめの男がピンクの髪の色の女に罵声を浴びさせられていた。……いやこいつキリトだろ。

 

「……何やってんだキリト」

 

俺に気づいたキリトは慌てて言い訳を言う。

 

「ち、違うんだエイトマン、これはちょってした手違いで……」

「何が手違いよ! うちの店の武器壊してくれちゃって!」

 

俺は悟った。

人を観察する能力に関しては俺の右に出る者はいないと自負できる。そもそも右に出る友達がいないんだけどな。

 

「フラグ建築乙、じゃあな」

「待ってくれエイトマンーーーーーー!!」

 

触らぬ神に祟りなし、回れ右してマイホームに帰る。

っと、誰かにぶつかりそうになった。

サッと横に避けて、まあ謝罪の一つでもしようかと相手の顔を見たら美人さん……ってよく見知った顔だ。

 

「エイト君? どうしたの?」

「いや、キリトが揉めてるらしくてな。さっさと帰ろうかと」

「なんで止めてあげないの! エイト君の根性無し!」

 

あらら〜、キリトのことと聞いたらアスナさん、すぐ動きましたね〜……いつの間に仲良く……。

まじキリトフラグ建てすぎじゃないの?

 

「って、リズ!?」

「どうしてくれるのよ全く! ーーーーーーアスナ?」

「へ? リズ? じゃあこいつがアスナの友人の……」

 

アスナの友人の武具店……ん? どっかで聞いたような……。

 

「じゃあここがキリトが俺に紹介するはずだった武具店か」

 

とうの本人もここがそうだとは知らなかったみたいだけどな。

目の前で3人が状況説明し合ってるのを傍らに、俺はぬるりと武具店の中に入った。なんだよ、ぬるりとって、俺はミミズか。

 

ーーーー

 

武具店ってこうなってるんだな……。

あちこちに武器が置いてある、市販のものよりステータスが高いから、多分ここの店長の自作だろう。

ふむふむ、と頷きながら見ていたらキリトに話しかけられた。

 

「おいエイトマン! なんで助けてくれなかったんだよ!?」

「ほー、この刀いいな。……ん? いやお前がフラグ建てたりしたんだろ?」

「フラ……? いやまあ、俺が確かに悪いんだけどさ」

 

ほらな、絶対あの女と何かしたに決まっている。

 

「いらっしゃいませー」

 

顔に怒マークを付けられながら言われても……キリトへの怒りがまだ収まってないぞ……。

 

「あー……えっと、なんかいい刀とかあるか?」

「刀ですか、少々お待ちを!」

 

元気よく店の裏に走っていく、えーとリズとか言ったかな。

 

「なんだ、普通にいいやつじゃねぇか、何したんだよキリト」

 

そう呟いたがキリトには聞こえていなかったみたいだ。

まあ、俺が知る必要はない。

知るべきなのはーーーーーー

 

「キリト、ここが前言ってた武具店のことか?」

「みたいだ、さっきアスナが紹介してくれた。まさかたまたま入った店がアスナの友人の店だったとはな」

「ほーん、ここって武器以外ないの? 武具店とか初めてだからよくわからねぇんだが」

「防具とかはなさそうだな。……あ、確かリズが鍛治スキルを持ってたはずだ。リズってのはここの店長のことだ」

「鍛治か、ありがとよ」

 

鍛治職人がいる、せっかくだし強化やらしてもらおう。

宗三左文字の耐久値も減ってるしな。

 

「…………鍛治を頼みたいんだが」

 

なんて声をかければよくわからなかったから、とりあえず用件をさっさと伝えることにした。

営業スマイルで振り返った店長。

 

「はーい、どの武器ですか?」

「これなんだが、耐久値戻したら強化も頼みたい」

 

宗三左文字を鞘から出す。

それを見せたら、急に目の色が変わった。えっ、なんかした俺?

 

「こ、こ、これって……」

「ああ、25層のLAB(ラストアタックボーナス)だ。それが何か」

「宗三左文字じゃないの!? あの織田信長が使ってたっていう刀!」

 

……お、おう。そうだな……。

なんでそんなに飛びつくんだ……。

 

俺が困惑してると、アスナが横から入ってきた。

 

「あー、すみません。この子刀剣女子で……ってエイト君じゃない、いつの間にいたのよ」

「刀剣……女子……ああ、はいはいあれね」

 

刀剣女子、多分刀の擬人化した某ブラウザゲームにハマっている女子のことだろう。

俺も艦とか隊のこれくしょんするゲームやってたしな。でも名前聞いただけで飛びつくなんて怖いのです。

そうなんじゃダメよ、ね!

 

「はっ、す、すみませんお客様……」

 

明らかにしょんぼりするリズ。店の立場からすると確かに今の態度は悪かったな。

 

「大丈夫よリズ。エイト君優しいからタメ口でも」

「…………ともかくなんでもいいから鍛治頼む」

 

もう疲れた……。

鍛治頼んだだけなのに……。

 

「任せなさい! 耐久値戻した後はどんなステータスを上げてほしいの?」

「あー、そうだな。……じゃあDPS(秒数ダメージ効率)を上げてくれ、素材はこれで出来るだけ頼む」

 

かっこよく言ったが、要は攻撃力を上げてくれってことだ。どうせ《抜刀術》でワンパンする気満々だし。

素材をドサりと渡す。今まで強化してなかったから溜まりに溜まってるからこの際一気に消化だ。

 

「かしこまりー、終わるまで店の品見ていってね」

「おう……」

 

元気いいなー。

……キリト曰く美少女らしいんだけど、まあ美少女と言えば美少女なんだろうな。

 

ーーーー

 

「お待たせしましたー」

 

店の奥からリズが俺の刀を持って現れた。

 

「どうぞ! 失敗せずに+4まで強化したわよ」

「おお……まだ素材沢山残ってるが……」

「+5以上は博打になるから……ね?」

 

なんだよ博打って、ギャンブルじゃないんだから。

 

「ギャンブルの一種だぞ」

「うおっ! キリトか……ってなんで考えたことがわかった」

「顔に出てた。+4より上を目指すのは本当に気をつけた方がいいぞ、忠告はしておく」

 

ははーん……わかったぞ、これは俺をもっと強くさせたくないために嘘をついているんだな!

……ってわけではなく、多分成功率が極端に下がるんだろう。強化可能数に達して+0だったら元も子もないしな。

 

「ん、じゃあお代はこれで。……そうだな、あとなんか刀でも買ってくか」

「刀ね、ちょっとこの前作ったのがあるから……」

 

また裏方の方に入っていくリズ。ここの店、なかなかステータスが高い武器揃えていてありがたい。

 

「はい! 見たところ投擲スキルとかもあげているみたいだし、こんな短い刀もいいんじゃない?」

 

見せてきたのは、ほぼ短剣と言ってもいいほどの短さの刀だ。

 

「見た目が織田信長の武器に似ているから、名前はそれに因んで"薬研"よ!」

 

……薬研藤四郎のことですかね……。

でもよく見てみると、特殊スキルで《投擲ダメージUP》や《クリティカルUP》などがある。ステータスもなかなかだしこれから使えそうだ。

 

「キチンと素材があれば、本物にほぼ近い薬研藤四郎も作れるんだけどね……」

 

しょんぼりするリズ。

いやこれも充分ステータス高いですよ? 魔剣クラスには流石に負けるが。

 

「いや、これで充分だ。お代払っとくぞ」

 

いい買い物だった、リズベット武具店、覚えたぞ。

ホクホク顔で店を出ようとしたら、後ろからリズの声が聞こえた。

 

「キ・リ・ト〜? あんたは素材集めよ」

「た、助けてくれエイトマン……」

 

そんな目で見られたら断るにも断れねぇだろ……全く。

 

「何したんだキリト」

「……その、ここの武器壊しちゃって。それで素材を集めることに……」

「はーん……なるほどな。わかった、これ借りな」

 

そう言って、俺は近くにあった刀(なるべく安いの)を手に取った。

「ま、待ってええ!?」と言うリズの静止を無視し、鍛えてもらった宗三左文字で叩き斬った。

 

パリーン、とポリゴンの欠片となる刀。

リズは床に突っ伏していた。

 

「これで俺も同罪、素材集め手伝うわ」

「ありがとうエイトマン! 流石にスノードラゴンのエリアに1人で行くのは辛かったんだ!」

 

……えっ、ドラゴンのところ行くの?

 

床でプルプル震えているリズ。

不意に、後ろから声をかけられた。

 

「キリト君? エイト君? …………本気で怒るわよ」

 

アスナが全部見てました……。

この後、キリトと俺は説教を受けたのであった。

 


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