今日も今日とて迷宮潜りだ。
現在は74層の迷宮を攻略中だ。
目の前にいるトカゲソルジャーのモンスターを斬る。……まだ、生きている。
「っ……ふぅ」
やはり50層を超えると雑魚モンスターとの戦闘もキツくなる。
初期のことを思い出し、《観察眼》スキルを駆使してクリティカルを狙い、一太刀で沈めるのを繰り返してきた。
この動きが一番効率よく敵を無力化、倒すことが出来る。
そんなある日、暇潰しにステータスを見ていたら妙なスキルを見つけた。
ーーーーーー《抜刀術》
今日はそれの、試し斬りだ。
「…………」
刀を鞘に収める。攻撃をやめたんじゃない、寧ろ逆、これは攻撃動作だ。
「ふっ!」
一息で刀を抜刀し、残り僅かのHPのクラゲ型モンスターを斬り伏せる。
鞘に収めるまでが《抜刀術》のスキルだ。
「攻撃力は高いみたいだな」
今のは《抜刀術》カテゴリーのスキルの一つ、《居合》。
まあ、鞘に収めてる刀を抜刀しながら斬りつけ、再び鞘に収めるだけというシンプルなスキル。
だが、シンプルなだけに、使いやすい。
「他にもスキルあるみたいだが……まあ今のスキルポイントじゃあな……ーーーーーー?」
索敵に何かが引っかかった。多分これはプレイヤーだ。
危なかった、抜刀術を使っている最中に出くわしたら面倒なことになっただろう。
まあここもネトゲだ、妬みやらなんでもあるだろう。
ぶっちゃけこのスキルの出現方法とか条件とか全くわからん、情報屋に言ったって意味無い。
なら、最初から言わずに黙っておけば変に絡まれることもなくなる。
「今日は帰るか」
刀の耐久もそろそろ危ない。耐久などに関してはNPCに任せてるが、より強い刀となると……魔剣クラスか……。
索敵に引っかかった人物と帰り際に会い、会釈を交わし迷宮を出た。
ーーーー
俺は今、35層の森にいる。
攻略は74層まで進んでいるのにだ。
攻略組の俺はここでサボっているわけじゃない。コラ、そこ、今どうせダラダラしてるんだろうって思っただろう。
俺だって仕事してる……これは、まあ依頼みたいなもんだ、クエストじゃないがな。
最前線で色んなやつに頼み回ってる奴がいて、話を聞いて、胸糞悪かったからだ。
俺はハッピーエンドが好きだ。
俺の人生もハッピーエンドのために主夫エンドにさせてください。
「ここにいるはずなんだがなぁ……」
その時、森の奥から女の叫び声がした。いや……女というより女の子の叫び声だな今のは。
この森は割と強めのモンスターが出る。
まあ74層のモンスターでも倒せる俺からしたら雑魚同然、サーチアンドデストロイ……はしないが。
とりあえず声のした方に全力で走る、俺の敏捷は現在トップクラスだ。
辿り着いた先には、女の子が蹲っていた。そして、周りにはモンスターが、襲われているのか。
これは助けなければ……だがここからじゃ間に合わない。
仕方ない、人前ではあまり使いたくないが……。
「《居合》」
モンスターがエフェクト音を発した時には俺は既に刀を鞘に収めている、またつまらぬものを斬ってしまった……。
って、抜刀術スキル早速人に見せちゃった。
やばいかなー、なんて思いつつ助けたやつを見ると、ほとんど涙目で俺のスキルなんて見てなかった。ほっ、助かった。
とりあえず手を差し出す。
やだ、何このイケメン。
「ほら、立て。何してんだ」
「た、助けていただきありがとうございます……」
助けたのになんでそんな悲しそうなの? 俺に不満でも? おっ?
だが、どうやらそういうわけではないみたいだ。
「ピナ……ピナが……」
「ピナって……なんだよ」
「私のお友達なんです……!」
はぁん……? ……つまりはなんだ、ビーストテイマーって奴なのか?
それなら合点行くが……よくわからんな。
「すまん、お前はビーストテイマーなのか?」
「は、はい!」
ほうほう、そういえばどっかの階層で……よし、ここはキリトに頼もう。
「ちょっと待ってろ」
キリトにメッセージを送る。
『ビーストテイマーのペット的なの、死んだらどうすればいいんだ?』
すぐに返信が来た。
『47層の思い出の丘に、復活アイテムがある』
よし、キリトにお守りは任せよう。
『俺、用事があるんだ。迷いの森に来てくれ』
『なんで俺が? 用事ってなんだよ』
『βテスターに借りがあったな俺って。おや、βテスターさんじゃないですか』
『お前……覚えてろよ。今行く』
よし、交渉成立っと。
「今から攻略組でも超強いお兄さんが来るから待ってろ。そいつと一緒に47層まで行ってもらえ」
「47層には何があるんですか?」
「お前のピナ……お友達が生き返るアイテムがある」
「本当ですか!?」
この子、めちゃくちゃ喜んでるな。
っと、もう到着か、早いな。
「来たぞ、エイトマン」
「じゃ、後は頼んだ」
「おい待て、いきさつくらい話せ」
「この子のペット死んだから47層行って復活させて上げろ」
「なんで俺が……」
そこで、隣の子をチラリと見るキリト。
ギョッとする。
「だ、ダメ……ですよね……ひっく」
涙を目に溜めている、こんなの断れるわけないだろ!
純粋な小町だなこれ。
ちなみに小町なら泣いたふりをした後、ケロりとする。お兄ちゃん涙目。
「ったく……仕方ないな。二度目はないからな」
「おう、さんきゅ」
「あ、ありがとうございます! あっ、私、シリカって言います!」
シリカ、シリカねー、覚えた覚えた。
「じゃ、用事あるからすまん、じゃあな」
「エイトマンの用事にも興味があるが……まあいいや。じゃあ行こうかシリカ」
「はい! えーっと……」
「キリトだよ、んであいつがエイトマンな」
そのついでみたいな紹介やめろ。
悲しくなるだろうが。
抜刀術です。抜刀術っぽくのない技もあるかもしれませんが多めにお願いします