やはり俺の仮想世界は間違っている。   作:なしゅう

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25層

宗三左文字が装備できてから3日後、ボス会議が行われた。

俺は軍が残していったマッピングデータを再度確認する。

 

アスナは前回俺らで話し合ったことを皆に伝える。

皆、特に不満はないようだ。軍に至っては申し訳ないという顔をしている者がほとんどだ。

そんなこんなで話し合いは終わった。

俺もさっさと帰宅しようと他の攻略組に紛れて立ち去ろうとすると、肩に手を置かれた。

 

アスナだ。

数秒間、黙って見つめ合う。

やめろよ、目を逸らしちゃうだろ。

 

「エイトマン君、緊張してるの?」

 

やっとのことで口を開いたアスナ。

そこから飛び出した言葉は俺の心配だった。

 

「……なんでそう思ったんだ?」

「会議中もそわそわしてたし、何より目がいつもより腐ってるから」

「お前どんだけ俺の顔見てたのかよ、そんな微々たる差がわかるなんてエイトマン検定準二級はあげられるぞ」

「なにその検定……エイトマン君……、いやエイト君!」

「なんだよエイト君って、俺からマンを取るんじゃねぇ! 俺は帰るぞ!」

「マンってそんな大事だったの!? って、逆ギレっぽくして逃げようだなんて許すわけないでしょ!」

 

話が長くなりそうだったので打ち切って逃げようとしたが失敗に終わったようだ。

 

「ほら、エイトマン君じゃ長いじゃない? だからエイト君」

 

ツッコミしながら話を続けてくるあたり由比ヶ浜に似ている気がする。

いや由比ヶ浜ならもっとうるさいか?

 

「ああ、そうですか……」

 

めちゃくちゃどうでもいい、という表示を醸し出しながらサラッとその場を離れようとするーーーーーーが、俺の腕はがっしり掴まれる。

どんだけ俺を帰らせないんですか。

 

「大丈夫だよ、今回は前回みたいにキリト君とエイト君二人だけじゃない、私もいるし、何よりヒースクリフ達のサポートもしっかりしてるわ」

「何が言いたい」

「だから、一人で背負い込むのはやめて」

「……」

 

つい、現実での出来事を思い出してしまった。

だめだ、ここはゲームであって、現実のことを持ち出すべきじゃない。

 

「忠告ありがとよ、明日に備えてさっさと寝ろ」

 

腕を振り払うと俺は宿に戻った。

後ろは振り向かなかった。振り向いたら、何かに負けた気がするから。

 

ーーーー

 

ボス部屋前にて、今回のアタッカーの俺らは前に出る。

 

「皆、今回のボス戦も勝ちましょう!」

「「おおお!!!」」」

 

アスナの掛け声で士気は十分だ。

アスナが扉に手をかけ、開く。

 

…………この先に軍のメンバーを殺したボスがいる。

開かれると同時に中に入り、陣形を整える。

 

……おかしいな、いつもならすぐ灯などが点いて明るくなるというのに。

 

「……暗いな」

 

キリトが呟く。

俺は索敵スキル発動させてボスの襲撃に備える。

だが、何もいない、何も起きない。

 

「いないな、エイトマン」

 

キリトも索敵スキルを使ったのだろうか、そんな事を口にする。

まずいな、周りの奴らも不安に駆られてる。

なんとかしないと突然のことが起きたら対処が遅れる。

 

「……そういえば、この前こんなスキル取ったな」

 

宗三左文字を装備するためにレベリングした後、余ったスキルポイントで色々習得したのだ。

その内の一つがこれだ。

 

「《暗視》」

 

読んで字のごとく、暗い中も見えるようになる。

なんのためかって? そりゃ暗い洞窟内の時とかこれあると便利だろ、松明持つと刀持ちにくいし。

《暗視》を使って見えたものは、無数のコウモリだった。

だが動いてない。石像みたいだ。

 

「キリト、オブジェクトとしてコウモリがたくさん飛んでる」

「なんでわかるーーーーーーその目、ああなるほどな」

 

察しがいい。

このスキルを使うと目が青くなるらしい、X線でも出てるのか?

 

「アスナ、ちょっと先陣切ってくる。コウモリで遮られて索敵が機能してないのかもしれない」

「わかったわ」

 

颯爽と走り出す俺、走れエイトマン弾より速く〜。

コウモリは余り関係ない、破壊可能オブジェクトの様なものみたいだ。

コウモリの群れの突破すると、ようやく索敵に何かが引っかかった。

デカイ……いや、今までのボスより小さいか?

索敵に引っかかったところまで進んだが何もいないーーーーーー俺はゆっくりと見上げる。

 

 

「おいおい……嘘だろ」

 

今までのボスより一回り小さいコウモリが、宙吊りで天井にぶら下がっていた。

 

「グギャッ、ギャァァッ!」

「うおっ!?」

 

気持ちの悪い声を上げながらデカコウモリが地面に降り立つ。

その瞬間、今まで何の攻撃もしてこなかったコウモリ達が動き始める。

索敵にも引っかかる。つまり、モンスターとなり俺たちを攻撃するようになったのか。

 

「……先にコウモリ全員倒しておくべきだったな」

 

刀を構える、だが全方位をコウモリに囲まれた。

今やるべき事はーーーーーーとりあえず、仲間の元へ戻ろう。

 

「《散華》!」

 

刀ソードスキル、奥義技であり突進技でもあるスキルを発動させる。

コウモリの群れを一気に突き進む。俺の敏捷も合わさりかなりの距離を移動出来る。

 

「っと、ふぅ」

「どうだったエイトマン?」

「あー、なんていうかその。やばい」

「何がーーーーーーって、コウモリがいきなり攻撃始めたぞ!?」

「最初にコウモリ倒すべきだったみたいだ」

 

グギァァッッ! 遠くからさっき聞いた叫び声が聞こえる。

その声を合図に、部屋の灯が強くなり部屋全体が明るくなり、見えるようになった。

俺たちは皆、コウモリに囲まれていた。

 

ーーーー

 

「うわああっ!!」

「狼狽えるな、一匹一匹は強くない!」

ヒースクリフの声が聞こえる。

 

「皆、確実に一匹一匹倒していこう!」

 

ディアベルの声が聞こえる。

俺の神経は更に鋭く、深く研ぎ澄まされる。

 

ガサリ、と周りのコウモリよりも一際大きい翼の音が聞こえた。

全速力でそっちへ駆ける。

 

「そこだっ!」

 

刀スキル《絶剣》

モーションが短く、鋭い突きを相手に与える初期技だ。

次のスキルへと繋げる動きも使いやすく重宝している。

怯んだボスにスタン攻撃を与え、スタンさせる。

 

「はぁっ!」

 

固まっているボスにレイピアによる俺のスキルよりも鋭い突きが襲いかかる。

俺の後を追いかけてきたアスナだ。

 

「エイト君、流石に速すぎない? 一応私《閃光》なんだけど」

「それに倣って言うなら俺は《影》だぞ」

 

言っておいてなんだが、めちゃくちゃ恥ずかしいなこれ。

 

皆がコウモリを倒している間に、ボスの速さについていける俺とアスナがダメージを与える作戦だ。

 

「ほら、あと少しでレッドゾーンに出来る。次のスタンでやるぞ」

「うん!」

 

俺は再びスキルを発動する。

スキル《地獄耳》

その名の通り地獄耳になるってだけだ、だが汎用性は高い。

 

ーーーーーーまた聞こえた。一際大きい翼の音だ。

 

「アスナ!」

「わかってるわ」

 

再びボスを発見&スタンさせ、アスナの一撃を加える。

そこで丁度ボスのHPがレッドゾーンに入る。

行動パターンが変わるのか。

ーーーーーーと、俺らの目の前からボスが消える。

 

「グギャ……ギャァァッ!」

 

上からボスの声が聞こえる。

上を見上げると、ボスが宙吊りでこちらを見下ろしていた。

ボスの叫び声を合図に、他のコウモリが一斉にボスへと集まる。

 

「エイトマン! どうなったんだ!?」

「……ボスのHPはレッドゾーンになった。たぶん行動パターンが変わる」

 

見上げたままキリトに答える。

ボスの周りを飛び回るコウモリ、だが少しずつ少なっている……?

 

「…………吸収?」

 

コウモリが全て消えた後に出てきたものは、今までのボスよりも一回り"大きい"ボス。

その巨体をブルりと震わせ、先程までとは比べ物にもならないほど大きい金切り声をあげた。

 

「ギィィャァァッッ!!!」

 

 

ーーーーーー!!

 

「身体が、動かない……!!」

 

まさか、今の金切り声は攻撃の一つだったのか。

モーションが大きいが成功させると俺たちの身体が止まる攻撃。

 

他の皆も身体が動いていないみたいだ。

 

まずい、ボスは既に次の攻撃動作に移っている。

近くにいたプレイヤーをターゲットに取ったのか、目が赤く光る。

 

不気味な奇声を上げ、翼をプレイヤーに打ち付けた。

 

「うわあああっ!!」

 

HPが一気に半分ほど減る。このままじゃーーーーーー俺の身体はまだ動かない。

 

くそ、動け、動け! 動け!!

 

「ギィィッ!」

「嫌だ! 死にたくない!」

 

硬直が解除された!

動け、俺の身体。

助けなければ、助けなきゃダメだ。

死者を出してはーーーーーー!!

 

「うおおおお!!」

 

《瞬間瞬足》のスキルを発動させ、全力で走る。

ボスの翼を刀で斬る。

体制を崩し、地面に落ちたボス。

ーーーーーー間に合った。

 

「おい、早く下がーーーーーーッ!?」

 

ターゲットが俺に切り替わったのか、恐ろしいスピードで俺へ攻撃を仕掛けるボス。

だがこの程度なら、いつもの要領で、一度下がり、スタン攻撃をーーーーーー

 

「ーーーーーー!? 間に合わ、ねぇっ!?」

 

ボスの攻撃をモロに喰らい、倒れる。

ただでさえ防御力が低いんだ俺は、一撃でHPが3分の1ほどになった。

なんでだ、いつもなら避けられたはずなのに。

 

「くそっ、たれ……」

 

忘れていた、久しぶりに使ったからか。

《瞬間瞬足》のデメリットのせいだ。

 

わかった時にはもう遅い、ボスの牙が目の前に見える。

ここで終わり? 俺の人生はこんなゲームの中で終わるのか?

ふざけるな、死んで、死んでたまるか。

こんなところでーーーーーー硬直した身体を無理やり動かそうとするが、無意味だ。

だが、視界の端でキリトとアスナが動いていた。

 

 

「エイトマン!!」

 

キリトの攻撃でボスがよろめいた。

 

「エイト君! 早く飲んで!」

 

アスナがポーションを飲ませてくる。

そうか、俺が硬直解除されたってことは他の奴らも解除されたってことか。

 

「もうダメだよ……一人であんなことしちゃ」

「…………でも、一人助けられた」

 

俺が助けたやつも、今回復中みたいだ。

ホッと、胸を下ろす。俺のしたことは無意味じゃなかった。

それがわかっただけでもいい。

 

よろめきながらも立ち上がり、俺は言った。

 

「第二ラウンドだ。どっちが速いか、白黒つけようぜ」

 

これは死亡フラグじゃない。ただの、シンプルな勝負宣言だ。

理解しているのか、していないのかわからないが、ボスが再び俺をターゲットに捉えたのだけは、確かにわかった。

 

飛び回るボスに対して、俺は俊敏力で追いついていた。

どうやら飛んでいるのにも時間制限があるようで、ある程度飛ぶと降りてくる。

敏捷が高い俺なら、降りた瞬間を叩ける。

 

だが、ボスも流石に反撃してくる。

 

「遅ぇよ」

 

そんな攻撃も、デバフなしの俺ならぬるりと避けられる。

 

「はぁっ!」

 

思い切り足を斬る。足の健を狙ったからクリティカルだ。

 

また叫ぶボス、やめろよ、耳障りなんだよ。

 

飛び上がり、俺の届かない位置で停止する。

そして、身体をブルりと震わせた。

この動きは、さっきの金切り声か!

まずい、ここからじゃ届かない。どうすれば…………。

 

「皆! 耳を塞げ!」

「!」

 

ディアベルの突然の命令。咄嗟に両手で耳を塞ぐ。

 

ボスが金切り声を上げるモーションの最後に、ディアベルが何かを投げた。

 

ボスが声を上げた。

ーーーーーーと、同時にボスの目の前で破裂する。

その瞬間、耳を劈くような音が、耳を塞いでいても伝わってきた。

音響弾か……!

 

あの音にビックリしたのかボスが目を回らせ、落ちてきた。

そしてその音によってボスの金切り声も遮られたのか、俺たちも金縛りにあっていない。

 

「皆! 突撃ぃぃっ!」

「おおおおっ!!!」

 

流石だ、ディアベル。

状況に応じて、咄嗟の判断、行動。

やっぱりお前はこのデスゲームで、重要なやつだ。

 

残り少ないボスのHPが0になった。

ボスはポリゴンの欠片となり、消滅。

俺らの頭の上には《Congratulations》の文字か浮かび上がる。

もう何度も見た、ボス討伐成功のお知らせだ。

 


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