俺の名前は比企谷 八幡。
そして、机の上に置いてある機械は"ナーヴギア"
今日始まる新作ゲーム"ソードアート・オンライン"を遊ぶための機械だ。
これはフルダイブ型のMMORPGで、小さい頃からそう言ったゲームで遊んできた俺はもちろんこれに興味がありまくりだった。
まあ、人気すぎて手に入らない、並んでも結局売り切れるのが関の山だ
ーーーーーーと思ってたのも昨日まで。
なんと、俺の妹の小町が町内のくじ引きで特賞を当ててこのナーヴギアを持ち帰ってきた。
そして前々から欲しい欲しいと呟いてた俺に小町がプレゼントしてくれたのだ。流石小町! 可愛い!
……まあ、あとで遊ばせて! とあざとくお願いされたがな。おい、これプレゼントしたんじゃないのかよ。
時計を見ると、サービス開始まで残り1分だ。
小町には昼はいらないと言ってあるしのんびり遊ぼうじゃないか。
俺はナーヴギアを頭に被り、ベットに横になる。
そして、SAOの世界へ俺を連れて行ってくれる魔法の言葉を口にする。
「リンクスタート!」
ーーーーーーーーーーーー
「っ……ここが、"はじまりの街"か?」
目の前にはとてもゲームとは思えない景色が広がっていた。
足元に生い茂る草、歩くとしっかりとした感触が伝わる。頬を伝うそよ風も見事に再現されている。
「こりゃ皆やりたくなるわな」
一応受験生だからハマりすぎには注意しないとな。
視界の左上を見るとキャラメイキング時に付けた名前"Eight men"とHPバーが示されていた。
このEight menは決して弾丸より早く走るヒーローじゃないからな、俺の名前を弄っただけだ。
俺の姿は黒髪の好青年にした。ゲームの中まで腐った目は嫌だからな。
ステータスは敏捷に振りまくりだ。
SAOには筋力値と敏捷値しかない、大抵の人は半々くらいで振るんだろうが。ソロプレイをするつもりの俺はそんな振り方はできない。
敏捷に極振りだ、スピードこそ命。囲まれた際もスピードさえあれば逃げられる。エイトマンとは関係ないぞ。
具体的に言うと、キャラメイキング時に貰ったポイントを2:8くらいに分けた。
「筋力値めっちゃ低いが……ダメージ出るよな?」
丁度目の前にイノシシ型のモンスターがポップしてきた。よし、こいつを切ろう。
俺は初期装備のダガーを胸前に構えて、攻撃の姿勢を取る。
「そういえば、ソードスキルだっけな……どう使うんだあれ」
よくわからないまま、俺はイノシシに向かって走り出す。
「はっ……はっや!」
自分でも驚くほどのスピードが出た、これが敏捷極振りの力か!
イノシシの後ろに回り込み、ダガーで首元を裂く。
イノシシはブオオオとか言いながらポリゴンの欠片となって散った。
「……クリティカルを出せれば攻撃力はカバー出来そうだな」
さて、攻撃力の問題は大丈夫だとしよう。
しかし、問題は一つ解決するとまた一つ出来てしまうものである。
「ソードスキル、何とかしないとな」
幸い、ここはモンスターがよくポップするところみたいだ、すぐ近くにまたイノシシがいる。
ここならソードスキルの練習もできそうだ。
近くにポップしたイノシシに向かって俺は短剣を振りかぶった。
「これなら、どうだっ」
あれから数時間、ソードスキルを発動させようと頑張っているが、一向に上手くなる気配が見えない。
「はぁ、なんでダメなんだ?」
ダガーを手の中でクルクル回す。戦い終わる度にそうしてたら癖になってしまったようだ。
遊ぶ相手がいなかったからペン回しとかよくしてただけなんだけどな。
「おーい、お前さん」
おーい、誰か呼んでますよー。
声のした方を向くとパンダナを巻いた男と黒髪の男が俺を見ていた。
「俺か?」
「お前さん以外に誰がいるってんだよ。俺はクラインだ。ここで1人で狩ってるのか?」
「そんなところだ、そっちはパーティーか?」
パンダナの男の後ろに立っている黒髪の好青年の方を顎で指しながら聞く。俺もこんなキャラメイキングにしたな。
「いや、こいつキリトってんだけどよ、元βテスターだからすげぇ上手いんだ」
「教えて貰ってるってことか」
「おうよ!」
ふむ、なるほど。βテスターに教えてもらえば俺もソードスキルが上手く使えるようになるのかもしれないな。
俺のコミュ力を発揮するしかないな!(但し、ゲーム内のみ)
「あー、なんだ、俺にも教えてくんねぇか? キリトさん?」
「キリトでいいよ。俺で教えられることならいいぞ」
ふははは、見たか俺のコミュ力を! 頼み事をして無視されなかった挙句、オーケーまで貰ったぞ。(但し、目が腐ってなかった場合)
「えーと、エイ……エイトマンか。よろしくな」
「ああ、こちらこそよろしく、キリト」
βテスターがキリト、パンダナはクライン。ちぃ覚えた。
それから俺はキリトに教えてもらい、なんとかソードスキルを上手に使えるようになったのであった。
「それにしても、エイトマンは嫌な戦い方だな」
「なんだよ、悪いか」
身体に染み付いてきた動きを繰り返す。
ダガーで素早く相手を切りつける短剣スキル《ファッドエッジ》
踏み込んできたイノシシを横、横、横、縦の順番で切りつける。
システムアシストが勝手に身体を動かしてくれるので慣れれば簡単にソードスキルは使えた。
「まあ、こんなもんか」
「エイトマンは上手いな。すぐに出来るようになった」
「それを言うならクラインってやつもだろ。あっちで狩ってるが、ほぼソードスキル成功してるぞ」
「謙遜するなよ」
笑うキリト。俺も釣られて口元が緩む。
こんなリア充生活現実でしたことねぇよ。
「キリトー、エイトマンー、俺そろそろ落ちるわ。ピザ頼んでるんだ」
「もうそんな時間か、エイトマンはどうする?」
「そうだな……」
小町には昼飯はいらないと言ってるが夕飯いらないとは言ってないな。流石に小町を放っておいてゲームをしてたら怒られかねん。
「俺も一旦落ちるわ」
「そうか、俺はまだ少し狩ってることにする」
まじかよ、廃人かこいつ。飯とか大丈夫なのか?
そう思いつつ俺はウィンドウを開く、そしてログアウトボタンを探す。
「…………あれ?」
「どうした? エイトマン」
「いや、ログアウトボタンが見つからないんだけど」
もう一度よく探す。
上から下までしっかり見る。うん、ないな。
「まあ、サービス開始初日だしこんなのもあるだろ。せっかくだしもうちょい狩りしようぜ」
クラインは短絡的な考え方をしている。普通に考えればそうだが……。
本当にそれだけなのか?
「いや、ログアウトボタンがないだなんてこれからの運営にも関わる重大な問題だろ、強制的にゲームを終了させるくらいはしないと」
「そりゃそうだが……」
確かにそうだな、キリトの言う通りだ。
俺も同意しようと口を開こうとするーーーーーー
「うぉっ!?」
「これは……転移の光!?」
突如、キリトとクライン、そして俺を青い光が 包んでいた。
βテスターのキリトが言うには転移の光のようだ。
転移先で見えたのはーーーーーー
「広……場……?」
周りを見ると同じように転移してくる人がたくさんいる。
キリトとクラインは……この近くにはいないのか。
ぼっちに逆戻り……ってそんな場合じゃない。
「なんだこれは……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
茅場晶彦。
このゲームを作った張本人に告げられた事実を再認識する。
一つ、このゲームに俺は閉じ込められた。
一つ、HPバーが0になるとリアルでも死ぬ。
一つ、既に何百人か犠牲になっている。
そしてーーーーーー出るためには、ゲームをクリアしなければならない。
茅場晶彦からのプレゼント、《手鏡》に映っているのは俺のリアルでの姿。腐った目もバッチリ映っている。
「まじ……かよ」
俺はその場に立ち尽くした。
様々な感情が頭の中を駆け巡る。
それらを言葉に言い表すことは上手くできないが、今一番わかることはーーーーーー
「ゲーム、クリア……」
絶対、帰ってやる。
現実に。
地の文頑張ります