フーカ「この声は……グレートサイヤマン!」   作:ルシエド

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 結婚した新婦から次に新婦になる女性へと贈られるブーケトス。それは新婦から次の新婦へと手渡される、婚期の螺旋。
 その螺旋を否定する者が居た。
 反螺旋族『アンチブライダル』―――カリム・グラシア。

 前話と今話の間でアンチブライダルによる絶望の婚期世界・ブライダルネメシスが引き起こされそうになりましたが、天元突破ヌエラガンの必殺技ブライダルシャフトの一撃により世界は守られました。
 皆様、シャッハ・ヌエラさんに感謝してから今回の話を読み始めますよう、お願いします。


メダロットの説明はオミットされました

 フーカ・レヴェントンには胸が無い。

 孤児である彼女は、幼少期から生きていける最低限のものしか口にしてこなかったからだ。

 彼女の胸はまさしく脱脂粉乳。厚みもなければ重みもない。

 

 リンネも同様の幼少期を過ごした低脂肪乳の孤児であったが、彼女は四年前にベルリネッタ家に引き取られてお嬢様となったため、結構いいものを食わせてもらっていた。

 結果、低脂肪乳は高脂肪乳にランクアップ。

 金持ちの家(ソレスタルビーイング)の武力介乳は大成功に終わったようだ。

 

 乙女ゲーの主人公は貧乳でなければならない。そういう意味では他人の心を攻略する力があるフーカが貧乳で、リンネがそうでないのは必然だったのかもしれない。

 

 胸部装甲はリンネの方が厚い。だが胸の奥の意志はフーカの方が強い。

 ゆえにか、今日に至っても二人の関係はフーカが主導するもののままだった。

 フーカのハートは強い。だが、そんな強いハートがちょっと揺らがされることもある。

 

「これがロックマンエグゼ2のフォレストコンボ」

 

「最近分かってきた。

 ライ、お前、痛くなければ覚えないだろ派閥の人間じゃな」

 

 最近、畜生コンボと手加減の程度をちょくちょく見誤り、友人ゆえの気安さと友人への気遣いをたびたび混ぜてしまうライ・ドローンが痛烈な一撃を食らわせてきた時がそうだ。

 

「ロックマンエグゼ、じゃったかこれ」

 

「やりたければ、好きなの持ってって」

 

 携帯ゲームハードの傑作機・ゲームボーイアドバンスの名作ソフトである『ロックマンエグゼシリーズ』のカートリッジが、じゃらっといくつも机の上に落とされる。

 フーカの手の中には、既に渡された青色のゲームボーイアドバンスSPが握られていた。

 ライは席を離れ、台所に向かってキッチンタイマーの音を止める。

 

「そろそろ下味も染みた頃だから、夕飯作る」

 

「他にこのロックマンみたいなゲームってあるんか? ワシ一人でやるんとして、じゃが」

 

「フーカの才能で、かつ一人でやるなら、こっちの方がいいかも」

 

「ん? ……『ロックマンゼロ』?」

 

 料理の段階を進めながら、ライは物質操作魔法で一つのゲームを持ってくる。

 ふよふよ飛んで来たゲームカセットを、フーカは人差し指と中指で挟んでキャッチした。

 

 ロックマンエグゼは、2001年3月21日発売の伝説級ゲームソフトだ。

 だが、リンネが巨でフーカが貧であるのと同じように、強すぎる光には対極となる存在が誕生するもの。それこそがダイレンジャー理論。

 ロックマンエグゼを陽とすれば、陰にあたるソフトも存在する。陰陽一体。

 それこそが、ロックマンゼロシリーズだ。

 

 ロックマンエグゼは9×9マスの陣地を二つ並べ、その陣地の中で多様な要素を組み合わせることで、『狭い空間で無限の可能性を楽しむゲーム』。

 ナンバリングが6まであるのは伊達ではなく、携帯機としては一つの完成形、究極系であったとさえ言っていい。

 対し、ゼロはエグゼ以上にアクションに特化したアクションゲームだ。

 

 地面を蹴って跳び、壁を蹴って跳び、敵を蹴って跳び、攻撃を回避する。

 銃を撃ち、剣を振るい、盾を構えてそれを投げ、槍で足元の敵を突いて攻撃の反動で跳躍し、鞭を天井に突き刺してターザンし、トンファーで敵をまとめて吹っ飛ばし、多様な敵の武器を片っ端から奪う拳の武器で無数の戦闘法を実現可能。

 ここに"自由に能力を追加する要素"や、"敵の技を習得し各武器で再現する要素"等が加わることで、プレイヤーごとに愛用する戦法が違うというとてつもないシステムが完成した。

 驚きのアクション性と、シリーズを重ねるごとに変化・進化を重ねる特徴のおかげで、新作をクリアしてから過去作をプレイしても楽しいと好評である。

 

 その凄まじさたるや、ディバイドゼロの凄さが霞むくらいのゼロっぷりである。

 

「お、おー……成程、ちょっと触った感じ、こっちの方がワシ向きな感があるのう」

 

「だと思った」

 

 料理を進めるライの近くで、フーカがロックマンゼロに熱中する。

 床全体を攻撃するボスの攻撃を、壁に跳んで壁から跳んでの三角飛びで回避し、カウンターでボスの顔面をぶった切るフーカ。

 センスの塊であるフーカは、日々総合的なゲームの腕がメキメキ上がっている。

 だがそれ以上に、一つのことに集中すると強い女の子だった。

 

 集中するとやたらめったら強い。

 一つのものに向き合おうとするとめっぽう強い。

 打ち込んだこと、過去に積み重ねた時間をちゃんと自分のものにするため、とても強い。

 ライが初見では負けた初見殺しボス・アステファルコンもあっさり両断されていた。

 

 骨が強い、力が強い、心が強い。ゆえにクマのフーさん。

 だが、こういう時のフーカを何度も見てきたライは、そこに別の強さも見出している。

 目だ。こういう時のフーカ・レヴェントンは、とても強い目をしているのだ。

 そんじょそこらの男では真似出来ないほどに、強い目の光を宿している。

 

「……まっすぐ何かを見てる時のフーカは、格好いい」

 

「ぶっ」

 

 料理をしている友人が唐突にそういうことを言うもんだから、フーカは吹き出してアドバンスSPを取り落としてしまった。

 

「おっまえ、そういうことを誰にでも言うんわダメじゃろ!

 大事なのは特別な言葉を言うことじゃない。

 特別な言葉を特別な相手にだけ言うことじゃろうが!

 恋愛マスターでないワシでもそんくらいは分かるわ!

 こっ恥ずかしいセリフはリンネにだけ言っとればええんじゃ!」

 

「そうかな」

 

「第一お前、リンネに

 『私のどこが好きなの?』

 って聞かれてちゃんと答えられるんか? どうなんじゃ」

 

 それが言えないようなら論外じゃぞ、とフーカは言う。

 それに対し、ライは特に何も考えず本音を口にした。

 

「リンネさんが、家族を誰よりも愛してたから。

 血の繋がった家族が居る人より、ずっと強く、ずっと確かに愛してたから」

 

(うっわストレートに来た。これ聞いてるワシが恥ずかしいやつじゃ)

 

「あの人は、きっと家族が居ないことが普通だって知ってる。

 家族が居ることが幸運なことだって知ってる。

 優しい家族が、最高の贈り物(ギフト)だって知ってる。

 だから、家族を大切にしていて……そういう心に、きっと惹かれたんだ」

 

 何故これだけ言えるのに、くっついていないのか? とフーカは思った。

 リンネが基本的に鈍いからだろうか、とフーカは考えた。

 こいつが引っ込み思案のへたれ寄りだからだろうか、とフーカは推測した。

 両方かな、とフーカは確信した。

 

「うん、まあ、そうだ。

 だから僕はリンネさんが好きだけど、フーカのことも嫌いじゃない。

 リンネさんを家族のように想ってたフーカにも、そういうところはあったから」

 

 ぐああ、と、その言葉にフーカが恥ずかしそうに頭を抱える。

 違う。

 そうじゃない。

 二人がくっつかない理由はここにもある。

 リンネ・ベルリネッタも、ライ・ドローンも、基本子供なのだ。デフォルトで天然なのだ。

 だからこう、絶妙にいい感じにくっつかないのである。

 

「だーかーら! 誰にでも言ってしまう言葉なら!

 それは特別な言葉でもなんでもないと言うとろうが!

 そういう系のセリフは一人にだけ言うもんじゃ、一人にだけ!」

 

「……違う言葉のつもりなんだけど。言葉って難しい」

 

「口下手のお前が言うと実感百倍じゃな……」

 

 初対面の時と比べれば俄然饒舌になってきたライではあったが、それでも微妙に口下手な感は残っている。言葉のチョイス等にもそれは如実に現れていた。

 本人からすれば『好き』と『嫌いじゃない』は別で、『可愛い』と『格好いい』も別で、それぞれリンネとフーカ相手に使い分けているつもりなのだが、聞いているフーカからすれば大差は無いのかもしれない。

 『特別親しい人』は一人に絞った方がいいのだ。恋愛が絡むなら尚更に。

 

「今日はあんかけチャーハン。エビと白菜中心で」

 

 そうこうしている内に、ライ作の晩御飯が完成する。

 今日は一皿だけで完成する晩御飯であるようだ。

 

 それ単体で十分な美味さを誇るチャーハンに、エビやきくらげ、豚肉や白菜にニンジンなど、いくつもの具が色鮮やかに並ぶ熱々の餡がかけられている。

 出汁の旨味を塩味で巧みにまとめた熱々の餡には、うっすらと卵も浮かんでいた。

 この餡をご飯にかけてかき混ぜれば、たちまち上質なぞうすいもどきになることだろう。

 美味さ×美味さという美味さ。このあんかけチャーハンには、チャーハンとぞうすいの長所をかけ合わせたような美味さがある。

 

 チャーハンだけを食べたり、豚肉と餡とチャーハンを絡めて食べたり、餡を多めにしてチャーハンをぞうすいのような食感にして食べたり、フーカはこれでもかとばかりにがっついていく。

 

「ハムッ、ハフハフ、ハフッ! おかわり!」

 

「あと、帰りにプリン買って来たから」

 

「前から思ってたんじゃが、お前他人に献身的過ぎじゃなかろうか! ありがとう!」

 

 この二人の男度合いと嫁技能は、ものの見事に対照的だった。

 

「ふー、食った食った」

 

「エグゼやる? ゼロやる? それとも別の?」

 

「仮に別の、と言ったら何がオススメされるんじゃ?」

 

「ん……」

 

 そうして。

 

 ライは適当にオススメの64ソフトを取り出し、フーカに見せた。

 

「これ」

 

「―――そいつをやろう」

 

 それが反射的に、それを彼女に掴ませると、彼は予想もしていなかった。

 

 ソフトの名は『ゼルダの伝説 時のオカリナ』。

 32作品存在するニンテンドー64四天王の一角。

 日本だけで伝説を作るにとどまらず、世界的に最高レベルの評価を受けたという、"ゼルダの伝説"の名をこの天と地の間に知らしめた名前通りの伝説のソフトであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グレート……サイヤマン!」

 

 ライと入れ替わりに部屋に入って来たグレートサイヤマンが、天時星・知にだけ許された決めポーズをやたらとキレッキレに決める。こ(ry

 

「ゴーホーム、グレートサイヤマン」

 

「早い!?」

 

「ええからさっさとライと代わってこい」

 

「この眼中に無い感……」

 

「お前じゃなくてええんじゃ。

 饒舌に喋るお前がライの代わりに来るのは、まあ分かる。

 じゃがそういうのはいいんじゃ。あいつの喋り方にもすっかり慣れた」

 

 呆れた顔で、フーカはあぐらをかいて頬杖ついて、溜め息一つ。

 

「あいつが口ごもったなら、そこでワシから聞けばええ。

 あいつが言いづらそうにしているなら、あいつが言うまでワシは待つ。

 口下手なやつとの付き合いなんぞそれでええんじゃ。

 ラ……グレートサイヤマン、じゃけえワシは、アドバイザーはライの方がいいんじゃ」

 

「……分かった。呼んで来よう」

 

 最近は、グレートサイヤマンの用無し感が酷い。

 グレートサイヤマンが消え、マグカップを持ったライがフーカの隣に座った。

 

「さあやるぞライ。詰まったらお前さんが頼りじゃ」

 

「ココア淹れてきた」

 

「ありがたい。最近気付いたんじゃが、ライは夜の飲み物は魔法で作ってたんじゃな」

 

 一瞬で作られた熱々の飲み物に口をつけ、フーカはスタートボタンを押した。

 

「名前は自由に決められる。デフォルト名は『リンク』」

 

「リンネ、っと」

 

「……ま、迷いなく行った……」

 

 フーカは迷いなく友人の名前を主人公につける。ゲーム内でデフォルト名:リンクというコキリ族の少年がコキリの森という場所で目覚め、相棒のナビィと出会っていた。

 

「ベルリの森のベルリ族の子供リンネ。相棒は妖精のライィ。……これじゃな」

 

「序盤の情報から即興で設定作ってくのやめて」

 

 フーカ流再構築式オリジナル舞台設定がこのまま進めば、いずれは『ゴ』ロン族+コキ『リ』族+ゾー『ラ』族の力を束ねたこの主人公が真のゴリラだ! みたいな話になるかもしれない。

 かもしれない、の話だが。

 ハイラル王家を影から支えたとされる闇の一族・フーカー族の登場が待望される。

 まだトライフォースのライの字も出ていないというのにだ。

 

 フーカはゲームをサクサク進めていくが、次第に疑問を抱いていく。

 

「武器もない。盾もない。なんかちみっこいし、これ本当にリンクさんなんか?」

 

「リンクさん……? まあいっか。これはまだ、子供の頃」

 

「成長するんか。ほー」

 

 デラックスを先にやらせておくべきだったかな、とライはちょっと申し訳なく思う。

 

「うわっ、武器も盾も無いというんに、デカい球の岩が転がって来よる!」

 

「この先にコキリの剣があるから、まずは……」

 

「分かった、この岩を殴って壊すんじゃな!」

 

「えっ」

 

「武器もないっちゅうことはそういうことじゃ! いてまえリンネ!」

 

 うわああああ、と画面の中で岩に吹っ飛ばされたリンクが叫ぶ。

 

「なんでじゃ!」

 

「普通、殴ったら壊れるのは敵じゃなくて自分の拳だから」

 

「リンネのパンチじゃぞ!」

 

「リンクのパンチだよ」

 

 何故ライの親しい女子は皆、キャプテンファルコンみたいなパンチをデフォルトで搭載しているのか。何故、ゲーム内のキャラの方がプレイヤーより非力という構図が成立しているのか。

 

「うーむ、大人の時期に武器を手に入れるんじゃろうか?

 今のところ、手に入れた武器はピンと来んせいかリンクさん感が薄いのう」

 

「フックショットやブーメラン、爆弾なんかも後で手に入る。

 ミラーシールドやマスターソード……ダイゴロン刀とかは、大人になってから」

 

「ライゴロン刀?」

 

「ダイゴロン刀」

 

 盾が構えられない、両手で持たなければならない、等々ダイゴロン刀の説明が行われる。

 フーカが興味津々なため、フーカが聞いてライが答えて、結局この先の子供時代や大人時代に手に入るアイテムの六割くらいの説明を、ライはさせられてしまった。

 フーカはディンの炎辺りに特に興味津々である。

 

「つまりリンクさんは、スマブラで戦ってる時も本気じゃなかったんか。舐めプか」

 

(最終形態を出し惜しみして負ける時の仮面ライダーじゃあるまいし……)

 

「なんちゅうお人じゃ……ゴリラとは格が違う……」

 

「……君がゴリラにいじめられた件は僕が謝るから、ゴリラを嫌わないで」

 

「他のゴリラはともかく、ドンキーコングは悪いゴリラじゃ」

 

「違う、ドンキーコングはいいゴリラ。シン・ゴリラだから」

 

 ふざけた話を継続しながら、リンネはサクサクとダンジョンを進んでいく。デクの木様の体内という名のダンジョンに放火していく。デクの木様の中すごくあったかいナリィ……

 

(本当に見切りと反応が早いな。もう攻撃がほとんど当たってない)

 

 フーカ操るリンネは、初見殺しの攻撃以外はほぼ当たっていない。

 サクサク進み、ひょいひょい避け、ズバズバ敵や障害物を切り裂いて行く。

 

『ニイサンイチバンだっピ!』

 

「2→3→1? かのう。分かりやすい分かりやすい」

 

「ん」

 

「ところでこのキャラの喋り方、ポケモンの漫画で見た覚えがあるんじゃが……」

 

「ギエピーじゃないから」

 

 時にはモブキャラから情報を得て、その情報から正解を見つけ、知識が足りないだけで愚か者ではないことを証明したり。

 

「こいつがボス……『甲殻寄生獣ゴーマ』!? 何じゃこの名前!」

 

甲殻寄生獣(こうかくきせいじゅう)猛炎古代竜(もうえんこだいりゅう)電撃旋回虫(でんげきせんかいちゅう)

 異次元悪霊(いじげんあくりょう)灼熱穴居竜(しゃくねつけっきょりゅう)

 水棲核細胞(すいせいかくさいぼう)暗黒幻影獣(あんこくげんえいじゅう)

 双生魔導士(そうせいまどうし)。そして、大魔王。

 時のオカリナのボスには、それぞれ登場時にテロップで出る異名がある」

 

「今更じゃが子供向けゲームのボスの名前じゃないじゃろこれ。スタイリッシュじゃ」

 

 異様にかっこいい名前に驚いたり。

 

「フーカ! そいつの弱点は目だ!」

 

「ライ! 目が弱点じゃない生物なんぞおらん!」

 

「それもそうだ!」

 

 センスがあればゴーマは瞬殺可能、の法則に従いゴーマは瞬殺された。

 ダイレンジャーのゴーマ族ほどでもなく、仮面ライダークウガのゴオマ(初期)程度の手応えとかませ力。これではどうしようもない。

 

「今夜中にクリアできるんじゃなかろうか!」

 

「それは無理」

 

 一度加速したフーカは止まらない。

 あっという間にシナリオを進め、並み居るボスを打ち倒し、フーカは子供リンネが大人リンネになる段階に至っていた。

 ヒロインの金髪がどこかへ消え、負け確定のイベント戦でリンネがガノンドロフに敗北する。

 

「おのれガノンドロフ!」

 

(凄い熱中してるなぁ。

 でもこの先、ハイラルはああなるんだよな……

 どうしよう、SIRENの件があるから、やめさせた方がいいんだろうか)

 

 マスターソード抜刀イベント。

 そして時を越えるイベント。

 ガノンドロフが世界を変える力・トライフォースを入手し、世界が暗黒に閉ざされる。

 

「おのれガノンドロフ!」

 

「それしか言ってない……」

 

 時のオカリナでも指折りの名イベントだが、ライが心配しているのはここからだ。

 子供時代は平和で、人々が平和に笑い合っていたハイラル城下町。

 マスターソードを抜き、魔王に支配された七年後の世界に辿り着いた主人公とプレイヤーがまず見るのは、闇に染まった空。

 怪鳥が鳴く不気味な声。

 そして、死体と土から生まれるゾンビに埋め尽くされた、廃墟になった城下町だ。

 

 ホラゲーだったらぶん殴る宣言をされた記憶があるだけに、ライはちょっとビクビクしながら懐かしい記憶に浸る。

 

(この声も、この展開も、怖かったあの頃……)

 

 だが予想に反し、フーカは積極的にゾンビ(リーデット)に接近して切り倒し始めていた。

 

「あれ?」

 

「ゴリラは倒すが腐った奴も倒すんじゃ」

 

「……た、耐性が付いてる……」

 

 なんという成長力と克服力か。過去の失敗を糧にしているにも程がある。

 目が腐ったゴリラに会えば即座に殴って沈める勢いであった。

 

「もう時間も遅い。この辺でセーブしておかない?」

 

「む、もうこんな時間か。セーブセーブと……リンクさんも大人になってしもうたなあ」

 

「大人にならない人なんて居ない」

 

「それはまあそうなんじゃが。思うところもあるわい」

 

 子供から大人に変わったリンク。

 それを見て、フーカは過去のリンネと今のリンネの違い、過去の自分と今の自分の違いを改めて考えるようになっていた。

 

「最近、リンネと話した時にな、ちょっと聞いたんじゃ。

 ライの妹さん、格闘技をやりたがってたそうじゃな」

 

「……うん」

 

「リンネもそう重い気持ちじゃなかろう。

 ちょっと興味があって、それがきっかけになっただけ。

 それでも、選択させたのはライじゃ。

 そのくらいにはリンネの中でお前の存在は大きく……リンネは、それでちょっと変わった」

 

「大袈裟」

 

「大袈裟なもんかい。

 ワシがリンネのことでこんな見誤りをするものか。

 リンネも家族、学校、友達……色んなもんに変えられとるんじゃ」

 

 ライも、いつからか家族のことをリンネに話せるようになったのだろう。

 彼も変わっている。

 そして、一人が変われば皆も変わる。人の変化は波及する。

 格闘家を目指していたのに死んでしまったライの妹の話を聞き、少しだけ格闘技をやってみようという気になったリンネが、そうであるように。

 フーカもまた、その影響を受けている。

 

 ライも、リンネも、フーカも。まだまだ未完成な中学一年生相当の年齢なのだ。

 

「はぁー、ワシらも変わっていって、大人になっていくんじゃろうか」

 

「そうでしょ」

 

「ライはまあ、なんとなく想像つくんじゃが」

 

「え?」

 

「ワシやリンネはどんな大人になるんじゃろ。

 孤児で多く生き方も知らない……案外、似た感じになるんじゃろうか」

 

「ならない」

 

 フーカのぼんやりした言葉を、ライはきっぱり否定し首をしっかり横に振る。

 

「成長は人ぞれぞれ。フーカとリンネさんも人それぞれ」

 

 そうだ、二人にはそれぞれの個性がある。

 フーカとリンネは似通った大人にはならない。

 いいこと言うじゃないかライ、とフーカはライを見直した。

 彼女は感銘を受けた顔で、うんうんと頷いている。

 

「二人は似たような大人にはならない」

 

「……ライ」

 

「だって君には、胸がないじゃないか」

 

 

 

 しばかれました。

 

 

 




 ライ君、渾身のジョーク。なお通じなかった模様

・パパさん
 家族一のホビー好き。この家のホビーの九割は彼のもの。
 ミッドに地球からのホビー輸入路を確立した人。ミッドにはびこる地球産ホビーは大体こいつのせい。特に好きなものはガンプラで、学生時代は物質操作魔法でガンプラを動かすことが得意技だった。
 同級生のティミル君によく技を披露していたが、途中から自分の流派に『次元覇王流』とフィーリングで名前を付け、『覇王翔龍撃』等の必殺技を打ちまくっていたため、クラスメイトのストラトス君に「まさか……本家も知らない、歴史の闇に消し去られた分家……!?」と中二病的な目で見られていた。

 学生時代はモザイクマスク仮面を名乗り世界を征服しようとする悪のホビー系次元犯罪組織と日夜戦っていた。

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