古代ゴリラ時代の末裔、古代ゴリラ式の使い手、アインハルト・ゴリラトス。
今日も今日とて剛力無双。一対一でゴリラの騎士に負けはない。
動物園で見世物になっている近代ゴリラの奴らとは違う所を見せてやるぜ!
そこにアインハルトの弟子のライバル・ゴリラネッタからの挑戦状が届き、近代式格闘技ステロイドアーツを極めた親友・ヴィヴィオと戦いの地に赴いたアインハルトであったが……
うそです
『クラナガンのタマ=リバーからアザラシが海に帰って行きます。
ゴマアザラシのマラちゃん、略したからマラちゃんです!
今、タマの合間からマラちゃんが海に帰っていきます、アデュー……!』
NHK(ニュース ホスティング クラナガン)の休日ニュースを聞き流しながら、夕方のドローン家にて、ライとフーカはぐでっとしていた。
机の上には、ライがパリッと揚げたチップ状の芋と飲み物が置いてある。
ちなみに30分ほど前まではリンネも居たのだが、門限が早いベルリネッタ家の事情により、早めの帰宅と相成っていた。
「はぁ……樫本学ヴのコロッケ、読み終わってしもうた」
「今日の晩御飯何にする?」
「ハンバーグー……いや、ウードンで」
「うどん、了解。昼は三人分だったけど、夜は二人分だ」
買い物メモに新しい一行が書き加えられる。
「次、何読もうか迷うのう」
「カービィは? デデデでプププなものがたり」
「おお、スマブラのカービィちゃんじゃな」
「……ちゃん?」
「え、女の子じゃろう? ピンク色じゃし」
「……ああ、何も知らない普通の人の感覚だと、そう思ったりもするんだ……」
ピンクであればメスという発想。
だが確かに、一般的な感性であればそう勘違いしてしまうのもおかしくはない。
基本的にピンクは女の子の色、という認識を持っている一般人は少なくない。
クロコダインがピンク色だったとしても、クロコダインはメスではないのだ。
白井黒子ダインはメスだが、あれは淫乱であってもピンクではない。
「それにしても、ライがリンネを一回も家に呼んだことが無いとは思わんかった」
「……それが普通」
「いや、普通の手段で落とせるならリンネにはとっくに彼氏でも出来とるけえの」
「それは……そうかも」
「幸いライには強力なアドバンテージが有る。
ワシという最強のサポーターアドバイザーがついていることじゃ」
フーカはリンネの大親友。ライの家にリンネを呼んで三人で遊ぶ流れを作ることも楽々できる、最強のサポーターだ。
リンネのことをよく知っているため、アドバイザーとしても優秀だ。
だが恋愛サポーター、恋愛アドバイザーとしてはどうなのだろうか。その点だけはライも全く信用していなかった。
リンネの攻略にフーカという攻略本を使うということは、ゲームの攻略にファミ通の攻略本を使うに等しい。
大体合っているが、微妙に信用ならないのだ。
「このどヘタレめ、ワシの協力に感謝するんじゃぞ」
「うん、ありがとう」
「だいたいお前、告白したら意識させるくらいせんかい」
「……」
「意識してるような意識してないような、微妙な感じじゃったぞ、リンネ」
「……」
「気持ちは分からんでもないが、逆に笑えてくるわ。はっはっは」
「僕は、煽られたら相応の反撃をする人間だ」
「ほー? やれるもんならやってみい」
ライの奮起を促すためなのか、ガラでもない煽りを披露するフーカ。カチンと来たライが、その気持ちを顔に出さないまま仕返しを宣言する。
夕方にミッドンキホーテで夕飯の材料を買いに行き、帰宅してから晩飯までの時間を、二人はまたしてもテレビゲームで潰そうとしていた。
「今日のハードはプレイステーション2。タイトルは『SIREN』」
SIRENとは、土着的・民俗的なモチーフを題材とした3Dアクションホラーゲームである。
デザイン、演出、ゲームシステム、音楽、それらが作り出す雰囲気と世界観が、トラウマメーカーとしてよく知られた準メジャー級の名作だ。
発売時期は2003年11月6日だが、その後も十年以上熱狂的な支持者が居るほどの作品である。
"やり込み始めると怖くなくなる"と言う者も居るが、それは典型的な『高難易度ホラゲーは攻略に集中すると怖がってる余裕がなくなる現象』だ。この作品は実際怖い。
「ワシがオバケを怖がるキャラに見えるか?
そういうのはリンネのキャラじゃ。
怪談話でもビビらんワシが、ホラーゲームなんぞにビビるか!」
そうしてプレイし始めてから、一時間後。
「……」
無言のフーカ。
声を上げる余裕さえ見当たらない。
ホラーゲームになんて絶対負けない! という意志はどこへ行ったのか。
「……ライ、これ、電源落としても」
「ダメ」
ホラーゲームには勝てなかったよ……
SIRENの怖さは、夜中にCMを一人で見るだけでその片鱗が理解できると言われている。
その怖さたるや、全国の子供が怖さで号泣し、苦情でCMが差し止めになったほどだ。
一人でテレビを見ている時に見てしまえば、大人でさえトイレに行くのが少し怖くなってしまった、という本人談まである。
事前情報無しにプレイすれば、しばらくは夜が怖くなる。
「じゃ、
「あ、ちょ、ライ、待」
ライはとりあえず区切りのいい所までフーカを導くべく、進行・助言役のグレートサイヤマンを参戦させる腹づもりだったようだ。
ライより、グレートサイヤマンの方がスラスラ喋れるからだろう。
少年が部屋から出て行き、仮面の男が部屋に入って来る。
天重星・将児にだけ許された決めポーズをやたらとキレッキレに決める。この衣装を纏いし者は(ry
「グレート……サイヤマン!」
「チェンジで」
「!?」
「帰れ、グレートサイヤマン。そしてライカムバックじゃ」
「待て、待つんだ。今日の僕は高難易度ホラゲーのアドバイザーとして……」
「今必要なのは!
フィフティフィフティでもオーディエンスでもなく、テレフォンなんじゃ!
必要なのは答えを知る方法じゃのうて、心強い友人の声なんじゃ!
帰れ! お前は要らん! ライ呼んでこいライ!」
「……あ、そう……」
ミュージックステーションで階段を降りて来るアーティストのような雰囲気で部屋に入って来たグレートサイヤマンが、のど自慢で鐘二回という無慈悲な退場通告を食らった人のような雰囲気で退場していく。
二分後、ライが部屋に戻るが、ゲームに熱中するフーカはそれに気付かない。
熱中というのも正しくないのかもしれない。
彼女の肝は冷え、背筋には寒気が走っていることだろう。
それを見て、彼女の普段の格好良さを知るライの脳裏に、小悪魔がちょっと囁いた。
魔が差した、というやつだろうか。
ライはこっそりとフーカの背後に回り込み、小さな声で囁く様に悪戯心を口にする。
「うらめしやあ」
「ひぎゃあっ!」
それが、予想以上の効果をもたらしてしまった。
フーカが驚き、コントローラーが落ちる。
悲鳴を上げたフーカが転がり、画面の中で主人公が敵に見つかる。
転がったフーカがすがりつくようにライの襟首を掴み、画面の中で主人公の殺害が始まった。
画面内で悲鳴が流れ、現実世界で沈黙が流れる。
「やめ……本当にやめてください……」
ガチトーン、マジトーンの敬語であった。
「……あ、あの。その……ごめん。そんなに驚くと思わなくて……」
「……」
「ごめん……」
ゲームの電源を落とし、フーカのメンタルを強く見積もりすぎたライ君の汚名返上が始まる。
フーカはライに背を向け、膝を抱えて床に横になっていた。
少年は謝るが、少女はツーンとしたままだ。
今の彼女の面倒臭さは、シーマンといい勝負ができるかもしれない。
「ライなんて嫌いじゃ、嫌いじゃ……」
「ごめん、本当にごめんね……」
「……半分は許す。……もう二度とせんと約束するなら半分許す……」
「分かった、約束」
半分許されてないけどどうしよう、半殺しにされちゃったりするんだろうか、なんて少年が考えていると、膝を抱えたままフーカがぐるりと回転する。
背を向けていたフーカがひっくり返り、涙目の少女と少年の視線がぶつかる。
「詫びの品が必要じゃ。そうは思わんか?」
その日の夕飯は、ちょっとだけ豪勢になった。
半熟卵、エビ、かきあげ、まいたけ、ちくわの天ぷらが揚がる。
熱々の天ぷらという、うどんの美味しさを裏付ける説得力。
デザート等にも使われるキャッサバ由来のタピオカ粉でんぷんを使った、香川系のうどん麺。
シンプルながらもメシテロ属性を持つラインナップのうどんが並ぶ。
「おかわり!」
「今茹でてるからちょっと待って」
フーカはそれを、貪るように食らっていた。
本日のライのうどんは、丸亀製麺1500円分の満足度に匹敵する。
詫びの心は、美味い飯という形で示されていた。
「もう半分、許した!」
「……早い!」
元はと言えばフーカが煽ったことが原因で、やったことと言えばゲームの最中にちょっと脅かした程度のこと。
美味い飯一つで、フーカはあっさりライを許していた。
天ぷらの残りにラップをかけて冷蔵庫に入れていくライ。明日の弁当はあの天ぷらに一工夫加えたものになるだろうと予想しながら、フーカは風呂に入って行った。
それから、約30分の後。
「腹も膨れた、風呂にも入った、さて、いつもの時間じゃな」
「はい、抹茶ミルク。熱いから気を付けて」
「ありがたい。ふーっ、ふーっ」
「それじゃあ今日のゲームは……」
「あ、ホラー出したらぶん殴るぞ」
「死んじゃう……いや、もうホラーを出す気はないよ」
ライが取り出したるは、またしても64の傑作ソフト。
「というわけで本日も64。『スターフォックス64』です」
「フォックス! "かかってこい!"のフォックスじゃな!」
「……それはスマブラ」
スターフォックス64。
かつて、世界一売れたシューティングゲームソフトとしてギネスに登録されたほどの大ヒット作であり、スマブラにも参戦しているフォックス・マクラウドを主人公とした名作である。
ストーリーが楽しい。対戦が楽しい。
奥が深くてやりこみが楽しく、幼い子供でもある程度遊べるシンプルさも兼ね備えている。
発売日は1997年4月27日だがフルボイスという、あまりにも時代を先取りしすぎた上に、それぞれの要素を高度に完成させた64の伝説の一角なのだ。
「ほー、手前から奥に向かって進んで行くゲームなんじゃな」
「敵は撃つ。アイテムは回収する。味方は助ける。基本はそれだけでいい」
「ワシじゃ一生なれなさそうな、空戦魔導師になった気分じゃ」
このゲームは戦車であるランドマスターも使うことができるステージがあるが、基本的に乗機は戦闘機であるアーウィンだ。
プレイヤーは敵を倒しながらアイテムを回収してスコアを伸ばし、必殺武器であるボムを集め、機体を強化して先に進んで行くことになる。
"上から見るとアルファベットのAに見える"、ゆえに『
「おお、アイテム取ったらビームが強化された。これでええんか?」
「そう、それでいい。機体の成長の実感も、どこか楽しいのがこのゲーム」
『フォックス~! 後ろの敵をなんとかしてよ!』
「仲間がピンチじゃ! ええと、後ろの敵後ろの敵……」
「その内耳に焼き付くようになる。この台詞は」
「え?」
「スリッピーはピンチになるのが仕事だから」
スターフォックスは、プレイヤーの行動の結果や選択により、様々なルートに進むことでも有名だ。
味方の緑カエル・スリッピーは、時に迂闊な行動で敵の手に落ち、プレイヤーの進むステージを固定してしまう。
マリオで例えるならば、イキがってマリオに付いて来たのにクッパジュニアに捕まり、高難易度ステージにマリオを誘導してしまうルイージのようなものか。
やはり緑はダメですぞ。
「それにしても、後ろはやっぱり死角なんじゃな」
「戦闘機だから。
基本は前にしか飛べない。
基本は前にしか撃てない。
オールレンジモードになると、それがよく分かる」
「オールレンジモード?」
「もうすぐボスだから、そこで分かる」
スリッピーの後ろに付いた敵を撃破し、更に先に進む内、フーカ操るフォックス達はボスが待ち受けるゾーンへと突入していた。
『オールレンジモードに切り替える!』
「おお!」
途端に、戦闘機アーウィンの翼がガシュンと変形する。
翼を変形させることで、A地点からB地点までを移動することに適したモードから、立体飛行を行い高低速両方で十分な戦闘行動が行えるモードに切り替わった。
ゲーム的にも戦闘システムが切り替わり、手前から奥へと一本道を進む戦闘ではなく、円形のステージの中を自由自在に飛び回る戦闘へと変わる。
『決して諦めるな。自分の感覚を信じろ!』
「いいセリフじゃな」
「現実でも使う機会があったら使いたいと思ってる人が居る、らしい」
「どこに使い所があるんじゃ……よし、勝った!」
フーカはどうやら、射撃の才能はそんなでもないらしい。
だが、回避は相当に上手かった。
シューティング系の資質は見られないものの、ダメージを受けないよう戦うスタイルを構築し、ステージをすいすい進んで行く。
『そうはさせるか、スターフォックス!』
『何! スターウルフか! こんな時に!』
「スターウルフ!? こ、これは一体……」
「ライバルチーム」
「BGMとか、盛り上げて来るのう……
四対四での集団戦……ワクワクしてきたんじゃが」
「さっきの話、覚えてる? オールレンジモードでは……」
「背後を取られないように、背後を取れるように、じゃな!」
時にボスとオールレンジモードで戦い、時に一本道形式のステージでもボスと戦い、時にライバルチームと戦う。
BGM『スターウルフ』で懐かしさを刺激される人間は、そこそこ居るのでは無いだろうか。
ライとフーカが、二人でマップの端まで行った時の自動急旋回の動きの良さを語ったりしている内に、ステージは進む。
「ところで、こいつらいつまで戦闘機に乗っとるんじゃ?」
「え?」
「フォックスは戦闘機を降りてからが戦いの本番じゃろ?
ビーム撃って、リフレクターして、ダメージ蓄積してから蹴り飛ばして……」
「これスマブラじゃないから」
フーカはあっという間に、一人プレイ用のオーソドックスなステージルートをクリアしていた。隠し要素の回収は無しだったが、被撃墜数は0。
「よかった。実に良いゲームじゃった」
「……初見で全ステージクリアは、素直に凄いと想う」
「じゃけえ、次は対戦じゃな」
勝つ気満々のフーカの挑戦を、ライは受けて立つ。
「追尾ボムをどうぞ」
「ぐああああああああっ!!」
さもありなん。
気安くなってくるにつれて、ライの手加減はしたりしなかったりといった具合になっていて、フーカの常勝はどこかへ消え失せていたのであった。
スターフォックスの対戦が一区切り付き、このままもっとスターフォックスをやるか、別のゲームをやろうか、という流れになった時。
幸か不幸か、話の流れが変な方向に行き、先程のSIRENのダメージがフーカの心に残っているのでは、という話になってしまった。
「大丈夫?
夜一人で寝られそう?
今一人で夜道歩けそう?」
ライは純粋な心配からそう言ったのだが、ついつい妹を心配するような口調になってしまった。
よく言えば妹扱い。悪く言えば小さな子供扱い。
女の子はそういうのに敏感である。
その言葉が、逆にフーカの反抗心に火を着けてしまった。
「上等じゃ、その喧嘩買った!
ワシがビビりでないことを証明したる!」
「えっ、ちょっ」
フーカの強引さに押され、優等生らしく夜間徘徊にちょっと後ろめたい気分になりながら、ライは夜の街に繰り出して行く。
「たまには夜の散歩もええもんじゃろ?」
「それは、まあ」
「今日はおあつらえ向きに、めったに無いくらい明るい夜じゃ。
二つの月も星々もよく見えるけえの、そのせいじゃろうか」
フーカは縁石やブロックの上を歩き、時に塀の上にひょいと上ってそこを歩く。
小学生が道路の白い線の上を歩くような軽い気持ちで、危なげもなく跳んでいる。
その身軽さからは、縛られず自由に生きているフーカの気質が見て取れた。
そんな彼女と言葉を交わしているライが、ふと思い付いたように手の中に魔力の球を生み、そこから空へと光を伸ばす。
「あれが■■星。そっちが■■星。
あっちは■■■っていう星座で、あっちが―――」
伸びた光は、天蓋に煌く星に当たる。
光が伸びる先を目で追ったフーカに、ライは空の星の名前、空の星座の名前を一つ一つ教えていった。
「詳しいんじゃな」
「父さんが昔、こうやって教えてくれた。
魔力の光じゃなくて、強い懐中電灯で。
強い懐中電灯の光はまっすぐに伸びるから、空の星を指し示せるんだ」
宇宙を駆け星々を渡るスターフォックスをやった後だからか、今日の星空はいつもとは少し違って見える。
「遠い昔。ミッドチルダの人は、宇宙にも進出していなかった。
もっと昔は、空を飛ぶことさえできなかった。
宇宙という世界のことはもちろんのこと、空という世界も知らなかった」
ライは何かを思い出しながら、懐かい気持ちを言葉に滲ませる。
「でもいつしか、空を飛べるようになった。
宇宙を自由に渡れるようになった。
そして、宇宙よりも大きな概念、次元世界の概念を得た。
次元世界概念を知らない未熟な文明じゃ、世界の外には出て行けない」
どこかの誰かから聞いた言葉を、ライはそのまま口にしている。
「そして、別世界を知り、人の認識はまた広がった。
星がなく、平たい大地と広い空、空の向こうだけで構築される世界があった。
人の星が宇宙の中心で、宇宙の全てがそれを中心に回る世界があった。
大地に立つ巨人が、空を支える世界があった。
球状の世界で、その内側に宇宙や大地が広がっている世界があった」
知らない場所に、知らない世界に、人は勇気を出して踏み出して行く。
「知らない場所に踏み出す度に、人は成長するんだと、父さんは言ってた」
「知らない場所、か」
ライであれば、家族が死に、初めて訪れた『家族の居ない世界』。
フーカであれば、孤児院を出て初めて知った、『一人で生きる糧を探さないといけない世界』。
リンネであれば、『家族の居る家』、『いじめもある学校』がそれにあたるか。
人生とは、未知の場所に踏み出すことの連続である。
「あ」
夜の公園を二人で歩いていると、そこでライの携帯端末が鳴る。
「ごめん、ちょっと電話。リンネさんから」
「ワシのことは気にせずゆっくり話すんじゃぞ。
こう、ここでいい感じに、こう……あれな感じに」
「何その、全自動卵割り機みたいな意味も価値もないアドバイス」
リンネのこともよく知っている、ライのこともよく知っている、けれど恋愛のことはよく知らないクマさんからのためにならないアドバイス。
だが、リンネからの電話ということでちょっと緊張していたライの心は、その御蔭で少し落ち着いていた。リラックマ効果だ。
「もしもし」
『もしもし? ごめんね、こんな時間に』
「構わない。ちょうど外に出てたから」
『外?』
「外、空、綺麗だよ」
『……あ、ホントだ。今日は星がよく見えるんだね』
「電話をかけてきたのは、何か用があったから?」
『ううん、ただ話したかったから。ダメかな?』
「……いや、別に」
殺し文句だった。強烈な台詞だった。こんな台詞を無自覚に吐くのだから、天然というやつは恐ろしい。いい意味でも悪い意味でもハートクラッシャーリンネだ。
『今日は途中で帰っちゃったから、帰った後に話そうとしてたこと色々思い出しちゃって』
「明日の学校まで待てばいいのに」
『明日は明日で話したいことがあるから、ね?』
「ね、って」
『あ、そうだ。フーちゃんは居る?』
「ちょっと離れた所に。代わる?」
『それじゃあ、後で。……あはは、顔合わせて話した方が楽そうだね』
「そりゃそうだ」
携帯端末越しに楽しく言葉を交わすライを見て、フーカは呆れた顔で一言呟く。
「安心せえ。ワシの知る限り、お前よりリンネに親しい男はおらん」
ちょっと離れた所からライを見守っていたフーカだが、そんな彼女の前を、同年代の少女が軽く頭を下げて通り過ぎる。
こんな時間に走り込み。それも同年代の少女が。
不思議に思ったフーカの目が、通り過ぎる一瞬に、その少女の姿をフーカの目に焼き付ける。
公園の電灯に照らされ、碧銀の髪とオッドアイが綺麗に煌めく、容姿の整った少女だった。
「……綺麗な人じゃったなー」
ひと目見ただけで、強く印象に残る少女。
その少女のことを頭の隅に押しやって、フーカは視線をライに戻す。
七孔噴血していた。
「……何かこっ恥ずかしいこと言ったんじゃろうな、リンネ……」
そうしてフーカは、SIRENの屍人のようになっていたライから、携帯を受け取るのであった。
・ママさん
クラスのマドンナ(死語)で学園のアイドル(死語)でファンクラブの居る美少女(死語)だった人。SHUFFLE!発祥のファンクラブが居る美少女ヒロイン属性って、定着しませんでしたね……
ライ君の家事能力はこの人由来。
ホラー&ホラゲー好き。息子にはルイージマンションをどっぷりやらせていた様子。フーカが妹の部屋ではなく、母親の部屋に泊まることを選んでいた場合、酷いことになっていた。
旧姓ボーガー。さやかちゃん一族。