Double Servant -Poetry of Brimir-   作:ねずみ一家

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第六十二話 学院の戦い

 

「ほら、どうした!」

 

傭兵が振るう鋼鉄の剣をリウスはデルフリンガーで受ける。

片手で振るわれた剣に重さは無いものの、傭兵は手慣れた様子で二、三の斬撃を加えながら呪文を詠唱していく。

 

「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース!」

 

リウスは苦しげな表情を浮かべながら斬撃を凌ぎつつ、押されるままに自身の身を大きく後ろへと引いた。

 

「ジャベリン!」

 

傭兵の杖から生み出された氷の槍がリウスの胸へと投擲される。

リウスは両手に持ったデルフリンガーを逆手に持ち変え、飛来する氷の槍を滑らせるようにデルフリンガーで受け流した。

 

鈍い音を立てて氷の槍が地面に突き刺さると、傭兵は苦々しげな表情で舌を打った。

 

「・・・手間取り過ぎた。そろそろ終わりにしねえとな」

「あらそう? 大したことないのね」

 

苦し紛れのようなリウスの言葉に傭兵が苦笑いで答える。

 

「確かにな。お前のことはよく分かった」

 

その傭兵は肩をすくめると、杖を持った右手を軽く宙に振った。

 

 

「お前は傭兵の流儀で始末することにする」

 

 

対峙していた傭兵が後ろへと下がると、前方にいた傭兵達がボウガンの照準をリウスに合わせ、散開していた左右のメイジ達が杖をリウスへと向けている。

 

「まだ俺達が気付いていないとでも思ったか? お前が時間を稼ごうとしていることによ」

 

リウスはデルフリンガーを軽く振るい、先程までの苦しげな表情を一変させると、対峙していた傭兵へと小さく笑いかけた。

 

「欲を言えばもう少し粘りたかったけどね。あまり大した時間稼ぎにはならなかったわ」

「舐めた真似をしてくれるじゃねえか。だが、これが実戦ってやつだ。計画には何の支障もない」

 

傭兵は神妙な雰囲気を漂わせながら、リウスへ向けて険しい顔を浮かべている。

 

「つまりお前は犬死にって訳だ。言い残すことはあるか?」

 

リウスは少し俯きながら、小さく答える。

 

 

「そうね・・・。あなたたちは」

 

「やれ」

 

 

下卑た表情を浮かべた傭兵はリウスの言葉も聞かずに命令を下した。

即座に幾本ものボウガンの矢が発射される。

 

 

「こうしてくるだろうって思ってた」

 

 

瞬間、リウスの目前に尖った石の柱が突き立った。

迫り来るボウガンの矢は甲高い音を立てて弾き飛ばされていく。

 

 

「スペルブレイカー!」

 

 

石柱の影から飛び出したリウスはそのまま右に散開していたメイジの魔法を即座に破壊しながら、左方に立つメイジへ向けて大地を蹴った。

 

 

「ウィンドブレイク!」

 

「フレイムボール!」

 

 

左にいた二人のアルビオン兵達から魔法が撃ち出される。

それをリウスは光り輝くデルフリンガーで斜めに切り裂いていく。

 

「なっ!」

「ナパームビート!」

 

すれ違いざま、至近距離から魔力の塊で顎を撃ち抜かれた二人の兵士達は、意識を刈り取られたように膝から崩れ落ちた。

駆ける速度を緩めずに方向を変えながら、散開し始めた傭兵達へ向けてリウスは魔法の詠唱を開始する。

 

「ファイアーウォール!」

 

傭兵達の周囲に火花が散ったかと思うと、彼らを囲うように三枚の炎の壁が吹き上がった。

しかし傭兵達は攻撃を予測していたように『フライ』の呪文を駆使して吹き上がる炎を回避する。

 

 

「馬鹿が! この程度・・・っ!?」

 

 

しかし宙に浮かび上がった傭兵たちは目を見開いた。前方から複数の光の塊が凄まじい勢いで襲い掛かってきている。

 

(さっきの炎は、目くらましか!?)

 

そう気付いたとしても既に遅かった。『フライ』の呪文を使用していた傭兵達は為す術もなく、次々と追尾する光弾に撃ち落とされていく。

 

「ウィンディ・アイシクル!」

 

『フライ』の呪文を使わずに切り抜けた傭兵から十数本もの氷の矢が放たれた。

しかしリウスの視線の先にいる他の傭兵が更に杖を向けようとしている。

敢えてリウスは魔法を使わず、身を低くしながらデルフリンガーを振るいつつ氷の矢を切り抜けていく。

 

「つっ!」

 

右腕を氷の矢がかすったようだが、たかがかすり傷だ。

リウスは気にもせずに呪文の詠唱を始めている傭兵へと駆ける方向を変える。

 

「アースハンド!」

「マジックロッド!」

 

『土』のメイジが魔法を放とうとするも即座にその魔法は掻き消された。

何が起きたのかと焦った傭兵が剣を引き抜く前にリウスの斬撃が傭兵へと襲い掛かる。

 

しかし、横から飛び出してきた別の傭兵がデルフリンガーを受け止めた。

交差する剣から火花が散り、傭兵はその勢いのまま剣を振り切ろうとしている。

 

「はしゃぎすぎだ! クソガキ!!」

 

力任せにリウスを弾き飛ばそうとする傭兵に対して、リウスは回転するようにその巨体を受け流しながら傭兵の側面へと回り込んだ。

その傭兵の背後からは、また別の傭兵が襲い掛かってきている。

 

リウスは歯を食いしばりながら迫り来る傭兵達の間へ飛び込むと、地面を滑るようにしながら男達の膝へ向けて魔法を撃ち出した。

 

 

「ナパームビート!」

 

 

リウスが傭兵達の間を風のように通り過ぎた瞬間、その場で大きく弾き飛ばされるように男達の身体が宙を舞っていく。

 

三つ編みを翻しながら、リウスは矢継ぎ早に襲い掛かってくる傭兵達へと視線を向けていた。

 

 

こんなものは単なる足止めに過ぎない。

戦力を削ぎ切れてなどいないが、仕留めるために足を止めようものならあっという間に捕まってしまう。

 

 

別の傭兵が繰り出した斬撃を寸前のところで回避しながら、リウスは迫り来る傭兵の一団へと瞬時に瞳を向けた。

 

「ファイアーボール!」

 

撃ち出された一メイル程の火球は宙で分裂し、それぞれの傭兵達へと次々に襲い掛かっていく。

その防御のため傭兵達が魔法を使ったことを確認する前に、リウスはその傭兵の一団へと駆け出していた。

 

 

(距離を離されれば防ぎ切れない! それなら連中を盾にすれば・・・!)

 

 

そう必死に考えを巡らせながら、リウスには自身の冷静な思考も認識できていた。

 

連中が傭兵の全員とは思えない。勝ち目は限りなく皆無に等しい、と。

 

それでもゼロではない。

生き残ることは、防衛の準備が整うまで時間を稼げる可能性は、ゼロではないのだ。

 

それなら、私はその可能性に賭けるだけだ。

 

 

かつて、元いた世界で、リウスは何度も死んだことがあった。

今の状況はそれに限りなく近く、この世界においては生き返ることなど叶わない。

 

しかし恐怖を一度でも抱いてしまえば、微かな生き残る道すらも潰えてしまうことになる。

 

 

(恐れるな・・・! 恐れてしまえば、そこで終わりだ!!!)

 

 

 

 

そんな大騒ぎになっている広場の一画に向けて、異様な雰囲気を持つ男と、更に大勢の傭兵達が静かに向かっていた。

 

「こんな所にもイキの良いメイジはいるものだな」

 

にやにやとした楽しそうな表情を浮かべながら、その男は白く濁った片目を遠く見える騒ぎの中心へと向けている。

 

『白炎』のメンヌヴィルである。

 


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