Double Servant -Poetry of Brimir-   作:ねずみ一家

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第四十九話 コルベールの出発前夜

ある日、図書室で発見した古ぼけた本の記述にコルベールは興奮していた。

 

その数日後、ワクワクウキウキしながら、コルベールは改良版『愉快なヘビくん』を教室に持ち込んでいた。

 

そしてその授業が終わった後、心なしかガッカリした様子でコルベールは教室を見回していた。

 

「あー、ミス・モンモランシ。ミスタ・グラモンはどこに行ったのだね? それと・・・、幾人かの生徒の姿が見えないようだが・・・」

 

そう言うコルベールの視線はルイズの席を向いている。

そして、その横の空席。

 

コルベールは改良を施した『愉快なヘビくん』をリウスに見せようと考えていたのだが、どうやら今日の授業には来ていないようだった。

それに少なからず落胆を覚えていたのだが、それどころかルイズの姿もなく、ギーシュ、キュルケ、タバサの席もぽっかりと空いている有様である。

 

「さ、さあ、存じませんわ。学院長先生なら何かご存じなのではないでしょうか?」

 

しどろもどろとした対応にコルベールは小首を傾げていたが、とりあえずはモンモランシーへと礼を返した。

そしてしょうがないとばかりにレビテーションの魔法で不評だった『愉快なヘビくん』を浮かせると、そのごちゃごちゃした機械と共に教室を後にするのだった。

 

 

 

 

 ~ 学院長の証言 ~

 

「おや、君のところに司書から連絡がいかなかったのかね? 彼らは十日程の間、留守にするらしいのじゃ。司書の子には君へ伝えるよう言っておいたはずじゃがの」

 

コルベールは首を傾げると自身の記憶を思い返していった。

 

「・・・そういえば、聞いたような気がします」

 

いつかは忘れてしまったが・・・、この前、図書室にいた時のことだ。

図書室の司書に何か告げられていた気がするが、その時は発見した本の記述に頭がいっぱいだったのである。

 

もしかしたら違う内容なのかもしれないが、コルベールの記憶には司書の言葉なんてこれっぽっちも残っていなかった。

 

「まったく、君はあわてんぼでいかんのう。儂が特別に許可を出して、数日前に出発したのじゃよ。授業の内容には遅れが出てしまうかもしれんが、彼女らは戻ってきてからそれを取り戻すと宣言してくれたよ」

「ま、まあ、それなら良いのですが」

「この間の件かの? ミス・リウスも彼女らと共に行ってしまったのじゃよ。まあもう少し調査してからでも遅くはあるまい。君の休暇も溜まっておるのだし、少し羽根を伸ばしてきたらどうかね?」

 

「確かに・・・。それもいいかもしれませんな」

 

オスマンは、ゲルマニアの美女でも、と言葉を続けていたが、当のコルベールは先日の本の調査のことで頭がいっぱいだった。

コルベールは根っからの研究馬鹿だったのであるが、そう言われてもコルベールが不快な顔ひとつすることがないのは周知の事実である。

 

「・・・というのはそういうことじゃ。こら、聞いておるのかね。いい加減に浮いた話の一つや二つ、君だって作るべきだと思うのじゃがの。いつまでもミス・リウスのことばかり考えておってはいかんぞ」

 

オスマンの話を半分聞き流していたコルベールだったが、聞こえてきたその内容にコルベールはぎょっとした表情を浮かべた。

 

「な、何を仰る! リウスくんは、いわば『研究仲間』のようなものなのですぞ!?」

 

焦ったコルベールの様子にオスマンはきょとんとした表情をしていたが、合点がいったとばかりにニヤリと笑みを返した。

 

「例の件で言ったんじゃがの。まあ、年齢が半分ほどの『わいふ』を貰ってもバチは当たらんの」

 

パイプを吹かし始めたオスマンは「そうか、君にも春が・・・」と感慨深そうに呟いていたが、コルベールはこの頭が桃色の老人には付き合ってられないとばかりに溜め息だけを返したのだった。

 

 

 

 

 ~ 同僚たちの証言 ~

 

「まったく! オールド・オスマンは何を考えているのですかな! 今までも散々学院を留守にしていると言うのに! またいつものメンバーが遊びに出かけるなぞ!」

 

ギトーが泡を食ったように喚き散らす。コルベールとシュヴルーズは困ったような表情を浮かべながら顔を見合わせていた。

 

「あ、遊びではないと思うのですけれども・・・。オールド・オスマンも容認しているようですし・・・」

 

シュヴルーズがおどおどとした口調で返すも、ギトーは分かっていないとばかりにかぶりを振った。

 

「甘い! ミセス・シュヴルーズは甘すぎる! 教師だからこそ生徒達には毅然として立ち向かわなければならんのです!」

 

どうやら火に油を注いだようだ。

正直なところコルベールはこの場を離れたかったのだが、ギトーの剣幕になかなかそのチャンスが巡ってこないのだった。

 

「それというのも、あの使い魔が召喚されて以来! 何度目の留守になったと思っているのですかな!? まったく・・・! あの使い魔ときたら・・・!」

「まあ。ミス・リウスは素敵な女性ではないですか。何度か話した際にも良い人柄だと思いましたが・・・」

「そ、そうですぞ。彼女の考え方は、生徒達にも良い影響を・・・」

 

ギトーの目がカッと見開いた。

 

「良い影響ばかりと言えますかな!? 聞けば学院の平民とも仲睦まじく話をしているそうではないですか! 衛兵やらメイドやらコックやらと話しているかと思えば、我々の授業にも口出しを・・・」

 

どうやら前に赤っ恥をかかされたことを根に持っているようである。

 

それはアンリエッタ姫殿下が来校した際のこと。コルベールもその場にいたことにはいたのだが、その時は何が起きたのかさっぱり分かっていなかった。

今知っている情報も風の噂程度に聞きかじったくらいである。

 

「そもそも誉れある当学院に東方のメイジを・・・レコン・キスタとの政治的情勢があるにも関わらず・・・あのメイジは・・・決闘だって・・・すると・・・で・・・だから・・・」

 

ペラペラと喋りまくるギトーをなんとか宥めすかしながら、コルベールとシュヴルーズの二人はその場をやり過ごしていくのだった。

 

 

 

 

 ~ 平民たちの証言 ~

 

「・・・では、タルブ村までは大体二日程ですかな?」

「おおよそ、ですが。ラ・ロシェールまでの距離だと考えていただければ・・・」

 

厩にいた平民の青年は恐縮した様子で言葉を返した。

コルベールの評判は平民の間では良い方である。そのため他の貴族への態度に比べればマシな方だと言えるが、平民たちはどうしたって貴族相手だと恐縮してしまうらしい。

 

「あの、タルブ村で何かあるのですかね・・・?」

 

そのおどおどした言葉に、コルベールはきょとんとした顔を返した。

 

「どういうことかね?」

「は、はい。リウスさ・・・、いえ、ミス・ヴァリエール様の使い魔殿も同じように聞かれてこられたので・・・」

「いや、私は研究がてらの旅行でですな。しかし、そうかね。リウスくんもね」

 

そう呟いたコルベールに、平民の青年はふっと緊張の色を薄くさせた。

どうやら彼も彼女と会話をしたことがあるようだ。

 

「そうです。いくつか行く場所があるとのことで、それぞれの距離を聞いていかれました。

あの、タルブ村なら食堂のメイドの一人がその村の出身だったはずですよ。ここいらじゃ珍しい黒髪で・・・、確か、シエスタという名前だったはずです」

「なるほど、ありがとう。では明日の朝に出発するのでね。馬を用意しておいてくれると助かりますぞ」

「分かりました、お任せください」

 

 

 

「明日にここを立つのだがね。明日の朝までに、五日分の簡単な食事を用意してくれないかね? 干し肉のみだろうが何でも良いのでね」

「かしこまりました。ミスタ・コルベール」

 

アルヴィーズの食堂でコルベールはメイドに声をかけていた。

貴族相手の対応にも慣れたもので、多少緊張はしているものの、その態度には緊張の色をほとんど出してはいない。

 

「あと、シエスタというメイドはいますかな?」

「えっ・・・。あの、シエスタが何か?」

 

突然の名前に、そのメイドは怪訝な表情を浮かべていた。

ここの貴族は平民の名前を覚えていないのが普通なので、妥当な反応というところだろうか。

 

「いや、彼女がタルブ村の出身だと聞いてね。少しばかり話を聞いておきたいのだが」

「あ、そうでしたか。あの、今シエスタはいないので、戻ってきたら声をおかけするように伝えておきましょうか?」

「おっと、そうなのかね。いつごろ戻るのかね?」

「えっと・・・。十日ほどしたら戻ると聞いていますので、あと数日したら・・・」

 

はたとコルベールはメイドの顔を見返した。

もしかしたら・・・。

 

「リウスくんと一緒に出ているのかね?」

 

そう問われたメイドは目を見開いていた。

どうやらその通りであるらしい。もしタルブ村に訪れているのであれば、コルベールにとってはむしろ好都合だった。

 

「それならば問題はないですぞ。では明日の朝に取りに来るのでね。用意しておいてくれると助かりますぞ」

 

すぐ我に返ったメイドが礼を返す。

すると、厨房の奥からひょいと中年の男性が顔を出した。料理長のマルトーである。

 

「おっ、ミスタ! どうしましたかね、こんなところに」

「おや、ミスタ・マルトー。忙しいところに申し訳ない。明日から旅行に行こうと思ってたので、食料調達に来たのですぞ」

 

豪快に笑いながらマルトーが近付いてくる。

傍らにいたメイドが呆気に取られた顔をしていたが、マルトーの視線を受けると礼をしてからそそくさと厨房に引っ込んでいった。

 

「よしてくれよ、ミスタ! 『ミスタ・マルトー』なんて何かこう、むずがゆくっていけねえや!」

 

がっはっは、と笑いながらコルベールの肩をばんばん叩くマルトー。

マルトーは貴族嫌いを公言する程の常識外れな人物であるのだが、その嫌いな貴族の中にオールド・オスマンとコルベールの二人は入っていないのである。

ふとしたことでよく話すようになり、今では時々コルベール作の試供品である酒を一緒に飲むくらいの仲にはなっていたのだった。

 

「休暇ですかい。ミスタはずっと研究漬けだものなあ。時には一息つかなくっちゃな! そんで、どこに行くんで?」

「ちょっとタルブ村にですな」

 

少しばかり驚いた表情を浮かべてから、マルトーがにやりと笑った。

 

「何だ、ミスタもですかい。ワインでも買いに行くんで?」

「いや、少し調査したいことがあるので。これが面白いのですぞ。タルブ村には『竜の羽衣』という伝説があって・・・」

「何だミスタ! 骨休めなのに休めねえじゃねえか! トリスタニアでも繰り出して遊び回ってもバチは当たらんですぜ!」

 

話をきれいに遮られたコルベールは困ったように苦笑を返した。

裏表の無いマルトーの人柄は好ましいものではあるが、ぐいぐい来るこの雰囲気にはどうにも慣れないままである。

 

「ウチのシエスタも休暇で戻ってるらしいんで、聞きたいことがあるなら聞いてやってくださいや。ああ、あと『我らが剣』と貴族の方々も一緒に行ってるそうで」

「『我らが剣』? 誰のことですかな?」

 

あまり耳にしたことのないフレーズにコルベールが首を傾げると、マルトーはにかりと笑った。

 

「ミス・ヴァリエールの使い魔やってる嬢ちゃんのことよ! いやあメイジ様だってのに、あいつは良いヤツだな! 女じゃなきゃ頬ずりして顔にキスしちまいてえところだ! 前にやろうとしたらウチの連中に叱られちまってよ!」

「あ、あまりそういうのを気軽にやってはダメですぞ?」

 

ぐいぐい来る雰囲気に押されつつ、コルベールはそのまま数十分もの間、立ち話に付き合うことになったのだった。

 

 

 

 

 

その夜、コルベールは古ぼけた本をもう一度読み直していた。 

 

この本は、マジックアイテムを調査するためにハルケギニア全土を旅したという、学者の手記だった。

それの途中に『竜の羽衣』の存在が書かれていたのである。

 

『竜の羽衣』伝説はよくある伝説であり、この手記が最も古いものとはいえ、他のいくつかの本にもその伝説が記されていた。

眉唾である可能性は十分にあるし、祀られている『竜の羽衣』そのものが存在しない可能性もあった。

 

しかし、この学者の手記は『竜の羽衣』の伝説を次のように語っていた。

 

 

 

 数あるマジックアイテムの中でも一際特殊であるのが、身につけた者は空を飛べるようになるという『竜の羽衣』である。

 ラ・ロシェール近郊のタルブ村に伝わっている物であるが、羽衣とは名ばかりであり、十メイル程からなる異様な形の船のような代物だった。本当にマジックアイテムなのかは正確には分からなかったが、この『竜の羽衣』には東の彼方から飛んできたという言い伝えや、空に浮かぶ日食を通ってやってきたという噂がある。

 しかし『竜の羽衣』の所有者である当の本人が語るには、今はもう動かなくなってしまった物なのだと言う。私が壊れているのかと尋ねると、「必要な物が無くなってしまったのだ」と語っていた・・・。

 

 

 所有者の男性は非常に理知的で心優しい、不思議な人物だった。

 珍しい黒髪に白髪が目立つ初老の男性であり、我々が舌を巻く程の知識を湛えていたのであるが、そのくせ我々からいえば常識であるはずの知識をあまり知らないのだ。

 彼は『竜の羽衣』についてほとんど語ろうとはしてくれなかった。しかし調査を抜きにしても、またタルブ村の彼や彼の娘夫婦へ会いに行きたいものである・・・。

 

 

 

『竜の羽衣』伝説で特徴的なのは、身につけた者が飛べるようになるということ、そしてはるか上空に浮かぶ太陽にまで到達できるという部分だ。いかにも眉唾ものの伝説である。

しかしコルベールは、この著者とはまた違う、ある部分にひそかな疑念を抱いていた。

 

 

 

-我々が舌を巻く程の知識を湛えていたのであるが、そのくせ我々からいえば常識であるはずの知識をあまり知らないのだ・・・。

 

 

 

この一文を読んだ時、コルベールの脳裏に浮かんだのは一人の年若い女性だった。

ミス・ヴァリエールの使い魔であり、異世界からやってきたというメイジ・・・、リウスのことである。

 

リウスが異世界から来たということ。当初は半信半疑ではあったのだが、彼女と会話していくにつれて、段々とその言葉の信ぴょう性が強まっているのは否めなかった。

 

ハルケギニアには存在しない高度な機械の説明。

彼女が操る魔法の理論とその特異性。

 

そして、余りにも無知に等しいハルケギニアへの知識・・・。

 

オールド・オスマンが言うように、彼女が東方から来た可能性も大いにある。この本に書かれている『竜の羽衣』の所有者も『東の地からやってきた』と書かれていた。

しかし、異世界の存在なんて有り得ない、と言い切れない自分がいることもまた事実だった。

 

有り得ないとは言えないこともある。

それならば、この伝承だって有り得ないと言い切ることが出来ないのではないか。

彼女と『竜の羽衣』伝説にも、何か関係があるのではないか・・・。

 

もっとも、こういった伝承を調べることそのものが楽しいのは否定できない。

もし見たこともない、特殊なマジックアイテムだったとしたら・・・。そう考えると、むくむくと胸の内から研究欲が湧き上がってくるのだ。

 

もしかしたら、もっと新しい発想を得るチャンスになるかもしれない。

コルベールはふと、脇のテーブルに置かれている改良版『愉快なヘビくん』を眺めていた。

 

 

「それにしても・・・、不思議な人ですな・・・」

 

 

そう呟いて、コルベールは古ぼけた本をぱたりと閉じた。

 

初めてリウスを見た時、ずいぶん落ち着いた子だと思ったものだった。

それと同時に年相応の素直さも感じていたのであるが・・・。

 

あのギーシュ・ド・グラモンとの決闘を見てからというもの、コルベールはリウスに対して非常に強い危機感を感じ始めていたのである。

 

あまりにも強力すぎる魔法。

女性の身でありながらそれを我が物のように操り、息一つ乱さずにゴーレムの群れを打ち倒す、異様なまでに洗練された戦い方・・・。

 

もし彼女が軍人であり、底知れない野心があるのであれば、あの力にも多少は納得がいくものだが・・・。彼女は野心など欠片も持っていないようにすら見えるのだ。

ただ強大な存在と戦える程の力を持ち続け、次々と迫りくる出来事へ向けて常に冷静な対応をし続けていく・・・。

 

あのうら若い娘に一体何があれば、野心などを持つこともなく、あれ程までの力を持つことができるようになるのだろう。

そう考えたとき、そして学院長室で彼女と話した際に、コルベールには思い当たる節があったのだった。

 

 

戦いの中に身を置き続けた日々。

そしてその日々を支えた、あまりにも強すぎる、彼女の人生をも変えるほどの激情。

かつて、そして今もなお、私自身が抱えている感情と似ているものを。

 

 

感情はその人間が生きるために必要なものだ。

生活に彩りを与え、生きる希望を見出し、時には自らの命をも食い破ろうとひそかに現れるもの。

 

彼女は若すぎた。

この学院の生徒達ともそれほど年に違いはないのだ。

それ故に、仮にそういった激情が彼女の内に潜んでいるのであれば、それを生徒達へ向けないと誰が言い切れるだろうか。

 

そういった不安は日に日に強まっていたのだが、あの麗しき姫殿下の任務から帰ってきて数日後、彼女が私の研究室に訪れてきた時のことである。

 

彼女の立ち振る舞いは以前と変わらず落ち着いたものではあったのだが、どことなく肩の力の抜けた、何かから解放されたような表情をしていたのだった。

 

これでも教師として二十年もの間、生徒達を見てきたのだ。たぶんこの感覚に間違いはないのだろう。

彼女の表情を見て、思っていた以上にほっとしたような嬉しい感情が浮かんできたのだが、それと同時に羨ましくもあった。

 

自分の胸の内にあるこの激情が、この後悔が、薄れてくれる日は来るのだろうかと。

 

 

「おっと・・・。もう寝なければ」

 

 

コルベールは窓から夜の闇を覗き込んだ。

ただでさえ明日は早いのだ。夜更かしをしていては寝過ごしてしまうかもしれない。

 

コルベールは古ぼけた本を皮袋に押し込むと、明日の荷物をもう一度確認しておく。

そして自分の研究記録や『愉快なヘビくん』などの装置をざっと見ていると、もう少し研究をしていきたいという気持ちに後ろ髪を引かれてしまう。

 

軽くかぶりを振ってそれを振り切ると、コルベールは少し伸びをしてから部屋の明かりを消し、ごそごそとベッドの中に潜りこんだ。

 

暗い部屋の中で窓を揺らす風の音を聞きながら、コルベールはかつての自分の姿を思い浮かべていた。

 

 

特殊部隊の小隊長だった若かりし頃の自分、何も知らずに力を振りかざしていた時の自分・・・。

 

 

あの炎に焼かれていく村を、取り返しのつかないことをしてしまった自分を、一日だって忘れたことはない。

そんな私が許されることなんてないのは百も承知だというのに、羨ましい等とつまらない感情に振り回されてしまっている。

それはきっと、自身の未熟さ故なのだろう。

 

 

せめて、私はあの子が解き放たれたことを祝福しなければ・・・。

 

 

コルベールはそう祈りにも似た感情を覚えながらも、ひとり静かに眠りの中へと落ちていくのだった。

 

 


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