Double Servant -Poetry of Brimir-   作:ねずみ一家

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第四十四話 束の間の平和

ルイズ達が魔法学院に帰還してから三日後、正式にトリステイン王国王女アンリエッタと帝政ゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世の婚姻が発表された。

式は一か月後に行なわれるため、それに先立って両国の軍事同盟が締結されることとなった。

 

ゲルマニアの首都ヴィンドボナで締結が行なわれたが、その同盟締結式の翌日、アルビオンの新政府樹立の公布がなされた。

締結式に臨んでいた両国は緊張を走らせたが、神聖アルビオン帝国初代皇帝であるクロムウェルより不可侵条約締結の打診が届いたのだった。

 

協議の結果、トリステイン、ゲルマニアの両国はこれを受け入れた。両国の軍事力を合わせたとしてもアルビオンの軍事力には未だ届いていないためである。

まだ軍備が整っていない両国にとって、この申し出は願ったり叶ったりだった。

 

 

そして、ハルケギニアには表面上の平和が訪れた。

それはすぐさま破れてしまう薄紙のような平和だったが、大部分の貴族や平民達にとってはいつもと変わらない平和な日々をもたらしていた。

 

そしてそれは、トリステイン魔法学院においても例外ではなかった。

 

 

 

 

「ねえルイズ。あなたたち、授業を休んで一体どこに行ってたのよ」

 

そんな平和な魔法学院で、モンモランシーは興味深げにルイズへ詰め寄っていた。

ルイズ達が学院を数日留守にしている間、ルイズ達が何かとんでもない手柄を立てたらしい、と既に学院中の噂になっていたのである。

しかも、それには王家やアンリエッタ姫が関わっているとのこと。

そしてルイズ達が帰ってきた直後に行なわれたゲルマニアとの条約締結。

 

暇を持て余していた学院の貴族達は、これらに何か関係があるに違いないとひっきりなしにルイズ達の元へ訪れていたのだった。

 

しかし、当のルイズは何やらぼんやりとした様子のまま、モンモランシーに答えた。

 

「なんでもないわ・・・」

 

帰ってきて以来、ルイズは常にこんな調子である。

近くで聞き耳を立てていた一人の生徒がつまらなそうに口を尖らせた。

せっかくの面白そうな噂なのに、当人がこの調子じゃ台無しである。

 

「どうせ大したことじゃないよ。なんせ、ゼロのルイズだからな!」

「ちょ、ちょっと・・・!」

 

その言葉にモンモランシーは焦った。

今や『ゼロのルイズ』という言葉は、あまり口にしてはいけない言葉になっていた。

ギーシュがルイズへの侮辱を大いに反対していたこともあるし、あの使い魔が聞いたらどうなるかなんて分かったものではないからである。

 

「うん、そうね・・・」

 

しかしルイズはぼんやりしたまま言葉を返した。

その様子に、モンモランシーと周りの生徒達はひそひそと声を潜める。

 

「一体どうしたっていうんだ? ルイズのやつ、ずっとあんな調子だぜ」

「確かに変よね。ねえ、ギーシュ! 何か知ってる?」

 

少し遠くにいたギーシュも貴族達に取り囲まれていた。

最初は「話す訳にはいかない」と言っていたにも関わらず、取り囲まれてちやほやされている内に、言うか言わないかギリギリのところになっている。

 

「おや、モンモランシー。君も僕の秘密が知りたいのかい? いやいや、困ったウサギちゃんだね! 仕方ない、君にだけは教えてあげようかな! 実は・・・」

 

そう言ったギーシュが人差し指を立てていたので、人混みをかき分けて近付いたキュルケがギーシュの頭をすぱんっ、とひっぱたいた。

 

「なっ、なにするんだね!」

「口が軽いと、お姫様から嫌われるわよ。ギーシュ」

 

そう言われたギーシュはぐっと黙って、「話す訳にはいかない」としかめっ面のまま呟いた。

それを聞いた周りの生徒達は明らかにがっかりしながら各々の席へと散らばっていく。

 

自分の席に戻ったキュルケはそれを横目で見てから、ルイズへと視線を向けた。

横にいたタバサは全く興味がないのか、ずっと本を読み続けている。

 

「それにしても確かにルイズは変ねえ。いつもなら、あんなこと言われたらすぐ怒るくせに」

 

そしてしばらくして何を思い立ったのか、もう一度立ち上がったキュルケはルイズの元に近付いていく。

 

「ねーえ、ルイズ? そんな眉間にシワ寄せてたら、殿方なんて近付いてこないわよ? ただでさえそんなおムネしてるのに」

「そうね・・・」

 

しかしルイズはキュルケに顔すら向けず小さく返した。

キュルケが肩をすくめながら、またタバサの元に戻ってくる。

 

「全くもう、からかいにくいったらないわ。つまんないの」

 

不貞腐れたようなキュルケを、ちらりとタバサが見る。

 

「・・・素直じゃない」

 

キュルケがちらとタバサを見返した。

 

「何か言った? タバサ」

「・・・別に」

 

そしてキュルケは頬杖をついて、落ち込んだようにぼんやりとしているルイズを見つめていた。

 

 

 

 

その日の授業が終わり、ルイズはとぼとぼと歩いていた。

 

アルビオンでの出来事は、ルイズに大きな爪痕を残していた。

ニューカッスル城の人達やウェールズ様の覚悟を前に、何も出来なかったこと・・・。

ウェールズ様が、目の前で殺されてしまったこと・・・。

自分が信じていたワルドが裏切り、自分たちを殺そうとしたこと・・・。

 

そして・・・。

 

 

ルイズはアウストリの広場へと訪れると、遠目にリウスの姿が見えた。

 

いつもと同じ恰好、いつもと同じ姿勢で、いつもと同じように本を読んでいる・・・。

 

しかししばらくその姿を見ていても、一向に本のページがめくられる気配は無かった。

 

姫様の計らいによって、リウスの傷は跡一つ残らずに治っていた。怪我も疲労ももう無くなっているはずだ。

しかしアルビオンから帰ってきて以来、リウスの様子は何となくおかしいものに見えていた。

 

それにリウスは毎晩、滝のような汗を流しながら夢にうなされている。

ルイズがリウスの夢を見ることも、全く無くなっていた。

 

この数日の間、それとなくリウスへ聞いてみているのだが、リウスはまるで安心させようとでもするかのようにいつも通りの対応をするだけである。

 

 

ルイズはそっとリウスの背へと近付いてみた。

しかしリウスは気付いた様子も無く、ぼんやりとしたまま本ではなく宙を見つめている。

 

これもまた、リウスらしくはなかった。

いつもならすぐ足音に気付いてくるというのに。

 

「リウス・・・?」

 

ルイズが呼びかけると、リウスはハッとした様子で振り向いた。

 

「あ・・・。どうしたのルイズ。授業おわった?」

「本、読んでたの?」

「え? あ、ああ、そうよ。面白いのよ、この本。夢中になってて全然気付かなかったわ」

 

そう言うと、リウスはルイズに向かってにっこりと笑いかけた。

 

しかしルイズは、そうしている中でもリウスの表情にどことなく違和感を覚えていた。

 

何だか、とても無理しているような・・・。

 

そうして二言三言話してから連れ立って歩いている時、少し強めの風が吹いた。

その風は春風らしく寒さが滲んでいて・・・、そう感じたルイズはぱっと名案を思い付いた。

 

「そうだ、リウスにマフラーを編んであげるわ。だから、リウスも私にマフラー編んでみてよ」

 

振り向いたリウスはきょとんとした表情を浮かべている。

 

「マフラー?」

「え? もしかして知らない? こう、首に巻く、ふわふわの・・・」

「いや、知ってるけど・・・。どうしたの、急に」

 

その質問を予想していなかったルイズはあわあわと理由を考えるが、何も思いつかない。

何も考えずにその場の思いつきで提案した自分を呪いつつ、ルイズは堂々と腰に手を当てた。

 

「い、いいから! りり理由なんていいの! ご主人様の命令よ! 私に、マフラーを編みなさい!」

 

真っ赤になって真っ向から提案してくるルイズに、リウスはくすりと笑った。

 

「ま、いいわよ。私も編んだことあるもの。ルイズは得意なの?」

「わわ、私の趣味だもの! それはそれは得意なの! きっとリウスよりも得意だわ!」

 

ルイズも負けじと言い返していると、リウスがにやりと笑った。

 

「そうとなれば勝負みたいなものね。どっちが上手くできるか」

「じょ、上等よ! かかってきなさい!」

 

そうしてわいわいと話しながら、二人はルイズの部屋にあるという編み物の道具を取りに行くのだった。

 

 

 

 

 

その三日後の虚無の休日、ルイズの部屋には五人の女性が座り込んでいた。

 

「あ、違いますよリウスさん。こうですよ、こう」

「あれ、本当? ええっと、こうやって・・・こう? ・・・なんか違うような」

「こうです、こうやって・・・。こうして・・・」

 

シエスタが自分の編み棒を上手に操っていくが、リウスはきょとんとした顔のままでそれを見つめている。

そして自分の編み棒をもぞもぞと手早く操っていくが、作業が進むにつれてマフラーであるはずの横幅が徐々に狭まっていく・・・。

 

しばらく自分の編み物を進めていたシエスタが、ぎょっとしたようにリウスの手元を見た。

 

「リウスさん! ストップ、ストップです! 編み目が足りてないです!」

「え、あれ、いつの間に・・・。あれ? これどうしたらいいの?」

 

リウスとシエスタが相談しながら進めていく中、キュルケはロマンス本を片手に大きな欠伸をしていた。

タバサはちらりと二人のマフラーを見て、ほんの微かに笑い、もう一度本に目を戻している。

 

「あーらら、めんどくさいことに・・・。どーお、ルイズ。進んでる? ・・・って何してんの! めちゃめちゃになってるじゃない!」

「う、うるさい! ヴァリエール家じゃこれが普通なのよ!」

「こんな毛玉が普通だなんて有り得ないわよ! 貸しなさい! あーもう、どうやったのこれ・・・。どうやって直せばいいのかしら」

 

キュルケがぶつぶつと文句を言いながらルイズのマフラーを修正していく。

 

 

つい昨日までルイズとリウスはそれぞれ別の場所で編み物を進めていたのだが、ルイズはキュルケに、リウスはシエスタにその様子を見られたのだった。

どうにも上手くいっていなかった二人は、そのままシエスタとキュルケに手伝ってもらい始めたのである。

そうはいっても、キュルケに関しては半ば無理やり手伝い始めたようなものだったのであるが。

 

苦戦している二人に対して、壁に立てかけてあったデルフリンガーがけらけらと笑い始めた。

 

「何でえ、二人とも。よくそれで編み物が得意とか言ってたもんだな」

「うっさい!」

「うるさいわ!」

 

ルイズとリウスの二人が顔を赤くして怒鳴った。

 

「おお怖い怖い。でも凄えことになってるぜ? 鍋敷きとぬいぐるみ作ってたんだっけか?」

 

すっとリウスの目が細まる。

 

「ねえルイズ。こいつの耐久力を試してみたくない?」

「いいわね、私もすごく興味あるわ。私の魔法でも試してみようかしら」

 

デルフリンガーがかちゃっと柄を鳴らした。

 

「いやあ、よく見りゃ味があるというか・・・。いや、いいんでねえの? なんというか、プライスレス的な?」

 

ルイズがじろりとデルフリンガーを睨み付ける中、リウスは「まったく」と呟きながら作業を再開した。

 

「編み物ってこんなに難しかったっけ。前作った時は上手く出来たと思ったのに・・・」

 

シエスタも自分の編み物を続けている。まだ寒さが続いているので、自分用に新しい春向けのマフラーが欲しいのだそうだ。

 

「前は何を作ったんですか?」

「マフラーよ、マフラー。これと似たやつ。やってる内に楽しくなってきちゃって、結構な長さになってたっけ」

 

シエスタはリウスの顔を見た。何か嫌な予感がする。

 

「ど、どのくらいに?」

「えっとね。先生、マフラーあげた人が普通の男の人よりも少し背が高いくらいで・・・。その倍くらい」

「そ、それは長すぎなんじゃ」

「・・・まあ、確かにちょっと長くなっちゃったけど。その人は暖かくていいって言ってたのに」

 

しばらく沈黙が降りる。

一方のルイズとキュルケはぎゃあぎゃあと騒ぎながら編み物を続けていた。

 

「・・・その時の編み目の具合とか、聞いていいものなんでしょうか」

「・・・やめといて。なんか、大分めちゃくちゃだった気がしてきたわ」

 

 

 

しばらくしてキュルケがうーんと伸びをすると、各々が固くなった身体を伸ばしていく。

 

「はーい、今日はここまで。二人とも上手くなってきた・・・気がしないでもないわね」

「そ、そうですよ。昨日までのアレに比べれば・・・」

 

昨日までに進めていたマフラーは無常にも部屋の隅に片付けられていた。

 

リウスのものは、毛玉が散りばめられた三角形の何か。

ルイズのものは、編み目が荒すぎて何に使うのかも分からないもの。

五人の協議の元、タバサの鶴の一声によりそれまで作っていたものは忘れようという結論に至ったのである。

 

すると小腹の空いたキュルケがシエスタをぱっと見た。

 

「そうだ。シエスタ、厨房って借りられるのかしら? お菓子を自分で作ってみるってのもオツなものじゃない?」

「あ、今の時間なら多分平気だと思います。先に聞いてきますね」

 

にこやかに一礼してから、ぱたぱたとシエスタが去っていく中、リウスはぐっと拳を握り込んだ。

 

「・・・明日こそは」

 

ルイズもこくりと頷いた。

 

「そうよ、まだまだ時間はあるわ」

 

 

 

 

広々とした厨房の中、リウスは砂糖の袋を手にじっと考え込んでいた。

 

「このくらい・・・かな・・・」

 

ざらざらと荒めの砂糖がボウルの中に滑り込んでいく。

その様子をちらりと見たシエスタがぎょっとした表情を浮かべた。

 

「リ、リウスさん! 砂糖入れ過ぎです!」

「ええ? こんなものじゃないの?」

「その半分くらいですよ! ええと、どうしようかな、ちょっと多くなっちゃうけど・・・」

 

リウスとシエスタは、カスタードとベリーのパイに挑戦していた。

パイシートは既に学院にあるものを使い、シエスタはベリーの味付けを、リウスはカスタードクリームの作成中である。

 

少し離れたところでは、ルイズとキュルケが木製のボウルを前にぎゃあぎゃあと言い合っている。

 

「ちょっとルイズ! かき混ぜ過ぎじゃない!」

「い、いいじゃないの! こうやって混ぜるものでしょ!?」

「アンタね、泡立てりゃいいってもんじゃないの! ほらもう、よく見てなさい。このくらいの力で、こうするのよ。ほら、やってみなさい」

 

二人は別の焼き菓子を作っていたが、もたつくルイズを見たキュルケは仕方なくその補佐を行なっている。

タバサはといえば菓子を作る方ではなく食べる方に興味があるようで、材料を魔法で運んだり道具の準備をしたりと、静かにうろちょろと動き回っていた。

 

それでも何とか作り上げて、かまどに作った菓子を入れると、全員で席についてふうっと一息ついた。

 

後片付けを買って出てくれたメイドの一人が紅茶の一式を持ってくる。

良い香りのする紅茶を一口啜ってから、キュルケがにやりと笑った。

 

「ま、ルイズが料理できないのは想像通りだけども・・・」

「ど、どういう意味よ!」

「どういう意味ってそういう意味よ。・・・まさかリウスも料理下手とはねえ。あまり料理したことなかったの?」

 

リウスは気まずそうに紅茶を一口啜った。

 

「料理は、一応作ったことあるんだけど・・・」

「あら、どんな料理?」

 

リウスは目線を泳がせながら、もごもごと口を開いた。

 

「えっと、その・・・。た、タレを焦がした焼き肉料理とか」

 

まさかの料理に目を丸くしたキュルケが大きく笑い始めた。

 

「ずいぶん男らしいわね! リウスらしいっちゃらしいわ」

「ぎゃ、逆に難しいと思いますよ。私は油が飛ぶのが苦手で・・・」

「美味しそう・・・」

「ねえねえリウス、今度作ってみてよ。食べてみたいわ」

 

各々がそれぞれ好きに笑い合っている。

タバサですらが薄く笑顔を浮かべているのを見て、リウスは顔を赤くしながら笑い返した。

 

すると、厨房にいた一人がくっくと笑いながら新しい紅茶を運んでくる。

恰幅の良い中年の男性、コック長のマルトーだった。

 

「ああ、これは失敬。貴族様方の会話に。いやなに、『我らが剣』にも苦手なもんがあるってのに安心したんで」

「もうマルトーさん。やめてください」

 

リウスが困ったように笑顔を返した。マルトーは豪快に笑うと、シエスタの顔を見る。

 

「よかったなシエスタ。元気出てきてるみたいじゃねえか」

 

シエスタはハッとしたように慌てた表情を浮かべると、マルトーはにやりと笑みを返してから一団に向けて一礼をした。

 

「じゃあ、焼き上がったらお伝えしますんで。どっか運びたいところがあったら言ってくださいや」

 

マルトーはそう言って立ち去っていく。

きょとんとしている桃色髪の二人に対して、合点がいったキュルケが紅茶のカップへ口を付けた。

 

「あの逞しい殿方も仰ってたけど、元気が出てきたみたいでよかったわ。ねえ、シエスタ。タバサ」

「あっ、はい・・・。そうですね」

 

シエスタは気まずそうにもじもじとしながら頷いた。

タバサは本から目を上げて、リウス、ルイズの顔を見てから、また本へと目を戻す。

 

合点がいったリウスは少し申し訳なさそうにしながらも、そっと紅茶へと手を伸ばした。

 

「初めてお菓子も作れたし、楽しかったわ、ありがとう。肩の力も少し抜けちゃった」

 

リウスはにこやかと笑ってから、紅茶を一口飲む。

ルイズはその言葉に微笑みを浮かべていたが、少しばかり心配そうに、キュルケやシエスタと会話しているリウスを見つめていた。

 

 

また、あの顔だ。何か、必死に我慢しているような顔。

 

話してくれればいいのに、と思う。

でも、その一歩が踏み出せていないのは自分自身だと、ルイズにはちゃんと分かっていた。

 

自分はこのままリウスと一緒にいたいと思っている。

リウスもきっとそうだと感じている。

 

でも、リウスは帰らなければならない。

それは必要に駆られてのことじゃないのだ。

私が、そうすべきだと思っているからだ。

 

それならせめて、何かをリウスのために残すことは出来ないだろうか。

リウスの重荷を背負うことは、出来ないのだろうか。

あのアルビオンに、ニューカッスル城に訪れた時からずっとそう考えている。

それは自分勝手なのかもしれない。

私が満足するためだけに、そう考えているのかもしれない。

 

それでも、何か・・・。

 

 

(笑ってる顔が一番いいだなんて・・・、私があなたにも思ってるって考えてくれないわけ?)

 

 

ルイズは拳を握りしめながら、ひとり心を決めていた。

 

「あ、そろそろ出来上がるんじゃないですか?」

 

シエスタの言葉通り、厨房には砂糖やバターの甘い香りが漂ってきていた。

マルトーが二つのかまどを交互に覗き込んで、焼き上がったパイや焼き菓子を手慣れた様子で銀製の皿へと移していく。

 

鼻孔をくすぐるような甘い香りの中、楽しそうに笑顔を浮かべているリウスに向けて、ルイズはこの時間がずっと続いてくれればいいと少しだけ考えてしまうのだった。

 

 

 


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