Double Servant -Poetry of Brimir-   作:ねずみ一家

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第三十八話 礼拝堂の戦い

 

「やはり来たか! ガンダールヴ!!」

 

 

瓦礫が宙を舞っている中、ワルドに肉薄したリウスは叫ぶワルドの首へと短剣を薙ぎ払った。

 

しかしワルドは杖で短剣を受け止め、思いっきりリウスを蹴り飛ばすと、続いて他のワルド達がリウスへと杖を向ける。

 

「「ウィンドブレイク!!」」

 

蹴り飛ばされたリウスは、その勢いのままルイズの元へとステップを踏んでルイズを抱きかかえると、そのままルイズを守るように宙に身を投げ出した。

 

リウスはルイズと共に大きく吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

衝撃と強い痛みが体中に走ったが、リウスは呻きながら身を起こすと、腰のカウンターダガーを引き抜いた。

さっきまで持っていたバゼラルドは、先ほど受けた魔法で遠くに転がってしまっている。

 

「ルイズ!」

 

リウスの背後にいるルイズはぴくりとも動かない。どうやら失神してしまっているようだ。

リウスはワルドの向こう側、始祖ブリミル像の前に倒れるウェールズへ目を向けた。

 

倒れ込んだウェールズの周りには血だまりが広がっている。

あの出血は、致命傷だ。

 

「ワルド・・・っ!」

 

リウスの怒りを受けながらも、ワルドはにやりと笑ってみせる。

 

「来てくれると思っていたよ。さて、気付いてくれたかな? 先程の魔法は、君と話したいがために放ったのだからな」

 

「お前と話すことなんてない!!」

 

前方にいる二人のワルドが、ぴたりとリウスへ杖を向けた。

 

「やめておけ。貴様は生き残れるかもしれないが、後ろにいるルイズはどうなると思う?」

 

その言葉に動きを止めたリウスは、突き刺さるような視線でワルドを睨み付けている。

 

「君は来るだろうと思っていた。しかし僕は焦らずに、君を待っていた。何故か?

・・・君にこの光景を、見せつけるためだ」

 

ワルドは残酷な笑みを浮かべて、満足そうに声を出した。

 

「君は大いに僕の邪魔をしてくれた。ウェールズも思った以上に抵抗してくれたよ。

そんな君へ、この言葉を贈ろう。君の行動は・・・全て徒労に終わった」

 

リウスは黙ったまま短剣を持つ手に強く力を込めた。頭の中でワルドを倒す算段を練り上げていく。

 

しかし目の前にはあの白い仮面の男と同じ魔力を持つ、四人のワルドがいる。

白仮面の男に合点はいったが、剣の腕においてワルドは私よりも上だ。

そして、一対一ならともかく、五対一の状況では・・・。

 

「僕には目的がある。こんなちんけな任務ではない、本当の目的が。そう、イグドラシルの話は興味深く聞かせてもらったよ。フーケからな」

 

 

ワルドは表情を変えて、リウスを強く睨み付ける。

そして左右のワルドが呪文の詠唱を開始した。

 

「貴様からはろくな情報を引き出せなかったが・・・まあいい。ルイズと共に死ね、ガンダールヴ」

 

本体のワルドが杖を動かした瞬間、リウスは弾かれたように懐の魔法石を宙に放った。

 

 

「ディスペル!!」

 

 

青く輝く魔法石が砕け散り、増幅されたリウスの魔力が詠唱中であるワルドの偏在に襲い掛かる。

ワルドには見えない魔力が偏在の全身を貫いた瞬間、詠唱をしていた偏在は塵のように消滅した。

 

「なにっ!?」

 

同時にリウスがワルドへ向けて走る。

焦るワルド達が杖を自分に向けたことを確かめながら、リウスは次の魔法を放つ瞬間を窺っていた。

 

この位置なら、ルイズに魔法が届く心配はない。

 

「「ウィンドカッター!!」」

 

本体と偏在から二つの風の刃が形作られ、リウスの元へと向かってくる。

その魔力を感知していたリウスは二つの襲い来る風の刃の隙間に飛び込むと、宙に身を投げ出したまま、詠唱を完了させようとしている一体の偏在へ短剣を向けた。

 

「スペルブレイカー!」

 

ワルドの偏在が杖を振り下ろそうとする瞬間、リウスはワルドの魔法が完成する寸前で破壊する。

着地したリウスはそのまま思いっきり地を蹴って、何が起きたのかと動揺する偏在に襲い掛かった。

その偏在の首を瞬時に断ち切り、断ち切った勢いのまま周囲の状況を確かめる。

残る三人のワルドが周囲に散り、魔力のこもった杖をこちらへと向けている。

 

「ライトニングクラウド!」

「マジックロッド!」

 

一体の偏在が先に放とうとした魔法を一瞬で掻き消した。

 

しかしもう一方、今にも詠唱を終えようとしている二つの魔法は、間に合わない!

 

 

「相棒!! 俺を魔法に向けろっ!!!」

 

 

背に抱えたデルフリンガーが叫ぶ。

その咆哮にリウスは戸惑うことなくカウンターダガーを投げ捨てると、デルフリンガーを即座に引き抜いた。

 

「死ね! ガンダールヴ!!」

 

空気の弾ける音と共に、二人のワルドの魔力が膨れ上がる。

 

 

「「ライトニングクラウド!!」」

 

 

ワルド達の周囲から稲妻が伸び、空気が弾け飛ぶ音を轟かせながらリウスの元へと向かってくる。

 

稲妻が直撃する瞬間、リウスが寸前で構えたデルフリンガーが光り輝いた。

その稲妻はリウスではなくデルフリンガーの刀身へとぶつかり、そのまま力無く消えていく。

 

その後に残っていたのは、今まさに研がれたばかりのように光り輝くデルフリンガーの姿だった。

 

「これが俺の本当の姿さ! いやあ、てんで忘れて・・・」

 

「ディスペル!」

 

リウスの左手に握り込まれた魔法石が砕け散り、増幅されたリウスの魔力がワルドの偏在に襲い掛かる。

即座にワルド達は『閃光』の名に恥じぬ高速詠唱で魔法を完成させた。

 

 

「「「エアハンマー!!!」」」

 

 

リウスのディスペルは風の塊に飲み込まれて散り散りになっていく。

残る二つの風の塊は横なぎに振るわれたデルフリンガーによって敢え無く吸収された。

 

「ちょっと!? 勘弁してくれ相棒! 俺っちの晴れ舞台だってのに!」

 

「そんなの言ってる場合?」

 

リウスは偏在に注意を払いつつ本体のワルドを睨み付けていた。

 

どういう仕組みなのかは分からないが、デルフリンガーが魔法の吸収を行なえるのならいくらでもやりようはある。

防げない距離まで近づけば、ディスペルは間違いなく偏在に直撃させられるのだ。

 

ディスペルの触媒となる魔法石、ブルージェムストーンの残りは四つ。無駄打ちを避ければ十分に事足りるはずだ。

 

「やはり・・・貴様は危険だ、ガンダールヴ」

 

ワルドはわなわなと震えながら、リウスを、そしてデルフリンガーを見つめていた。

 

「その剣も・・・ただの剣ではなかったという訳か。どこまでも、苛つかせてくれる・・・!

ならばっ!!」

 

三人のワルド達は杖をリウスではなく別の場所へと向けた。

 

杖の先には・・・、倒れ込んだルイズの姿があった。

 

 

「貴様の主人を守ってみせろ!! ガンダールヴ!!!」

 

 

驚愕の表情を浮かべたリウスは一瞬身を強張らせた。

 

この距離なら、本体のワルドを仕留めることができる。

アーススパイク・・・。いや、避けられるかもしれない。魔法と共に私が直接攻撃すれば・・・。

それでも避けられた場合は? そうした場合は他の魔法を止められるか?

スペルブレイカーか、ディスペル・・・。一人は止められるが、二人目は無理だ。

マジックロッドも同時に・・・。でも、攻撃と二つの魔法を同時に使うのなんて・・・。デルフリンガーを投げて・・・。いや、何を考えてる。そんなの何の意味も・・・。

 

その一瞬の思惑の中、既にリウスはルイズの元へと駆け出していた。

 

「あ、相棒!? やめろ! 無理だ!!」

 

一人のワルドの魔法を、スペルブレイカーで破壊する。

 

「うるさい・・・!」

 

リウスはルイズを守れる位置まで辿り着き、呪文の詠唱を続けながら勢いよく振り向いた。

 

 

「「ライトニングクラウド!!」」

 

 

二つの方向から、同時に巨大な稲妻が形作られる。

マジックロッドももう間に合わない。

 

一つはデルフリンガーで消せるが、二つ目は、直撃する。

 

(この子だけは・・・!!)

 

 

リウスは歯を食いしばってデルフリンガーを振るい・・・、そのまま、特大の雷撃がリウスの身を一瞬の内に包み込んでいった。

 

 

 

 

 

雷の轟音が響きわたった後・・・。

ワルドは息を切らせたまま、座ったような姿勢で壁にもたれかかるリウスを見つめていた。

 

雷撃によって遠くまで弾け飛んだようで、ルイズとは別の場所まで吹き飛ばされている。

当のルイズは、無傷であるようだった。

 

高速詠唱ではあるが、全力のライトニング・クラウドだ。意識がないどころか即死は免れない威力である。

どうやらまだ生きてはいるようだが、息絶えるのも時間の問題だろう。

リウスの横に転がるインテリジェンスソードが喚いているが、もうどうにもならない。

 

「あ、相棒! 起きろ相棒! ふざけんな! こんな所で、死んでるやつがあるか!!」

 

呼吸を整えながら、ワルドは偏在と共にリウスの元へと近付いていく。

その途中、くらりと立ち眩みを覚えた。

 

あまりにも精神力を使いすぎたのだ。偏在たちも限界が近いことだろう。

 

ワルドがリウスの前に立つと、インテリジェンスソードが更に大きな声でわめき始めた。

 

「てめえ! 貴族の風上にも置けねえとはこのことだ! 人質なんざ取りやがって、このクソ野郎がっ!!」

 

「・・・彼女は危険すぎた。当然だろう」

 

静かに、ワルドは言葉を返した。

何故自分がインテリジェンスソードに返答したのか、ワルドには分からなかった。

もう貴族の誇りなど・・・、とうの昔に捨て去ったというのに。

 

「・・・これで終わりだ、ガンダールヴ。君の情報はとても役に立った。後は、僕自身が見つけに行くだけだ」

 

 

ワルドはそう静かに呟くと、リウスの首へと、杖を向けた。

 

 

 


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