Double Servant -Poetry of Brimir-   作:ねずみ一家

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第三話  懐かしい生活

朝、窓から差し込む光にリウスは目を覚ました。

ゆっくりと体を起こし軽く伸びをすると、ふっと辺りを見回す。

 

そこは野外でもなければ、ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラの民宿でもない、ルイズの部屋だった。

すぐ隣を見ると、まだルイズは寝息を立ててすやすやと寝入っている。

 

昨夜は夕食に間に合わなかったため、メイドに持ってきてもらった軽食を取った。

その後に契約を済ませると、リウスはルイズの寝巻を借りてルイズのベッドに寝させてもらったのだった。

 

寝るのは別にベッドじゃなくてもいい、とリウスは伝えたが、ルイズは頑としてベッドで寝るべきだと意見を曲げなかった。

平民といえども女性を床や外で寝させることは貴族としてどうか、という話のようだ。

 

リウスはベッドから降りると、部屋の隅にある鏡で身なりを確認しながら、寝巻を脱いで、椅子にかけておいた冒険服に着替えた。

 

昨夜はパンツだけ履いて眠ろうとしたリウスに、ルイズが慌てたように寝巻を貸してくれたのだった。

 

そもそも冒険時には着替えなど必要としない。

長期の冒険であるなら破損時の予備として複数の冒険服を用意するが、宿に泊まる場合には屋内ということもあり、毛布で充分に暖が取れるため裸で寝ることも少なくないのである。

 

とはいえ、寝巻を着た方がよく眠れるので貸してくれるならありがたかった。

のであるが、ルイズの身長は150サント程(1サント≒1cm)であり、リウスよりも20サント近く小さい。

そのため、ルイズの寝巻を着たリウスは見事なつんつるてんだった。

 

リウスは慣れた手付きで髪を三つ編みに縛り終わると、ふと左手の甲を眺めた。

左手の甲には、昨晩契約をしたときに浮かび上がった奇妙な模様がある。もっとも、契約の際には焼きごてを当てられるような激痛が伴ったのだが。

 

(まさか、契約の方法がキスだなんてねえ)

 

そうひとりごちると少し顔が赤くなっているのを感じる。

別に同性愛の気はないが、冒険家などやっているとキスなんてそうそうしないものだ。

もう二十歳近くになるが特定の相手もいないし、どちらにせよ恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

(そういえば朝起こしてって言われてたっけ)

 

リウスはすっかり着替え終わったが、少し物音を立てたくらいではルイズは起きないようだった。

 

起こす時間が正確には分からないが、このまま寝かしておく訳にもいかないだろう。

事実、周りの部屋からはかすかな物音が聞こえてきている。

 

「ルイズ、ルイズ」

 

体を揺さぶっても、なかなかルイズは起きようとしない。

 

「ほらルイズ。起きてったら」

「・・・うーん、あともうちょっと」

 

そう言うと、またルイズはむにゃむにゃと寝入ってしまう。

面倒くさい、魔法でもぶっ放してしまうか、と少し考えたがそれは流石にまずいだろう。

ルイズが毛布を巻き込むように丸まり始めたので、リウスはその毛布を奪うように無理やり引っぺがした。

 

「ほら! 朝だよ朝!」

「わ、わ。なに? なにごと?」

 

急に毛布を剥がされたルイズはあわあわと慌てながら起き上がった。

 

「・・・ちいねえさま?」

 

目をショボショボさせながらそんなことをのたまう。

 

「誰が姉さまよ。まだ寝ぼけてるのかしら」

「・・・あー、リウス。おはよう。もうちょっと優しく起こしてもらえる?」

「優しく起こしてたわよ。もう、遅刻しちゃうわよ?」

 

のろのろと動き出したルイズはそのままゆっくりとベッドに座り込んだ。

 

「服」

「服が何?」

「服、取って」

「自分で取りなさいな」

「貴族はー、自分で着替えたりしないものよ」

 

まだ随分と眠そうである。

まあ、今日は使い魔としての初日だ。今後、使い魔というものがどこまでやるべきなのか、色々と話し合うことにしよう。

そう結論付けたリウスは面倒くさそうに腕を組んだ。

 

「しょうがないわね。どこにあるの?」

「そこに下着があってー、制服があっちにー」

 

指示通りに下着と制服を取ると、座ったまま眠りかけていたルイズに無理やり手渡す。

ルイズは手元にある服をしばらくぼうっと眺めてから口を開いた。

 

「服」

「服が何よ」

「服、着せて」

「貴族は自分で服を着替えたりしないって?」

「そう」

 

まだ眠くて仕方ないという顔をしているルイズにつかつかと近寄ると、リウスはルイズの乱れた頭をくしゃくしゃと撫でまわした。

 

「な、何するのよ」

「アホなこと言ってないで早く着替えなさい。後で髪くらいなら梳いてあげるから」

 

ルイズは、貴族をなんだと思ってるのかしら、などとブツブツ言いながら制服に着替え始めた。

 

着替え終わったルイズが髪を梳いてほしいと言ってきたので、鏡の前に連れてくると姿見に置かれた櫛で髪を梳いてやる。

 

まるで手のかかる妹みたい、と思う。

ルイズは着替えている内に目が覚めた様子だったが、桃色の髪を梳かれながらもまだ小さく欠伸をしていた。どうやら朝は弱い性質のようだ。

 

「綺麗な桃色の髪ねえ。よし終わり」

 

梳き終わった髪を眺めてそう伝える。

ルイズが言うには、ヴァリエール家は代々桃色の髪をしているとのことだ。

姉の一人と母親が同じような髪をしているらしい。

 

準備を終え、朝食を取るために部屋を出る。

すると、すぐ近くのドアが開き、中からこの学院の生徒とおぼしき制服姿の女性が現れた。

 

燃えるように真っ赤な髪に彫りの深い顔、突き出た豊満なバストを胸元の開いたブラウスで強調する、褐色肌の美女。

身長、肌の色、雰囲気、胸の大きさ、全てがルイズと対照的だった。

 

彼女はルイズを見ると、にやっと笑いかける。

 

「おはよう、ルイズ」

 

ルイズは顔をしかめると、嫌そうに挨拶を返す。

 

「おはよう、キュルケ」

 

キュルケと呼ばれた女性はまじまじとリウスの顔を見ている。

 

「貴方の使い魔って、その人?」

 

リウスを指さし、バカにした口調で言う。

 

「そうよ」

「あっはっは! ほんとに人間なのね! すごいじゃない! 人間を召喚するなんて貴方らしいわ、流石はゼロのルイズ!」

 

ルイズの頬にさっと赤みが差した。

 

「うるさいわね」

 

キュルケと呼ばれた少女はひとしきり笑うと、リウスの顔をもう一度ちらっと見る。

 

「おはようございます。私の名前はリウスと言います。これからよろしくお願いしますね」

 

口調に気を付けながらにこやかに挨拶をする。

ルイズが半目でこちらを睨んでいるようだが、気付かないふりをした。

 

「あら、おはよう。ルイズの使い魔にしちゃあ品が良いわね。でも、人間の使い魔じゃあねえ。あたしも昨日使い魔を召喚したのよ、誰かさんと違って一発で成功よ」

「あっそ」

 

つんと澄ました顔でルイズが答える。

 

「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ。フレイムー」

 

キュルケの呼び声に応え、真っ赤で巨大なトカゲがキュルケの部屋からのっそりと現れる。

大きさは虎ほどもあるだろうか、尻尾は炎で燃え盛り、むっとする熱気を放っている。

 

「これって、サラマンダー?」

 

ルイズが悔しそうに尋ねた。

 

「そうよー、火トカゲよ。見てこの尻尾。ここまで立派で鮮やかな炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ。好事家に見せたら値段なんかつかないわよー」

「そりゃあ、良かったわね」

 

ルイズは憎々しげに答えてから、ふとリウスを見上げると、息を飲んだ。

立ったままの姿勢は変えていないが、彼女がこれ以上ない程に警戒心を露わにしているように見えたからである。

サラマンダーがそんなに珍しかったのだろうか。

 

「素敵でしょう、あたしの属性にぴったり」

 

キュルケはリウスの様子に気付かずに会話を続けている。

厳しい目つきでサラマンダーを見つめるリウスが静かに口を開いた。

 

「このサラマンダーは、近付いても平気なのですか?」

「あらあ、大丈夫よ。噛みついたりしないわ。あなたはあんまり見たことないかもしれないわね」

 

キュルケがけらけらと笑いながら答えると、リウスは膝をついてまじまじとサラマンダーを見つめた。

サラマンダーはきゅるきゅると声を出し、丸い目でリウスを見つめ返す。

 

(違うみたいね)

 

リウスは内心ほっと息を吐いた。

 

リウスの世界にも、トール火山という場所にトカゲに似たサラマンダーという魔獣が生息する。

ただ、トール火山のサラマンダーは全身が炎で構成されており、生物というよりも精霊に近い。

たとえ腕利きの冒険者達が慎重に歩を進めていても、一瞬の油断でパーティーが壊滅させられる程の危険な存在だ。

自分も文献で読んだことしかないためサラマンダーと聞いた時には耳を疑ったが、こうして見る限りだとこの世界のサラマンダーはそれ程危険な生物ではないのかもしれない。

 

「初めて見ました。立派なサラマンダーですね」

 

そっとサラマンダーに触れてみると熱い程の熱気を帯びている。そのままサラマンダーの頭を撫でてやると、きゅるきゅると嬉しそうな声を出した。

 

「でしょう? ルイズと違って話が分かるわね」

 

キュルケはにっと満足そうに笑う。

 

「あたしは『微熱』のキュルケ。これからよろしくね。それじゃ、また後でね。リウス。ルイズも」

 

そう言うと、炎のような赤髪をかきあげ、颯爽とキュルケは去っていった。

その後ろをフレイムがちょこちょこと可愛らしく追っていく。

 

キュルケが居なくなると、ルイズは拳を握りしめた。

 

「くやしー! なんなのあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって! ああもう!」

「いやあ、立派な使い魔ね。ルイズもああいうのを召喚したかったの?」

「あたりまえじゃない! メイジの実力を測るには使い魔を見ろって言われてるくらいよ! なんであの女がサラマンダーで、わたしがアンタなのよ!」

 

昨晩の泣きじゃくった姿はどこへやら、床をダンダンと踏みしめている。

 

「大体、アンタもアンタであの女の使い魔を褒めてんじゃないわよ!」

「だって初めて見たもの、あんな生き物。面白いわね、尻尾の構造はどうなってるのかしら」

「もういい加減にしなさい! 私達もさっさと行くわよ!」

 

ルイズはずんずんと廊下を進み、リウスがその後ろを追う。

ふとルイズはさっきのサラマンダーを前にしたリウスの様子を思い返していた。

 

あの、緊張感。

姿勢はそのままに即座に動けるよう警戒心を露わにしていた姿は、まるで戦い慣れた戦士であるかのように見えた。

 

ただの平民だと思っていたけど、まさかね。そう思いながら、ルイズは食堂へと向かっていくのだった。

 

 

 

リウスは食堂へ繋がる渡り廊下を歩きながら、目の前を歩くルイズや他の生徒達を尻目に窓から外をちらと眺めた。

 

この魔法学院は、中心にある巨大な本塔と、それを囲む5つの塔からなっているようだ。

本塔を取り囲んでいる5つの塔はそれぞれ均等な距離で城壁を繋いでいるため、上空から見ると五角形になるように作られているのだろう。

 

リウスは、この施設は城塞の役割も持っているのかもしれない、と考える。

ルイズの話によると、この世界における魔法を使える者は大抵が貴族であるという。

魔法学院、という名前から考えると、ここにいる子供達はほぼ貴族なのだろうし、戦時に独立して自衛できるように作られているのかもしれない。

 

つまり、ここはこのトリステインという国の重要な施設だということだ。

戦時には城塞として支配階級である貴族の子供を守り、平時には魔法の教育を中心に、貴族同士の繋がりを作ることで各々の貴族を知るチャンスとなるのだろう。

 

リウスは内心、気を付けなければ、と身を引き締める思いになった。

自身が余りにも目立つ行動を取れば、その情報がそのまま支配階級の耳に届くことになる。

私自身大した魔法は使えないが、それが未知の魔法となると話は別だろう。

平民ということでさほど興味を引かれていないようだし、大体の貴族が子供なので、そこまで気を付ける必要もないかもしれないが。

 

 

食堂の中に入ると、大聖堂のような巨大な食堂全体がきらびやかな装飾に彩られていた。

その中には、やたらに長く豪華なテーブルが3つ並んでいる。

1つのテーブルに百人は座れるだろうか。二年生であるルイズ達は真ん中のテーブルのようだ。

 

「うわあ、これは凄いわね」

 

あっけに取られたリウスが口を開けたまま感嘆の声を漏らすと、ルイズが腕を組んで自慢げに言う。

 

「でしょう? トリステイン魔法学院で教えるのは魔法だけじゃないのよ」

 

それにしても豪華すぎやしないか。

テーブルには純白のテーブルクロスが敷かれ、その上には朝食とは思えない程の上質な料理が所狭しと並んでいる。

 

「メイジはほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないの。もちろん、料理人も超一流よ」

「なるほどねえ」

 

相槌を打ちながら、リウスはいつも自分が食べていた食事を思い出す。

大体リンゴ1個と、適当に塩を振った干し肉1つで夜まで持たせていた。栄養も何もあったものではない。

 

「本当ならあなたはこの『アルヴィーズの食堂』には入れないんだけど、特別に私が許可してるのよ。感謝してよね」

「そっか。ルイズ、ありがとうね」

 

リウスは、にこやかに笑いながら返答をした。

まだ召喚されてから一日弱しか経っていないが、リウスにはルイズが手のかかる可愛い妹のように感じられていた。

しかし、ふと思う。何か変じゃないか?

 

席にたどりつき、ルイズに命じられて椅子を引いたリウスは、腰かけたルイズの前に置かれた料理に再度目を通した。

 

高級そうなローストチキンにワイン。

皿の底まで透き通っているスープ。

魚の形をしたパイ。

色とりどりのサラダ。

他にも、見たこともないような旨そうな料理が沢山置かれている。

 

「朝からよく食べられるわね。こんなにいっぱい」

「あら、全部は食べないわよ。食べたい分だけ食べるの」

 

ルイズはさも当然であるかのように手を振った。

それを聞いたリウスは、支配階級ってのはこういうものよね、と内心ため息をついた。

こんな上等な料理を残すというのだから、ため息も出るというものだ。

 

「それで、私の食事はどうしようかしら。ここは貴族サマの席よね」

「あ・・・」

 

そういえば、昨日どたばたしていたおかげで厨房に料理の用意をしてもらっていない。

 

「あんたの食事を用意してもらっていなかったわ」

「そうなの。じゃあ外で何か食べれそうなものでも探してこようかしら」

 

リウスはこともなげにそう言った。

冒険をしている時には食べられそうなモンスターを狩って食べていたし、そこらに生えていたハーブをむしり取って調理したこともある。

彼女にとって野生の食糧探しは大した苦でもないのである。

 

しかし貴族であるルイズは、もちろんそんな経験をしたこともない。

 

「ちょ、ちょっと、別にそんなことしなくてもいいわよ。厨房に言って用意してもらうから」

「別にいいのに」

 

ルイズは焦ったようにリウスに告げると、近くを通ったメイドを呼びつけた。

 

「彼女、私の使い魔のリウスっていうんだけど、彼女の食事を用意してもらえる?」

「承知いたしました、ミス・ヴァリエール。ミス・リウス、こちらへどうぞ」

 

特に嫌そうな顔もせずに恭しく答えるメイド。確か、昨日軽食を部屋に持ってきてくれたメイドだったはずだ。

 

「食べ終わったら外で待ってて」

 

ルイズの言葉に、はいはい、と手を振って答えると、リウスは横で控えていたメイドに連れられて厨房へと向かっていった。

 

 

 

「何かお食べになりたいものはございますか?」

 

厨房へ着いたリウスに席を促しつつ、先程のメイドが尋ねてくる。

カチューシャでまとめられた綺麗な黒髪とそばかすが可愛らしい女性だ。

しかし、今は顔が若干強張っている。

 

この女の子が厨房の人間に事情を話している時にも思ったが、どことなく厨房全体に緊張感が伝わっているのをリウスは感じていた。

 

「ありがとうございます。忙しい貴方がたの手を煩わせたくありませんので、余りもので構いませんよ。ええと、お名前は?」

「あ、私はシエスタと言います」

「確か、昨日の夜にもルイズの部屋に軽食を持ってきてくれましたよね。遅くなりましたが、ありがとうございました。とても美味しかったです」

「あ、ありがとうございます。ご丁寧に、どうも」

 

シエスタは少し戸惑いながら礼を返すと、では少々お待ちください、とその場を去って行った。

どうやら、厨房の者が食べる賄い料理を持ってきてくれるらしい。

 

料理を待つ間、リウスは厨房を見回した。

調理や仕込みに追われているようで、コックもメイドもバタバタと忙しそうだ。

 

そんな中、時々こちらへ視線を向けてくる者もいる。

どこの誰とも分からない貴族の使い魔にどういう対応をすればいいのか分からないのだろう。

今の私はそういう身分なのだからしょうがないのだが、なんとなく気まずい雰囲気である。

 

「ミス・リウス、お待たせいたしました」

 

ぼんやりと厨房の様子を眺めていたリウスの前に、暖かそうなスープと数個の白パン、魚のパイの半分と、数切れのローストチキンや瑞々しいサラダが運ばれてきた。

 

「ありがとう、ミス・シエスタ」

 

にこやかにお礼を言いながら、運ばれてきた料理をもう一度見る。

その内容に、内心困った気分になった。

 

どうやら貴族の使い魔ということで大分気を遣わせているらしい。

賄いといっても、この料理はさっき見た貴族の料理と同じようなものではないか。

 

「ええと、ミス・シエスタ。私のことは『ミス』をつけずに『リウス』って呼び捨てで結構ですよ。別に貴族でもないですし、なんかこそばゆいので」

 

照れくさそうにそう伝えると、シエスタは一瞬驚いた顔になりつつも穏やかな笑みで返した。

 

「分かりました、リウスさん。では、私のことも『シエスタ』とお呼びください。私も『ミス』と呼ばれるのは初めてで、ちょっとその・・・」

 

可愛らしくもじもじとしているシエスタに、分かったわ、と笑いかけつつ、スプーンでスープを一口すする。

 

「これ美味しいわね。今までこんな美味しいもの、食べたことないわ」

「よかった。お替りもありますから、ごゆっくり」

 

一礼してパタパタと仕事に戻っていくシエスタを見送ると、今度はローストチキンを一切れ頬張る。

 

これも非常に美味だった。気付くと、机の上に並んでいた料理を次から次に平らげてしまう。

リウスは小食な訳ではなく、単に食事の必要を感じないからそこまで食べないだけなのだ。

その考えも、この食事の前には改めるべきかもしれない。

 

お腹がいっぱいになり一息ついていると、シエスタが紅茶を手に戻ってきた。

 

「紅茶はいかがですか?」

「ありがとう、シエスタ。他の料理もとっても美味しかったわ。朝からこんな美味しい料理が食べられるなんて幸せね」

 

正直な感想を口にすると、シエスタはふふっと微笑みを返した。

 

「満足いただけたようで何よりです、リウスさん。はい、紅茶をどうぞ」

 

リウスは紅茶をゆっくりと飲み干すと、そろそろルイズも食べ終わったかしら、と席を立った。

 

「シエスタ、ごちそうさま。作ってくれた人にも、とても美味しかった、ありがとうって伝えておいて。・・・あと私には本当に気を遣わなくていいからね? あなた達の邪魔はしたくないから」

 

リウスが厨房に来たばかりの時とは違い、シエスタはにっこりと笑った。

 

「分かりました、リウスさん。昼食の時にもいらしてください。用意してお待ちしていますので」

 

 


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