【完結】ある読心術士の軌跡   作:白井茶虎

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15 ホグワーツ裏の戦い

 

 

『ヘ、ヒ、ホ、ハ、フンフン』

 

『イギリス人の血が臭う』

 

 二体の巨人がこぶしを振るった。三頭のセストラルは三方向に散って、危うげもなく躱した。

 一体の巨人は赤銅色の髪を振り回しており、もう一体は石の兜をかぶった巨人だ。ミリアは分かりやすく、『赤髪』と『兜』と呼ぶことにした。

 一撃目を見る限り、こぶしが速いのは兜だった。とすると、あの石兜は戦利品か。ミリアが兜に張り付き、レナとキースは赤髪を担当してもらうことにした。

 

「赤髪の目元に何でもいいから呪文を。自分たちの存在を示せ」

 

 レナとキースに声を送る。レッジエとヒーラには、兜に背を向けさせるように飛べと指示した。ミリアとアーベントは兜の目の前をウロチョロ飛び回り、鼻先で最大級のフラッシュを浴びせた。兜は目を抑えて、でたらめに腕を振り回す。落ちるように距離を取った。

 ぐるりと背中に回り、『槍の呪文』で兜を刺す。巨人の分厚い皮膚には、注射針ほどの痛みしか感じないだろうが、それでいい。兜は轟々唸りながら背後に思い切りパンチを食らわせた。

 兜の背後にいたのは赤髪。レナたちに気を取られていて、構えることも無くまともに食らった。

 

『ァイッテエッ!!どこ見てんだテメェ!?』

 

『……。コバエに集中しろ!』

 

 赤髪は巨人の言葉で罵りながら、いらいらと二頭のセストラルを捕まえようと腕を振り回す。ミリアは兜の攻撃を避けながら、二頭に今度は兜の背中に回れと指示する。

 兜の背中を見て赤髪はにやりと笑った。風圧でセストラルに逃げられるのも構わず、ぶん殴った。

 

『阿呆が!わざとやったなッ!』

 

『オラぁやったらやり返す主義でな』

 

 巨人たちの憤怒の虫は、徐々に育っている。攻撃は荒々しく、一層激しくなった。

 しばらくは全員回避に専念し、苛立ちをさらに加速させる。ミリアは機を待った。

 

『この、こンの!!』

 

『大人しくなりやがれ!』

 

 二つの山が、ミリアを中心に向かい合った。

 

「『プロテゴ・フルクシオ』!」

 

 突如目の前に現れた光り輝く盾に、赤髪も兜も粉砕するべく、人間の盾など紙のように破る必殺の一撃を向けた。

 盾は破れず――流した。『流れる盾(フルクシオ)』は弾くことを念頭に置かず、力を受け流す事のみに特化した『盾の呪文』の応用系だ。二つの砲弾は中心点を滑り――その奥の岩壁を打ち据えた。

 

『……』

 

『……』

 

 切れた。

 

『クソカタツムリガァァァ!!!』

 

『タマブチ飛ばしたラァァ!!!』

 

 巨人は元々好戦的な種族だ。絶滅の主な原因は仲間同士の殺し合いで、同族殺しも厭わない。

 三頭のセストラルはその『戦争』から避難して、踏みつぶされないよう遠くで肩を寄せた。

 

「始まったな」

 

「壮観だわ……」

 

「もう我々の姿は目に入っていない」

 

 三人と三匹は、地響きに耐え、一方が倒れるのを待った。

 しかし、思惑通りにはいかないものだ。戦いは門と城壁を壊しながら学校の外に発展し、一方がどんどん押され――

 

「これは……」

 

 赤髪が、流砂に足を取られた。まずは左足、踏ん張ろうとして余計に沈み、右足が滑り落ち、腰まで呑まれた。そんな赤髪を兜は助けるはずがなく、今がチャンスとばかりにボコボコに猛打を浴びせる。そうして、動かなくなった赤髪は首まで埋まってしまった。

 兜が気絶しないまま、流砂を使ってしまった。

 怒り狂ってミリアらを探す兜を、注意深く観察する。全身に打撲痕があり、片目を腫らして閉じている。歩くリズムがおかしいと思って足を見ると、左足を引きずっている。膝の側面がどす黒く鬱血していた。

 

「膝の鬱血を狙う。呪文は『インジェンス・マレウス(大打撃)』」

 

「分かった」

 

「膝をつかせるのか」

 

「ああ。一人では効果は薄い。常に三人で、機を狙いつつ慎重に行くぞ」

 

 二人が頷くのを見てから、再び飛び立った。

 

「奇襲する。今だ」

 

「「「『インジェンス・マレウス』!」」」

 

 極太の白い光線が、三人の杖から発射された。兜はその閃光に気づいて進行方向を曲げた。三本の光線は膝の真ん中に当たり、痛そうに抑えた。

 

『ガーグの腋臭!』

 

 最悪だと叫んだ。効いてはいるが、決定打にはなっていない。

 ミリアはアーベントと共に、右へ左へ退いて進んで猛攻を掻い潜って上を目指す。無茶苦茶に腕を振っているので動きが読み辛いが、一人で集中して心を読むことによって何とかなっている。

 文字通り目の前に到着して、無事な方の目に結膜炎の呪いを放った。いくら巨人でも目は頑丈に鍛えられない。兜は視力を失って、叫び声を上げた。

 顔の辺りを我武者羅に払う。何とかぶつからず、生み出す風に乗って離脱した。そしてタイミングを合わせて、三人で『極大打撃呪文』を見舞った。

 

「グアアァッ!!!」

 

 今度こそ、膝が折れて倒れた。

 巨人の体重を支えるには、片足では不十分だ。一度倒れれば、起き上がるにも座るにも、姿勢を直すには時間がかかる。

 

「やった!」

 

「トドメはどうする!?」

 

「『彼ら』に合流する」

 

 言って、風のようにホグズミード方面に向かった。後を追うと、スラグホーンを先頭にした軍団が走っていた。ホグズミードの住民や生徒らの親がほとんどだが、よく見るとダフネ・グリーングラスやブレーズ・ザビニなど、極めて少数のスリザリンの七年生がスラグホーンのそばで走っている。

 

『あの巨人が起き上がる前に、全員で失神呪文を!』

 

 全員に聞こえる大音声で指示した。巨人という分かりやすい敵のお陰で、見る人によっては箒も無しに宙に浮いている怪しい少女の命令を聞いてくれた。巨人を大群で包囲し

 

「「「「「『『『『『ステューピファイ』』』』』!!!!!」」」」」

 

 赤い光の波をぶつけた。もがいていた兜は、倒れ伏した。

 

『乗り込むぞ!』

 

「「「「「『『『『『オオオォォォ!!!!!』』』』』」」」」」

 

 ミリアの号令で、増援部隊は粉々になった裏門を踏みしめた。最高状態の士気は、吸魂鬼すら寄せ付けない。

 号令が届いたのは、増援部隊だけではない。森の中で機を待っていたセストラルの合図となり、セストラルが動き出したことでケンタウルスにもきっかけを与えた。

 

   *****

 

 ホグワーツ内部は、大混乱の中心にあった。入り口で並んでいたらしい死喰い人はケンタウルスの弓矢に追い立てられ、城の中に逃げた。それを追って増援部隊が突入し、入り口は人で埋まり杖さえ上げられない。死喰い人は屋敷しもべ妖精に足元を切り裂かれ、数の暴力に負けて数を減らして行き、ヴォルデモートと側近ベラトリックス・レストレンジを残すのみとなった。

 ミリアはハリー・ポッターの姿を見出し、何故か直感で勝ちを確信した。入り口でつまって入れない者たちを連れて外に出て、巨人を相手にするセストラルやケンタウルスに加わった。

 攻撃を予知し伝え、号令を出して束になった失神呪文で気絶させる。瞬く間に残った巨人二体を仕留め、凍結させた途端、城内から歓声が上がった。

 

 気づくと、夜明けが来ていた。

 

   *****

 

 英雄ハリー・ポッターの手によって、ヴォルデモートが敗れ去った。

 外から途切れ途切れに入って来る声で、“宿主殿と呼ばれた少女”はそれを知った。

 

(そう……僕は、答えを見つけられなかったんだ――)

 

 孤独の闇を照らす光、その名を見つけられないまま逝ってしまった。“ここ”に仮面の下の記憶を残して。

 

――宿主殿、いい加減目を覚ませ。服従の呪文はとうに解けているぞ

 

(……)

 

――ぴったりハマった心から抜け出れずにいるんだよ。おいミリア、このカバ!起きろ!

 

(……かば)

 

――同居人殿、内からの声では無駄だ。意識を外に向けさせねば

 

――俺らにゃあ、出口のありかなんか導けねえな

 

(僕が死んだ今、わたしは……どこへ行けばいいの?)

 

――全く、優しいっつえば聞こえはいーが、自分を持たねえからこんな事になったんだ

 

――言ってやるな、宿主殿の『共感』に住み着いている身だろう

 

(別にいいよ、あなたたちの好きにして)

 

――カバが!俺たちの望みはお前が元に戻る事だ!

 

――それには虚無の海、侵入してしまったヴォルデモートの孤独と絶望を取り除かねば……

 

――どうすりゃ……おい、これは……

 

――ああ。宿主殿、そのままでいい、変化に身を委ねろ

 

 今にも分散しそうな意識を、そっと休ませる。心の目を閉じて、出口探しを中断する。ミリアという少女の五感を、知らない監督の映像作品のように鑑賞を始めた。

 

「ミリア!」

 

(だれだろう)

 

「ミリア、やっと会えた!」

 

 彼女を呼ぶ声は、二つ。男の人と、女の人。

 

(あなた、たちは……)

 

 冷たい海に、暖かい光が射しこんだ。

 

「会いたかった――!」

 

「会いに行けなくて、すまん!父さんやっぱりカバだ!」

 

 暗い海に、光の道が築き上がる。

 少女は、道を辿った。

 道の先では、彼女が大人の男女に抱きしめられていた。

 

「あい、たかった」

 

 彼らが何度も言った言葉を口でなぞり、意味を咀嚼する。

 

「会いたかった……」

 

 その意味が胸に届いた途端、少女と彼女が、同化する。

 霧が晴れたように、視界が明るくなった。自分を抱きしめる人たちの顔が、はっきり見えた。

 

「お母さん、お父さん!」

 

 せっかく明るくなった視界が、涙でしわくちゃになる。

 父と母の胸の中で泣いて、気がついた。

 

(そうだ、『愛』)

 

 一つのピースが、虚無を埋めた。

 虚無という『僕』は、そのピースを抱きしめて、消滅した。

 

 

 

 

 








 なんで生きてんねん!と思った方がほとんどだと思います。すんません、一応感動シーンのつもりで書いたので、理屈を書きたくなかったんです。

 ミリアお辞儀氏接触→ダンブルドア「しまった。とりあえず家族だけは守らねば」→不死鳥の騎士団がミリアの家を見張る→ミリア家襲撃→騎士団両親保護→しくじった死喰い人がお辞儀恐さに嘘をつく→お辞儀「重要なのはミリアをダークサイドに入れることなのです。どうでもいいのです」ということで真偽は見破らなかった→お辞儀も生死を知らないというのをミリアが勘違い

 という流れでした。ちなみにダンブリードールが最後のおしゃべりで生存を明かさなかったのは、ミリアにかけられた服従の呪文のせいです。情報が洩れて、トドメ刺しに来られたら面倒だからね☆
 で、何でこのタイミングで声をかけられたのかというと……

 騎士団「ホグワーツで一戦交えるんだとよ」→パパ「おれも行く!ミリアに会うんだ!」ママ「あたしだって!」→パパはともかくママはマグルじゃん→ママ「大丈夫!グランパの猟銃あるから!」

 ということで、ご両親揃ってホグワーツ防衛隊として城の中で戦っていたのです。悲劇のすれ違いですね。パパが防御担当でママが攻撃担当、見事なチームワークで活躍したそうな。



 次回最終回、エピローグです!


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