【完結】ある読心術士の軌跡   作:白井茶虎

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 この駅から~、この暴走時空間転移魔法超特急は~、各駅停車へと変更いたします~
 来たぜ七巻!僅か17話!

 え?七巻よりミリアが何であんなザマになったか時系列に沿って読みたい?
 そんな方は『1ページで分かる2章』へJUMP!3章へGO!



5 ハロー、新しい魔法界

 

 

 魔法界は、変わる。

 

 ルーファス・スクリムジョールの突然の辞任から、魔法省は方向性を180度変えた。

 魔法省は『マグル生まれ登録委員会』を新設し、魔法界からマグル生まれの排除を始めた。ホグワーツに通っていたマグル生まれは、大人しく裁判所に出向くか、海外へと逃げて行った。裁判にかけられた後の彼らの行方は、聞こえてこない。

 また、ホグワーツで教育を受けることの義務化も決まった。一定年齢になった魔法使いの家の子供は、全てホグワーツに集まるということだ。元々ほとんどの子供はホグワーツ通いだったが、強制になったことでどう変わるのだろう。

 更に、何かと魔法界を騒がせてきたハリー・ポッターについても、急転換した。偉大だった魔法使い、アルバス・ダンブルドアを殺した容疑者として、彼は追われることになった。

 そして――躍起になっていた『死喰い人』の捕縛は、それから聞いていない。

 小さな変化は、ホグワーツにセブルス・スネイプが戻ってくること。ダンブルドアを殺したと噂になっていた、彼が。また、マグル学を教えていたチャリティ・バーベッジが辞任した。つい最近、日刊預言者新聞に文章を寄せていたというのに――いいや、だからか?代わりに来るのはアレクト・カローという女性。空席の『防衛術』の教授には彼女の兄アミカス・カローが座るそうだ。

 

(『例のあの人』バレバレじゃん)

 

 ホグワーツ特急の一室で、レナは日刊預言者新聞にため息をかけた。

 

 

 

 大広間は緊張に包まれていた。数か月前までダンブルドアが座っていた椅子に、スネイプが座っているからだ。緊張感に襲われている生徒たちは、スリザリン以外には理不尽気味な厳しさで当たる彼が、校長になったと思い知らされたのだ。

 前学期よりも学校全体がどこかよそよそしく、レナはずっと居心地が悪い。もぞもぞと何度も座りなおしながら見た組分けは、去年の二倍ほどの時間に感じられた。

 

「ザモラ、バスクトン!」

 

「レイブンクロー!」

 

 ようやっと最後の組分けが終わり、大きくも湿った拍手が響いた。

 鳴り止むのを待たずに、スネイプが立ち上がる。これから彼の授業が始まるかのように、一気に静まった。

 

「新入生諸君、ホグワーツへようこそ。在校生諸君、よく戻った」

 

 暖かい歓迎にはとても聞こえない。教科書を読むときとどう違うのか、レナには判別できなかった。

 

「此度校長の位を引き継いだ、セブルス・スネイプだ。重要事項が多々あるが、まずは晩餐で腹を慰めるよう」

 

 スネイプが椅子を引く音までが聞こえて、ご馳走が現れた。そこからやっと話し声があふれた。ざわざわという域で、賑わいには程遠いが。

 同じ味のはずのご馳走が、ここまで変わるとは。魔法省が『例のあの人』の影響下に入ったとすれば、今のホグワーツもそうなのだろう。二年前からなんだかんだで生き残った『教育令第二十二号』に則り、新任教師はここへ来た。言うなれば魔法省から送られた“刺客”。

 

(刺客かどうかは、自分で確かめないとね)

 

 レナは『例のあの人』の恐ろしさを肌で感じたことが無い。なぜ名前を呼ばれることさえ忌避されるかも知らない。その人が本当に“悪”なのか、これからの時代が『闇』となるか、自分の目で判断できるいい機会だ。

 

(マグルを否定するって気持ちも、分からなくもないし)

 

 魔法使いなら誰でも、大なり小なり思っているはずだ。マグルに比べて自分たちは特別だと。純血の魔法使いの減少に対し、ここまで具体的な対策を取るのも『例のあの人』だけだろう。

 

(それもこれも、裁判の後マグル生まれがどうなるか次第ね)

 

 万が一片っ端からアズカバン送りなどしていれば、悪だ。マグルも同じ人間なのだから。

 

(暴力で奪ったとか言うのは嘘ね。国際機密保持法ガバガバじゃない)

 

 知りもしない魔法力を、マグルはどうやって奪うというのか。

 

(……そう考えると、限りなく黒ね。その辺のところはどうなのかな)

 

 隣で黙々と食事するミリアの意見を聞いてみようとすると

 

「諸君、食事が済んだ頃合いかと思う」

 

 スネイプが口を開いた。

 

「まず一つ目。魔法省大規模改革により、OWL(ふくろう)及びNEWT(いもり)試験を中止する。延期となっていた昨年度と、今年度を含めだ」

 

 初めて大広間が明るくなった。歓声が上がるも、スネイプはすぐに

 

「静まれ」

 

 と抑えた。

 

「第二に、授業内容改革に伴い、全学年に必修科目が一教科増える。アレクト・カロー教授の『マグル学』だ。しかと修めるよう」

 

 猫背の魔女が、にやにやした顔を正面に向けながらお辞儀した。パチパチパチと拍手が起きた。

 

「第三。新たに『規律係』を設ける。それはカロー兄妹が務める。明日よりあらゆる規則を破った者は、彼らに引き渡すように」

 

 広間は一瞬しん、となった。

 

(……アンブリッジ再来?)

 

 ミリアはじっと前を向いていた。その肩をとんとんと叩いた。

 

「レナが考えてるより、悪いよ」

 

 話す前に、答えられてしまった。

 

「規則はこれまで通り。午後九時から寮外へ出る事は禁止。禁じられた森には立ち入り禁止。廊下での魔法は使用禁止。WWW用品は所持だけで罰則。その他悪質な玩具はフィルチの事務所のリストを参照にせよ。先生方も含め、これらを破った生徒を見かけた場合、カロー兄妹の元へ連れて行くように。カロー兄妹には体罰の許可を与えている故、破るような者はいないと信じている」

 

「体罰!?」

 

 あちこちから怒号が上がった。

 

「それはおかしい!」

「ヒュー、イカれてますな!」

「暴力反対!」

「昔はよかった」

「やっぱスネイプはスネイプじゃん!」

 

 バーン!

 

 色々なことが同時に起こった。一人のグリフィンドール生が余りにも勇敢なことに、職員テーブルまで直談判しに行った。その生徒にカロー兄が杖を抜いて何か光線を出した。カロー兄とグリフィンドール生の間に壁が立ち塞がり、間一髪光線が当たらずに済んだ。それはマクゴナガルがほとんど見えない速さで『盾の呪文』を放ったからだった。

 

「邪魔すんなよマクゴナガルせんせー」

 

「あなたこそどういうつもりですか?今校長がおっしゃった規則の中に、晩餐中に席を立つなという物はありませんでしたが」

 

 校長という言葉には、かなりの割合で皮肉が混じっていた。

 

「じゃあ今からだ!今から立った奴は全員規律違反だ!」

 

「ではどうやって大広間から寮へ帰るのです?晩餐中にトイレへ行きたい生徒はどうしろと?」

 

「アァん!?ナめてんのかババァ!」

 

「もうよせ、アミカス」

 

 ねっとりした声で、スネイプが間に入った。

 

「マクゴナガル教授、次に同じことがあれば……よいですな」

 

「……そういうことにしておきましょう。あなた、席に戻りなさい」

 

 グリフィンドール生が青い顔をして、テーブルの友人たちの中へ戻った。

 口を真一文字に引き結んだマクゴナガル、なおもぶつぶつ言っているカロー兄が、杖を収めた。

 

(なにこのギスギス。心臓に悪すぎない?)

 

 レナは、例年にも勝る波乱を予想した。

 

 

 

 去年までなら、六年になると通常クラスからNEWTクラスに変更になる。授業も自分が選択したものだけとなり、めちゃくちゃ疲れるテストの準備をするはずだった。

 だがOWL試験が中止となったことで、六年は今まで通り寮別に全ての教科を受けることになった。

 レナたちスリザリンの初めての授業は、騒ぎの中心人物アミカス・カローの『闇の魔術に対する防衛術』の授業だった。

 

「来たな来たな、ガキども」

 

 ずんぐりと背が低く、汚れた頬の男だ。

 

「これから俺のイカした授業が始まる。喜べ!」

 

 本当に一応という風に、ぱらぱらと拍手が起こった。

 

「なんだぁ?そのやる気ねえ態度は。テメェらスリザリンだから、今回だけは見逃してやるがな……」

 

 それから、出席が面倒だとか教科書の内容を知らないだとか、教師として疑問な発言を繰り返した。

 

(『例のあの人』は、私たちをどうしたいのかしら)

 

 アンブリッジの様にホグワーツの生徒を無力化させたいのだろうか。

 

 と、教室が急激に寒くなる。

 

「やっと来やがったか。見ろ、授業の教材だぞ!」

 

 ガラガラと嫌にゆっくり戸が開いた。

 

「吸魂鬼!」

 

 誰かが叫んで、皆一斉に教室の奥へ走って吸魂鬼から離れた。

 

「オラ、あれ置いたらさっさと消えろ!ガキどもも自分の席に戻れ!」

 

 吸魂鬼はスルスルと教室から出た。入り口近くに残った『あれ』とは――

 

(あの人、確かグリフィンドールの……)

 

 昨夜の晩餐で、マクゴナガルに庇われた彼。吸魂鬼の影響で顔は真っ青で、眼差しも暗い。

 

「先生、教材って……」

 

 レナは思わず口に出す。吸魂鬼を教材とするより、もっと悪い気がして。

 

「おうよ。この身のほど知らずに、呪いをかける実践授業だ!」

 

 教室は静まり返った。

 

(逃げて!)

 

 喉の奥まで来た声を、レナは出せなかった。彼が逃げおおせたとして、次の生贄が誰になるのか、分からない者はいない。

 

「『インカーセラス(縛れ)』!」

 

 彼はまるでミイラの様に、肩から足の先までロープでグルグル巻きにされた。吸魂鬼の影響から抜けきる前に、脱出の機を逃してしまった。

 

「せっかくこうして材料が手に入ったんだからな。人間を痛めつけるのに最も有効な呪文が分かるヤツは?」

 

 誰もが息を呑む中、何個か分呼吸を置いて、ミリアが挙手した。

 

「女」

 

「『磔の呪文』です」

 

「な、なに――!」

 

「『シレンシオ(黙れ)』。正解だ。まず俺が――」

 

「先生」

 

 ミリアが遮った。教室の温度がまた下がる。レナが必死でローブを引っ張るが、手は押し出された。

 

「あの……」

 

「ああん?コイツと場所を変わりたいってか?」

 

 上機嫌のアミカスが、ゆがんだ笑いを向けた。

 

「はい。変わりたいです。――て言っても」

 

 もじもじと、控えめに笑った。

 

「先生と。私、拷問なんてしたことなくって、一度やってみたかったんです」

 

 レナはまじまじとミリアの横顔を見つめた。作り笑いには見えない。

 

「マジかよ!アッハッハッハッハ!いいぞ、やってみろ!」

 

 アミカスの機嫌を損ねないことには成功した。だが、本気なのか?微笑みを浮かべながら、軽い足取りで前に出た。

 

「呪文は知ってるか?」

 

「はい。いきます」

 

「ようし、いい面だ。初めての拷問、しっかり楽しめよ!『フィニート』」

 

「やめろ!同じ生徒同士じゃないか!やめてくれ!頼む――」

 

 彼は身をよじらせて、哀願する。涙を頬に伝わし、必死で叫ぶ。

 

「『クルーシオ』」

 

 ミリアは微笑みを崩さないまま、彼に杖を向けた。

 

「ギャアアアああああぁぁぁぁ!!!」

 

 レナはその絶叫を聞いていられなくて、耳を固く抑えた。

 

(どうして?)

 

 普段の優しさは、何だったのか?穏やかさの奥に、あんな狂気を隠していたのか?

 同級生たちも耳をふさぎ、誰かはうずくまった。目を閉じる人もいれば、カッと見開いている人もいる。

 永劫にこの拷問を見続けなければならないのか――そう思い始めた矢先、悲鳴は止まった。

 

「気絶したみたいです」

 

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!よくやった!スリザリンに五十点!あひゃひゃひゃひゃひゃ――!」

 

「医務室に連れて行きます。――悲鳴上げないなんて、拷問の意味ないでしょ?」

 

「オーケーいいぞ!気に入った!嬢ちゃん名前は!?」

 

「ミリア・セルウィンです」

 

「セルウィン?――ああ、あの。今夜俺の部屋に来い。――いやいや、取って食おうってんじゃねえぞ。妹に紹介する」

 

「はい、分かりました。『モビリコーパス(体よ動け)』」

 

 去りゆく後ろ姿に、声をかける者はいなかった。

 

(どうしちゃったのよ、ミリア……)

 

 唇をかんで、やがて血がにじんできた。

 

 親友だと、思っていたのに。

 

 




不評の2章、果たして『死の秘宝』編で挽回できるか!?

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