【完結】ある読心術士の軌跡   作:白井茶虎

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時間飛びました
ミリア四年生 『不死鳥の騎士団』編です
『炎のゴブレット』は丸々カット!『騎士団』編もなんと3話!
手抜きではありません。やりたいシーンを早くやりたい(ネタが思いつかん)だけなんです



2 ミリア・セルウィンとスリザリンの継承者
1 四年目


 

 

 衝撃の結末で世を騒がせた『三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)』を終えたばかりの夏。

 主の帰りを迎え、刻一刻と近づく雄飛の時を待つある一派は、見知らぬ客を迎えた。

 

 暗く、ただ厳かな屋敷で。

 

「『秘密の部屋』を?」

 

「ええ。開きました」

 

「おまえのような卑しい半純血が?」

 

「ええ。スリザリンですから」

 

「何が望みだ」

 

「あなたの炎の理由を、聞くために。あの部屋に何があったのか――」

 

 血のような赤い瞳が、興味深そうに見開かれた。

 月のような銀の瞳は、その目を、言葉を、静かに受け止めていた。

 

「これが全てだ。――さて、おまえはこのヴォルデモート卿に忠誠を誓えるか?ミリア・セルウィン」

 

「私は――」

 

 

―――――――――――

 

 

    しかし今年はそれ以上

    私の歌を聴くがよい

    私の役目は分けること

    されど憂えるその結果

 

    (中略)

 

    すでに告げたり警告を

    私は告げたり警告を……

 

    いざいざ始めん、組分けを

 

 組分け帽子は歌った。四分割の危険さを。内部分裂への警告を。ホグワーツの危機を。

 

「ミリアミリア、変わった歌だね、今年のは」

 

「そうだね、レナ」

 

「そーいえばさ、一年のころのあんたはしつこいくらい言ってたわよね。『スリザリンも他の寮と仲良くしろ』とかさ。あれどうなったの?」

 

「あれは……」

 

 ミリアは横顔を向けた。同性ながら、きれいになったなと、レナはしみじみ思った。

 どんくさくて魔法の苦手な彼女は、二年生のころからぐんと大人になった。今ではぼーっとした鈍さは奥に引っ込み、代わりにミステリアスさが表に出ている。苦手だった杖を振る教科は首席を総なめで、筆記中心の教科も優秀な成績だ。伝説の中に名を残す天文学(T)は、自前の『目覚まし薬』を飲むようになってから、Pにまで成績が上がった。

 一年のころはほとんど無視されていたが、ここのところはそうでもない。元々悪くない顔の造りからか、それとも謎めいた雰囲気からか、なぜか目にとめてしまう風格のようなものを薄く纏っている。今は無視というより一目置くという感覚が正しく、去年のクリスマス・ダンスパーティーでも何人かに誘いを受けていた。

 

(私の方がモテるけど)

 

 ダンスの誘いの数なら、負けなかった。

 

「仲悪いところも、スリザリンのいいところなのかなって、今は思うの。仲良しこよしでずっと一緒にいたら、視野狭窄になるじゃない?」

 

「まあ、そうよね……。帽子には悪いけど、今さらグリフィンドールと仲良くなんて言われても困るわ」

 

 同じような会話をしているのだろう、大広間の向こう側でグリフィンドール生がこちらを睨んでいた。

 

「……手遅れ、なんだよね」

 

「千年だもんね」

 

 今年のご馳走の味は、なんとなく曇った味だ。

 

(あーこんなしけったご馳走やんなっちゃう。キース君キース君)

 

 秘めたままの意中の人を、目の保養代わりに使ったレナだった。

 

 

 

 スネイプは夏、信じたくない情報を掴んだ。ホグワーツの女子生徒が、ヴォルデモート卿に接触したという。

 未成年者の魔法使用は、幾重もの監視下にあるハリー・ポッターの一件のみ。ホグワーツに連絡すると、セストラルが一頭消えてしまったと返ってきた。

 嫌な予感に従って、あるスリザリン生の所在を確認すると、案の定行方不明だった。友人、レナ・アンダーウッドの家に行くと言ったきり姿をくらました、ミリア・セルウィン。彼女なら、ホグワーツの外からセストラルを呼び寄せることも可能だ。

 

(闇の帝王以上に強力な開心術士……)

 

 彼女の名を初めて聞いたダンブルドアとの会話が、記憶に蘇る。血筋的には特別でも何でもないただの半純血で、あの異常な能力は純粋な突然変異と考えられた。それはヴォルデモート卿の目にはどのように映るだろう。

 

(接触以上の情報は無いが……)

 

 ヴォルデモート卿が彼女に何をしたとも、彼女がヴォルデモート卿に何をしたとも、一切耳に入ってこない。

 本当に『闇の帝王』は、自身の縄張りにのこのこ入った彼女を、ただで帰したのか?

 過去に『闇の帝王』の前に立って、生きて帰った者は多い。だがそれは、何らかの“儀礼”を通過した後。恭順か、戦いか……

 

(やはり、前者か?)

 

 戦闘が起こったという話はついぞ聞かなかった。ということは『闇の一派』に組していることになる。

 とにかく、『死喰い人(デスイーター)』の一人として、『不死鳥の騎士団』団員として、なによりホグワーツ教員として、彼女から話を聞かねばならない。宴が終わってすぐ、ミリア・セルウィンを呼び出した。

 

「お久しぶりです、スネイプ先生」

 

「夏休みは何をしていた」

 

 微笑を湛えた挨拶を、単刀直入な質問で返した。

 

「レナの家に――いいえ、ばれてますね。セストラルに乗って“おともだち”探しをしてました」

 

「その友人とは、闇の何某か?」

 

「闇の……?たぶん違います。ワタリガラスとかエルクリングとか、しわしわ角のスノーカックとかと会いました」

 

「少なくともしわしわ何某は出鱈目であろう。正直に白状しろ」

 

「……お土産のマックルド・マラクローの唾液です。魔法薬の材料に――」

 

「闇の帝王と会ったのか?」

 

 小瓶を握る手は、震えていない。何年も前に閉心術を習得させた。

 

「それを何故先生が聞くのですか?」

 

「認めたと解釈していいのだな?」

 

「いいえ、会っていません。次は私が聞きます。何故先生は『例のあの人』が接触した人物についての情報を、知れる立場にあるのですか?」

 

 銀の目が、ぶつかってくる。その目には何も映らない。彼女の知覚は、己の数々の秘密を吸い取っているのだろうか。――いいや、ヴォルデモート卿に相対する時以上に、心を閉じている。会う前にも『憂いの篩』に記憶を流した。

 

「関係ない話をするな、セルウィン。今は我輩が質問しているのだ」

 

「だったら私の質問にも答えてください」

 

「我輩は教師だ」

 

「夏休みの間誰に会おうが、生徒の自由です」

 

「仕方が――」

 

「『アクシオ』」

 

 今使おうと思った、ある種の脅しの道具が、ミリアの手中に入った。ごく浅い層だが、思考を読まれている。

 

「貴重な『真実薬』。マラクローの液で台無しにされたいですか?」

 

 無言で放った『武装解除』も、反対呪文で効果が表れない。

 

「……いいや」

 

 彼女は二つの小瓶を机に置いて、袖をまくった。

 

「これでいいですか?」

 

 左腕に――黒い紋章は無く、無垢なままだった。

 だが、それはダンブルドアや教師たちの目を欺くためだとすれば。あるいは『服従の呪文』にかかっているのかもしれない。

 

「帰ります。眠いので」

 

 感情も真意も、何も読み取らせない背中が去る。

 スネイプは考えた。ヴォルデモート卿はこの女子生徒を、ただ何もせずに帰すかどうかを。

 

 

 

 組分け帽子が歌ったそれが来たのか、又は別か――ホグワーツはある種の危機を迎えていた。

 魔法省の介入だ。教師をホグワーツが見つけられない場合、魔法省が適切な人物を選ぶという法律を制定した。その法律によって空席の『闇の魔術に対する防衛術』の教授職に、魔法省上級次官のアンブリッジが就いた。

 彼女の授業改革によって、実践訓練を学ぶはずの『防衛術』は、理論だけをひたすら書き取るという――途轍もなくつまらない――授業となり果てた。

 

「ェヘン、はい、スリザリンの皆さんはいい子ですねぇ!皆さんよくできまちた!」

 

 皆この子ども扱いにうんざりしているが、それでもはいと答えて彼女を先生と呼ぶ。

 スリザリンは目の前の嵐に反抗したりしない。ただ過ぎるのを待つのでもない。

 

「あ~気持ち悪。あんな眠いの魔法史だけにしてちょーだい。ま、ミリアの『天文学』みたいに爆睡したりはしないけど」

 

 授業が終わり、レナはこそこそ新任教師の影口を叩く。

 

「……肩こった」

 

「あ、起きて授業受けてんだ。さっすがゆーとーせー。宿題代わりにやって」

 

「写すだけだよ。自分でやりなさい」

 

「……考えないだけマシか」

 

 目の前の嵐を、乗りこなす。その波が嫌なにおいのするべとべとした半固体でも、波の前では涼しい顔を出す。一度降りてから、気が済むまで罵倒する。

 それを一般的に狡猾と呼ぶのだが、寮内では賢いと評し、わざわざ逆らい罰則を食らいに行く方が『バカ』だとされる。

 

「レナの言う通り、気持ち悪いけど――きっと一年だけ」

 

「『闇の魔術に対する防衛術』だもんね」

 

 この授業にはあるジンクスがある。新任教師を見つけられなかったのも、このジンクスのせいだ。

『防衛術』の教師は、一年しか持たない――実際、何十年と二年以上受け持った教師はいない。レナには、その謎のジンクスを克服できるだけの“何か”を、ピンク色の新任教師が持っているとは思えなかった。ミリアもそうだろう。

 

「次こそまともで面白い人がいいな」

 

「うん」

 

 来年の話をして、誰かが笑った。

 

 

 

 


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