黒猫一匹のネタ&短編集   作:黒猫一匹
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 小鳥遊蒼真(たかなしそうま)は今日も夢を見る。

 空座町(からくらちょう)と言われる街の上空で戦う、死神と破面(アランカル)という人外達の夢を。

 そんな中、今日も今日とて「虚圏(ウェコムンド)の神」を自称する一人の老人を中心とした夢の続きが始まった。

 これは、とある破面(アランカル)の力をその身に宿した少年の物語。




ハイスクールD×D
大帝D×D 1話 夢






『フン、話にならんのォ……。儂をここから一歩動かす事すら出来んのか』

 その身に白い死覇装を纏い、頭に王冠の様な仮面の名残を着けた、右目付近や左頬に傷のある一人の老人がその様な事を呟く。
 老人が見下ろすその先には、彼と対峙する二つの人影、背の低い少女とでっぷりとした太めの体格の大男。
 彼等二人の顔には、苦しげな表情が浮かんでおり、その身体には多数の傷跡が存在していた。そんな中、少女は今も余裕そうにこちらを見下ろす老人を忌々しげに睨み付ける。
対する老人はそんな少女の視線に、フンと鼻息を一つして一笑する。
その態度にさらに視線を険しくする少女に、彼女のすぐ側で控えている大男の顔に冷や汗が流れる。

『こんなものが死神の隊長格の力か? 期待外れにもほどがあるのォ』

 老人はつまらなそうにそう呟くと、骨状のパーツで組み立てられた椅子の中に腕を突っ込む。そしてその中から巨大な斧のような形状をした斬魄刀を取り出す。

『さて、そろそろ死ぬか?』

 その瞳に殺気を乗せて老人がそう問うと、その殺気に充てられた大男が情けない悲鳴を上げて勢いよく少女へと近づき、『隊長~! なんとかしてくださいよぉ~~!』と泣きつく。
 そんな大男の態度に隊長と呼ばれた少女は、その顔を不快そうに歪め、右拳を握り大男のその泣きっ面に拳を叩き込んだ。
 いきなりの仕打ちに大男は『なにするんですか、隊長!』と喚くが、少女は大男の言葉を無視し、老人の次の動作に集中する。
 余程集中しているのか、いつもなら殴った後に大男に向かって毒舌の一つや二つ吐くのだが、今回はどうやらそんな余裕はないようだ。

 そしてついにその時がきた。

 老人が一瞬で少女の元に移動し、少女に向かい手に持った斧型の斬魄刀を振り下ろす。
 振り下ろされた斬魄刀は、老人の膂力によって衝撃を生み、周囲一帯へと拡散する。
 しかし少女は、その攻撃を寸での所で回避し、老人の背後まで一瞬で移動する事に成功した。大男は老人の攻撃事態に反応できなかったようで、衝撃により吹き飛ばされる。
 野太い悲鳴を上げながら吹き飛ぶ大男の声を聞き流しながら、少女は隙のできた老人に向かい身体を回転させて、その後頭部に向かい全力で蹴りを放つ。

 ――殺った!

 反応を全く示さない老人に少女はそう確信し、その顔に笑みを浮かべる。
 しかし、蹴りが老人の後頭部に当たろうかという時、突如少女の蹴りの速度が減速してしまう。

『っ!?』

 その事に少女は驚きに目を見開く。
 そして突如反応した老人は、減速したその蹴りを斬魄刀を持っていない方の腕で受け止めて、軽々と少女を振り回しながら地面に投げつける。
 少女は受け身をとろうと態勢を整えようとしたが、突如大男が少女の背後へと現れ、少女を抱き止める。そして心配そうに少女の顔を窺う。

『大丈夫ですか? 隊長?』

『早く放せ。気色悪い』

 少女は老人を睨み付けながらそのような事を言い、先程の蹴りの速度が遅くなった原因を探る為に、脳内に一連の流れを思い出しながら思考する。

 ――どういう事だ? 私自身の体の動きが遅くなっている……。

 ――重力を操っているのか?

 ――それとも、筋組織や運動神経に直接働きをかける能力か……?

 少女がいろいろと原因について考えていると、その思考を読み取ったかのように老人は言葉を発する。

『フン、どうやら儂の能力がどういうものか、判断がつかずに迷っておるようじゃな』

『……』

 少女は無言で老人を睨む。肯定も否定も口にしなかったが、彼女の態度を見れば図星だという事は一目瞭然であった。その事に老人は鼻で笑い、大男は焦った様子を見せる。

『まぁ無理に理解する必要もあるまい。例え、貴様が儂の能力を理解した所で、結末は何一つ変わらん』

 老人はそう言葉を言い切り、斬魄刀を構える。
 そして、その解号を口にする。



『――朽ちろ、髑髏大帝(アロガンテ)



 解号名を発した瞬間、斧型の斬魄刀に埋め込まれた目玉から黒い炎が発せられ、あっという間に老親はその黒炎に包まれてしまう。
 そして次の瞬間には、その黒炎の中から一つの影が浮かび上がった。
 その姿は先程の老人のものではなく、西洋の死神を彷彿とさせる骸骨であった。
 頭には王冠、手にはブレスレットを着け、紫色のボロボロのコートを纏い、腹部には金色の目玉のような装飾品を着けている。
 先程までの老人の姿とは似ても似つかない異質な存在へと変質を遂げた。
 少女も大男もその余りの変わり様に驚きを隠せない様子で目を見開く。

『な、なんだ……その姿は……!?』

『フン、これが儂の帰刃(レスレクシオン)形態じゃ。そしてここから先、この戦いが終わるまで、貴様等の頭で理解できる事など何一つとして起こる事はない』

 断言するように骸骨の姿へと変質した老人はそう言葉を発する。
 そして一度、少女と大男から視線を外し、上空で燃え上がる炎の中にいる人物へと憎しみの籠った眼で睨み付ける。
 この戦いが終わった時、その人物を殺して、再び虚圏(ウェコムンド)の王に返り咲くその日を思い描きながら―――





 ☆☆☆☆☆





 朝日がカーテンの隙間からその部屋を照らしている。外では小鳥の囀りの音が聞こえ、気持ちの良い朝を迎えている。
 部屋にはカチカチという時計の秒針の音だけが刻まれており、次の瞬間にはビビビ!!!という激しい自己主張を繰り出した。
 目覚ましの音が部屋中に響き渡り、その部屋の主である少年、小鳥遊蒼真(たかなしそうま)は目を覚ました。だが、まだ眠いのかその目はウトウトと瞼を閉じたり開いたりを繰り返しており、中々起き上がる気配を見せない。
 けれど、それを何度か繰り返すうちに段々と目が覚めてきたのか、先程から五月蝿く鳴り響く目覚まし時計を鬱陶しそうに睨み付けて、手を伸ばす。

「……朝か」

 目覚まし時計を止めて、視線をカーテンへと向けてそのような事を呟く。
 静かになった部屋で暫くボーッとカーテンから漏れる朝日を眺めていたが、そこでふと、先程見ていた夢を思い出す。

「……また見ちまったな、あの夢」

 空座町(からくらちょう)といわれる町のレプリカ。そこで戦う死神と破面(アランカル)といわれる人外達の夢。
 今回は死神の少女と破面(アランカル)の老人の戦いから刀剣解放までの流れを見た。

 最近蒼真はこのようなストーリー性のある夢を見る事が多い。
 最初に見た夢は、虚圏(ウェコムンド)といわれる(ホロウ)達、いわゆる悪霊達の楽園で、骸骨型のバラガンと呼ばれた(ホロウ)を中心にした群雄割拠としたお話だった。

 それからバラガンが虚圏(ウェコムンド)の王という地位にまで昇り積め、その後、藍染といわれる眼鏡を掛けた死神に敗北し、その軍門へと下り、崩玉の力を介して死神の力を手に入れ破面(アランカル)という全く新しい種族へと進化を果たした。

 そして、藍染の命令により、現世へと出撃し、数ある部下が戦いで死に、その部下の一人を倒した少女と対峙して、先程の夢へと至る。

 まるでアニメでも見ているかの様にストーリーがあり、(ホロウ)虚圏(ウェコムンド)破面(アランカル)十刃(エスパーダ)帰刃(レスレクシオン)卍解(ばんかい)尸魂界(ソウルソサエティ)、など全く聞き覚えのない単語も多数存在し、これは果たして本当にただの夢なのだろうかと、疑問に思う事もよく多々あるが、

「ま、夢じゃなかったら何だよって話だし、考え過ぎか」

 結局考えても分からない為、取り敢えずはそう結論を出して頭を切り替える。
 目覚まし時計に視線を向けて時刻を確認すると、現在時刻は朝の7時を少し過ぎた時間帯。いつも通りそろそろ母親が朝食を作り終わるだろう時間の為、洗面所で顔を洗いに行こうとベッドから降りようとする。

 その時、蒼真の両隣の布団からモゾモゾと何かが動いたのを察知する。
 蒼真は布団をめくり左右に視線を向けて確認すると、そこには二匹の黒猫がいた。

「なんだ、黒歌に夜一。お前等また勝手にベッドに潜り込んできたのか」

 そう呟きながら二匹の黒猫に視線を向けると、黒猫達は「ニャー」と鳴き声を上げて、蒼真を見上げる。
 甘えているのか、蒼真に寄り添って体を擦り付けながら、ゴロゴロとのどを鳴らす二匹に、蒼真はその顔に優しい笑みを浮かべ、二匹の頭や体を撫でる。

 すると、二匹はとても気持ち良さそうな鳴き声を出して目を細めた。
 暫く猫と戯れていた蒼真だったが、下から「ソーマ、朝食できたから早く降りて来なさい」という母親の声で我に返り、ベッドから降りる。

 黒歌と夜一は撫でるのを止めた蒼真を名残惜しそうに見つめていたが、素早く寝間着から制服へと着替えた蒼真を見てベッドから跳び下りる。

「おし、じゃあ行くか」

 蒼真が黒歌と夜一にそう言うと、二匹は「ニャー」と鳴いて、蒼真の後に続く。

 小鳥遊蒼真のいつも通りのようで、いつもとは違う一日が始まった。