ソードアート・オンライン Escape from Real   作:日昇 光

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オリ主系のSSはあまり読まないんですが、アスナの妹を描いたある作品を読ませていただきました。

たまには読んでみるのもいいですね。


第4話 モノ探しは、いらないものばかり見つかる。

人を観察する事は得意だ。長年一人でいたから、自然と客観的に他人を見る力がついていた。故に、ある程度この目で見た情報があれば、その人間の思考や行動のパターンになんとなく予想がついてくるものだ。例えば相模の一件。話した事はほとんど無いが、教室や実行委員でのあいつの言動や自己の経験、そして少しの助力を頼りに、俺は責任放棄して逃げ出した相模を誰よりも早く見つけ出した。

 

しかし所詮、あの時はあの時だ。今に至っては、ランから提供されたら情報だけで妹を探すのは不可能と言える。ひとまず聞き込みを繰り返したが、これと言ってめぼしい情報は得られなかった。そんなわけで、「何かイベントがあればそこに現れるのでは?」という期待を抱きつつ、しばらくはランに付き合ってレベル上げをしていた。お陰様で、俺もボス戦参加出来るくらいのレベルになってしまった。相変わらず俺が攻略に参加するのだと勘違いしているランには、「これならボス戦で大活躍ですね!」なんて嬉嬉として言われたが。

 

そして今、俺達は第一層攻略会議が行われる広場に来ている。少し早く着いたので、昼飯の黒パンを食べながら辺りを見渡し、ランの妹らしき人物がいないか探してみる。そうそう、この街に来てもまともに食べられそうなものが黒パンしかなかったぜ!だが、一週間ほど前にランと挑んだ《逆襲の雌牛》というクエストの報酬がクリームで、これをパンに付けたところ各段に美味くなったのは救いだった。パンの味に関してはランも俺と同意見だったようで、普通の黒パンを食べている時は半分くらいのとこで目が死んでいたのだが、クリーム付きになってからというものほわぁっとした笑顔を一口ごとに浮かべるようになった。今もそうだ。守りたい、この笑顔。

 

 

しばらくすると主催者と思しき男が中央の壇上に現れた。ここで結論だが、ランの妹はいなかった。とりあえずランがいる手前帰れないので、話は聞いていこう。

 

「はーい、じゃあそろそろ始めさせてもらいまーす!」

 

パンパンとよく響く音を出して手を叩き、その男、青い髪に青い服、そして背中に縦を背負った剣士が喋り出した。

 

「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!俺はディアベル。職業は気持ち的に、《ナイト》やってます!」

 

「うわぁ…」

 

周囲からはどわっと笑いが起こるが、逆に俺は気分が悪くなった。あれのどこが面白いのか。リア充はよくああいう冗談で場を湧かせるが、その心中が俺には理解できない。あいつ、あのディアベルとかいう奴もきっとリア充だ。死ねばいいのに。

 

「おもしろい人ですね…」

 

隣で大人っぽく微笑みながらランが静かに言った。前言撤回。ディアベル超おもしろい。

 

「俺たちのパーティーが今日第一層のボス部屋に到達した!ついに俺たちの力でボスを倒し、第二層への扉を開く時が来た。このデスゲームもいつかクリアできるんだってことをみんなに伝えるんだ。それが今この場にいる、俺たちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

 

さすがに本気で攻略に挑んでる奴は早いな…。それで早速会議を開いたのだから、やはりあのディアベルという男はただ者ではないようだ。言動がいちいち気に障るが。だが、どうやら嫌悪感を抱いているのは俺だけのようで、広場を囲むプレイヤーたちはうんうんと頷いたり、賛同の拍手を送ったりしている。まあ、まとまりが良さそうでなによりだな。

 

「ありがとう。それじゃあ…」

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

ディアベルが話を進めようとした矢先、それを流暢な関西弁が制止した。声の出どころを見ると、頭に茶色いモヤッとボールのような装備をかぶった男が立ち上がっていた。…あ、あれ装備じゃねぇ、髪の毛だ。どんな髪型してんだよあいつ。

 

「仲間ごっこする前に、こいつだけは言わしてもらんと気がすまん」

 

怒りのこもったような声で、モヤッとボールが続ける。

 

「あの人、"仲間ごっこ"って…」

 

ランが不機嫌そうに呟いた。この年頃だと、今のはただ輪を乱す不適切な発言だとしか捉えられないか。無理もない。確かにこの空気には相応しくないだろう。だが…

 

「あながち間違っちゃいねぇよ」

 

「え?」

 

「ここにいる連中は、単なる自己犠牲精神で集まったわけじゃない。まあ、そういう奴もいるだろうけどな。多くは遅れるのが不安なんだよきっと」

 

「遅れる?」

 

「最前線で戦う事に、ってとこか。俺も含め、あいつらはこのゲームで少しでも他者より強くなりたい、強くありたいと思って、初めはこの世界に立ったんだ。たとえ死の恐怖があっても、それでもその気持ちが拭えないでいるやつが多いんだよ。今ここで隣に座っている奴を共に戦う仲間と見るか、報酬を奪い合う競争相手と見るか、それは個々の動機によって変わってくる。けど、少なくとも傍から見ればみんな仲間だ」

 

多分この中には、まだこの世界を現実として受け入れていない奴もいるだろう。俺だって、まだ完全にそうできたわけじゃない。しかし、いつまでもゲーム感覚でいることはおそらくできない。その気持ちを引きずっていると、いつか取り返しのつかないことになる事は間違いない。

 

「そういうものですか…」

 

「…まあ、あくまで俺の考えだけどな」

 

ランは少し曇った顔で、ディアベルたちがいる方に顔を戻した。ふむ、少し世界の闇を見せすぎたか…。俺も視線を戻すと、どうやら準備が整ったようで、モヤッとボールが大きく息を吸い込んで声を放った。

 

「ワイはキバオウってもんや。こん中に、今まで死んでいった二千人に詫びいれなあかん奴がおるはずや!」

 

広場がざわざわと騒がしくなる。死んだ奴らに詫び…ああ、そういう事か。

 

「キバオウさん。奴らっていうのはつまり、元ベータテスト経験者の事かな」

 

「決まっとるやないか!」

 

ディアベルの確認に、怒り任せにキバオウが返答する。やっぱりベータテスターの事か。

 

「こんクソゲームが始まったその日に、右も左もわからんビギナーを見捨てて、ベータ上がりどもはダッシュで街から消えよった。奴らがウマい狩場やボロいクエストを独り占めしよったせいで、何人ものビギナーがろくにレベル上げもできんと、危険な狩場に手ぇ出して死んでいった!ベータ上がりの連中には今ここで、貯め込んだ金やアイテム、全部吐き出してもらおうか!」

 

…流石にそれは言い過ぎだろう。確かにベータテスターたちはその豊富な知識をもとに効率的に事を進めてきたかもしれない。だが、自分の命がかかったこの世界で、誰が他人の心配まで出来るだろうか。おそらく物理的、論理的には可能だ。しかし、心理的にそんな余裕はないだろう。知識と経験を除けば、そこにいるのは等しく人間だけだ。そういえば、この場にあいつは、キリトはいるのだろうか。確認をとっていないから分からないが、いるのならこの状況はまずい。武器屋の礼も兼ねて、ここは何か発言するべきか…

 

「…あの、オクトさん?」

 

「…ん?」

 

「なんかすごい怖い顔してますけど、大丈夫ですか?」

 

「え?ああ。すまん、ちょっと考え事してた。大丈夫だ」

 

しまった。少し心配をかけてしまっただろうか。

 

「ならいいんですけど…ほら、目なんか凄いですよ」

 

「うるせぇ元からだ」

 

違かった。馬鹿にされてた。本人にその気はないだろうけど。

 

さて、この"仲間ごっこ"を円滑に進めるためにも、ちょっと久々に奉仕活動しますかね。そう思って俺は手を挙げようとした。

 

「発言いいかな」

 

…ん?なんだ今の爽やかな声は。俺じゃないぞ?半分挙げかけてた手を下ろして下を見ると、背の高い金髪の青年が立ち上がった。ここからだと顔が見えないが、さっきの声の爽やかさからしてイケメンだろう。うん、すごい偏見だね。

 

「キバオウさん。あなたが言いたいのはつまり、ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ。だからその責任を認めて謝罪しろ、ということかな」

 

「そ、そうや」

 

「確かにそうかもしれない。けど、もしあなたがベータテスターなら、総数で比べて十倍近くいるビギナーたち全員にレクチャーが出来たと思うかい?それも、自分の命がかかった異常な状況下でね」

 

「なっ…」

 

金髪イケメン(仮)の意見に、キバオウはたじろいだ。その後も金髪イケメン(仮)は色々と主張を続けたのだが、驚いたことにその内容は俺の考えに似通ったものだった。俺がわざわざ人の目に晒される必要がなくなったが、礼を返し損ねたな…。

 

「それに、ここにベータテスターがいるのなら、それは貴重な戦力だ。彼らからアイテムやら何やら奪おうものなら、確実に戦いに響くと思うんだ」

 

「ぐっ…」

 

「俺からも発言いいか」

 

金髪のあとを追うように、今度は黒い巨漢が立ち上がった。なんだあいつ怖ぇ…。あの顔、外人か?ギャングの長とかじゃねえよな… 

 

「なっ、まだ何か文句があるんかいな!」

 

「続けざまにすまないな。俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたも武器屋でこの攻略本貰わなかったか?」

 

「も、もろたで。それが何や」

 

「これはベータテスターが配っていた物だ。しかも無償でな。情報を手に入れる機会はあったし、それ以前にこうしてビギナーたちを助けてくれる奴らもいるってことだ。今までに死んでしまったプレイヤーを批難するわけじゃないが、ここでベータテスターを吊し上げにするのは、懸命だとは言えないと思う。そんな物じゃなくて俺は、この情報をもとにしていかにボスを攻略するかがここで話し合われると思っていたんだがな」

 

「くっ…」

 

完敗だな。流石にプレイヤーを後から斬ろうなんて考えてる連中はいないだろうから、今はそれこそ仲間ごっこをするのが一番だろう。

 

「キバオウさん、あなたの意見も最もだが、俺たちの敵はベータテスターじゃない。今は彼らと一緒に戦おうじゃないか。それが、このゲームを俺たちの力でクリアするのに必要なことだと思うんだ」

 

ディアベルの言葉を受け、キバオウは納得いかなそうだが席に戻った。ていうか、お前ら何なの?俺の心の中読んでるの?よくもこう考えがかぶるもんだ。

 

「ああ、そうだ。さっき発言してくれた金髪のきみ。聞き入ってしまって忘れていたんだけど、ちゃんと発言する前に名乗ってくれると助かる」

 

「ああ、すまない。すっかり忘れてたよ」

 

そう言って金髪イケメン(仮)は再び立ち上がって、遅ればせながらも名を名乗った。

 

「俺はハルトだ。以後よろしく頼むよ」

 

ハルト…。魔法使いか?それとも最後の希望か?どっちも同じか。 

  

「こちらこそ。どうせだから、みんなにも顔を見せてやってくれ」

 

おお、ついに(仮)が外れる時が来た!思わず俺は振り返る奴に目をやった。そのため、必然と言うべきか目が合ったのだが、その瞬間俺は石のように固まった。その男がメデューサだったからではない。そもそもメデューサは男ではない。その男が予想に反して残念な顔をしていたからでもない。むしろ想像した通りイケメンだ。だからといって、まして恋に落ちたわけでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男が、葉山隼人だったからだ。

 

 

 

 

 

 




というわけで、今回は葉山隼人が登場しました。

最後の最後でその事実を書きましたが、そんな事しなくても途中でバレますよねw

次回は八幡と葉山の絡み、それからできればボス部屋まで行きたいと思います。またしばらくお待ちください。

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