ソードアート・オンライン Escape from Real   作:日昇 光

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今回はいきなりですがまさかの彼女が登場です。

どうぞー


第3話 こうして、比企谷八幡は少女と出会う。

このデスゲームが開始されてから、およそ二ヶ月が経過した。やれ情報収集だ、やれレベル上げだなんてしていると、案外二ヶ月というのは呆気ないものだった。現在の俺のレベルは8。八幡だけに。すみません関係ないです。俺にしては頑張った方だと自分でも思う。HPが減ることは極力避けたいので、それを意識すると、初めのうちはモンスター相手に立ち向かうのがかなり億劫になったものだ。だって怖いじゃん…。今更だけど、リアルなイノシシとか植物型モンスターとかが奇声あげながら襲ってくるんだもの。ログインしてすぐの頃はそんな事考えてもいなかったが、自分の命がかかっているとなると話は別だ。もうだいぶ慣れたけど。

 

そんなこんなで一部のプレイヤーは各々の育成に励んでいたわけだが、今日ついに、第一層攻略会議が開かれる。はぁ…行きたくねぇ…。え?行きたくないなら参加しなきゃいいって?確かにそうだ。そうだな。帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…オクトさん、こっちですよ、こっち。そっちじゃ帰り道になっちゃいます」

 

「…おう、すまん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…忘れてた。俺はこの少女のせい、もとい依頼で、ここに来たんだった。

 

 

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話は遡ること一ヶ月前。つまり、俺たちがこの世界に閉じ込められてから一ヶ月ほど経過した頃の事だ。デスゲームが開始されてすぐの時は安い宿屋に引き篭もって毎日少しのパンでやりくりしていた俺だが、結局のとこフィールドに出てモンスターを狩らないと金が手に入らず、この最低レベルの生活すら続けられないという事に気がついてしまった。そのため、仕方なく地道に狩りをしていたわけだが、今度は唯一の食事である黒パンがなんかもう嫌になった。マズいわけではないが、別に美味くもない。そして微妙に固い。もしかして次の街に行けばもう少しバリエーションが広がるのでは、なんて欲に流されて、俺は《はじまりの街》から出ることにしたのだ。むしゃくしゃして、というか、むしゃむしゃするためにやった。今では後悔しかしてない。食欲って怖い。

 

 

なんとなくモンスターの少なそうな道を勘で選んだつもりだったのだが、やはり勘は勘だ。もう少しで次の街だって所でモンスターが溢れ出してくる。ここまで来たら引き返すのも馬鹿らしいし、仕方なく湧いてくるMob共を倒していく。おかげでレベルがそこそこいい感じに上がってきた。

 

「…はっ…!」

 

こちらに向かってくるコボルド(というらしい)に、戦場の絆よろしくテンポの良い三連撃。仲間を信じろ!こいつは戦争だ!仲間いなかったわ。しかし、コボルドを倒したのもつかの間、今度はボアが三体並んで突っ込んでくる。なに、ジェットストリームアタックなの?俺の心読んでるの?それともお前らガンダム好きなの?…ていうか…

 

「…これやばくね…?」

 

やばい。あんなの突っ込んできたらひとたまりもない。仮に先頭を斬ってもおそらく無意味だろう。避けたところで、俺以外に敵がいない以上、奴は俺に向かってくる。ドムは案外小回りが利くのだ。あ、あれはドムじゃなくてボアだった。…ん?ドム?待てよ…

 

「…そうだ」

 

その場しのぎでとりあえず逃げていた俺は足を止め、黒い、もとい青い三連星に体を向けて、タイミングを見計らう。……今だ!

 

「ふぉっ!」

 

俺はジャンプし、さらに先頭のボアの体でもう一度ジャンプした。おかげで十分な飛距離を稼いだ俺は、三連星の後方に十分な距離をとって着地した。「俺を踏み台にしたァ!?」のシーンを応用してみたのである。ファースト見といて良かった。このまま走って逃げればなんとかなるはずだ。全速力で走り出し、念のため後方を確認する。運がいい事に、三連星は俺の方に進路を変えることはなかった。あのままだと、沿道にある茂みに突っ込んで行きそうだ。何だあれ、馬鹿なのか?何はともあれ、助かりそうで安心した。安心したのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳を劈くような悲鳴が聞こえてきた。え、まさか、え?ふと振り返ると、さっきの茂みが何やらガサゴソと揺れている。今の悲鳴も、おそらくあそこから発されたのだろう。嘘だろ…あそこにプレイヤーいたのかよ…

 

「いやっ、ちょ、こっち来ないで!んあっ!」

 

明らかに襲われてる風の声が聞こえる。しかも、以前ボアの突進にやられた時に聞いた重い打撃音とともに。ボアの進路をあちらに向かわせたと言っても過言ではない俺としては、何となく罪悪感を感じる。

 

「…くそっ…」

 

俺は来た道を引き返し、未だ戦闘の音が止まない茂みに急いだ。その途中、手頃な石があったので拾った。確か、投剣スキルの《シングルシュート》が石にも使えたはずだ。走りながら、スキルのモーションを起こす。構えた右手の中で光り出した小石を、茂みの奥に見えるボアにシュゥゥゥゥゥゥッ!!超!!エキサイティン!!すると、そのボアがタゲを俺に変えたようで、こちらに突進してきた。マッシュと呼ぼう。今はこいつ相手に時間をかけるわけには行かない。数回の通常攻撃の後に《バーチカル》をマッシュにお見舞いする。マッシュは息絶えた。その姿が青いポリゴンの欠片になるのを見届けずに残りの二体の方へ向かうと、勇敢にも先ほどの悲鳴の主は剣を握り、何とか耐え忍んでいた。見た感じ、小六か中一か、そのくらいの少女だった。

 

「おい、後ろのは俺がやるから、そっち何とかしてくれ」

 

「え、あ…はい!」

 

二対二なら問題ないだろう。俺は最後の仕事に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ありがとうございました…何とお礼を言ったらいいか…」

 

ボアを倒し終わると、少女はその場にヘタっと座り込んでそう言った。半分放心状態のようだ。長い焦げ茶色の髪がボサボサになっている。

 

「あー、いや、あのボアをそっちにやっちゃったのたぶん俺だから、礼なんかいい。むしろ俺が謝る方だ。すまん」

 

「…でも、助けてくれました」

 

「…それは、まあ…」

 

純粋だなぁこの子…

 

「あの、あなたも次の街に向かってるんですか?」

 

「え、ああ、まあな」

 

「じゃあ、攻略に参加されるんですね」

 

「……」

 

言えない。質素な黒パンが嫌で《はじまりの街》を抜け出したなんて、口が裂けても言えない。俺の心中を知ってか知らずしてか、少女は話を進めた。

 

「…私、人を探してるんです。たぶん、もう次の街まで行って、攻略に参加すると思うんですけど…」

 

「…その人を追ってここまで?」

 

「はい。でも、モンスターと戦うのを避けてこうやって茂みをずっと進んできたんですけど、横着ってするものじゃないですね…。明らかにレベル不足で、この様ですよ」

 

いや、でも茂みの中進んでここまで来るって単純にすごいと思う。俺だったら途中で帰ってる。というかまず、茂みの中通ってくるなんて考えが浮かばなかった。頭固いな俺。これが若さか…

 

「…で、どうするんだ?」

 

聞くと少女は複雑な表情を浮かべて黙り込み、しばらくして口を開けた。

 

「…ひとまず、次の街までは何とか行きたいと思います。せっかくここまで来たので。…で、あの、それでなんですけど…」

 

うん。なんか嫌な予感がする。

 

「…もしよろしければ、街までご一緒させてもらってもいいですか?一人では少し心細くて…」

 

やっぱりそう来たか。いくらここまで来る勇気があるとはいえ、中身は少女そのものだ。怖いとか寂しいとか、色々あるのだろう。…正直断りたいが、こいつをボアの標的にしてしまった事の罪悪感から、そうもいかない。あとその上目遣いやめて!余計に断りづらくなっちゃう!…仕方ないか。

 

「…分かった」

 

「本当ですか!?」

 

少女はさっきまで疲れ果てていたのが嘘のように目を輝かせ、俺の方にグイッと寄ってきた。近い近い近い!こんなとこ人に見られたら俺は即刻逮捕だ。待って、俺悪くない。

 

「お、おう。まあ別に…」

 

「本当にありがとうございます!えっと…」

 

あ、そういえば名前名乗ってなかったな。

 

「オクトだ。とりあえず、よろしくな」

 

「オクトさん…ですか。よろしくお願します!」

 

なんだか元気になったみたいで良かった。まあ、これでいいのだろう。ここで見捨てて置いていったら、こいつがここでどうなるか分かったもんじゃない。

 

「おう。……で、お前は?」

 

「え?…あっ」

 

うそん…ここまで来て名乗ってないの気づいてなかったの…?いや、俺も大差ないか。

 

「すみません!まだ私が名乗ってませんでした…。その、久々に会話して浮かれちゃってて…」

 

会話が久々ねぇ…。もしかしてこいつ俺と同じでぼっちなのか?違うな。単にこのゲームに囚われてからまともな会話をしてないということだろうな。邪推をしていると、少女は万を辞してその口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はランといいます」

 

 

 

 

 

 

これが、少女ランと俺との出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、じゃあついでに向こうに着いたら妹探しのお手伝いもお願いしたいです」

 

「え、は?それにも手を貸すの俺?ていうか、え?妹?」

 

待ってくれ。頭が追いつかない。

 

 

 




というわけで、ランこと紺野藍子さんの登場です。なぜここにランが?というのはおいおい書いていくと思いますので、お待ちください。

あと、八幡が投剣スキル使ってるのは、デスゲーム宣言前の狩りの時に練習(?)したということで…

え?なんでいきなりランを出したかって?八雪じゃないのかって?ええ、八雪ですよ。そのつもりです。なんでランを出したのかは…うっ、頭が…

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