ソードアート・オンライン Escape from Real   作:日昇 光

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ごめんなさい。茅場先生のシーン、全部書く気になれませんでした<(_ _)>


第2話 仮想世界は、望まれず現実となる。

片手剣を購入してから数時間後、俺はフィールドに出てひたすらモンスターを狩っていた。いや、サンドバックにしていたと言った方が適切だろうか。基本的な動きを身につけるまでにここまで時間がかかるとは思わなかった。特にソードスキルというのを発動させるのに手こずったな。《バーチカル》とかいう名前の技で、ただ剣を振り降ろすだけなのだが、自分で動かしただけの場合とはわけが違う。発動後のモーションは完全にシステム任せで、おかげで高確率で敵にヒットする。しかも通常攻撃にくらべて攻撃力に補正がかかるのだ。発動後に一定時間の硬直がある事を除けば、これは実にいいものだ。ソードスキル発動のイメージを忘れないようにモーションの確認をしていると、さっき倒した青イノシシ、《フレンジーボア》がリポップする。

 

「…フッ…!」

 

軽く息を吐きながら剣を振り下ろすと、血のような赤いエフェクトがボアに刻まれる。すると、先程まではおとなしかったのが嘘のように、唸り声を上げてこちらに向かってくる。文字通り、猪突猛進だ。

 

「…グッと構えて…スパーン…!」

 

まだこんな事を言っていないと体を思うように動かせない。まあ、最初はこんなものだろう。一応言っておくが、俺はなっちゃんでもなければエーちゃんでもない。さっきから反復練習しまくってるけど。

 

ひとまず無事に発動したソードスキルによって、ボアの体は青いポリゴンの欠片へと変わり、空中に消えていった。それを見届ける事で気付いたが、もう夕暮れのようだ。視界の端に存在する時計を確認すると、時刻は五時二十分。いつの間にかログインしてから五時間も経っていたのか。夢中になるって怖い。そろそろログアウトするか、と思いながら鮮やかな夕焼けに染まる空に目をやると、不思議とメニューを操作していた手が止まった。

 

「…綺麗だな…」

 

おそらく、現実ではなかなかお目にかかれないような絶景だ。こんなに綺麗な夕焼けを、俺は未だかつて見たことはない。

 

毎日この美しい景色が見られるなら、一生この世界で生きていけないだろうか、なんて思いが頭をよぎる。ここまで感傷的になったのはいつ以来だろう。俺の心は、仮想の世界に居場所を求め出すほどに疲れ果ててしまったというのか。正直、それを否定する材料が、まともに揃いそうにない。向き合わなければならないと心のどこかでそう思っていたはずなのに、あいつから、あいつらから、あの部屋から逃げ出したいと、現実から逃げる事を望む自分が、また心のどこかに潜んでいた。

 

「また…変な事考えてるな…」

 

そういえば他にもクリスマスイベントの企画とか、逃げたいものが色々あった。ログイン前にも思ったが、やはり疲れているのだ、俺は。

 

ひとまず今日は終わりにして、小町が作ってくれているであろう夕飯を食べて、早めに寝よう。そう思って止まっていた手を再び動かす。しかし、その手はまたもや動きを止めた。

 

「…ログアウトボタンが…ない?」

 

おかしい。メニューにログアウトの項目は存在するのだが、肝心のボタンがない。確かこのゲームにおけるログアウト方法は、ログアウトボタンの操作というプレイヤーの自発的な行為によるものしか存在しなかったはずだ。これでは帰れないではないか。ふざけるな。俺の妹の愛のこもった夕飯が冷めちまうだろうが。十中八九不具合なのだろうが、アナウンス一つ流れない。運営は何をしているのだ。

 

「なあ、そこのアンタ、ログインボタン出せるか?」

 

「…ッ…!…は?」

 

いきなり背後から声をかけられる。そこには見知らぬ男がいた。おそらくこの辺りで俺と同じ様に狩りをしていたのだろう。急に話しかけんなよ…びっくりしただろうが。

 

「い、いや。なんでか出ないんだよ。まあ、そのうち何か連絡がされるだろ」

 

「そうか…やっぱ待ってるしか……ぐあッ!?」

 

「…ッ!?」

 

会話の途中、突如として男は頭を抱えて苦しみ出した。そしてそれもつかの間、男の姿が一瞬で消え、代わりに通信切断の表示が現れた。一体どうしたというのか。なんとなく嫌な予感がしてきて、徐々に苛立ちが募る。

 

「くそ…マジで早く何とかしろよ…」

 

すると、どこからか重い鐘の音が聞こえてくる。やっとシステムアナウンスの一つでも流れるのか、と思ったが、どうやら違うようだ。俺の体は、初めてこの世界に降り立った時と同じ青い光に包まれて、鐘の音がどんどん遠ざかっていくように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転移の演出がおさまると、俺は《はじまりの街》の広場にいた。周りには、俺と同じ様に転移させられたであろうプレイヤーが溢れかえっていた。「どうなってるの?」「GM出てこい」と言ったような声があちらこちらから聞こえてくる。やはりどのプレイヤーも、メニューからログアウトボタンが消えていたのだろう。そんなの、この後に約束などがある者からしたら、とんだ迷惑でしかない。俺も多分に漏れずと言ったところか。小町に「夕飯六時だから、それまでに降りてこなかったら片付けるから」と宣言されている以上、こんなところで時間を裂きたくない。飯が食えないだけならまだしも、小町の作った飯が食えないというのは大問題だ。俺の身体の三割は小町の料理で出来ている。いや、やっぱ五割にしておこう。 

 

広場に集まったプレイヤーの喧騒が続く中、ついにその時が来た。鮮やかな夕焼けに染まっていた空を、突如として《Warning》の文字が書かれた横長の六角形が埋め尽くし、それと共によくある警告音が流れる。やっとシステムアナウンスが始まるのかと思いきや、その六角形の隙間から、血としか思えない赤色のドロドロとした液体が流れ出した。気持ち悪っ…。え、あれあのまま落ちてくんの?

 

その液体は俺の期待(というか予想)を裏切り、空中でその形を変えた。それは徐々に赤いローブを形成し、顔のない巨大なアバター(?)となった。「あれ、GM?」「なんで顔ないの?」というささやきが沸き起こる。いや、顔はどうでもいいだろ…。もっとこう、「その日人類は思い出した…」みたいなリアクションとろうぜ。いらないか。

 

 

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

 

 

GMと思しきローブのアバターが、急に喋り出した。いや、顔がないので正確には喋っているのかどうか分からないが、全プレイヤーに聞こえるくらいの音量で話せそうなのは、今はあいつしかいない。しかし、「私の世界へようこそ」ってどういう意味だ?まあ確かに製作者側からしたらここは「私の世界」と言えない事もない。そこに「ようこそ」なんて言葉が続くとなると、もしやこの一連の騒動は、すべてオープニング演出か何かなのだろうか。

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

「…ッ!」

 

茅場晶彦。さっきから俺が崇め立てている天才科学者がどうしてここに?確かあの男は、表に立つこと自体かなり稀だったはずだ。その男がこうして現れたということは、これはオープニング演出などではなく、かなり深刻な事態なのか。しかし、それならなぜあんな凝った登場演出がなされたのだろう。どう考えても疑問が残る。しかしその答えは、俺の予想をはるかに超えていた。

 

『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

 

「……は?」

 

仕様。つまり、ログアウトボタンなど初めから存在していなかった?馬鹿な。思考が追いつかない。だが、そんなのはお構い無しにアナウンスが続く。

 

『諸君は今後、ゲームから自発的にログアウトすることはできない。また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合──』

 

もう喧騒も何もない。皆次の言葉を待ち続ける。そして──

 

『──ナーヴギアの信号素子が発する高出力のマイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、HP全損は死を意味するだとか、蘇生手段はないだとか、自分の目的はこの世界の鑑賞だとか言っていたような気がするが、正直あまり思い出せない。茅場晶彦の謎の宣告を受けてから、俺は意識が半分どこかに飛んだような感覚に陥っていた。簡単な話が、困惑していたのだ。あと、せっかく時間をかけて生成したアバターは、見事に現実世界の俺そのものになった。目まぐるしく変化していく状況に、俺の脳はパンク寸前だった。だが、そんな混乱した頭でも、これだけははっきりと覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デスゲームと化した《ソードアート・オンライン》が、その物語の幕を開けたということだけは。

 

 

 

 

 




ねぇ、VR世界でネカマプレイしてたら急に服装そのままリアルの自分の姿になったのって、どんな気持ち?ねぇ、どんな気持ち?

アニメの方見てると、なんかもう悲惨というかアレですよね…

このSSの中ではそのへんのシーンカットしてアバター変わったよーとしか言ってませんが、そこは読者様のSAO知識でカバーして頂けると助かります…

ではでは、また次回で。

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