偽者のキセキ   作:ツルギ剣

98 / 111
66階層/サイパン 破竹の射手

 

 フィリアをつれて、くだんの竹林へ―――

 

 無言で進む。顔も見ないように、先導する形。

 裏切り者の彼女から情報を聞き出し、案内役をさせるのがセオリーだろう。しかし、一切合切聞かない/いない者のように無視。そしてソレは、フィリアも同じく、ただ黙って付き従うのみ。

 使い魔にした元猿兵が、ちらちら。時折ちゃんとオレたちがついてきているか目配せしながら、進み続ける。……まるでリーダーのように。

 猿に従っている攻略組プレイヤー二人。別に彼に案内してもらっているつもりはないが、そんな隊列になってしまっていた。

 

 サラサラと、風に揺れる梢の音色。木漏れ日がチラチラきらめき、日差しを散らしていく。奥に進むごとに、消沈と静かに、光も薄れ影のできない薄クモリへと変わっていった。

 ここは、山に建てられた寺の参道に似ていた。人工的なはずなのに、人の匂いを感じさせない。自然と調和しているのに、生命の躍動を感じさせない。息苦しくなるほど/肌に張り付くほどの湿気がない。悟りの境地とやらを、体現させたものなのだろう。

 だから、なのだろう。

 ここはとても……居心地が悪い。

 急き立てなければならない頭が/心が、無理やり鎮められる不快さ。調子が狂う。……今は、悟っている場合じゃない。狂うことを恐れず、突っ走らなければならないのに。

 

 

 

「―――ねぇ、私はこれから……どうすればいい?」

 

 漠然と/遠慮ぶかげにか、フィリアが問いかけてきた。

 

 少し背後に意識を向けるも、無視。

 ムッとされると、続けてきた。

 

「私も一応、戦える、そのつもりでここにいる。足でまといにはならないわ」

 

 だから……。含ませた続きに、言いたいことはおおよそ察せられた。

 

 でもやはり、無視。視線も向けない。

 なのでかキッ、と眉をひそめられた。なにか吐きつけようとしたが―――こらえた。無理やり落ち着かせる。

 

「……私のこと、まだ信用していない、てことね。

 当然といえば当然だけど、ソレじゃ互いの目的を果たせないわよ? 陣形やら敵の奇襲への対処やら、今できることはすべきだと思うけど?」

「なら、黙ってろ。自分の身は自分で守れ」

 

 簡潔にはっきりと、告げた。これからの行動指針を。

 

 普通なら、彼女の言うことが正しいだろう。一人より二人、背中を任せあったほうが生き残る確率はグッと上がる。元レッドプレイヤーの彼女からなら、より詳しい敵の内情もわかる、そこから対策を練ることも。

 だけど今、ソレは逆効果だ。

 オレが彼女を信用することは、ない。彼女もまた、できない。この短期間で、背中を預ける信頼など築きようもない。なら、話し合いなど無意味だ。

 それにもし、話し合いをするとしたのなら、オレはたぶん……口にしたくないことを強制する。結末を予想できてしまった。

 

 無碍な返答に彼女は、肩をいからせるも―――大きく、ため息をこぼした。

 そして、何かを諦めたかのように、一方的に明かしてきた。

 

「……私の主武装は、あなたも知ってると思うけど、鞭よ。中距離を保ちつつ、かく乱しながら削っていく。こっちがミスしたり無理に踏み込んできた敵には、こっちのサブ、ソードブレイカーを使って防御―――」

 

 それでも、相変わらず知らんぷりを続けるオレに構わず、続けた。

 

「―――でも本業は、【体術】よ。ダメージ覚悟で接近して、間合いの内側に潜り込んだと思った相手に、一発かます。

 鞭での攻撃は、相手の行動を誘導するための罠。この特徴的な短剣も、その一つ。周りが敵だらけになって、冷静さを欠いてくれば、目に見える記号的な敵意にしか注意がいかなくなるの―――」

 

 だから、【体術】が生きてくる……。初耳な情報だが、予想はしていた。

 鞭と短剣。奇抜な組み合わせなれど、使いこなせれば中々にハマる戦術。しかし、それだけでは攻略組には一歩足りない、まして【血盟騎士団(Kob)】ともなれば二軍でも怪しい。必ず、何らかの奥の手があることは、予想して然るべきこと。ソレが、超接近戦用/忌避されやすいも効果的な【体術】だとも、導くのは容易い。

 

「―――鞭の武器としての本質は、囲い込みと拘束にあるわ。めたらやたら暴れる軌道と、パチパチ打ち据える痛そうな破裂音が、その本質をごまかしてくれる。……こんな種明かしをしても、すぐに対応できた人はいなかった」

 

 本能的な、人ととしての恐怖に根ざした攻撃法……。つまり、バレても問題ない。明らかにしたフリをしながら、何も喋っていないと同じ。

 

「だから、私もあなたと同じ、ソロプレイがベスト。だから、私のギルドでの活用法は、戦運の挽回や撤退戦での殿。相手が先手を打ってくれることが、勝利条件の一つだから」

 

 そこだけは、オレとは真逆だ……。オレの場合は、先の先こそ重要。予想はできたとしても、後手に回れるだけの守りと余裕が薄い。

 爆弾……。おそらくソレが、オレの戦術を表す端的な言葉。敵陣に一人、投げ入れてこそ効果的、できれば気づかれる前に。

 

「……それともう一つ、切り札があるわ。ラフコフの一員に、このギルドマークの入れ墨を刻まれてから、できるようになった。

 対プレイヤー用で、通常のモンスターたちには、発動そのものが難しいけど――― !?」

 

 話の途中、片手を上げて、中断させた。

 オレの気配が変わったのも察して、口を閉じると、そっと指し示した先に目を向ける。……前、オレが睨みつけている彼方、これから進む道の先。

 注意を向ける/【索敵】を高めた。

 

 するとそこには―――、一匹の大猿が、直立していた。

 黒々とした毛もくじゃらの巨体を、中華風の鎧で覆っている。太く黒い竹でできた長槍を持ちズンっと、待ち構えていた。

 まるで門番のように、ここから先は通さないとの厳つい表情/不動の構え。

 

 互いに確認すると、再び歩を進めた。……気づいたことを気づかせないよう、自然と。

 大猿門番はまだ、こちらに気づいてはいない様。だが、奇襲するには地の利がない。

 何より、この竹林に入ってからというもの、見えない敵意を向けられ続けていた。笹の揺れる涼やかな音色と洗浄されたような静かな空気が、警戒心を鈍らせる/その位置を悟らせない。……気づけば、圏外では常時発動状態の【索敵】の一部が、無効化状態にもなっていた。

 いわば、警戒できない危険。感覚鈍麻/隠匿の結界だ。……ここは敵陣真っ只中だと、痛感させてくれる。

 ゆえに、はじめての目に見える敵、向こうから姿を現している。ゲリラ戦を仕掛けられないでいる何かが、そこにあるのだろう。

 だったら―――行くしかない。

 

 フィリアも静かに、臨戦態勢を整えながら、オレの後ろで。

 ともに備えるだけ/何もせず、接近していくと―――ついに大猿兵も、こちらに気づいた。視線が合う。

 すると―――ガンッ、地面に槍の石づきを叩いた。

 

「ここより先は、総督閣下の私有地。何びとだろうが入る事ならずッ!

 即刻立ち去るでござる!!」

 

 威嚇混じりの警告。腹にまでビリビリくる大音声。フィリアが後ろで……ジリ、後ろ足を強張らせた。

 オレは立ち止まったまま、大猿兵の対応をみて……小さくホッと、安堵をこぼした。

 

 ―――これならもう、躊躇う必要はない。

 

 無視して歩を進めながら、自然と背中の愛剣を、掴んだ。

 

「……押し通るつもりならば、容赦はしない。振り払うのみでござる」

 

 適当な距離に達すると、重心を落とし弛緩、膝を軽く曲げていく―――

 

「三度目は無いでござる。

 命が惜しくば、そのまま立ち去った方が身の為でござ……て――― ッ!?」

 

 ―――直後、ソードスキルを発動した。

 遠距離一気に詰められる突撃技【レイジスパイク】___。

 

 亜音速の踏み込み、一足飛びで大猿兵の眼前に迫った。……敵は仰天してるだけの無防備。

 ヤれる、このまま―――。そのまま上段振り下ろし、相手を縦に割る勢いの斬撃を放った。

 

(初撃の奇襲だ。もらった――― ッ!?)

 

 ―――突然、大猿兵がバックステップ。ギリギリで躱された。

 

 ……いや、違う。引っ張られた。

 驚きの表情のまま、眼前を通り過ぎた斬撃に青ざめているのが見えた。そしてそのまま―――中空へと引っ張り上げられていった。

 もうこちらの手が届かないほど。鬱蒼と茂っている、笹の暗がりの中へと見えなくなっていく―――……。

 

 

 

 奇襲失敗。おもわずチッ、舌打ちが出てしまった。

 判断ミスだ。ソードスキルでなければ/硬直を課せられなければ、続くピックの投擲で撃ち落とせたかもしれなかった。もう少し接近してから通常攻撃で切りかかっていれば、仕留められた。

 

 すぐさま切り替える/戦闘の大事な心得。全方位へ警戒、【索敵】による見えない観測網を撒いた。

 これでもう、戦いの火蓋は切って落とされた。少しでも敵集団の情報を集めなければ―――

 すると一つ、微かな風切り音を捉えた。

 

 投擲攻撃!? ―――

 音の大きさから小さい凶器、攻撃よりも威嚇用だろう。オレたちのレベルや装備なら、嫌がらせにしかならない。

 しかし……上空からだ。落下させるのなら、投剣以上の投槍カテゴリの凶器でも、音はごまかせる。……無視するには危険すぎる。

 狙いは、オレの頭上……ではなかった。もっと後ろ。そこにいるのは―――

 

 瞬時、身を翻した。

 同時に、ピックをつまみ出すと―――投げた。

 

 落下の軌道を読んでの相殺……では、流石にない。残念ながらオレの【投剣】は、そこまで極まっていない。それにそもそも、精密射撃など許されてない現状だ。

 なので狙いは、衝突予定地。―――フィリアだ。

 叫ぶでは遅すぎる。パーティーは組んでないので、フレンドリファイアができてしまうが、仕方がない。彼女の生存本能/今日まで培ってきた反射に、賭ける―――

 

 その賭けには―――勝った。

 突然のオレからの攻撃にフィリアは、驚きながらも反応、緊急回避してくれた。

 

 すると直後、彼女がいた場所に、先ほどの異音の元凶が落下した。地面に深々と―――突き刺さった。

 そして、ペエェェぇ―――。奇妙な音色を鳴らしながら、左右に微震し……静まった。

 

 

 

 落下してきたのは、オレの身の丈ほどの竹槍だった。

 さきほど、門番として待ち構えていた大猿兵が持っていた長槍とは、違う。太く頑丈そうで、色も若干黒かった。こちらはいわば、当適用の短槍/若い青竹といったところだろう。……オレぐらいの体格からすれば、長槍の部類だけど。

 

『―――こちらの忠告を無視して、いきなり斬りつけてこようとは……。やはりお前たちは、無毛種(ケムト)ではない、悪魔(ガラン)だったな』

 

 何処からともなく、重低音な声が響き渡った。先の門番とは違う声音。

 すかさず、【索敵】で音源を特定しようとすると―――「ガランッ! ガランッ! ガランッ! ガランッ! ―――」。複数の声が唱和しだした。同時にカンカンカンと、硬い何かを打ち鳴らしあった打音、鹿威しに似ている。

 おもわず顔をしかめた。鋭敏にした耳に/脳髄に、怨嗟のような声/音が突き刺さってきたことしかり。ソレが竹林にも共鳴して、どの声の音源もたどれなくなった。

 

 また、後手になるしかないのか……。次の手に思考を巡らせていると、フィリアが近づいてきた。

 傍まで来ると、臨戦態勢を整え直すと、

 

「―――ありがとう、て言うべきかしら?」

 

 何で助けてくれたの? ……体が勝手に動いた、としか言いようがないので、黙ったまま。

 

『生かしたまま捕えろ、との勅命を受けたが……貴様らは危険だ、危険すぎる。ここで始末させてもらう』

 

 静かな低音/冷たい殺気。

 再び声を出してくれたが……まだ耳がおかしくなっていた。上手く位置を特定できない。

 

 ……仕方がない。ここは強引に―――

 

『―――我が名は【蜘蛛猿衆の長・ヒエン】、樹楽街(サイパン)の西の守護者、四神将が一人。

 貴様らガランを討ち滅ぼす者の名だ。とく、その穢れた魂に刻み……消え失せろッ!』

 

 ―――攻める!

 敵の名乗り上げと同時に、跳び出した。……背後で、驚いた表情を浮かべているフィリアが見えたが、気にしてられない。

 

 向かった先は、傍に密集している竹林。

 片手剣である愛剣を両手持ちに、強く握り締めると、全身が光に包まれた。

 

 ソードスキル発動、片手剣重斬撃【グランスラント】___。

 さらなる加速/力の収束。無言の雄叫びとともに、竹林へ―――横薙ぎを放った。

 

 横一閃―――。振り抜いた斬撃は、倍ほどに延長し、扇状に広がった。通り過ぎていった竹たちを、輪切りにしながら。

 振り抜き残心。ソードスキルの斬光も霧散すると……ガラララッ、斬った竹たちが音を立てながら倒れていった。

 

 居場所が特定できなければ、その居場所ごと叩き斬るのみ―――。強引かつ面倒な攻め方だが、効果は確実。樹上にいるだろう敵は、徐々に安全な足場を失い、地上に降りてくるしかなくなる。……そこを叩けばいい。

 贅沢を言えば、爆弾かナパーム弾でもあればよかった。手っ取り早く丸坊主にし、なおかつ炎熱と煙で焼き出せる。爆弾は、似せたアイテムが既に制作されてるも、ナパームはまだ見たことがない。……今度コペルに、作れるか提案してみてもいいかもしれない。

 

 倒れた竹たちは、他の無事な竹に支えられて、横倒しになるまでに至らず。そして……残念ながら、その竹の上には、敵影はなかった。

 だけど、別にかまわない。落ちてくるまで、伐採するのみだ。

 加えて、幸いなことに、先の斬った感触で把握できた。ソードスキルを使わずとも/片手でも、一撃で切り落とせる硬度だと。

 硬直が解け、次の伐採のため愛剣に力を込めた。

 

 すると―――鋭い擦過音。

 先にも聞こえた音、空気を突き裂く微かな音、上空からの殺意。それも一つではなく、複数。……全てオレに向かっている。

 遠間から、フィリアの叫ぶ声が聞こえた。うまく聞き取れなかったが、おそらく「避けてッ!」だ。

 ギリギリ間に合う/ちゃんと知覚もしてる、緊急回避は可能。未知数の攻撃は避けるが常道だ。それもほぼソロ攻略、援軍は見込めない。ここは通過点でしかないとすれば、なおさらだ。

 でも/だからこそ―――避けなかった。無視して伐採を優先した。

 

 その結果―――グサグサグサッ、グサッ!

 体中に、竹槍が刺さった。……体表ほぼ一部の隙間もなく、竹の剣山になった。

 直後、鋭い激痛が全身を走り抜け、脳髄へと収束。頭の中が一気に燃え上がった。

 しかし……案の定、耐えられる痛みだった。目をひん剥き奥歯を噛み締めれば、飲み込める。

 

 この程度では、ショック死などしない。プレイヤー全員に与えられたゲームシステムの恩恵/【ペインアブソーバー】の力だ。現実なら三度はショック死していただろうコレも、タンスの角に小指をぶつけた程度に緩和されている。……コレが、この仮想世界での『死に至る激痛』の実感。

 大事なのは、視界の端に表示されてるモノ/HPバーの減衰値だ。

 条件反射的に見てみると……ホッと一息。こちらも予測の範囲内だ。

 半減域/イエローにすらなっていない、全体の2割強程度の減衰で収まっていた。……無防備の直撃でコレなら、ほぼ脅威にはならない。

 痛みを噛み砕きながら、そのまま、竹を伐採した。

 

 再び竹林の伐採に成功すると、そのまま/剣山のまま、次の伐採を続けた。愛剣を横薙ぐ―――。

 樹上から、戦慄の臭いが噴出してきた。……敵たちの動揺が伝わって来る。

 次の伐採を成功させた時、竹の雨は降ってこなかった。

 代わりに、倒れる竹の樹上から慌てて、逃れ飛び移る敵影を捉えた。―――すかさず、ピックをつまみ出すと、予想した着地点に投擲した。

 

「ギィッ!?」

 

 投げたピックは、敵の悲鳴を叩き出した。

 その直後、一匹の猿が竹から落ちてきた。……門番の大猿兵と同じく、独特な中華風の防具に身を包んだが、小柄な猿兵。

 受身も取れず、背中から地面に落下すると、声にもならない悲鳴/その場で悶えた。

 しかし……訓練していたのだろう。激痛だろう痛みをこらえると、すぐにその場から離脱しようと身を起こした。

 

 させずとさらに、ピックを取り出し打ちつけようとすると―――パチンッ、蛇のように飛んできた鞭が叩き込まれた。

 目の端で捉えた、フィリアの攻撃。こちらの意図を読み取ってか、追撃を代行した。

 横手から鞭の直撃を受けた猿兵は、先の落下ダメージに加え、一気にHPが0になった。

 打ち据え吹っ飛ばされた先、転がり止まった先で猿兵は、ピクピクと蠕動し……動かなくなった。

 

 さらなる戦慄、恐怖の猛臭。笹鳴りとは違うざわめきが鳴り響く。……樹上から、恐慌が聴こえてきた。

 ソレは、竹林の隠匿結界の許容量を越えた異音。ゆえに、もはや【隠蔽】ははがされた。隠された姿を露わにしていく―――。発動させていた【索敵】が、敵たちの位置と姿まで捉えた。

 

 瞬時に、愛剣を地面に突き刺した。両手でつまめるだけのピック/6本を取り出すと、胸の前で交差させ、構えた。

 直後、全身が光に包まれた―――。

 ソードスキル発動。投剣範囲攻撃【ニードルウェーブ】___。

 そのまま溜めた両手を、開放。扇を開くようにピックを、樹上へ振り撒いた―――

 

「「ギィェッ!?」」

「「ギイィッ!?」」

 

 複数の猿たちの悲鳴が絞り出されると、落下してきた。……その数4体。

 

 2本外したか……。精密射撃ではない範囲射撃、くわえてまだ【投剣】マスターではない。上々の結果だろう。

 それに―――大物は釣れた。

 落下してきた猿兵の中、他とは一回りは大きな個体。先の門番と同等の体格、ただし黒々とした中に金糸が混じった艶やかな毛並みに、幾分か重厚感のある装備類。―――奴がボス猿、【ヒエン】だろう。

 ひときわ大きな落下音、なれど―――クルリと、中空で身を翻すとなんとか四足で着地。他の三体は先の猿兵と同じく、背中から落ち、痛みに悶えていた。

 

 落下ダメージ/ソードスキルによる硬直時間。

 双方、ほぼ同時に解けると―――瞬時に動いた。

 

 ボス猿は、側方へと大きく跳んだ。四足全てをバネに使った、人間ではありえない跳躍力/横スライド。一気に、まだ立っている竹に飛び移ろうとした。

 態勢を整える、逃げの一手。また樹上へ戻るつもりだろう。

 ゆえに―――竹槍を一本、抜き出した。

 串刺しのままにしていた一本。もう警戒されている、手持ちのピックでは間に合わない/耐え抜かれてしまう。ゆえに竹槍。おおきく振りかぶって投げ槍の構えを取った。……前線では使えない/ほんの手慰み程度だが、【投槍】を鍛えておいて良かった。

 全身が光に包まれた。同時に、傷口から噴出した鮮血のライトエフェクトが混ざり、奇妙な色彩の光靄に包まれた

 ソードスキル発動、投槍単発攻撃【シングルシュート】___。

 ブゥンッ―――。鈍い擦過音とともに、オレの鮮血がコベリ付いた竹槍を、射出した。

 

 

 

 ―――ソレはまるで、赤い稲妻のようだった。

 

 

 

 地面を走る雷電。

 予想外だった……。自分でも驚くほど、手から離れた竹槍は瞬速に、片手剣の重攻撃もかくやと思える威力がこもった、一射になった。

 なので不思議にも、必中を確信した。

 

 ボス猿がいきなり/予想着地地点寸前、まるでこちらの追撃を読んでいたかのよう、急ブレーキをかけて静止した、にも関わらず。その読み以前に、急な行動キャンセルを起こせる技術/システム外スキル【急制動(ストップ&ゴー)】を、プレイヤー以外が使えた驚愕事実にも関わらず。オレの投げた竹槍は、ソレすら見越したように、飛ぶはずの()()()()()()

 まるで、予め決められていたかの様に。ボス猿の胸へ、引き寄せられるようにして/運動法則を捻じ曲げながら―――穿ち抜いた。

 

 投げた竹槍は、ボス猿を射抜くとそのまま、押し飛ばしていった。

 並立つ細竹をバキバキ、押し砕きながら、勢いを殺していき―――奥に鎮座してた巨岩に、縫い付けた。

 直後、衝突の轟音とともに、ボス猿の口から血泡が吐き出された。

 

  

 

 

 

 

_

 




 長々とご視聴、ありがとうございました。

 感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。