偽者のキセキ   作:ツルギ剣

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プロローグのようなものです


OrderⅠ ラフィン・コフィンを壊滅せよ
愚者の結末


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 計画の最終段階。

 本来は必要なかったが、確認のためにやってきた。ただの寄り道……いや、本当にそうだったのかは、わからない。自分でも自分の行動に説明をつけられない。

 

 

 

『―――ねぇ、アニキ。神様っているのかな?』

 

 

 

 唐突に弟は、弟の()()()は尋ねてきた。

 

「……ここには、いるぞ」

 

 答えてやる必要などなかったが、答えてやった。醸し出されてる奇妙な空気に、口が勝手に動いていた。

 

『僕がやったこと、楽しんでくれたかな? 参加できなくてさ、悔しがってくれたかな?』

「会って、確かめてきて、やる」

 

 ソレが気持ち悪く、遮るように被せた。約束していた。

 

『アニキも頂上を目指すんだ?』

「これからは、もう、やるしかない、からな」

 

 言い訳ではない、はずなのに、どこか上滑りしてるように感じた。

 この塔の頂上を目指すとは、必然ゲームクリアを目指すことであり、今まで敵対していた攻略組その他たちと協力し合うことになる。……別に、妨げてきたわけではないので問題はないだろう。俺は今まで、俺のルールで戦って生き残ってきただけ。今までは摩擦して、これからは協調しそうだというだけだ。そもそも何より、仲良しごっこをするつもりなど毛頭ない。気に入らないなら殺しにくればいい。何時でも何処でも歓迎だ、強者なら大歓迎だ。

 ソレが俺の理由。俺が定めた、俺だけのルールだ。……ソレ以外は全て、不純物だ。

 

『……だよね。

 あ~あ! 上手くいくと思ったのになぁ……』

「ツメが、甘かった。攻略組を、奴を、舐めすぎた。ゲームに、没頭、しすぎた。……お前らしい、ミスだ」

 

 ゲームの状況は、断片的ながら伝えられてきた。それらを組み立ててれば、自ずと全体像は浮かび上がり、粗も見えてくる。……ソレ以外にはすることなどない場所で、何より、次にあるだろう俺のゲームへの糧にするため。

 辛辣ではあるが正確だろう総括に、フッ……と苦笑してきた。紛い物ながら/人間の有様から大きく外れた姿ながら、そのように見えた。

 

『僕らしい、か……。こんなに()()()()()()のに、まだ保ててるんだ♪』

 

 自嘲とも取れるが、ソレすら楽しんでいるような口ぶり。

 羊水にも似た赤色の液体に満たされた巨大なシリンダーの中、プカプカとたゆたっている肉塊―――片目と鼻をえぐり出された()()。……本来なら、この世界ですら生きられないはずのその有様で、弟の片鱗を宿すモノは嗤う。

 さらに言えば、『細切れ』はこの程度ではない。いちおうは弟であるとわかる欠損した生首の大半も、別のモノを変換して構成されている。外部の状況を把握するため、終わりを告げるコードと生存本能とのせめぎあいの結果だ。……本当に弟のモノと言える部分は、小指の爪ほどにも、無いかもしれない。

 いつもなら、動けるだけの体を再構成させられるが……できていない。それだけもう、コードに抗らえ切れなくなった。現状の有様は、弟の瀕死を表している。

 

「だが、もうじき……消える」

『うん♪ あと2体ぐらいの《ドール》が壊されたら、僕は溶けちゃうと思う』

 

 溶ける……。つまりは、本当の終わりを迎えること。この世界で意識を保つことができなくなる。

 ソレは、現実世界にある肉体に戻される、ということを意味しない。そうするにはあまりにも、コードを蔑ろにし続けてきた。戻される手前で/この世界で、消滅することだろう。……まさしく、溶けてしまう。

 

『いったいどんな奴になるのか、楽しみだなぁ♪ ……僕よりもずっと、楽しい奴だったら最高だな♪』

 

 ソレをできることが楽しくて、でもソレを見ることができなくて残念。……ジレンマだが、仕方がない。創造者とはそういうものだ。完璧だと確信できたのなら、バックドアなど造らない。

 

 そんなことを言ってやろうと口を開きかけると、紛い物がピクリと硬直した。

 そしてブルリと、震えだすと―――顔半分の皮と肉が、剥がれて落ちた。頬も削げ落ち、歯と顎骨まで露わになった。

 

『―――ラスト1体。……アレもすぐに壊されそうだ』

 

 ニンマリと、壊れた顔で不敵に嗤う。……悪意を持ったゾンビのようで、なかなかの迫力だ。

 振り払ったと思った空気が、また立ち込めてきた。腹の奥底に不快な瘧が溜まっていく、顔までしかめそうになった。……一体何なんだ、これは?

 自問自答。気持ち悪さに言葉が当てはまりそうになった時、

 

『それじゃアニキ、『コレ』を壊してもらってもいいかな♪』

 

 不意に、紛い物から頼まれた。

 

『本当は、僕自身で始末をつけたかったんだけど……もうコレじゃん? ちょっと難しすぎる。それに、こっちで【転化】するよりもあっちでした方が楽しそうだし、最後のサプライズは必要でしょ? フロアボスとしてもさ。

 せっかく来てくれたんだから、やってくれないかな?』

 

 何の気もなしに、まるで何事でもないと言い切っているかのように、軽々しい。常識はずれな発言。

 それは、実に弟らしく、【ラフィン・コフィン】の流儀にも沿っている。

 当初の計画では、こうなる前に【転化】が起こるはずだったが……想定外のしぶとさ。あるいは、本来いるはずのない俺がここに来たこと/話していることが、楔になっていしまったのかもしれない。だとすると、弟のゲームを穢したのは俺になる、不始末をつけなければならない。

 

 だから、腰の帯びた柄に手をかけるも―――固まった。抜けずただ、止まってしまった。

 すると、腹に溜まっていたはずの瘧が、胸までせりあがってきた。

 

『―――アニキ、0と1だよ』

 

 吐きそうになる寸前、不意に、弟が告げてきた。まるで、俺の怯懦を嗜めるように。……俺がいつもそうしてきたように。

 

『所詮は全て、電気信号が作り出した幻さ。僕もアニキも皆みんなぜェ~ん部、そう♪ 現実がそうであるように、ここだって……ね♪』

「言われ、なくても……わかっている」

 

 その通りだ、幻なんだ。ただ解像度が高いだけだ。……囚われてはいけない。すべきことはもっと別にある。

 俺はNPCではなく、プレイヤーだ。そのことを証明しなければならない。証明し続けなければならない。

 

 改めて意を決すると、震えは止まった。柄を握っている手からも、無駄な力が落ちていく。……今ならすぐにでも、抜ける。

 そして、その通り―――スラリ、抜き放った。

 

『……それで、いい』

 

 ニヤリと、皮肉げに頷いてきた。……俺がやってきたことを、真似してきた。

 嫌味なシンクロだが……もはや何も言わず。心を研ぎ澄ます。

 言葉は不要。ただ身構え、鋒を定める、力を込める。

 そして―――

 

『神様と新しい僕に、よろしく!』

 

 差し込ま込まれた言葉の返答に、ソードスキルを叩き込んだ。

 

 

 

 

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 短いですがご視聴、ありがとうございました。

 感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。

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