偽者のキセキ   作:ツルギ剣

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 身勝手の極意!


64階層/シェオール 儀式

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 ―――死んだ人間は、生き返らない/甦させられない。どんなことをしても…… 

 

 現実世界と同じように……。ソレが、このゲームのルールだった。

 誰も犯すことはできない。オレもついぞ、諦めて受け入れた絶対法則……。

 しかし、グリムロックは告げた。

 

「―――確かに、【グリセルダ】は死んだ。生き返らせることなんてできない。しかしユウコは、現実世界のユウコはまだ、わからない」

 

 現実世界に戻れない以上、確かめようがない……。確かにその通りだが、皆もうとっくに結論を出していた。

 確かめようがないからこそ、自殺したり殺人を犯してはならない。

 このログアウトできない現状が示しているように、あの茅場晶彦が愉快犯であってくれないように、オレ達は不死身ではなくなった。命はたった一つだと諦めて、生き延びなければならない。

 この諦観を否定しているのは/目をそらしているのは、レッド達だけだろう。否定しているからこそレッドになっている、とも言える。

 ただ、だからと言ってまだ、胸の奥底から鈍い痛みがにじみ出てくる。いわゆる黒歴史、というものだろう。ソレも込めて突っ返した。

 

「……本当に、殺すと思っているのか? ここでゲームオーバーになったら数分後、ナーヴギアの電磁波を使って、脳を蒸し焼きにすると?」

「さぁな、オレには答えられない。誰にも、おそらくお前にも無理だろうな」

「いいや、私には答えられるよ。ユウコはまだ生きている、とね。

 この【ユウコ】……エルフ族のNPCが証明してくれた」

 

 祭壇の上に眠らせている女性を示して、はっきりと断言してきた。

 妄想は大概にしろよ……。呆れ返りそうになるも、グリムロックの自信は揺るぎなかった。

 

「【ラフィン・コフィン】の方々が、NPCをまるで自分の分身のように操っていたのは、見たかな?」

「……そういう性格のNPCだったのかもしれない。奴らと意気投合して騙されて、洗脳された。あるいは、人質でも取られて脅されて、強要された」

 

 少し弱い仮説だった。だからと言って、ジョニーがさせたように、自殺まで強要できないはず。何人もすぐに代わりを用意できるなど、もっと難しいだろう。

 ただ、できなくはない。個人の枠内では不可能でも、同じ情熱をもった集団では可能になることがある。技術のみならず、倫理観の枷も含めて。

 オレの正当だろう反論には、まともに答えず、代わりに手を変えてきた。

 

「……ではカインズ、【ユウコ】をみてどう思った?」

「ど、どう……て、何がだよ?」

「【グリセルダ】に似過ぎてなかったか?」

「ッ!?」

 

 瞬時に否定しきれなかった様子に、グリムロックはニンマリと笑を浮かべた。

 初耳だったのでオレも驚かされた。あのレッド達が、自分たちのためではなくグリムロックのためにわざわざ、人形を用意した? 

 

「もちろん、外見は全く違う。パラメーターだって違うし種族も違う、プレイヤーですらない。【グリセルダ】の記憶もないので、君やヨルコとは初対面だった。

 だが、もっと根幹の……『魂』と呼べる何かは、オリジナルの、ユウコのモノだった!」

 

 熱を込めてそう、飛躍気味に演説してきた。

 実感できてないオレには、誇大妄想にしか聞こえない。が、隣のカインズは違った。否定の言葉が見当たらない様子。

 

「お前やカインズ達が、そう錯覚してしまうように、演技させただけかもしれない。……人の心の暗部は、レッド達の大好物だからな」

 

 言いながらチラリ、黙したまま立っている女性に、目を向けた。

 わざと煽るような言い方をしたが……反応なし。寡黙な護衛に徹し続けていた。あまりの人間味のなさに、人を模した機械のように見えてしまう。

 彼女とグリムロックは、一体どんな関係だ……。疑問がもたげてくるも、グリムロックの熱弁が返ってきた。

 

「だが、【ユウコ】は告げた、私の本名を、リアルの私の名前を!」

 

 どうだ、と言わんばかりに証拠を示してきた。ソレが本当かどうかはわからないが……嘘や冗談を言っている気配はない。

 ならば、他人には/NPCには絶対知りえない秘匿情報だ、『本人』である可能性はでてくる。このゲーム世界の記憶のない、『ログイン前までの本人』である可能性が。

 

「……お前と会話している内に、引き出したのかもしれない。あるいは、【グリセルダ】さんの遺品から読み取れたのかも」

「本名をここの何かに残すなど、私はしたことがない。グリセルダもしていない」

「なぜ言い切れる?」

「当たり前だろ? 何せ私たちは、【結婚】していたんだしね」

「だがお前は、彼女を殺した。殺すだけの不満を募らせ、実行した」

 

 彼女が、自分の妻がそれに気づかないとでも……。グリムロックも殺意は隠しただろうが、夫婦は身近過ぎる。仲間として共に戦ってきたのならなおさらだ。隠しきれるものではないし、知らないで済ますこともできない。……だからこそオレは/ビーターのオレは、ソロであり続けなければならなかった。

 オレの打ち込んだ疑念に、グリムロックは若干ひるんだ。そんな不安を抱えてはいたのだろう。しかし、

 

「……もしも、万が一にも察していたとしても、だ。そんな重要な遺品を預けれる信頼できる相手は、限られてくる。例えば、そこのカインズや、ここに眠ってもらっているヨルコのような仲間だろうね」

 

 もちろん、彼らはそんな遺品は受け取っていない……。カインズに目を向け確認すると、悔しそうな顔を浮かべていた。……グリムロックの言う通りらしい。

 仲間すら信用せず、どこか自前の金庫に預けていた……。言い返そうとしたが、やめた。そこまで殺伐としたギルドではなかったのだろう。あるいは、そこまで猜疑心と行動力のある人だったら、そもそも殺されることはなかったはず。

 さらに、自前の金庫の情報を預ける相手には、心当たりがあった。オレも万が一の時のために、頼んである。もしも『彼女』なら、殺された死後、確実にヨルコさん達に遺言を伝えてくれるはず。そもそも彼らが、こんな事件を起こそうとしなかったはず。

 

「これで、君の疑惑は晴れたかな?」

「全く。何一つ疑わしいままだ」

 

 呆れられた。……どうしようもない。

 レッド達と対決する時の心構えだ。そもそもオレは、グリムロックの言葉を何一つ受け入れないと、決めていた。例えどれだけ真実そうに聞こえても、必ずや我と大切な人達の身を滅ぼす悪意が込められている。……こちらが受け入れなければ、呪いは本人に帰る。

 心に決めていると、反論はとめどなく湧いてくれる。

 

「お前の言うとおり、現実のユウコさんは生きてるとしてだ。なぜそんなマネをする?」

 

 ヨルコさんを犠牲にする必要などないはず……。グリムロックが奥さんの何を気に食わず、殺すまでに至ったのかはわからない。がソレは、このゲームに巻き込まれたから引き起こされたものだろう。クリアさえできれば、また現実では元の夫婦に戻れる、悪夢だったと苦笑いで済ませられるはず。……そこまで都合がいいのかは、わからないが。

 わざわざ、ヨルコさんをユウコさんに塗りつぶす必要がない。現実では二人の『ユウコ』さんが生まれてしまうことになる。……改ざんの証拠は、直ぐに見つかってしまう。

 

「……確かに、まだユウコは生きている。だけど、ゲームクリアしてしまったら、わからない」

 

 クリアした直後に、一斉に殺されるかもしれない……。その怖れに、一瞬目を丸くし、すぐに眉をしかめた。

 あり得ない―――。最悪の結末だ。さすがに茅場でもしないだろうが……嫌な想像をさせてくれる。

 

「『シュレディンガーの猫』は知ってるかな? あるいは、ちょっと難しいが『二重スリットの実験』でもいい」

 

 量子力学だよ……。量子はあらゆる可能性を内包しているが、観測者の観測行為が、量子を一つの形に決定してしまう。……茅場関連の情報を集めまくっていたので、おおよそは知っていた。

 なので、言いたいだろうことも察せた。

 

「……現実世界で、オレ達を観測している人達はいる。本人がどうこう願おうが、すでに決まってるはずだ」

「確かに、そうかもしれない。

 だけど、願いの強さはどうかな? 一万人の人間と、こんなにもリアリティあるファンタジー世界に、私たちを2年間も閉じ込め続けることが可能なAIだったら?」

 

 願いの強さ、誰が最初に量子の決定権を持てるのか……。考えたことのない発想だったので、悩まされた。始まりの形や流れは、後の全て/未来を決定することにも繋がる。

 

「塗りつぶすもなにも、もう観られてるんだ。決定してるはずだろ?」

「いや、まだだ。決定するのはゲームクリアした後、私達がログアウトした直後だよ」

「だから、何でそう言い切れ―――」

「だからこそ、生かし続けてるんじゃないか」

 

 最初の結論とつなげてきた。

 どういうわけだと、顔をしかめてしまうも……気づけた/気づかされた。言葉に詰まる。

 

「タイミングの問題なんだ。

 ゲームクリアした直後なら、一万人の真なる願いが一点に集約される。それだけの力があれば、その瞬間だけは、現実世界の何よりも凌駕するはず。世界を想いのままに変えられる瞬間なんだよ!」

 

 そんなことができるのに、わざわざ力を/数を減らす意味がない―――。茅場の/狂気の天才の欺瞞を暴いたかのように、誇らしげに。

 息を飲まされた。「妄想だ」「今すぐ病院に行け」と、切って捨てることができなかった。……あるかもしれないその可能性に、魅せられてしまった。

 

「おそらく、茅場晶彦の狙いはそこだよ。私はソレに、便乗させてもらうだけさ」

「……便乗、だと?」

 

 訝しるも……繋がった。ようやく、奴の自信の源にたどり着けた。

 だがそうなると、もっとおかしな問題が起きる。

 

「……お前の奥さんとユウコさんは、別人だろ? 見た目だって違うだろうし、年齢だって……」

 

 犯罪だよ。変態行為だよ! ―――真面目な科学の話からの落差にクラリ、頭を抱えそうになった。……大人っていうのは、茅場然り、オレの想像をはるかに超える存在だ。

 

「だから、そこのカインズが必要なんだ」

 

 変態扱いしたのに気にせず。さらなる変態発言をぶっ込んできた。

 グリムロック自身も、カインズと入れ替わる……。なんて気持ち悪さ。思わず寒イボが立った。

 ただ、カインズはそれだけでは収まらない。もはやモンスター以上の『怪人』として、グリムロックに震えた視線を差し向けていた。

 

「別に良いだろ? 君らは恋人同士だ。

 お互い好きあっているんだろ? 現実に帰っても交際を続けていくつもりだったんだろ? いずれは結婚できたらいいなとか、想っているんだろ?」

「そ、それは……」

 

 唐突にプライベートを/胸に抱いていただろう淡い欲望を抉られ、言葉に詰まらされていた。……聞いてるだけのオレでも、そわそわさせられてしまう。

 そんなこと、アンタに何の関係があるんだ―――。正当すぎる文句を叫ぼうとする前に、

 

「私とユウコは夫婦だったし、ここでもそうだった。これからも、現実に帰ってもそうあり続けられるだろう。……関係を維持できるだけの地位や財産も、何より経験値を持っているしね」

 

 君らニュービーとは違って……。大人の余裕を見せつけてきた。

 唖然とさせられ、怒り心頭になるも……反論できなかった。強く言い切れない。……それだけは、奴が正しいだろう。

 そして、カインズが断言しきれなかったからだろうか、

 

 

 

「ヨルコがユウコであった方が良いように、君も君ではなく、私であった方が良いだろう」

 

 

 

 そんな、手前勝手な結論を下してきた。

 さらに告げた、心を抉ってきた。

 

「ヨルコが、私に穢されるような気がして、嫌だと思ってるんだろ? わかるよ、一人の女性を好きになれた男としてもね。自分以外の男に触れられるなんてことは、許しがたい。それも相手が、知り合いであればね」

「だ、だったら―――」

「だからこそ、君は私であるべきなんだ」

 

 グリムロックは、未熟な生徒に教え諭すように、続けた。

 

「若いうちの恋愛感情というのは、流行病のようなものだ。のぼせ上がって『この人が運命の相手だ!』と思ってしまうも、現実を生きてくうちに変わっていく。最悪『騙された』とも想いが変わってしまう。

 それは全て、相手の表面だけ、雰囲気だけを見ているからだ。だから、有り体に言ってしまえば―――セ●クスできただけで満足してしまう」

「なッ!?」

 

 本音を言えば、そういうものだろ……。途轍もなく強烈な結論に、オレまで呻かされた。なんてこと暴露しやがるだ、この野郎は……。アスナがここにいなくて、本当に良かった。

 憤慨しようにもできずにいると、

 

「体は君らのものだよ。だから君も、現実のヨルコとセ●クスできて、気持ちよくなれるはずだ。彼女にもそうしてやれるし、してもらえるだろう。……君らがするよりも、上手にね」

「ッ!? こ、この―――」

「どれだけ好き合っても、初めてというのは上手くいかないものだ。特に若いうちは、急いで()をなしたがるから、相手を充分に満足してあげられない」

 

 苦笑交じりに、経験値とレベルの隔絶を述懐してきた。

 カインズは言い返せない。そもそも言い返したら、負けてしまう罠。……ただ歯噛みと睨みを向けるしかない。

 

「傍目からも、君らが付き合っているように見えるだろう。仲睦まじくね。他のカップル達よりも成功する確率は極めて高い。私達が残していたモノも引き継げるから、成人したらすぐに結婚できるだろう。いや……学生結婚もいけるな」

 

 マイホームだってすぐ持てる、いいこと尽くめじゃないか……。己の善意を疑うことのない満面の笑みで、提案してきた。

 あからさま過ぎる現実問題に、そのあまりにも簡単な解決方法に、カインズもオレも空いた口がふさがらなくなってしまった。……ただ、常識の範疇にないことを除いて。その時カインズがカインズでいられる保証はどこにも無い、ということを除いて。

 

「―――私は【ユウコ】に出会って、外見など関係なかったことに気づけた。彼女の、ユウコの魂に惹かれたのだと、実感できた」

 

 そう言うと、祭壇に眠るNPCへ、愛おしむような熱い眼差しを向けた。……その人に宿っているであろう、『何か』を見据えながら。

 そして、もう一度カインズへと向き直ると、

 

「……どうだろう? 私たち全員が全員とも幸せになれる方法だ。考えてみてくれないかな、カインズ」

 

 誠実に頼んできた。きっと答えてくれると、子供のように……。

 

 なんて身勝手な願い……。目の前にいる男は、本当に同じ人間なのか疑わしくなった。姿形は同じでも、中身は全くの異種、この世界のモンスターよりもモンスターだ。

 あまりのおぞましさにゾッと、背筋が凍りつく、鳥肌が立った。カインズは口をパクパク、どこに向けるべきかわからない憤怒に喘いでいた。

 慣れてない優しい奴は、そうなってしまう。自分の方が間違っていたんじゃないかと、ただ言葉で表現できなかっただけなのに。そうやって……踏み台にさせられる。

 だけどオレは……違う。同じであってはならない。

 

(……コイツはもう、レッドだ)

 

 カーソルなど関係ない。本能が警告した、心が訴えた、頭にも否定の論理がある。……グリムロックは、取り返しがつかない一線を、越えてしまった。

 ならば―――やることは一つだけだ。

 

 

 

「聞いてやる必要はないぞ、カインズ。こんな―――色ボケ変態オヤジの戯言なんてな」

 

 

 

 レッドの言い分など、何一つ受け入れてはならない……。結局のところ、対決する時の心構えだ。

 優しさは主役の領分だ、脇役のオレは冷徹でなければならない。

 

「悪いが、ここでのお前のご高説は全部録音させてもらった。あとは、アルゴにでも送信して、全プレイヤーに伝えてやるよ。……お前の代わりに布教してやろう」

 

 きっと、信者たちでわんさか溢れかえるだろうな……。もちろんそんなことはしないが、会話は後でも《記録結晶》で吸い上げられるが、暗闇に潜まなければ生きられないレッドの限界だ。脅し文句としては抜群だろう、きっと同族同士で揉み消してくれる。

 脅しは効果的で、グリムロックは怯んだ。まるでイジメられたか子供のように、「なんでそんなことするの?」と涙目にもなりながら……。

 ソレはこっちのセリフだ。

 

「お前がまずしなきゃならないことは、お前の奥さんを、グリセルダさんを殺した償いだ。ソレを棚に上げたままで、全部リセットして、幸せになろうなんて……虫が良すぎるんだよッ!」

 

 最後は、こみ上げてきた怒りのまま、吠えていた。

 すると、改めて気づけた。オレ自身の怒りの正体を、胸の奥底に宿っていた灯火を。

 気に入らない。コイツだけは認められない―――。オレだけの話じゃない。諦めて生き抜こうとしている全てのプレイヤーにとって、侮辱に他ならない。今までの全てを/苦しみを/戦いを、無かったことにさせられてしまうから。……嘲笑われるなんて、冗談じゃない!

 

 オレの意気の余波か、カインズも呼応してくれた。揺らがされた迷いから醒めて、グリムロックを強く見据えた/敵対を決めた。

 グリムロックは、まさか拒絶されるなんて思いも寄らなかったと、オレ達の完全拒絶にオドついていた。

 どこまでも身勝手な奴だ……。もはや止めるモノなどない、語る言葉もない。背中の愛剣に手を伸ばした。奴の性根ごと叩き切るのみ―――

 抜刀する、その寸前、

 

 

 

「―――贖罪に、何の意味があるのですか?」

 

 

 

 いきなり、エイリスが喋った。

 綺麗すぎて人間味の無い声が、遮ってきた。

 

「…………なに?」

「幸福よりも、大事なことなのですか?」

 

 問いかけながら装置へ歩み寄り、驚かされている隙にポチリ……ボタンを押した。

 直後、装置が唸りを上げた。転移時によく似たライトエフェクトが煌く―――

 

 突然の行動と、何よりも意思表示に、グリムロックですら唖然としていた。

 エイリスは装置から手を離すと、グリムロックへと向き直り―――謝罪してきた。

 

「グリムロック様。ご会談に割り込む形になってしまい、大変申し訳ありませんでした」

「え? い、いや……構わないよ」

「お心遣い、ありがとうございます。

 少々時間がたてこんできましたので、僭越ながら、始めさせてもらいました」

 

 その言葉でようやく、現実味のなかった空気が晴れた。

 息を飲まされた。カインズはゾッと、顔を青ざめさせられてもいる。

 

「予めご説明はさせてもらいましたが、プレイヤーへの上書きは少々時間がかかります。ご希望により、被験者の記憶を消す作業も追加されていますので……あと2分ほど、お待ちください」

 

 2分―――。たったそれだけ。それだけでヨルコさんは……いなくなってしまう。

 彼女の説明が本当に正しいのかは、わからない/確かめようもない。だが、見た目からも瞬時に終わるモノではなかった。……まだ助かる可能性はある。

 隣に目を向けるとカインズは、この世の終りとうわ言のように「ヨルコ……そんな、ヨルコが……」と絶句していた。

 なので、無理やり肩を揺って、正気に戻させた。

 

(カインズ……カインズッ!)

「へッ!? ……な、なに―――」

(気をしっかり持て! まだ大丈夫だ)

「で、でも……そんなこと、わかるわけ―――」

(だから、お前の力が必要なんだ。……それと声は潜めろ)

 

 全く根拠などないが、ここは言い切るしかない。

 強く断言したことで落ち着けたのか、敵対心を取り戻してくれた。……よし、これならいける!

 

「カインズさんについては、改めて後ほど、ということでよろしいですか?」

「ッ!?

 そ、そこまで、ヘッドはしてくださるのか?」

「ソレが、グリムロック様の願いでは?」

 

 小首をかしげて返した。不思議なことを訊かれたと、罪悪感など微塵も感じさせない純粋さで―――

 思わずゾッと、背筋が凍った。異常なモノを見せられた。

 こいつは敵だ―――。それも、予想をはるかに上回る難敵だ。ジョニーやザザに匹敵するかも知れない。……クソッ! 全くのノーマークだった。

 襲撃計画は下方修正しなければならない。

 

(オレがあの女を抑えるから、お前はグリムロックを、あの装置を破壊してくれ)

 

 かなり無茶な指示を出すも、頷いた。……やるしかない。

 

 愛剣を掴み直すとそのまま/納刀のまま、ソードスキルを放った。

 剣全般スキル・特殊技《抜刀術》―――。鞘のこい口から剣を抜かず、横から透過しながら抜刀、そして急襲する。相手の意表をつける技だ。

 突進しながら、背負い振り上げた。グリムロックを狙って―――

 

 しかし―――キインッ、寸前にエイリスが立ちふさがった。

 

「―――キリト様、でしたね。何か御用ですか?」

「ああ。今すぐ消えてくれ」

 

 返答と同時に―――パァンッ、鍔迫り合いからエイリスの剣ごと、はね上げた。

 戦闘開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

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 長々とご視聴、ありがとうございました。

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