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飛び出してきた黒犬は、ジョニーの喉笛に噛みついた。そのまま押し倒し、噛みちぎる勢い。
だが同時に、取り出していたダガーで黒犬の首筋を突き刺していた。押し倒されながらもしっかり喰い込ませ、抉る。相討ち―――
ジョニーが地面に倒されると、黒犬は霧散して消えた。瘴気のような黒い煙となって、消え去る……。残ったのは、首からドバドバと血を噴き出しながらも、すぐさま膝立ちの臨戦態勢を整えたジョニー。
しかし、【大量出血】により著しくHPを損耗させられていた。それでも敵を/黒犬の主人を/コウイチを睨みつける―――。
霧散したはずの黒犬は、いつの間にかコウイチの足元で再生していた。
ジョニーの警戒が外れたことで、すぐに落とした結晶を拾った。
「ヒール、【シュミット】!」
急いでシュミットのHPを全回復させた。危険域だったHPがたちまち全回復する。……ギリギリセーフだ。
真っ赤だったHPが元に戻り、安堵するシュミット。あとは短槍を抜いてやるだけでいい。
一息つくと、オレも睨みつけた。
『―――あれあれぇ~、神父様ぁ♪ こういうことするのは、契約違反じゃないですかぁ?』
ヘッドに言いつけちゃうぞぉ……。ドバドバ出血し続ける傷口を押さえながら/それでもニンマリと凄惨な笑みを浮かべながら、煽ってきた。
鉄板を打ち込んだ濃紺色のカソックに身を包んだ/武装神父なコウイチは、呻る猟犬を鎮めながら肩をすくめた。
「確かに、私たちは自己防衛以外では君らとは争わない。そういう契約はしたよ。これまでも今も、そしてこれからもそうするつもりだよ。
だが……ソレは目の前の君とではない」
意味深なセリフにジョニーが何も言わずにいると、続けて、
「加えてだ。今の私は、彼女からの依頼を受けて力を貸しているだけの代理人さ。欲する者に力を貸し与えているだけだよ、……君らがそうしているようにね」
コウイチが指し示した後ろには、アスナが控えていた。
ジョニーへの警戒のためか、すでに細剣を抜き放っての臨戦態勢。そのためか、ムスリと憮然とした表情をむけていた。
『……詭弁っぽく聞こえるんですけど、気のせいですかぁ?』
「そう取られたしまったのなら……残念かな。
諦めて欲しい。なにせ彼女は、君も知っての通り実の妹だからね」
苦笑しながらそう言うと、ジョニーよりもアスナが嫌そうな顔を向けてきた。
『……神父様に嫌われちゃうと、色々と面倒になるからなぁ。兄貴からも小言いわれそうだし……仕方ないか。
あぁあ! コレ、けっこう気に入ってたのになぁ……』
「随分と余裕ね。見逃してあげるとでも思ってるの?」
にじり寄りながら/逃がさないように威嚇されるも、ジョニーの態度は変わらず、
『まさか! さすがにこの状況からの脱出なんて、無理ゲーでしょ♪ ―――援軍でもない限りね』
不敵な笑いとともに発したセリフに、アスナはハッと周囲へと警戒を分散させた。
だが、オレとコウイチは、そのままジョニーを見据え続けた。
「見え透いたハッタリはやめろ、『いない』て言ってるようなもんだぞ。……往生際が悪いなジョニー」
『……てへ♪ さすがにバレたか』
ペロリと舌ベロまでだしながら、悪意しかない純粋な笑みを向けてきた。
子供だましの悪ふざけだ、【索敵】で探査するまでもない。そんなものがいるなら、とっくにオレ達は包囲殲滅されていたはずだ。こんな状況まで静観しているマヌケなど使い物にもならない、そもそもレッド達がこんな窮地に飛び込むはずがない。……オレへの仕返しのつもりだろう。
一人引っかかってしまったアスナは、目を丸くし、すぐにジョニーを睨めつけ直した。
『はぁ~、ヘッドの言った通りになっちゃったなぁ……。まだまだ精進が足りないや♪』
「ソレは【監獄】の中でやるといいわ、私達がゲームクリアする日までずっと、独りで」
『そんなのやだよぉ♪ アイデアも試したい事もいぃっぱいあるんだから、もっとお外で遊んでいたいの♪』
「悪いが、オレはお前の親でも大人でもないんだ。……駄々を捏ねるようなら、もっと別な方法で黙らせたくなるぞ」
例えば、HPを0にするとか……。含ませた凄みに、アスナの方が眉をしかめてきた。
彼女との意見の相違。レッド達は【監獄】に押し込めるだけでは足りない、殺す覚悟を持たないとつけ込まれる。……自分の命すらオモチャにしてしまう相手には、どんな理屈も正義も意味がない。
『アハッ、怖い怖いぃ♪
さすが『黒の剣士』様、頭の中身も黒いみたいですねぇ♪ 『閃光』様とは大違いだ』
「だったら、観念しろジョニー。別にお前を尋問する必要なんて、無いんだからな」
お前が持っている情報には何の価値もない……。できれば搾り取りたいが、生かし続けるデメリットを考えると、さっさと始末した方が無難だ。少なくとジョニーを退場させれば、それだけこの世界は平穏になる、ゲーム攻略もしやすくなる。……いるよりもいない方が皆のためになる奴だ。
ジョニーへの牽制と同時に、アスナとの対立を予防するための処置だった。そのためか、何か言い募ろうと歯噛みし、オレへのしかめ面を深めていた。
『そう言われちゃうと、させたくなる……なんて思わない?』
「そうか。ならやってやろう―――」
くだらない時間稼ぎだ、付き合いきれない……。コイツとはとことん馬が合わない。
何かあると思わせて翻弄させる手だ。本当は何もないことを露呈しているようなものだ。……お遊びに付き合ってやる義理など一切ない。
オレが無造作に近寄っていくと、ジョニーはすぐに身を引いてきた。
『……君、付き合い悪いよ。友達少ないでしょ?』
「少なくとも、お前なんかとは友達になりたくない」
『ソレって、タフガイでも気取ってるの? ……そんなの今時流行らないよ?』
「時流以前に人道からも外れてるお前には、言われたくないね」
『酷い言い草だなぁ……。おセンチなボクちゃんには耐えられそうにないよ♪』
「じゃ壊れろ。邪魔しないからさ」
冷たく突き放し続けると、
『そう? ソレじゃ遠慮なく―――』
軽くそう言うとジョニーは、持っていたダガーをグサリと―――首に刺した。
そして思い切り―――横に引いた。
傷口から鮮血が、噴水のように吹き出していく。
「なッ!? 何を―――」
急いで近づくも……間に合わなかった。
二度目の【大量出血】、ジョニーのHPは一気に減退していった。同時に、大量の出血でガクンと、立っていられなくなっていた。
顔は蒼白を越えて死相が出ていた。それでもニヤリと、口元を綻ばせながら、、
『―――また今度ね、キリト君♪』
笑いながらそう言うと、そのまま倒れた。見えない糸が切れたように、自分の血だまりの中へ……。HPも0になっていた。
ジョニーは地面に倒れたまま、動かなくなった。
まさかの自殺に声を失った。レッドの頭目の一人が、こんなにあっけない幕切れ……ありえない。
何かしらの騙しかもしれない……。不用意に近づいたら起き上がり、致命の攻撃か人質に取るかも、と遠巻きに警戒した。
しかし、HP0は揺るぎない。このことについてだけは、システムを騙す方法などありえない。……ただし、仮死状態にさせてやり過ごす方法はあるかもしれない。
息つまる緊張の中、ジョニーの死体を見つめながら時間が過ぎるのを待った―――
しかし/やはり、奴は死んだまま。起き上がる気配すら感じさせない。
あまりの結末に茫然としていると―――ポトリ、ジョニーの顔から仮面が剥がれ落ちた。
コレといった特徴もない、能面のような仮面、金属製ですらない木製。口元に【呼吸器】のようなモノが見えたことから、下層病をやり過ごすための装備だろうとは推測できた。
近づいて拾い上げようとすると―――パァンッ、弾けて消えた。耐久値が0になってしまったのか、光の粒になって霧散していく。
証拠品の喪失を残念がるも、致し方ない。まだ残っているジョニーの死骸に近づいていった。うつ伏せの体をひっくり返す。
「……コレが、ジョニーの素顔か?」
そこにあったモノを見て、驚かされた。
日本人離れした美形。中性的以前に、まだ性差が起きていない子供。それでも、静かに目を閉じている姿は、人形めいた美しさと可愛らしさがあった。将来はきっとイケメンだろうと、あるいはこのまま保存しておきたい気持ちも沸かなくはない。
しかし/だからこそ、違和感があった。オレが感じていた『ジョニー・ブラック』のイメージとだいぶ齟齬がある。年齢的には合っているが、顔の造形が美形過ぎる。それにどこかで、見たことがあるような気が……。
アスナたちも近づいて覗き込むと、オレの疑念を言葉にしてくれた。
「……うそ。この人、エルフ族の傭兵じゃない! なんでこんな―――」
合点がいった。そうだった、傭兵NPCにこんな奴がいた……。フードを捲し上げると、プレイヤーではありえない、エルフ族の特徴たる尖った長耳があった。
ジョニーではありえない誰か。でもそうすると、疑問が出てくる。なぜジョニーの真似などしていた? それ以上に、ジョニーそのものだったのは? 声は奴そのもので、動きもNPCではとても真似できない高度なものだった。いったいどういうことだ……。
謎の影武者に訝しんでいると、近づいてきたコウイチが、
「―――コレが、レッドプレイヤーたちの正体だよ」
このことを知っていたかのように、告げてきた。
「彼らは、NPCをクラックして乗っ取って、自分のもう一つのアバターとして自在に操ることができる。誰でも、何度でもね」
「『NPCを乗っ取る』て、そんなこと―――」
できるわけがない……。だけど、事実は目の前にある。この傭兵はジョニー以外の何者でもなかった。
だけど、納得できない。
「……どうやってこんな事ができるんだ? 理屈は、どんな仕組みだ? どうしてこんなバグが―――」
もしも本当にこんなことができるのなら、いったいどれほどのことができるのか……。まくし立てられたコウイチは、ただ苦笑するのみ。わからないと肩をすくめた。……聞いても詮無いことだった。
「残念ながら、まだ方法はわかっていない。
仮説は幾つかあるが、プレイヤーカーソルまで誤魔化すとなると……本当にチートなのかもしれない。あるいは、私たちが知らないだけの隠された何か、システム外スキルのようなものかもしれない。生身の人間とさほど変わらない応答ができるとしても、NPCであることは変わらない。その間隙を突けば、あるいは―――」
顎に手を当てながら、延々と自分の考察の中に嵌っていった。
いつものコウイチだ。異常な現象だらけの中、ようやくのいつも通りに人心地つけた。
誰かが止めなかったら延々とハマり続ける。さすがにもう止めてやろうかと口を開こうとしたら、
「……本当に、兄さんは知らないんですか?」
代わりにアスナが、別方向からの疑念をぶつけてきた。
本当は知っていて、私たちに隠しているだけでは……。指摘されてようやく、オレも気づかされた。アスナに同意するようにコウイチに目を向けた。
「彼らが教えてくれると思うかい、こんなとんでもない技術を?」
「でも、使えることは知っていたんですよね?」
コレが初めてではない。ソレは、先の発言と態度からわかることだ。コウイチは以前にも、こういったレッド達と対峙している……。
「だからこそ、彼らとは互いに不干渉の条約を結んだ。この情報を非公開にすることも含めてね」
「なんで秘密にもした?」
公開してくれたら、今頃分析も対策もできていたはずなのに……。黙ってまでいてやる理由もない。
含ませた非難に、コウイチはどう説明しようか黙っていると、
「―――あ…ぁ…うぅっ…」
シュミットの泣き声が割り込んできた。……まだ喉にささったままなのを忘れてた。
「とりあえず、先にシュミット君を助けてからにしようか」
「はぐらかすつもりですか?」
シュミットの危険に慌てるも、グッと堪えて兄を問い詰めた。
「……彼を助けに来たんじゃないのかな?」
「何を隠してる?」
オレも参戦した。……シュミットには悪いが、ここで退くと話が聞けなくなる可能性が高い。
二人からの問い詰めに、さしものコウイチも肩をすくめる……ことはなく、小さくため息をつくのみ。
「君たちは攻略に専念してくれ。コチラのことは、私が対処するよ」
「できるのか? 圏内PKがされたとあっちゃ、一人じゃ対処なんてできないと思うがな」
「問題ないよ。圏内PKなんて起きてないからね」
断定に言葉を失った。なぜお前がそれを言える……。
だが、すぐに察した。
「……もう全部お見通しだったのか?」
「まさか。ただの消去法だよ。
レッド達が主犯だったのなら、こんなあからさまで中途半端な真似はしなかった。犠牲者がカインズ君に限られているのもおかしい。もしも彼らの仕業なら、少なくとも【マーテン】にいたプレイヤー全員が対象だったはずだからね」
奇襲で虐殺することはできた……。規模が小さいので、レッドの仕業でないことはわかった。奴らと深く関わってきたコウイチだからこその断言だった。
その指摘に、今更ながらゾッとした。なぜその可能性を考えられなかったのか……。確かに奴らなら、そんな裏ワザを発見したのなら目撃者などいらない。喜々として一つの街程度は、最悪目の上のたんこぶの攻略組を全滅させたことだろう。奴らの被害規模は個人では収まらない。
レッド達でないのなら、バグ技を発見したのではなく何らかのトリックだ。圏内PKなど起きていない。そして動機は、極めて人間じみた真っ当な/個人的な怨恨だろう。……確かに、消去法からわかることだ。
「詳しい事情は、このシュミット君が話してくれることだろう」
もうそろそろ、助けてあげたほうがいい……。もうそろそろ、本当に危ないことになる。
痛みで暴れないよう押さえつけながら、短槍を抜き取った。
◆ ◆ ◆
短槍を摘出、【大量出血】による大ダメージを【回復結晶】にてすぐさま補填。【出血】を消すための血止めと縫合/包帯を巻き、下層病を緩和させるためのマスクをつけてやった。
シュミットはようやく、磔状態から解放された。
完全に危機から脱出すると、大きく吐息を漏らした。全身から力が抜けているように放心して、地面にヘタりこんだ。
そして、助けにきたオレを見上げると、
「……なんで、俺の居場所がわかったんだ?」
第一声は疑念だった。
予想はしていたが、苦笑するしかない……。確かに、シュミットにとっては都合が良すぎる状況だ。
「【決闘】でつかった短槍の破片を、お前の鎧の隙間に埋め込んでおいた。その位置を追跡してきた」
「ッ!? ―――」
説明してやると、すぐさま鎧を調べ出した。
あれこれ自分の体を探り、メニューまで展開して―――ようやく見つけた。
「…………俺を尾行してたのか?」
「気に障ったか?」
売り言葉に買い言葉。プライベートの侵害だろうが、今回においては正しかった。……正しいことになった。
それ以上は何も言えず、ムスリとされると、
「シュミットさん。まず、言わなきゃならないことがあるんじゃなくて?」
進みでたアスナが、彼に冷たい視線を差し向けた。
プライドやら借りを作りたくないやら、事情は色々とあるだろうが、全くもっての正論だ。謝ったほうが負け理論/攻略組の風土など、今のオレ達の間では通用しない。特に、目の前のアスナに対しては。
叱られて萎縮させられると、しぶしぶながら
「―――ありがとう、助かったよ」
小声で感謝してきた。
どういたしまして……。言葉には出さず肩をすくめただけで答えた。……声が小さくて聞こえないなど、ほじくらないだけマシだと思ってもらいたい。
いちおうの礼儀は果たすと、本題に移った。
「色々と、聞きたいことがあるんだけど、いいよな?」
「……ああ」
「その人は、お前が殺したの?」
背後の墓を指し示しながら尋ねると、ビクリと身を竦ませた。
先の覗き聞きで知ってはいたが、改めて確認……。まだ事情を知らないアスナは、目を丸くしてオレを見据えてきた。
「……違う、俺じゃない」
「それじゃ、共犯者か? 直接手を下してはいなかっただけ?」
「お、俺はただ、指示通り動いた……だけだ。ソレでまさか、あんなことが起きちまうなんて……」
思いもよらなかった……。無意識の共犯者だ。知らされずに利用されたのだろう。
それじゃどうなると思ってたんだ……とは、問い詰めることはない。オレの目的は事件の解決であって、シュミットの罪悪感を晴らしてやることじゃない。それに、半年も前のことなら充分な罰になっているはず。……アスナがどう考えるかは、わからない。
悔恨は無視して、必要なことだけ尋ねた。
「犯人に心当たりは?」
「……わからない。ただ、やるとしたらグリムロックだろうな。アイツは、グリセルダさんと【結婚】してたし、リアルでも関係が深かったみたいだしな」
「【結婚】て……二人は夫婦だったの?」
思わずアスナが確認すると、頷かれた。
確定だな……。動機が充分すぎる、犯人はグリムロックだ。アスナも同じ結論に達した。
しかし、まだわからないことは残っている。
「グリムロックの復讐……なら話は早いだろうが、ジョニーとの関わりがわからないな」
「殺しの依頼、なんてものをできるツテがあるってこともね。そうなると、『復讐』て話も疑わしくなってくるわ」
「そうだよな……。
目的がわからないな。ジョニーが扇動したからかな?」
「そうね。自発的にしては、積極性が足りないものね……。何か弱味でも握られてたのかな?」
「弱味か……。もしかすると―――」
グリゼルダさんを殺したのは、彼か……。口にしようとして、やめた。無茶苦茶が過ぎる仮説でもあった。『前の殺しの依頼』が弱味ならば話は通るが、そもそもやる理由がわからない。あまりにも復讐からかけ離れている。
色々と考察できるが、証拠が足りない。ここではここまでだろう。
「コウイチ、【グリムロック】の居場所、わかってたりするか?」
「残念ながら、私が把握していたのは2ヶ月ほど前までだ。そこから先の行方はわからない」
それでも、把握はしていたのか……。どういった情報網なのか気になるが、確実だとはわかっている。そして、そんなコウイチですら把握できなくなった。中層域のプレイヤーならば、【軍】の幹部でなければレッド以外にありえない。……グリムロックが犯人である証拠がまた増えた。
ただ、一番知りたいことはわからなかった。代わりに、シュミットに聞いていきた。
「もしも、グリムロックが犯人だとしてだ、次に誰を狙うか見当はつくか?」
「……わからん。俺自身が最も狙われると思ってたから、もう一度……来るかもしれない」
おどおどとしながらの指摘に、気づかされた。……その可能性は考えていなかった。確かにまた、シュミットを狙ってもおかしくない。
「それじゃ、二番目はどうだ? カインズさんの他に狙われそうな人は?」
「……ヨルコだと、思う。あいつも売却反対派だったから」
まさか本当に、彼女が狙われていたとは……。防御策を講じておいて良かった。
狙われている二人を一箇所に集めておけば、犯人の方から姿を現してくれるはず……。追いかけるだけから、罠を仕掛けるまでに至った。あとは待てばいいだけ、事件解決は目前だろう。
犯人逮捕の見通しが立つと、部外者を決め込んでいたコウイチが口を開いた。
「もう、君らだけで解決できそうかな?」
「……見届けたくないのか?」
「個人的な怨恨、らしいからね。コレ以上は私が関わるべきじゃない」
「それは、もう結末を知ってるから、てことか?」
「君までもか……。買いかぶり過ぎだよ。ただ、私が対処すべき事案ではなさそうだ、というだけだよ」
これ以上首を突っ込めば、解決できる事件が解決できなくなる……。コウイチが絡めば、必然【軍】やレッドの暗部とつながってしまう。ジョニーも関わっていることから、関わりは0ではないだろうが/ゆえに、落とし所を失ってしまう。……オレ達の目的はゲームクリアであって、事件解決は寄り道だ。
暗に諭されると、眉をしかめるが飲み込んだ。アスナも、知らないでいてくれたのか、兄貴を睨みつけただけだ。
「何かあったら連絡してくれ。私のできる範囲で、いつでも助けになろう―――」
そう別れを告げると、オレ達から少し離れ、耳に取り付けていた改造結晶を発動させた。
光の柱に包まれると、何処かへ転移していった。
「…………あッ!? 聞き出すの忘れた」
上手いこと流されてしまった……。後の祭りだ。
アスナ共々、頭を抱えさせられた。
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長々とご視聴、ありがとうございました。
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