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少々強引ながらも構わず、ヨルコさんをホームまで送り届けていく。
近くの宿屋まででいい、とは言われたものの、安全を考えればホームに越したことはない。その点はアスナも同意。
転移門をくぐり下層へ、ヨルコさんホームへと向かった―――
転移門をくぐり抜けた直後、いつものように体が重くなった。
酸欠状態に似ているが、空気が薄くなったわけではない。一緒に来ているヨルコさんは何ともない、オレとアスナだけが苦しくなっている。
『下層病』―――。そのフロアの適正レベルを遥かに超えてしまったプレイヤー達にだけかかる病、高山病みたいな症状だが下に降りれば降りるほどひどくなる。現在の攻略組の平均レベルだと、40階層代で体がだるく疲れやすくなり30階層代でまともな戦闘ができなくなる、20階層以下だと歩くのすら困難になる。ただ、どの階層であっても主街区や【圏内】/迷宮区内では症状が幾分か緩和される。……今ここであっても、立っていられるのはそのためだ。
かと言って……このままではマズい。護衛の意味がない。
下層に降りる際の準備。二人とも、素早くメニューを展開すると、それぞれ親指大の飴玉を取り出し……口に入れた。口の中でコロコロ転がす。
【兵糧丸】―――。口の中に入れて舐め続けるとリジェネ効果、噛み砕くと大きさ次第でハイポーション並みの回復薬になる。ただ、普通の回復薬とは違い食料扱い、なので同時に腹も膨れる。下層病の原因は、呼吸だけ/下層の空気では高レベルの体を維持するに足るエネルギーを確保できなこと。なので、病の緩和剤にもなる。ポーションでは一時しか効果がなく、他の携行食だと口から零れるのが気になってまともに動けない。
ただし、あくまで緩和剤。長くても1時間程度しか持たない、戦闘を挟めばもっと短くなる。長期滞在をする場合は、【軍】のメンバーが装備しているようなガスマスクが必要になる。あるいは、【吸魂の灰晶石】の経験値ドレインにて、レベルそのものを下げるしかない。……幸いなことに今回は、その必要はなさそうだ。
体の調子が普段通りに戻るのを感じると、ヨルコさんに従っていった。
そしてようやく、ヨルコさんのホームにたどり着いた。大通りに面した二階建て/レンガ風の家、こじんまりとしているがオシャレでもある。
「ここが、ヨルコさんのホーム?」
「は、はい」
「中を調べさせてもらう」
「はい……て、えぇーッ!?」
「何言ってるのよキリト君!?」
ヨルコさんと、アスナからも驚愕。悲鳴じみた声をあげられた。
大胆な発言ではあると、自覚はしていたが……少々傷つく。
「安全確認のためだよ。
いちおう、大丈夫だとは思うけど、レッドなら抜け道の一つや二つ心得てるからな。他人のホームの扉を破るなんて、圏内でPKやるほどには難しくない」
決して、いかがわしい目的じゃない……。正当な理由を告げると、言い返されることはなかったが、顔はオロオロと非難をさらけ出してた。
アスナも理解してくれたが、ヨルコさんの気持ちを力強く代弁してきた。
「安心してヨルコさん。私がしっかり、見張ってるから」
アスナからの睨みと念押しで、ようやくヨルコさんも納得してくれた。
オレ、どれだけ信頼ないんだよ……。というか、男性プレイヤーそのものの信頼度かな。そうであって欲しい。
「……そ、そういうことでしたら、お願いします」
許可を得ると、ヨルコさんに続いてホームに入らせてもらった。
「キリト君。わかっているとは思うけど、少しでも怪しい真似したら―――」
「やりませんよ! 何しに来たと思ってるんだよ?」
オレは容疑者じゃないのに、短いながら生涯で痴漢なんてやったことないのに……。アスナの厳重な監視の中、ヨルコさんのホームの捜索した。
ガサゴソがさごそと、家宅侵入者が使うであろう抜け穴をチェック、チェック―――
今日あったばかりの女性の部屋に、ほぼ勝手に上がり込んでいる。そう思い出してしまうと、知らずドキドキしてしまう。だが瞬時に、仕事だと律した、律し続けた。……オレの情熱よ、今は、今だけは鎮まっていてくれ。
賢者に徹しながら、目星しい場所をチェックした。―――問題なし。
「―――大丈夫みたいだな。誰かに侵入された痕跡はないよ」
「そうですか……。よかった」
ホッと安堵の吐息をこぼした。……侵入者がいなかったことか、それとも他人に部屋を荒らされるのが終わったことかは、わからない。
安心している中、非常に心苦しいが……まだ終わっていない。
「もう一つ、コイツを使って、部屋から通りを監視させてもらう」
メニューから取り出したアイテムは、手のひら大の楕円球の水晶。平たい球面に可動性のある小さな台座がある、その底面にはあらゆる素材にくっつく粘着シールが貼られている。
「ソレは……何のアイテム、ですか?」
「【義眼の視晶石】。ワイヤレスの監視カメラみたいなものだ」
「待ってキリト君! さすがにソレはやりすぎよ」
「……それじゃ、ここに泊めてもらえる?」
無理だよね……。オレから目を向けられると、ヨルコさんはギクリと顔をしかめた。
アスナは何か言いかけるも、代わりに大きく吐息をこぼした。諦めたように肩の力を落とした。
「オレ達は、四六時中ヨルコさんの傍にいることができない。犯人を追い詰めるためには、色々と動き回って調べなきゃならないこともある。……設置してるだけでも、牽制になるしな」
監視の重要性。護衛として、手抜かりがあってはならない……。理詰めで強引に認めさせた。
二人何も言えないでいる中、監視カメラを設置する。誰がホームに入ってこようとするのか見れるように、扉と前の通りがハッキリと見れる位置。ホームの中なら壊される心配はないので、偽装処置やダミーの設置はいらない。
オレが一人作業していると、アスナは何か吹っ切れたように顔を上げた。
「……よし! ここまでやるのならいっそのこと、NPCの門番と護衛も雇いましょう!」
オレに触発されたのか、大胆な発言。驚いて作業の手が止まってしまった……。ヨルコさんも、口をあんぐり開けていた。
「そいつはいいアイデアだけど……。買収されないような奴は高額要求してくるし、探し当てるのも難しくないか?」
「大丈夫! 【騎士団】で確保している人がいるから、その人たちに頼めばいいわ」
『傭兵NPC』―――。特定のクエストで、プレイヤーを助けてくれるNPCがいる。大抵は攻略期間中のみの関係だが、諸条件を満たせばその後も協力してくれる、クエストの輪から外れ傭兵となる。
さすが、大ギルドは違う……。信頼できてかつ高レベルの傭兵となると、数は限られる。給金の高さもあるが、それ以上にどれだけ長くパーティーを組んで戦ってきたか/絆を深めてきたが問われる。装備品や持たせるアイテムも揃えてやらねばならない。使い魔以上の金食い虫だ。
ソロプレイヤーであるオレには、必要なお助けキャラ達だが、お金と手間暇を考えると一人の方が効率がいい。……初期レベルのまま遊ばせたままにしてあるので、護衛には使えそうにない。
「あ……あの! そんなことまで、してもらうわけには……」
「いいのよ、気にしないで。命には代えられないから―――」
恐縮を越えて恐慌しているヨルコさんをいなすと、アスナはメニューを開き、傭兵たちへの仕事依頼のメッセージを送る―――
続々と要塞化してく己のホームに、呆然としているヨルコさん。オレの方の作業は終わったので、彼女の下に戻ると、
「あとは―――コレを持っててくれ」
「何ですか、この……イヤリングは?」
「改造結晶だ。転移結晶と同じ働きをもっている。片手を塞がれず使えるんだ、意識を耳に集中するだけでいい」
説明すると、オレとアスナの耳にも同じものがあると見せた。
そして、簡単な使い方の説明―――。
そういえばオレ、初対面の女性には必ずコレ渡してきたな……。図らずも/遅ればせながら、改造結晶の営業をしてきたことに気づいた。コペルの奴から給料、もらってもいいかも知れない……。
「……こんな便利なものが、あったんですね」
「プレイヤーメイドだよ。攻略組には普及してるんだけど、それ以外にはまだ知られてないのかな。……普通の結晶と同じで、使い捨てだから気をつけてくれ」
オレ達のは最新型の充填式。力を込め直せば、わざわざイヤリングごと変えなくていい。残念ながら予備は持っていなかったので、残っていた使い捨て式を渡した。
「―――返事がきたわ、OKだって。30分後ぐらいにここまで来てくれる」
そう告げると、傭兵NPCの外見と名前をヨルコさんに教えた。信頼できる人達であるとも、念を押して。
まだオロオロと、どうすればいいのか迷っているヨルコさんに、アスナは続けた。
「私が雇ったけど、ボスは貴女ということにしたわ。
身の安全が最優先事項だけど、行動の全部を阻害したりはしない。充分に安全なマージンを取れるのなら、迷宮区でも一緒に行動して戦ってくれるわ」
解説し終わるとニコリと、安心させるように微笑んだ。
向けられたソレにヨルコさんは、もう返品はできないと苦笑を返すしかなかった。
ホームの安全確保に監視カメラ、おまけに護衛二人も雇った……。今はこれ以上、やれることはないだろう。
「何かあったら、いつでも連絡してね。すぐに駆けつけるから」
最後にアスナからメアドを送られると、ヨルコさんは、ただただ恐縮しながら頷いた。
ヨルコさんのホームから出ると、
「さて、次は―――コイツらを調べるか」
首吊りロープと胸を刺した短槍、殺人の証拠。コレらから犯人を辿れるはず。
ただし、
「アスナは【鑑定】、鍛えて……るか?」
「……履歴見れるほどじゃないわ」
ですよね……。オレも、簡単な目利きができる程度だ。
「リズに頼むのが一番だけど、今の時間帯だと……忙しいはずね」
「関わらせるのも少し、躊躇うしな……」
色んな意味で……。昨日の【軍】との一件が、まだ大きく尾を引いているはず。その上レッドのことなど、背負わせたくない。
「……NPCの鑑定士は、どう?」
「金次第でいけなくもないが、プレイヤーメイドだった場合は、極端に情報少なくなるからな……」
「銘と製作者はわかるんだし。試してみてもいいんじゃない?」
「うん、ただなぁ……。一回【鑑定】すると、履歴へのアクセス権がほとんど消えちゃうだろ? 使用者とか攻撃対象とか、一番見たいものがさ」
「そりゃ、そうだけど……。かと言って、このまま何もしなかったら、全部見れなくなるわよ?」
ソレこそ本末転倒だ……。まだ短槍には、犯人の使用履歴とカインズさんの【血痕】がついているはず。それらは重大な情報だが、揮発性が極めて高い。あと一時間もしたら消えてしまう、生半な【鑑定】をしたらソレだけでも。さらに、偽装処置が施されていたら、偽の情報を掴まされてしまうことになりかねない。
熟練の鑑定士が欲しい……。いい考えは出ず、何気なしにアスナの顔を見ると、聞いてみた。
「【騎士団】の鑑定士はどうだ? アスナが言えば、ゴリ押せるんじゃないかな?」
「……武装の管理についてだけは、メンバー独自でやってるのよ。だから、ソレを見れるだけの鑑定士はいないの」
頼りになれなくてごめんなさい……。謝られると、逆にこっちが慌てた。部外者かつ潜在的なライバルでもあるオレが、聞いていい内実ではなかった。
ソレ以上は要求などできず、代わりに知恵を出さなくてはならなくなった。
悩みに悩んだ末……一人だけ、思い浮かんだ。
「……熟練度はイマイチ不安だけど、知り合いの雑貨屋に頼むか」
「それって……エギルさん、だっけ? 大柄で禿頭の、外人みたいな」
良くご存知で……。善は急げ。メニューを展開し、エギルへと連絡する。
「でも、雑貨屋さんだって、この時間は忙しいんじゃない?」
「知らん。このぐらいの貸しは充分ある」
ありすぎるほどだ……。メッセージを送りつけた。
◆ ◆ ◆
メッセージの返信を待たずにそのまま、エギルの店まで直行した。
50層【アルゲート】―――。一階層【はじまりの街】に次いで巨大な主街区、中華風の街並み。
雑多すぎて迷宮にもなっている街には今、数多くのプレイヤーがホームを構えていた。土地代の安さといい必要な店が全て揃っているのもいい、残念なのは景観と開放感の少なさだけだ。なので、オレもその一人に入っている。
「ここって、キリト君のホームもあるんだよね?」
「……ああ。南の川沿いにあるよ、ここから歩くと少し、遠いかな」
その代わり、水路を使えば楽ちんだ……。街に幾重にも走っている人工水路、水上には大小色々な船が多数。ファストトラベルとして/バスやタクシーとして使われている。とあるクエストを攻略すれば、日が落ちるまではタダで乗れるようになる。
「そうなんだ……。
ねぇ、今度行ってみてもいいかな? 見てみたい」
「……面白くもなければ、綺麗でもないぞ? ほとんど寝るだけの場所だし」
食事は外食、仕事は攻略、時にはダンジョン内で一夜を明かすこともある。別の階層に用事があれば長期間開ける。仮眠室かつ倉庫、といったところ、インテリアなど全く考えてない/ほぼ初期状態だ。
遠回しに遠慮させようとするも、
「良いか悪いかを決めるのは私だし、どんな場所でも文句は言わないわ。いいでしょ?」
粘ってきた。
アスナの顔をじっと見つめた。どう判断すればいいのか……。わかったのは、引いてくれそうにないということ。
なので、ハッキリと言うことにした。
「代わりに、アスナが来た後すぐ別の場所に引越さなきゃならない、て言ったら……どうする?」
「どうしてそうなるのよ? 私はただ、遊びに行くだけで―――……!?」
オレが言いたいことを察してくれたのか、顔をしかめられた。怒りたいけど何も言えず、ただ眉間にしわを寄せるのみ。その一言で、和やかだった空気が冷たくなった。
アスナがオレのホームに来た場合、例え彼女に悪意がなかろうとも、後から悪意がやってくる。聞きつけた誰かが寝込みか居留守を狙ってくる、安全なホームは途端に危険地帯になる。
もちろん、彼女もソレは承知しているだろう。目を光らせてくれるだろうし、そもそも傍にいられる奴らがそんな悪意を向けてくるとは思っていない。怖いのは、彼女自身が自分の影響力をコントロールできないことだ。隠されていたものを明らかにすることは簡単でも、その逆は困難極まる。
「先に言っておくけど、君のことは信頼してる。だけど、君の周りの人全てはそうじゃない、君ほどには信頼できない」
「……そこまでいくと、病気か疑っちゃうわよ」
「君こそ。自分が眩しすぎることに、気づいた方がいい」
真っ向から言い返すと、大きくため息をつかれた。頭まで抱えられる。
仕方がないことだ、慎重さこそが身を救う……。ビーターたるもの、ホームから一歩外に出れば何十人もの敵がいる。組織として動かれれば何百人だ、ヘタしたら千を越えるかも。匿名性を保てれば保てるほど、安全性も増してくれる。
呆れられるも、また喧嘩になりそうな空気が立ち込めていた。
また剣呑になるのは、心の衛生上よろしくない。平行線以外の決着がついたことがない。どうしたものかと、悩まされていると―――ちょうどよく到着した。
エギルの店の前。中は予想通り客でゴミゴミ、忙しく商売していた。
確認してから扉を潜ろうとする寸前、一緒に入ろうとしたアスナを止めた。
「……少しそこで待っててくれ」
「何でよ?」
いいからいいから……。説明するとめんどくさいことになるので、強引に押しとどめた。
不満タラタラながら何とか止まってもらうと、一人先に店の中に入った。
「うーっす! 来たぞぉ!」
入店一番、店中に聞こえる声で無遠慮に告げた。
客たちは何だなんだと、コチラに注目してくるも構わず、真っ直ぐエギルがいるカウンターまで闊歩していく。
「何だなんだ? この店じゃ、大事なお客様に『いらっしゃいませ』も言えないのか?」
「……テメェは客じゃねぇからな」
「おいおい、硬いこと言うなよ、オレとお前の仲なのに。寂しいじゃないか」
目はそのまま口だけで笑顔を作ると、ドカリ―――カウンターに座った。すぐ傍でエギルが対応していた客がいたが無視して、むしろこれみよがしにアピールした。
不躾な態度に唖然と、続いて文句を言われる前に、
「悪いな、今日はもう閉店だよ。とっと帰ってくれ」
手をヒラヒラ/追い払うように、隣の客に言いながら店中に聞こえるように言った。
今度は店中の客が目を丸くした。続いて不満をぶつけられそうになるが、
「すまねぇ……。また明日来てくれ」
エギルの謝罪が差し挟まれると、喉元で抑えられた。信じられないという顔を向けてくるも、店主からの頼みなら従うしかない。
客たちもすごすご、去って行った。……去り際、オレに軽蔑を込めた視線を向けながら。
二人きりになると、エギルはメニューを展開し、閉店処理を行った。
店内中パタパタと、棚に置かれていた商品たちが棚ごと壁に取り込まれていく―――。色とりどり雑多だった店内がスッキリと、伽藍堂にもなったかのように広々となった。
ひと昔は続いて、ニョキニョキとテープルと椅子を生やすのだが、今は商店として繁盛しているからカフェまではやらず。そのままだ。
閉店処理を終えると、もう一度店内を確認してから、ようやく口を開いた。
「……それで、要件は?」
「待て、外で待たせてる」
もう入ってきていいぞ―――。声をかけると、店内にアスナが入ってきた。……よく今まで我慢してくれた。
瞠目するエギルに、丁寧に挨拶した。
「お久しぶりです、エギルさん。……昨日は、【騎士団】のメンバーが大変お世話になりました」
遅ればせながら、副団長として感謝申し上げます……。ペコリとのお辞儀付きに、エギルの方が慌ててしまった。
「お、おう……いやいや、はい! こちらこそ……です」
「敬語なんてやめてくださいよ。エギルさんの方が年上ですし、私なんかよりかみんなの為に働いてくれてます。もっと気を楽にしてくれた方が、こちらとしても助かりますよ」
「そ、そうですか……いやいや、そうかい。そりゃよかった! 俺も堅苦しいのは苦手なんでな」
はっはっは―――と、たがいに相好を崩した。
予想外すぎる相棒に、なにか文句でも言われるかと思ったが、何も言われず。……目の保養になれたのだから、言われても言い返してやったけど。
「とこで……キリト君。ああいうこと、いつもやってるの?」
「ああいうこと、ていうのは、どういこと?」
向けられたアスナの顔から、何を言いたいのかおおよそ察しはついていたが……あえて聞いた。答えを用意し忘れていた。
アスナもそれを察してか、無言を返してきた。ハッキリと言葉には出さずに済ますが、ゴネるようなそうすると匂わせながら。
また悩まされる。どう言えばいいのか、言葉を探してみた……。
答えは、正直だった。
「今日みたいな緊急時で、フジノさんが不在の時だけ、だな」
「おいおい、いつも似たようなもんじゃねぇか」
そうだったっけ……。エギルの軽口に肩をすくめて答えた。
エギルの介入で話の接ぎ穂が見いだせなくなったのか、アスナはそれ以上追求せず。ほんの少しため息をつきながら、
「……とりあえず、今は気にしないでおくわね」
ソレでいい? ……オレだけでなく、エギルに向かっても、二人の間に交わされた暗黙の了解に対して。
含ませた鋭さ/「私は知ってるから」に、オレは苦笑、エギルも若干引きつってしまうも同じく。……アスナ慣れしていないと、大概そうなってしまう。
誤魔化すように/仕切り直すようにコホン、わざとらしく咳をすると、
「それで、要件てのは何なんだ?」
改めて、ここにきた要件を尋ねてきた。
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長々とご視聴、ありがとうございました。
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