偽者のキセキ   作:ツルギ剣

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64階層/マーテン 捜索

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 無事に広場に着地すると、ぶつけられた短槍を拾い上げた。

 教会の二階を睨みつけた、難なく逃げた犯人のことを思う。あのフード被った奴、いったい何者なんだ……。

 考えにふけっていると、集まった野次馬が事情を知ろうと話しかけてきた。

 

「おい、あんた……て、キリトだったのかよ!?」

「ん? ……ああ、久しぶり!」

 

 話しかけてきたのは、狩人風の軽装なれど斧槍という重武器を装備している男。何度かパーティーを組んだことがあるプレイヤーだ。

 

「相変わらず、無茶すんなお前……。

 あの吊るされてた奴、大丈夫だったのか? それにお前も、何かぶつけられただろう?」

「オレはこの通り何ともないよ。吊るされてた奴は、とりあえず二階に押し込んだから、あとは自力でどうにか……できるはず」

「そうか……。

 それで、あれをヤった犯人はどうした?」

 

 誰もが一番聞きたかったであろう質問に、周りも耳をそばだてた。

 

「……逃げられた。オレぐらいの背丈だったけど、フード被ってたから男か女かわからない」

 

 簡潔に教えると、周りがざわつき始めた。空気に恐怖の色合いが増していく。

 無理もない。正体不明の殺人鬼ともなれば、容易に想像してしまう輩がいる……。こんな公衆の面前で教えたのは、少し失策だったのかもしれない。犯人の思惑に手を貸してしまったような気がして、顔をしかめた。

 気持ちを切り替えようと、もうたどり着いただろう二階のアスナに向かって、声をかけた。

 

「アスナ、どうだ! 彼は大丈夫か?」

 

 窓の奥、返事は返ってこない……。しばらく間を開けても、顔すら見せてこなかった。

 

「……おい、どうした? 返事してくれ」

 

 もう一度声をかけるも、やはり返ってこない。

 一抹の不安がよぎた。まさか、もう一人潜んでたのか―――。

 

「おい、キリト!? どうした急に?」

「悪い、入口塞いどいでくれ!」

 

 急いで指示すると、オレも教会の中へと入った。

 

 

 

 

 

 一階に常駐しているNPCシスターたちの群れを避け、奥にある階段を登る。駆け上る―――

 

 二階には、4つの小部屋があった、どれも似たような扉と作り。

 大都市以外の大概の教会は、信者や貧者たちへの無料宿泊所ともなっている。プレイヤーも使うことはできるが、最低限の寝具で食事なし・防犯機能0なのでほとんど使われない。4つともどれも宿泊用の部屋だろう。だが、犯人たちがいたのは一つだけ

 広間から見えるであろう位置、アスナが無理やり開けたと思わしき半開きの扉。その部屋へと入った。

 

 入った部屋の中には……アスナ一人だけだった。オレを襲った犯人はもちろんのこと、恐れていた伏兵もいない。そして―――首吊り男もいなかった。

 アスナは絶句しながら立ちすくみ、部屋に残っている短槍とロープを見つめていた。

 

「アスナ、彼は……どこにいったんだ?」

「……ゴメンなさい。私が着いた時には、もう……」

 

 最後まで言い切れず、悔しげに歯噛みした。

 今度は、オレの方が絶句した。

 

「そんな……。オレが掴んだときには、まだ生きてたのに……」

 

 あのほんの少しのタイムラグで、HPが尽きてしまったのか……。ヨロヨロと、体が傾いだ。思わず頭を抱える。

 

「掴んだ、て……あ! だからロープは、部屋の中にあるのね」

「ああ……。【壁走り】使って、掴んで窓から中にいれて、それで……」

 

 犯人と遭遇した……。彼を助けられなかった。

 

「それじゃ、犯人の顔を見たの?」

「……悪い。フードで顔隠されてた。それに、ほとんど一瞬だけでコイツを―――ぶつけられて、落とされた」

 

 アスナに、犯人が投げてきた短槍をみせた。

 床に落ちているもの、つるされた男に刺さっていたのと同じ短槍。大していい金属を使ったわけではない/そこそこの品だろうが、ギザギザと返しがいくつも付いている凶悪な外見、【貫通継続ダメージ】をもたらすであろう作りをしている。

 

「ぶつけられた……て、大丈夫だったの!?」

「ああ。【圏内】の防壁に守られたからな」

 

 ここでは当たり前のこと、だけど彼には違った。いったいどうして……。

 後悔に沈みそうになるのをギリギリ、頭を振って払った。

 

「……ここにいた奴が、彼にデュエルを仕掛けてこの短槍を突き刺した。そして、見せしめに吊るした、てところか」

「こんな趣味悪いこと、ただのPKじゃないわよね。……レッドの仕業?」

「おそらく、そうだとは思う。……フード被ってた奴のカーソルは、グリーンだったけどな」

 

 それだけはハッキリとわかっている。【圏内】に不自由なく入っているので当たり前だが、手掛かりの一つにはなる。

 

「なら最近、カルマ回復クエストを履行したプレイヤーが怪しいわね。ウチで調べられればいいけど……」

「【軍】がほぼ独占してるしな。話が通るかどうか……」

 

 わからない……。オレはつい先日もめたばかりから、交渉したくもない。アスナとて難しいはず。彼女が動けば、プレイヤー全体に影響が出てしまう。

 犯人逮捕のためとはいえ、他人のプライバシーを独断で盗み見するようなものだ。クエストを受けたからといって、犯罪者であるとは必ずしも言えない。しかし、ここで彼女がそう判断して強行したら、これから先『前科者』というレッテルができてしまう。例えカーソルがグリーンであったとしても、犯罪者と同じような扱いを永遠と受けてしまうことになる。……ソレが【軍】の狙いでもあるのだろう。

 独占はしているものの、積極的には目的を実地していない。むしろ逆に、プライバシー保護をうたっている。誰かがそうしないように防いでもいる、というのが大義名分だ。しかしソレは、攻略組という一大勢力の牽制があってこそだ。もしも目の上のたんこぶがなくなれば奴らは、犯罪者達をえぐり出すために『前科者』も新設するはずだ、喜々として。

 【軍】に手を貸すようなマネを、するわけにはいかない……。なので却下、次善案でいい。

 

「もしもレッドなら、例え今はグリーンだったとしても、【黒鉄宮】からの捕縛クエストが出回ったはずだ。過去の【ブラックリスト】から辿るのもありだろうな。

 ただ今は、こいつから―――分かることを探る」

 

 証拠物件である、首吊りロープと胸を刺した短槍。これらのアイテムに刻まれた情報から犯人を捕まえることは、充分可能なはずだ。

 もう一つ、この事件現場/この建物自体の履歴を見ることができれば、完璧だが……難しいだろう。そのためには、建物を購入しなければならない、ホームなら履歴を見れる。さらに、この教会を購入するには、【法王庁】からの許可も得なければならない。金だけでは解決できず、やれたとしても莫大な金額だ、得られるメリットも少ない。……現実的じゃない。

 

「どうする? オレはこの犯人を捕まえようと思うけど、君は?」

「私もやる。このまま放置なんてできないわ」

 

 予想通りの意気込みだが、水を差さなければならない。

 

「……ギルドの方はいいのか? 確か君らは、ゲーム攻略にだけ専念して、プレイヤー同士の揉め事には関知しないんじゃなかったか?」

「それは団長のスタンスで、【騎士団】の理念じゃないわ。ほかのメンバーだって、レッドを放っていいとは思ってない。それに何より、このまま副団長の私が何もせずに引き下がれば、ギルドの沽券に関わるわ」

 

 そう、何処かに隠れているであろう犯人へ啖呵を切ると、先までの気弱さから、閃光の/副団長の顔つきになった。どんな難敵すらも駆逐してきた、攻略の鬼の顔。

 終わったな、犯人……。オレもニヤリと、応えた。

 

「それじゃ、解決まで協力よろしく!」

「こちらこそ。絶対に、捕まえてやろう」

 

 差し出された手を握り、固く握手し合った。

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 教会から再び広場に戻ると、上で何が起きたのか質問攻めにあった。

 どれかに答える前に、こちらから 

 

「すまない。先の一件、最初から見ていた人はいるか? いたら話を聞かせて欲しい」

 

 呼びかけると、人垣の中からおずおず、一人の女性プレイヤーが名乗りあげてきた。

 前に進み出てきてくれた女性は、これといって特徴のない格好だった、クラスでもあまり目立たたないタイプだろう。武器は片手剣でNPCメイドの装備類、中層域の観光組だろう、ここの料理はどの店も旨い。

 オレを見ると、なぜか怯えられた。心当たりはないので、ちょっと傷つくんだけど……。代わりにアスナに答えてもらった。

 

「ごめんね。怖い思いしたばっかりなのに……。

 あなた、名前は?」

「あ……あの、私は、【ヨルコ】ていいます」

 

 女性の/ヨルコさんのか細い声に、聞き覚えがあった。

 つい口を挟んだ。

 

「もしかして、さっきの最初の悲鳴も、君だった?」

「え? ……は、はい!」

 

 やっぱりか……。なぜか緊張しきっている目の前の彼女から、アレだけの声量がでたとは考えられないが、事が事だったからだろう。人は見た目だけでは判断できない。

 オレが一人納得していると、ヨルコさんが恐る恐ると尋ねてきた。

 

「あ……あの人は、どう……なったんですか? 無事……なんですよね?」

 

 その質問に、オレもアスナも一瞬、詰まってしまった。聞き耳を立てている野次馬たちも、興味を向けてきている。

 どう答えればいいのか、目配せし合った。ただの勘でしかないが、ヨルコさんは被害者と関係が深い人のように思えた。正直に答えればいいのか、だがこんな公衆の面前で? それとも、どうやって……。

 逡巡してしまっていると、アスナが答えた。

 

「……ごめんなさい。間に合わなかった」

 

 そんな―――。声にも出せず震えて、へたり込みそうになるのを堪えた。

 そして徐々に、事実をを理解していくと、純朴そうな瞳に涙を浮かべてきた。彼女の絶望が周囲にも波及したのか、沈鬱な空気も立ち込めてきた。

 見ていられず、顔を伏せていると、入口を塞いでもらった知り合いが小声で話しかけてきた。

 

(マジかよ、死んじまったのか……。

 でもお前、大丈夫だって?)

(……たぶん、掴んだ時点でもうHPがなくなりかけだった、と思う。自力で抜ける時間もなかった)

 

 オレが吹き飛ばされ、アスナが部屋に突入するわずかな時間、大丈夫だろうと見込んだ。けど、実際は……致命的なミスだった。

 掛けられる言葉を見つけられずにいると、またもやアスナが励ましてきた。重々しい空気を断ち切るように、ヨルコさんへ宣言する。

 

「私たち、アレをやった奴を捕まるつもりよ。だから……どんなことでもいい、話を聞かせて欲しい」

 

 真っ直ぐに凛と、復讐の肩代わりを請け負った。

 初対面の人に、これだけハッキリ言い切るなんて……。躊躇してしまった自分が、少しばかり恥ずかしく思えた。

 アスナの本気が伝わったのだろう。ヨルコさんの目にも、ほんの少し光が灯ったように見えた。絶望から起き上がり、声を上げてくれた。

 

「私……私は、あの人と友達……だったんです。今日は一緒にご飯、食べに来て、でもこの広場ではぐれちゃって……それで。そうしたら、こんな―――」

 

 ソレ以上は言葉にならないと、口元を覆った。涙が溢れてくる……。

 

「……ここじゃ何だし、あそこのカフェにでも行こうか」

 

 周りの目を気にして、それとなく提案してきた。

 ヨルコさんも頷くと、そのまま導いていく―――。

 オレも当然、二人の後に従うも、協力してくれた知り合いと、ついでに野次馬たちに向けても、

 

「お前たちはどうする?」

「……閃光とお前が組んで探すって言うなら、俺たちの出番はねぇよな。犯人も捕まえてくれるだろうし。

 ここで退散させてもらうよ。協力できることがあったら連絡してくれ―――」

 

 そう言うと手をヒラヒラ、退散していった。彼らに釣られて野次馬たちも散っていく……。

 無情な態度に顔をしかめそうになるも、仕方のないことだと飲み込んだ。……オレが彼らでも、同じような態度を取ったかもしれない。

 この世界では、誰かの死というのは身近な出来事だ。なので、わざわざ騒ぎ立てたりはしない。ここから去ってホームのベッドでゆっくり眠ったら、忘れる、そうしなければ生きられない。自分が背負える命には限りがあると、多かれ少なかれ痛感している。

 それに、グダグダとついてこられても面倒だ。あれぐらいサッパリした方が、よかったのかもしれない……。彼らを見送りながら、アスナたちの元へとついて行った。

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 静かな窓際の席、気持ちも幾分か落ち着くと、話してくれた。

 

「あの人……名前は【カインズ】て、いいます。

 昔、同じギルドにいたことがあって……。今でも、たまにパーティー組んだり、食事したりして……。それで今日も、ここで晩ご飯食べに来て―――」

 

 また悲しみがこみ上げてきたのか、ギュッと目を閉じ、搾り出すように続けた。

 

「……でも、あんまり人が多くて、見失っちゃって……。周りを見渡してみたらいきなり、あの教会の窓から人が、カインズが落ちてきて、宙吊りに……。しかも、胸に、槍が……」

「その時、誰かを見なかった?」

 

 アスナの質問に一瞬キョトンと、顔を伏せながら思い返した。

 しかし、首を横に振った。

 

「……ごめんなさい、わからないです。

 いたようには、思えますけど……カインズのことに驚きすぎて、何が起きてるのか混乱してて、そこまでは……」

 

 ごめんなさいと、謝ってくるヨルコさんにアスナが、気にしないでと。

 確かに、広場からの見上げる位置だと、カインズを押したであろう犯人の姿は見えにくい。その瞬間から見ていたのなら別だが、カインズが吊るされてからなら、隠れる時間は充分ある。そもそも、人々の恐怖を煽りたい劇場型の犯人ならば、隠れず積極的に姿を見せたはず。『圏内PK』の演出のためにも、衆目に晒した方が効果がある。

 期待は少なかったが、犯人の情報を得られなく残念だ。

 これ以上ここで彼女から聞き出せることはないだろうと、アスナは話を終わらせようとした。オレに無言の合図を送ってくる。それに頷くも、ふと……ヨルコさんを見たら口が動いていた。

 

「……オレは、カインズさんのことをよく知らない。だから、気を悪くしたら大変申し訳ないんだけど、聞かなきゃならないことがある。いいかな?」

 

 唐突な問いかけに、ヨルコさんは目をパチクリするも、コクリと頷いた。

 向けてくる純朴そうな顔に、チクリと胸が痛んだ。言おうか言うまいか迷うも……ここまで来たら出さざるをえない。

 意を決して尋ねた。

 

「何かの冗談だと思わなかったか? 例えば、君を驚かすための悪ふざけだったとか? わざと首吊りを演出したとか?」

「ちょっと、キリト君! あなた―――」

「ヨルコさんから見て、カインズさんは、突発的にそういうことをやりそうな人かな?」

 

 アスナの掣肘を無視して、強引に不躾なことを聞いた。代わりにアスナから、凄い目で睨まれる。

 だけど、声として出し切ると、弾みがついた。頭の片隅にコベリついていた、この殺人事件に対する違和感に、名前と形がつきそうな気がしてくる。

 予想通りヨルコさんは、不安と不満が入り混じった顔を向けてきた。

 

「それは……どういう意味、ですか? 何でカインズのことを―――」

「どうして悲鳴を上げたんだ? なぜ真っ先に、カインズさんに尋ねなかったんだ? 『あなた一体そこで何してんのよ?』てな感じで」

 

 オレの質問に、ヨルコさんは言葉を詰まらせるも、アスナはようやく意図を察してくれた。視線の鋭さを緩めてくれた。

 【圏内】では、首吊り自殺なんてできない。公衆の面前でやれば、悪趣味なパフォーマンスにしか見られない。いやそれ以下に、知れ渡っている今では、苦笑されて煙たがられるだけだ。ここは現実世界じゃない。こんな昼日中では、お化け屋敷の仕掛けにもなれない。―――それでも先の事件では、皆が現実みたいな恐慌に陥った。

 どうしてそうなったのか? 第一発見者である彼女が、悲鳴を上げたからにほかならない。冗談事であるとの、一般のプレイヤーの感覚/見解が封殺されたからだ。

 

「それは……だって、あんな槍が、胸に刺さってたから……。それに、HPも減ってて……」

「だとすると、今日はカインズさんとパーティー組んでた、てことだね。

 ちなみに、わかっているとは思うけど。【圏内】だと、パーティーメンバー以外のHPバーは見えないんだ。どれだけ【鑑定】を鍛えても、だ。……必要もないしな」

 

 圏内PKなんてものは、起こりえないものだから……。製作者/茅場晶彦がこのような仕様にしたのは、システム上絶対に不可能だからに他ならないからだろう。でなければ、わざわざ圏外との区別化を図る必要がない。

 そしてもう一つ、予期せず粗が出てきた。パーティーを組んでいたのなら/HPバーが見えていたのなら、もっと違った対応をしたはず/できたはず。悲鳴を上げるよりも先に、アスナがそうしたように助けに行くことが。彼女が即座に行動していたら、間に合っていたかもしれない。……その場合、犯人と鉢合わせる危険があったが。

 ヨルコさんの顔に、動揺が広がっていた。目も泳いでいる。……疑念がさらに深まっていく。

 なので、もうひと押しした。

 

「知ってのとおり、彼女は攻略組のトッププレイヤーだ。オレも、まぁ……末席を汚すぐらいはある。だから、カインズさんの身に起こったようなこと、腹にあんなモノが刺さるなんてことは、日常茶飯事なんだ。そのまま戦い続けることもある。HPに余裕があって対処法さえ間違えなければ、そんなに驚くような事柄じゃないんだ」

「……で、ですが、ここは―――」

「そう、【圏内】だからな。ありえないからこそ驚く。

 でもそれは、少しばかり……特殊な知識に基づきすぎてる。知らなきゃわからない、分からなきゃ無いのと同じだ。驚きとか恐怖とかっていうものは、もっと……本能的なものだと思ってるんだよ、オレは」

「キリト君、ちょっと―――」

 

 さらに追求しようとするのを寸前、アスナが横槍を入れてきた。ヨルコさんから無理やり引き剥がす。

 

(いい加減にして、さすがにやりすぎよ。

 ヨルコさんは、目の前で友達なくしたばかりなのよ。……無神経すぎるわ)

(気づいてないのか、彼女のこと? 何か変だと思わなかったのか?)

 

 オレの道徳観の問題は避け、逆にこの事件の問題点を聞き返した。

 アスナは、何か言い募ろうと口を開くも堪え、代わりに考え込まされた。そして、オレが含ませた疑念を読み取ると、眉をしかめた。

 

(……私、そこまでは疑ってないわ。そうだとも……思いたくない)

(オレだって、そこまで疑り深くないよ。

 ただ、彼女は第一発見者だ。この事件を事件たらしめてる、発端なんだ。……関係ないとは言い切れない)

 

 共犯者……とまでは言わないが、無関係な友達とも言い切れない。……彼女には何かがある。

 

(犯人はもうわかってる。キリト君が見たって言う、フード被った奴でしょ? ……だったら、そいつを探し出せばいいことよ)

(そのためには、彼女の協力が必要だろう。……アスナが思っている以上にな)

(だったら! こんな……尋問するような真似はやめて)

(彼女はただの嘘つきか、それとも何か意志を持ってるのか、それはどのくらい硬いものなのか……。見極めるにはコレが一番だ)

 

 負けじと言い返すと、睨み合った。オレは突き放すように冷たく、アスナは引き戻さんと厳しく、どちらも退かない/交わらない……。

 ビーターと指揮官、いつもの攻略会議の再現だ。

 いきなりの剣呑なオレ達の様子に、当事者たるヨルコさんはオロオロしていた。

 

「あ、あのぉ……。二人とも、どう……なされたんですか? 私なにか、変なことでも……」

 

 不安げなヨルコさんの声にハッと、いがみ合いをやめた。

 言いかけた尋問を続けようとするも、不完全燃焼で/アスナの手前もあり、やめた。代わりに、どうしても聞かなければならないことだけ尋ねた。

 

「カインズさんが、誰かに狙われるような理由とか……わかる?」

 

 すぐにアスナからすごく睨まれたが、無視した。……こればかりは、確かめないと始まらない。

 ヨルコさんはビクりと硬くするも、首を横に振った。見当もつかない……。

 全面的に信じるわけにはいかないが、あのような殺され方をするほどの恨みは隠しきれるものじゃない。安全と程良いスリルを求めている中層域のプレイヤーが、そこまでの大事を抱えているとは考え難い。……レッドプレイヤーと関わっていなければ。

 手掛かりはなし……。後はじっくり、探っていくしかない。

 

「だとすると、ヨルコさんも少し危ないかもしれない。レッドプレイヤーの仕業なら、カインズさんの友人だった君は新しいターゲットだ。絶対に、何か仕掛けてくる」

「な……なんで、ですか?」

 

 絶対との断言に、当然ながら聞かれた。

 なので、レッド達の心理を説明しようと口を開きかけたが、やめた。……これ以上悪印象を持たれた、オレの精神値がやばい。潜在的なレッドと誤解でもされたら、お日様の下をまともに歩けなくなる。

 

「犯人を捕まえるまで、護衛させてもらうよ。……アスナと二人でね」

 

 オレ一人だったら、完全にストーカーでしかない……。その点、閃光殿なら全く問題ない。彼女の傍以上に安全な場所はないだろう。むしろ、別の意味で問題が出そうだが……。

 恐る恐るアスナに目を向けると、頷いてくれた。流れで勝手に決めてしまったが、快い了承でホッとした。……団員とのトラブルも、少しばかりは肩代わりせにゃならんだろう。

 

 

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 長々とご視聴、ありがとうございました。

 感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。

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