偽者のキセキ   作:ツルギ剣

61 / 111
63階層/魔獣結界 脱出

_

 

 

 

 

 物陰から、慎重に進み出て行った。宝の山へ/ドラゴンが寝ている傍へと

 

 先行するオレ。ドラゴンを警戒しながら、最短で安全なルートを【索敵】で探しながら進むため。加えて後ろからリズベットが歩いてくれれば、オレの足跡もついでに消してくれる。

 後ろにチラと目を向けると、リズベットもちゃんと付いてきていた。装備の隠蔽効果ゆえに、足音は消され目視するしかない、パーティーでなかったらいるのかどうかすらわからなかっただろう。

 ゆっくりゆっくりと進む。足音が響かないように慎重に慎重に―――

 そんなコチラの配慮などお構いなしに、ドラゴンはブハブハと気持ちよさそうな寝息を立て続けていた。……あのサイズだと、静かにしていたとしてもイビキにしか聞こえない。

 息を殺しながらソロリそろり、ドラゴンの側面を回っていった。あらかじめ【索敵】で確認はしていたが、改めて見るとかなりの巨体だ、学校のグラウンドを占拠できてしまうほどに。……システム的な耐性はついているはずなのに否応なく/生理的に、【威圧】されてしまう。

 

 慎重なルート取りをしながら進んでいくと―――何とか、背後まで到着した。

 到着する手前で、先に全体を視野に収め確認した。目当てのモノがあるのか注目……。

 続いてリズベットも到着すると、目配せで確認を頼んだ。

 二人の【鑑定】の結果―――……。思わず二人とも、顔をほころばせた。

 仄かに水色の輝きを帯びた、純度の高い水晶の塊があった。形は荒削りの岩石だが、加工の補助なしでも周りの宝物と遜色ない、エリアを構成している水晶とは違う何らかの魔力を帯びているのが見て取れた。今まで見たことのない金属の原石、そこかしこにある……。

 まだ加工されていない原石で、どんな金属が取り出せるかはわからない。が、オレの知りうる限りでは見たことがない。高レベルの金属であるのは間違いないはず。

 二人見合わせコクり、ソレへと近づいていった。

 

 そっと手を伸ばし拾い上げた。リズベットも近くに寄ってきて拾う。触れることで明細に【鑑定】する。

 【竜精鉱】―――。提示された名前は、やはり知らない名前だった。

 

(……この原石、見たことあるか?)

(無いわ。まだ精錬しないとわからないけど、私が知らないとなると、確実に……【★5】は作り出せる代物ね)

 

 マスタースミスのお墨付き。驚きとともにニヤリと、顔がほころぶ。

 

(コレを精錬すれば、【★6】が作り出せるかも知れない……てことだよな!)

(たぶん、いえ確実にね! それに、こんなにいっぱいあるんですもの。どれか一つは絶対作り出せるわよ)

 

 作り出してみせるわ……。周りを見渡すと、同じような原石がそこかしこにある。大盤振る舞いだ。

 ここが目的の場所だったらしい。こここそが、攻略組たちが求めていた幻の鉱脈だった。

 ただ、奇妙なことではある。通常の原石は、鉱脈を見つけ掘り出す必要がある。タケノコのように地面から生えてくるわけではない。しかしコレは、地面にばらまかれている/鉱脈らしくない。まるでドラゴンが、無造作に投げ捨てているかのような……。

 細かいことは気にせず、今はできるだけ集めることだけ。

 ドラゴンが寝ている隙、慎重にメニューを展開すると、原石たちをストレージに収めていった―――

 

(ねぇ、この原石って、このドラゴンが集めてきた宝物……てことかしら?)

(どうだろうかな? 他の財宝とは明らかに毛色が違うものだし、ただの綺麗な原石をコレクションする……なんてことは、ないだろうな)

 

 今まで歩いてきた宝の山は、どれも芸術品だった。何かしら細部にまでわたる加工が施されいる、あるいは自然では到底有りないほどの滑らかさや尖り具合があった。……この原石は、素材としては美麗ではあるものの形としては粗末だ。

 

(……まぁそうよね。他はみんな、キラキラしてたり細飾があったりして芸術品、て感じだけど、コレは違うもんね)

 

 どうしてだろう? ……その答えには、見当が付いていた。宝物コレクションの中にありながらも宝物ではなく、ドラゴンの背後にのみ溜まっているもの。幻想種と言えども生物ならば必然の行動。……口にするのは少しはばかれるが、おそらくそうだろう。

 

(たぶん、これだけはもともとこの場所にあったか、それとも……できたものだろうな)

(『元々あった』てのはわかるけど、『できたもの』てどういうことよ?)

(排泄物)

(…………へ?)

(だから、ンこだよ、このドラゴンの)

 

 一瞬、オレに何を言われたのか理解できず、真っ白になって……ようやく理解した。

 その仮説にあまりにも驚いたのか、思わず「ンこぉッ!?」と悲鳴を上げた。その拍子に、原石を手放してしまった。

 あ―――と思うまもなく、原石は大きく宙に軌跡を描き……落下した。

 

 

 

 カン―――……。甲高い音色が、エリア中に響き渡った。

 

 

 

 おそらくは、通常の街中ならばギリギリ聞き取れたほどだったろう。だが、このエリアは静寂に包まれているゆえに、異質なその音は大きく響き渡ってしまった。

 二人、息を呑み背筋を凍らせた。自分たちだけでなく全てが凍りついたかのような恐怖に竦む……。落下した響きは壁に反響して、エリア全体を満たしていく。

 その音色が空気に溶け終わると同時にピタリ、ドラゴンの寝息が止まった。完全な沈黙、一気に緊張が走り抜けた。

 そして―――ムクリと、体が動いた。毛布がわりの財宝たちがシャラシャラ、雪崩落ちていった。

 

 宝物の中から、ドラゴンの全身が顕になった。その威容が目に入ってくる……。

 雪色めいた体表、神々しいまでの美しさの白銀龍。硬くトゲトゲした爬虫類的な威圧感は薄く、艶めかしさを超えて儚さまで感じさせる、誰にも犯されていない雪の結晶のみで作られたかのようなドラゴン。引き込まれるような美しさだ。所々、水晶と思わしき透明な岩石を身にまとっていなければ、ただただ見惚れてしまっていたことだろう。

 音がなった場所を探さんと、その凛々しくも冷徹な顔/瞳で辺りを睥睨する。

 

 やばい―――。息も止め微動だにしないよう必死になるも、体の竦みまでは止められなかった。反射的に足に力が入る。

 ジャリ……。微かな、しかし致命的な足音がなってしまった。

 通常のモンスターだったら聞き逃しただろう音、しかしドラゴンは、急にぐるりと首を捻ると、コチラに視線を定めてきた。

 

 そして―――目があった。始めて互を認識する。

 一瞬、時が止まったかのような緊張に麻痺させられた。しばしの邂逅の後、ドラゴンがその顎を大きく開け放っていくと―――咆哮した。

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 

 

 エリア全てを揺さぶる轟音に、今度は/逆に体が正しく反射してくれた。

 反射的に初動モーションをとり、ソードスキルを発動させると―――突撃した。

 轟音に歪まされている中、弾丸のようにドラゴンの喉元へと跳んだ。

 

 リズベットはまだ、驚きのまま動けない。ドラゴンの強力な【ハウリング】にやられてしまったのだろう。しかしまだ、指輪【静謐の守り手】の効果は継続している、オレだけが見つかったはずだ。……万が一にも解除されていたのなら、すぐオレにヘイトを向けさせなければならない。

 【ハウリング】の途中ゆえ/巨体ゆえの小回りのきかなさか、叩き落されることなく懐まで飛び込めた。先制の奇襲突貫を成功、狙ったドラゴンの体表に剣を突き刺させた―――

 雪色の細かな鱗の奥、刃の3分の1が入った。

 通常のモンスターならば致命傷。しかし、巨体のドラゴンにとっては蚊に刺されたようなものだったのだろう。【ハウリング】を終えるまで気づかす、口を閉ざすとようやく目を向けてきた。

 

 ぶら下がっているオレを振り払わんと、鬱陶しそうに体を震わせてきた。何とか振り落とされないように、しがみつく。

 より傷口を抉ろうとも考えたが、手応えのなさ/あまりの硬さに諦めた。白魚みたいな柔らかそうな体表だと思っていたが、実際は鋼鉄よりも硬いウロコとぎっしりと詰まっている筋肉、刺した剣はガッチリと固定され血も吹き出せない。

 ただ振り落とされないよう、叩きつけられたあとに来るであろう踏みつけ攻撃に襲われないよう、必死にしがみついた。

 

 グワングワンと激しく揺さぶってくるも、どうしても外せない。ソレを理解したのか、方法を改めんと―――翼を広げてきた。

 大きく伸ばし広げた翼をバサリばさりと、その場で羽ばたいた。その度に強風が吹き荒れ、小さな財物たち/金貨がキラキラと舞い上がる、黄金の砂塵。

 羽ばたきは助走ではなく、ただの準備体操だった。

 動かすことに慣れたら、そのまま大きく広げた。そして、まるで見えない巨大な鉄棒でもあるかのように、翼の先で宙を掴んだ。そのまま巨体を持ち上げるよう/引っ張り上げるように、浮かび上がらせた―――

 

(ッ!? このままじゃマズイ……)

 

 空はドラゴンの領域だ。地上で組み付いているのとはわけが違う、振り落とされたら高所落下ダメージまで喰らってしまう。叩き落とされたあとの追撃も、避けるすべがない。

 突き込んでいた刃を今度は、急いで外しにかかった。両足で体表を踏みしめながら、全身で引っこ抜く―――

 

 ドラゴンの体が宙に浮いた直後、ギリギリで外れた。勢い余って逆さに落ちる。

 頭から地面に落ちる寸前、くるりと猫ひねり、全身が痺れないよううまく着地した。

 すぐさま立ち上がり身構えると、ドラゴンは空高く飛び上がっていた。上空からオレを見下ろしているのが見える。

 オレと目が合うと思い切り、空気を吸い込み腹を反らせ始めた。胸から喉元へ、そして口へと何かがせり上がっていく―――

 

 ブレス―――。初見のモンスターではあるが、次に何が起きるかわかった。アレはまともに受けてはならない攻撃だと。絶対によけなければならない。

 しかし……立ち位置が悪すぎた。

 自動的に発動させている【索敵】が、近くにリズベットがいることをつげた。オレは避けれても彼女は直撃だ、逃がしている暇もない―――

 

「リズ! オレの後ろに急げ!!」

 

 叫びながら防ぎの構えをとった。……本当に来てくれたのか確認している暇はない。

 剣を天井に向けながら、握った拳を突き出した。【片手剣】で使える武器防御のソードスキル―――

 

 【スピニングシールド】―――。突き出した拳を軸に、剣が高速回転している。

 まるで、手首から先が義手だったかのように、ありえないほどの回転で盾となる。散弾やブレス攻撃を防ぐことができる武器防御/一時的に大盾を顕現させる。

 しかしこれだけでは、あのドラゴンのブレスは防ぎきれない。おそらくフロアボス並であろうモンスターの最大攻撃だ、オレだけで留まればいいが、背後のリズベットにまで貫通してしまうかもしれない。……ただの武器防御では足りない。

 目安が無いわけじゃなかった。かつて一度だけ、対峙したドラゴンがいる。その時のブレスはギリギリ防ぎ切ることができた。ただし、味方の援護があって。今回は一人だ、どうあっても力量不足だろう。

 だが幸いなことに、オレの右手には腕時計がある。コペルが発明した改造ブーストアイテム/【剣技の写晶石】。60層以降で使うつもりだった試作品だが、目の前の相手なら文句は言うまい、というか言わせない―――

 

 ドラゴンがブレスを解き放った。水晶の洞穴の主らしくアイスブレスだ。吹雪というよりも雪崩、触れる矢先から一瞬で氷漬けにされていく、まるでエリアそのものが氷河地帯に塗り替えられていくかのように。

 迷っている時間はない。こちらも、起動の呪文を唱えた―――

 

「信じてるぞコペル! 『リプレイ・オール』―――ッ!!」

 

 叫んだ直後、腕時計に仕込まれた【記憶結晶】が発現した。腕時計からソードスキルに似たライトエフェクトが煌く―――

 

 本来の【記憶結晶】は、立体映像が空中に投影するだけの映写装置だ。モンスターの攻略法の動画説明やら前線の攻略会議などで使われる。映像として皆で見れるので、明細な情報を共有しやすい。

 しかし今回、映し出されるスクリーンは時計内部に仕込まれたギミック群だ。幾つもの歯車と回線が複雑怪奇に絡み合うことで、極微の仮想世界を織り成すことができる。そこで再演される。

 極微とはいえシステムは、オレ達のいる仮想空間と腕時計内の空間を区別しない/できない、ただ情報量と優先度が違っているだけ。権利を獲得したプレイヤーの初動モーションを検知したら、必要なアシストを注ぐ、どの仮想空間内であっても最優先される項目の一つだ。記録映像と本人の区別は上映される座標によって区別しているらしいので、本人のいない腕時計内の空間では記録体がただ一人のプレイヤーとなる。

 記録された【車輪】は発現する。そして、そのエネルギーは特定のパーティーメンバーへと伝導される。……今回は、オレの中へと。

 

 腕時計を通して【車輪】のエネルギーが、【スピニングシールド】に付加されていった。

 回転スピードが増大、空気を切り裂く唸りは火花に変わっていた。巻き起こされていた風が固形化していく、中心軸に真空を作り出すほどにも。ただの大盾じゃない、空間を遮断する障壁だ、同じようにエリアを侵食している。

 

(これならいける……。いけるはずだ!)

 

 ドラゴンのアイスブレスが、眼前に迫ってきた。激突する―――

 

「ウ、ウオオオオォォォーッ―――!」

 

 雄叫びをあげながら/左手でも支えながら、必死に防いだ。

 重みに全身が押される、圧力に押しつぶされる。雪崩か津波と一人で対峙している気分だ、命を手放してしまいそうで目も開けられない。

 オレはここで死ぬのか、こんな何処ともしれない場所で。何もできずに、何者にもなれず、何も守れないで。ただ、この世界に殺されるだけだったのか―――……

 ―――しかし、

 

 

 

 耐えていた。まだ死んでない。

 

 

 

 うっすらと目を開けて確認すると、それどころでもなかった。ブレスはシールドの内側に侵食していない。防ぎきれずHPは減少しているが、【バトルヒーリング】の回収内だ。 

 ドラゴンのブレスを防ぎ切った。改造ブーストは見事、その機能を果たしてくれた。

 

 最大の攻撃手段だったのだろう。ブレスを吹き終わるとドラゴンは、地面に着地すると動けず固まった。……硬直時間を課せられている。

 攻め時ではあるが、目的は倒すことじゃない。必要な宝は回収した。それにもう、さすがにオレの愛剣の耐久値は……。

 なのでさっさと、逃げるだけだ。

 即座に踵返すと、リズベットに指示を出した。

 

「逃げるぞ、走れッ!」

 

 周囲の異常現象、何よりもまだ自分が生きていることに呆然としていたが、指示を受けると目を覚ました。

 一目散に逃げた、足を砕く勢いで全力疾走、火事場の馬鹿力も総動員して出口まで向かう。……そこまでが、あのドラゴンの管轄内だと信じるだけ。

 しかし―――

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

 覚醒の雄叫び。硬直時間から解き放たれるとすぐに、こちらを追尾してくる。

 ドスどすと大股で、追ってきた。当然のことながら一歩の距離が長いので、スタートダッシュのアドバンテージはすぐに潰された。

 

「―――ダメ、間に合わない! 追いつかれるわッ!」

 

 リズベットの悲鳴に答えられず。視界の隅でドラゴンの怒れる顔が見えていた。

 出口までの距離、ドラゴンが追いつくまでの時間、オレたちの走るスピードは―――。考えるまでもない。

 答えの代わりにムンズと、彼女を抱き寄せ、担ぎ上げた。

 

「悪い、舌噛むなよ!」

「ちょ、ちょっとッ!? 何を―――うわッ!?」

 

 驚かれるが無視。……こんな時に紳士的な対応なんて期待してないでくれ。

 担いだまま走り続ける。グングンぐんぐんとスピートを増していくと、壁に踏み込んだ。そしてそのまま―――走り続けた。直立したまま壁を走り抜けていく。

 【壁走り(ウォールラン)】―――。【体術】から習得できる移動用ソードスキルの一つ。天井に向かって直角に走り登ることもできるが、今回は右肩上がりの放物線を描きながら。十数メートル程の壁なら登ってしまえるスキルだ。

 

 眼前まで迫っていたドラゴンは、走った勢いのままオレたちがいた壁に体当りした。

 壁がグワングワンと鳴動した。あまりに強烈なタックルゆえか、硬いはずの水晶の壁が液状であるかのように波打ち波紋が広がっていく。

 まともに食らっていたらどうなっていたことか……。冷や汗が流れ落ちる、危なかった。

 

 波紋の影響で足元が不安定にもなっていた。上手く踏み込めない、このままで【壁走り】が失敗して落下してしまう。

 なので、踏み込めなくなる寸前、そのままジャンプした。ドラゴンの背へと飛び乗る―――

 

「―――よ……とぉッ!?」

 

 リズベットも抱えているのでうまく着地できず、そもそも人が歩くための道路でもなし、ズルリと転けてしまいそうになるも踏ん張った。ドラゴンの背中の上に立つ。

 しかし、ドラゴンはすぐに体当たりから起き上がられた。なだらかだった傾斜が急に滑り台になる、踏ん張りがきかず滑り落ちる―――

 

「い、イヤアアァァーーッ―――!!

 

 リズベットの絶叫が尾を引くように、滑落していった。ジェットコースターの大降下並、ただしレールがなければ安全も確保されてはいない。

 なので、愛剣をドラゴンの背中に突き立てた。滑落をブレーキさせる―――

 

 ガリリと、しばらく滑り落ちるも……止まった。背中は装甲が少し薄いのか、首元よりも刃が通った、滑落のエネルギーで大きく縦一線も引けた。

 ただし、背中を切り裂かれたドラゴンは、怒り心頭だ。いきなりの痛みも相まって、暴れまわり始めた―――。

 

「■■■■■■■■■■■■ッ―――!」

 

 ドラゴンの背の上、差し込んだ剣を握りながら必死にしがみついた。

 今振り落とされたら一巻の終わりだ。突然の状況に混乱しているリズベットだったが、生存本能ゆえかしがみついてくれている。……このエリア内では、ここ以外の安全地帯はない、オレ達が生き残れる場所も。

 

 どうしても離れない害虫に苛立ったドラゴンは、壁に体当たりもし始めた。思い切りドゴンドゴンと、エリア全体が叩き揺さぶられる。

 ぶつけられるたびに、意識と体がズレるような激震を受けた。握力や根性すら関係ないほどの暴力的な荒波にもみくちゃにされた。だが、何とか背中の上/まだ生きている。ただし頭の中がグワングワンとがなりたて、幾つも星が見えてしまっていた。……もしも現実世界だったら、内蔵ごと吐いていただろう。

 ドラゴンは業を煮やしていたが、コレ以外の方法がわからないのだろう。走り回っては何度も、壁にぶち当たり続けた。オレ達も必死に、しがみつき続けた―――……

 

 

 

 

 

 何度も何度もぶつかることで、先に悲鳴を上げたのは……このエリアの方だった。

 

 ドラゴンにぶつけられた水晶の壁にはピキリと、ヒビが走った。ぶつけられるたびに大きく広がっていく。

 体力も気力も握力も、もはや風前の灯だったが、視界の端でソレを捉えた。

 壁にはしったヒビ。何であんな現象が起きているのか、エリアの壁は壊せないのではないのか? もしもできるのなら、アレがもっと大きくなったら何が起きる? 壁の先は一体どこにつながっているのか、別のエリアへ抜け出せるのか? 前回の戦いではやっていない/ソレを防ぐための戦い、だけど今回は話が違う。生き延びることが最優先だ―――。

 起死回生の案が浮かんだ。

 

 麻痺寸前だった手を叱咤し……捻った。

 突き刺した剣で肉を抉る。

 

「■■■■ッ!? ■■■■■■■■ッ―――!?」

 

 すぐにドラゴンへ痛みが伝染すると、暴れだした。……ただし、向きをコントロールさせて。

 グリグリと操作しながら、比較的大きなヒビへとドラゴンを誘導すると―――体当りさせた。

 地鳴りとともに、轟音がなった。パラパラと水晶の破片も降り注いでくる。

 

 もう一度体当りさせると、ひびは亀裂となった。その隙間から、外気の光と空気を呼び込まれる。こことは別の風景が覗ける。……仮説が現実味を帯びてきた。

 さらにもう一度体当たりをさせると、亀裂は深まり繋がりあい、衝撃に耐え切れず―――壊れた。

 水晶の壁が、砕けとんだ―――

 

 

 

 ドラゴンは勢い余って、エリアの外へと飛び出した。オレ達も同時に力尽きて、ドラゴンごと外へと投げ出される。

 水晶の瓦礫とともに、エリア外へ/広大な空へと落ちていた―――

 

 眼下には、太陽に照らされ煌く、水晶の山嶺が見えた。

 

 

 

 

 

 

_




 長々とご視聴、ありがとうございました。

 感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。