偽者のキセキ   作:ツルギ剣

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 SAOもゲームなら、こんな始まりがあるはず


還魂の苑 チュートリアル 前

 

 

 

 

 

『―――諸君、最後の【客人(マレビト)】がやってくるぞ』

 

 誰かの声がして目を覚ます。

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 目覚める寸前、三者三様=打算/諦観/舌打ちが聞こえてきた。

 

『【塵界】の者を受け入れるなど、穢らわしいことこの上ないが……』

『我らが差し向けた【尖兵】が見つけ、しかも倒すほどの力の持ち主だぞ。充分に働いてくれることだろう』

『僕らがここから動けない以上、仕方のない処置ですよ』

『そんなこと言われんでもわかっている。……忌々しい封印め』

 

 重く閉ざされていた瞼をそっと見開く。するとそこには、ふたたび見知らぬ場所があった。先の森と荒野とは、趣が異なっている。

 地底深くの忘れられた墓所か深海にある海底神殿のような場所。石造りの建物内は、仄かに青みを帯びている。静寂に包まれた建物、荘厳と幽玄が同居している伽藍堂。かつては煌びやかに華やかに彩られていたであろうことを想起させるも、今はもうそう在れない崩壊するのを待つだけの物悲しさが漂っている。

 中央には、巨大な魔法陣のような紋様が描かれている半透明の床、氷かガラスのような見た目でありながら柔らかな感触がある不思議な素材。その齟齬に体がふらついてしまう。見渡す周囲には、アリの通る隙間もないほどしっかりと積み込まれた=滑らかな手触りがありそう石壁/石柱、左右対称のシンメトリーな構造。現代の技術でもこうはいかないと思わせる程の、精巧な芸術品。顔を上げて見える奥には通路、そして先には【転移門】らしき巨大な馬蹄が聳えている。今は起動していないためか、七色の光彩を揺らめかさている鏡面はなく、ただの古びた鳥居になって閉ざされた壁を見せている。……もし起動したのなら、あそこから共有フィールドに飛べるのだろう。

 先の異世界とは別物、β版でも見たことのない場所。だが、SAOの世界観の枠にはギリギリ収まっているであろう神殿だ。

 

「……今度は、どこに飛ばされたんだ―――!?」

 

 思わずぼやきを溢すと、口元を手で触れた。声を、まともな人の声を出せたことに驚いた。加えて、ちゃんと手も動かせていることにも。

 改めて全身を確認した。しっかりと五感がある、手足が指先まで動かせる。黒い獣毛や鋭い爪も湾曲した脚もない、人の姿/丹精込めて作ったアバターがそこにあった。

 ほっと安堵のため息をこぼした。……何はともあれ、体さえ無事で動かせればいい。

 

「目覚めたようだな、少年」

 

 よく通る錆びた声音/始まりに聞こえた男の声が、背中からかけられた。つられて振り返る。

 そこには、中世の神父のような/魔術師のような姿をした男が、立っていた。黒を基調としたカソックのような衣服で身を包み、目元までフードを被っている。そこから僅かに見える顔つきと、細身ながらガッチリとした長身と何よりも声音の低さから、男であろうとはわかった。それも、30代か40代ほどの壮年の男、雰囲気だけなら60代の老年に達しているほど静かで奥深い。

 現実にそんな格好の男が目の前にいたら、一瞬で目をそらしてすぐに視界から逃げるかするのだろうが、そうできない引力のようなものが働いていた。目を離せない/離してはならないと警告してくる、仮装パーティーかと笑うこともできない。底の知れない/一瞬で異質さを飲み込ませる不気味な威容を纏っていた。

 そんな神父姿の男の後ろにも3人/体が、オレを見下ろしながら佇んでいた。

 一人は、4本の腕をもつ獣人/巨人。ログイン初めに遭遇したモンスターよりも小さいが、オレの倍ほど背丈はある。白金の甲冑を全身に身につけた騎士姿だが、その頭は二本の捻くれた角を生やしているライオン。両腰と胸の前に4本の曲剣、あるいは刀のような武器を帯びている。4本の腕を器用に胸元で組みながら、傲岸そうに/侮蔑混じりにオレを見下ろしている。

 もう一人は、羽毛をある翼を持った龍。一団の中では一番巨大だ、全容を見上げると首が痛くなる。折りたたんだ翼は白鳥のように麗白、鮮やかかつ深みのある空色の鱗。爬虫類を思わせる風貌なれど、それとともに乾いた硬質さは感じられない。大海をそのまま形にしたような大らかな威厳。ソレを表すような碧玉の瞳は、見つめ返すとどこまでも吸い込まれていくかのように深い。……彼の一人称が「僕」だとは、とても思えない。

 最後の一人は、たなびくドレスと羽衣を纏った妖艶な仙女。日本の平安貴族が着ていた十二単のようなドレスを身にまとっていながら、身軽に/すぐにでも天へと舞えるかのように重さを/地面に縛り付けられていると感じさせない矛盾。ソレは、夕焼けのように煌く紅色が成り立たせていた。まるで、燃え広がっている炎を纏っているかのようにみえる。それでいながら火炙りにさせられているような悲惨さを感じさせないのは、彼女が人の姿をした別種の存在であるからだろう。オレを見下ろすその視線は、帯びている赤や煌きとは真逆で、芯まで凍えさられるほど冷たい。

 ゴクリと唾を飲み込むと、現実を思い起こした。ここは仮想世界/ゲームの中で、相手はNPCだ。気後れすることは何もない……。

 腹に力を込め直すと、尋ねた。

 

「ここは、ど―――」

「【天空城】のとある一角だ。名の通り、今まで君が居た場所とは少し違う」

 

 こちらが尋ねきる前に答えた。

 いきなり出鼻をくじかれ唖然としていると、続けて先に答えてきた。

 

「私の名は【ルート】、今はこの神殿で眠っていらっしゃる盟主様の代理をしている者だ」

 

 簡単すぎる自己紹介を済ますと、後ろの3人/体も紹介してきた。

 ライオン型の獣人=【ブレイド】、青の龍=【アーカイブ】、赤の仙女=【キズナ】……。どれも見た目の威厳にそぐわない、機能的な名前だ。

 紹介されても皆、会釈も反応も返さずそのまま見下ろし続けるだけ。その無言で、すごく居たたまれなくなった。別に恥ずかしい名前なわけではないのだろうが、聞いてはいけないことを知らされてしまったかのように感じさせられる。重い……。勝手に呼び寄せたくせに、お呼びじゃないと言わんばかりの拒絶ぶりだ。

 冷たい圧迫感に耐え兼ねて、ふたたび尋ねようとした。

 

「どうし―――」

「我々の目的のため、この城の中へ君のアストラル体を【転送】させてもらった」

 

 またオレの疑問を先読みして、答えてきた。的確に短く、それでいてわけのわからないことまでも含めて。

 思わず聞き返してしまった。

 

「……アストラル体、て?」

「魂、と言った方が伝わるかな。肉体を維持し動かしている意識の塊だ」

 

 そんな当たり前のこともわからないのか? ……とまでは言わないが、底意にはそんな侮辱が沈んでいるように聞こえた。

 ソレにムッとさせられるも、あまりにも微かすぎるのでオレの被害妄想の域を越えていない。ちゃんと教えてくれただけで、相手は何も悪くない。無視して続きを聞いた。

 

「呼び寄せたとはいえ、まだ【狭間】にいるようなものだからね。そうなっている」

 

 言い終わると、オレを指差してきた。釣られてそこを/自分の手を見る。

 ギョッとさせられた。驚きに声も漏れた。―――手が透けていた。輪郭が淡いでいる/消えかけている。

 

「心配はいらない。ここを出て城の中に入ればすぐに治る。ただ……、今の君が非常に不安定な存在であることは変わらない」

 

 動かしたり擦ったり叩いたりつねったりすると、確かにまだそこにある。視覚だけがおかしくなっていた。ただ、一端刺激から離れてしまうと、ぼやけて薄まっていくように感じさせられる。寒すぎて血の気が引いていくように、触覚が痺れていく。……あまり長居してられない。

 

「この城から逃げ出そうとしたり、城に巣食っている【死霊】や【悪霊】に取り込まれたり、生気が完全に抜けてしまえば、君は消滅することになる。跡形もなくな。……肉体とのリンクが途切れている君は、その仮の体(アバター)が壊れたら霊まで損なわれる。二度と転生することができない」

 

 意味不明な単語が出てくるも、言わんとしたい意図は掴めた。城から飛び降りたら死ぬ、生気=HPが0になったら死ぬ、【死霊】/【悪霊】=モンスターに襲われないように気をつけろ。体を大事にしろ。

 『二度と転生~』のくだりは、ゲームオーバーになると解釈すればいいのだろうが、それだけでない気もする。『死ぬ』ではなく『消滅』や今のオレは魂の存在であるなどから、ゲームオーバーだけとは限らない。復活が間に合わなければ一からやり直さなければならない=セーブポイントからのやり直しは効かない=コンティニューできない、ともとれる。……初心者にそんな鬼畜な縛りがあるとは、思いたくないが。

 オレがプレイヤーとしての悩みで不安になっていると、NPCは続けてきた。

 

「残念ながら、君に拒否権はない。消滅したくなければ我々に従うしかない」

 

 恐喝まがいのセリフを、事務的な口調で言い捨ててきた。オレには選択の余地はないと。

 そんなことをいきなり突きつけられたら、頭を抱えさせられるところだが……、問題は何もない。むしろオレは、進んでここにいる、この先の異世界を堪能するためにここまで来た。少々意外なことが起きたものの、目的は全く変わっていない。時間を食われてしまった分を早く取り戻したい。……お楽しみはこれからだ。

 

「何をすればいいんだ?」

 

 何の気負いもなしに、次のステップに行くであろうセリフを返した。……コマンドウインドウが展開することもあるが、大抵は会話だけで進まないといけない。目の前のNPCのように、機械とは思えないほど滑らかに会話できる相手なら特に。

 そんなオレの応えにNPCは、初めて驚きの表情を浮かべた。後ろの3人/体も表情を動かした。ほんのわずか、眉がぴくりと動くほど/視線をそっと泳がすほど/感嘆の声を漏らすほど。

 前回のように先読みしてくるだろうと思っていたので、逆にこちらが驚かされた。一体、何がそんなに予想外だったのか……。

 

「……この城の頂上、盟主様の居城に居座り【魔王】を名乗っている輩がいる。ソレを討伐して欲しい。障害になるのなら、かの者に従っている99体の【魔人】や【魔獣】たちも共にだ」

 

 魔王討伐=このゲームの大目的が告げられた。付き従う99体の下僕とはおそらく、各階層にいるフロアボスを指しているのだろう。

 色々と脱線してきたが、ようやく本線に戻って進んだ気分だ。課題は中々にハードそうだが、だからこそワクワクしてくる。ニヤけてくるのが止められない。……全部倒すのに、どのぐらいの時間がかかるんだろうか。

 

「もし果たしたのなら、君を肉体に戻し復活させる。それと、あらゆる世界を自由に飛びまわれる【翼】を授けよう」

「……【翼】?」

「君をここに呼び寄せたのも、その力の一端だ。応用した【召喚術】だがね」

 

 やれるかな……。最後に含ませた問いかけが、【クエスト依頼】のウインドウの形として現れた。『魔王討伐の依頼を受けますか? Yes/Hold/No』

 思いがけずに現れたウインドウに驚かされ、【翼】のことは頭から飛んでしまった。

 

(おいおい、こんなこと選択させるのかよ……)

 

 こんなの、受ける以外にあり得るのか? やらないでどうするんだよ……。意味不明な選択肢だ。

 ただ、重大な決断ではある。これからの行動を決めてしまう選択肢、なのに判断するための情報が余りにも少ない。話の流れからは『Yes』を選ぶ以外になく、『No』を選ぶメリットは見いだせない。安全策をとって『Hold』で保留するのが無難だろうが、引き伸ばす理由も見当たらない/伸ばしたところ最良の選択肢が現れるとも思えない。それに、序盤の選択肢は後でいくらでも挽回できると相場は決まっている。始めは流れるに乗るべきだ、『Yes』以外にありえない。

 すぐに視点クリックで『Yes』を押そうとするも、止めた。ふと聞いてみたいことが浮かんできた。

 

「……なぜ、あんたら自身でやらないんだ?」

「かの【魔王】の手により我々は、この神殿に封印されているからだ。ここから外に出れない。……盟主様のお命を危険にさらすことにもなる」

 

 お側を離れるわけにはいかない……。フード越しではよく見えないものの、含ませた言葉には諦観と焦燥と使命感が入り混じったやるせなさが滲んでいた。

 封印されている=外部からの圧力で閉じ込められている、というよりは、自ら進んでここに留まっている/留まらざるを得ない。あるいはその両方か。いかにも強大な力を持っていそうな彼らが打って出ようとしない/できない理由は、そこにあるのだろう。今その盟主様とやらは、瀕死の危篤状態かそれに類するほど衰弱している、側近である彼らが側から離れられないほどにまで……。それゆえに、オレのような外部の人間=プレイヤーを必要とした。

 組み立てた仮説/想像の裏をとろうと口を開くと、今度こそまた先どられた。

 

「君だけではない。他にも有望な者たちを呼び寄せている。……君たちの誰かが【魔王】を討てば皆解放することができるので、競い合う必要はない。ぜひ協力し合って欲しい」

 

 単独で攻略してもいいが、他プレイヤーとパーティーを組んで協力した方が効率がいい。誰か一人でも魔王を倒せば=グランドクエストを攻略すれば、その影響が他のプレイヤーにも波及する……。言い換えれば、こういうことだろう。少しばかり、首を傾げざるを得ないことだ。

 このSAOがMMORPGである以上、他プレイヤーが攻略した/している最中のクエストを受注した時、話に齟齬が生じてしまうことはある。同じ空間/時間を共有しているプレイヤー同士であるのに、そのクエストだけ切り取られたかのように別時空で話が進む、そのくせ後で元の共有時空へと戻さなくてはならない。小規模で簡単で使用する場所も限られているクエストなら可能だが、街中や頻繁に使われる重要なダンジョンでのクエストでは不可能だ。クエスト依頼者が何百人も分身することになる、後にソレを何事もなかったかのように一つに収めるとなると、どうしてもリアリティが欠けてしまう。……そんな異能の持ち主なら、そもそもプレイヤーにクエストなど依頼しない。グランドクエストともなれば、絶対に不可能だろう。

 できるとする/矛盾をなくすのなら、たった一度だけ。誰か一人でも攻略したらソレで終わり=ゲーム自体がクリアされる。周回プレイやクリア後の探索などはできない、とするしかない。魔王を倒したらSAO自体が終わる……。

 考えづらいことだ/考えすぎだろう。いくら何でもそこまでやるとは思えないが……、不安は拭いきれない。何せこのゲームを作ったのは、かの天才なのだ。常人ではストップをかけるところでアクセルを踏み込むし、どんなオンボロでもドライブテクニックで勝敗を覆す。そもそもどんなプレイヤーにかかろうとも魔王は倒されない自信があるから、なのかもしれない。……そう考えれば、不安は闘争心へと変わっていく。

 その影響か、天邪鬼な気分が沸いてきた。

 

「……断ったら、どうなるんだ?」

「そのアバターを消滅させ、君を解き放とう。転生してもらうことになる」

「帰れる、てことか?」

「……君が指している『帰る場所』が元いた肉体だというのなら、違う。

 ソレは今の君が戻ったところで、収めておけるだけの機能を保持できていない。壊れかけている。ギリギリ生命活動を維持するのが精一杯で、君が戻れば過負荷で止めを刺すことになる」

 

 『No』を選択した場合、殺される=おそらく彼らと戦うことになる。彼らがどれほどの強さかわからないが、初期装備にレベル1の今のオレでは相手にすらならないはずだ。まして4対1、開始1秒以内で殺されるだろう。……本当に『Yes』を選ぶ以外の余地がなかった。

 ただ、少々表現が込み入っていることが気になった。殺すとの直球なセリフではなく、アバターの消滅/解き放つ/転生などの回りくどい言い回し、前からずっとそんな感じの表現をしてきた。彼の性格なのだろうか……わからない。

 上品さと野蛮さをほどよくブレンドした紳士。神父/魔術師姿も様になっているが、騎士風の格好も似合うかも知れない。一番しっくりくるのは、大学教授といったところだろう。……ここにはそんな役職、ありそうにないが。

 妄想を膨らませていると、先まで感じていた圧力も薄れてきた。

 

「だったらなんで、【魔王】を倒せば復活できるんだ?」

「この【天空城】のエネルギーによって、君の壊れかけの肉体を賦活させることができるからだ。今はその功力が使えない」

 

 オレの体は今、壊れかけ/死にかけている設定らしい。それゆえに、自身の復活をかけて戦う。……現実では、ナーブギアを被ってフカフカのベッドの上で寝ているだけだが。

 苦笑が漏れそうになるとふと、思い出した。はじめにログインした時、灰の森で目覚めたこと。そこで【塵界の尖兵】を倒し、森を抜けて砂礫の荒野へと進んで……撃たれた。確か左肩を。今さすってみても、その傷跡はない/痛みもない。

 なくなっているのは当然のことだと思い込んでいたが、違う。【転移】しただけでは傷は回復しない。そもそもオレはあの時、今のような人の姿をしていなかった/狼男になっていた。ソレがここに来ただけで、どうして元に戻って/治っているのか。さらに言えば、毒を盛られたかで瀕死の状態になっていたはずなのに、今はその悪影響は微塵もない。呼び出されたアストラル体だから……。

 あながち、言っていることに矛盾はなかった。オレの肉体は今、どこかで生死の境を彷徨っている、おそらくはあの未来風の仮想世界に置き去りになって。

 ゴクリと、唾を飲み込んだ。今アレがどうなっているのか、考えたくない。嫌な想像が脳裏に浮かびゲンナリした。だけどすぐ、バカバカしいと一笑に伏した。世界観に入り込みすぎてる、ここはただの仮想世界でしかない/現実じゃない。……そう考え直し気を取り直した。

 

「ならさ……、もし【魔王】が助けてくれるのなら、アンタらの手を借りなくてもいいわけだ」

 

 何気なしに言った挑発めいたセリフに、4人の顔色が変わった。周囲の空気が一気に、緊張を孕んだ。

 全身が総毛立った。冷や汗がどっと溢れ出てきた。心臓が縮み上がって、バクバクとがなり立てる。先までわずかばかりに緩んでいた空気に、鋭い警戒心が刺し込まれていた。

 思わずウインドウを見返して、ホッと安堵した。まだ選択されていない/トリガーワードではない、間違って『No』を押したわけではなかった。

 

「……そういうことになるな。奴がそんなことするとは考えられないが」

「オレや呼び寄せた他の奴らが手強かったのなら、そうやって篭絡していくんじゃないか? アンタらを裏切れとかの条件付きで」

 

 少々悪ノリが過ぎていたが、聞かざるを得なかった。何か声に出して話を続けなければ、『No』になってしまうかもしれない。その危険に内心ビビりながら、表面は繕って尋ねた。

 すると、予想外の答えが返ってきた。

 

「ソレが、【魔人】と呼ばれている奴の下僕だ」

 

 NPCはそう、吐き捨てるように言った。彼らしからぬ/抑えきれぬとばかりに、静かなれど荒々しい怒気を/侮蔑を込めて。体の縁から滲みでた闇色のオーラが、人型とは違う異形を顕現させようとする。黒に侵された空気が、悲鳴を上げるかのように帯電した。

 だが、それもつかの間。すぐに全てを収め直した。

 ふたたび平静に戻ると、何事もなかったかのように。青ざめていたオレと向かい直した。

 

「城の中でどう行動するかは、君の自由だ。我々は規制しない、そもそもすることができない。どのような選択をするかは全て君に委ねられている。君がもし、【魔王】に組みして我らと敵対する道を歩むのだとしても、な。……その際、【魔人】の在り様は参考になることだろう」

 

 さて、お喋りはここで終わり。そろそろ決めてもらってもいいかな? ……。あくまでもフェアを貫くと、オレの決断を促してきた。

 オレの選択はもちろん、『Yes』だ。しっかりと間違いようもなくコマンドを入力した。……こんな奴らに勝てっこない。

 

 

 

 




 長々とご視聴、ありがとうございました。

 感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。

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