偽者のキセキ   作:ツルギ剣

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55階層/風見鶏亭 同行

 

 

 

 35階層主街区―――

 【転移門】から抜けた先に広がっていたのは、白壁に赤い屋根が立ち並ぶ牧歌的な農村の佇まい。『街』というよりは『村』と行ったほうがいいほど、長閑な街並みだ。

 見た目通り、他の階層に比べてもそれほど大きな街ではないが、現在中層域で戦っているプレイヤーたちの主戦場となっている。ので、NPC以上にプレイヤーたちの行き交いが多く、それなりに賑わっている。私もここを拠点に攻略を進めてきた。

 ので必然、顔見知りの人たちがいる。私に声をかけてくる人たちも多い。どこで聞いたのか私がフリーになったのを知って、さっそく勧誘してくる。

 

「あ、あの……お誘いは嬉しいんですけど……」

 

 失礼にならないよう言葉を選びながら、チラリと傍らの恩人に目を向けた。

 【キリト】……。互いに自己紹介した時は教えてくれた、あと大体ソロで攻略していることも。尋ねればもう少し教えてはくれそうだったけど、やめた。恩人なので失礼にあたるもあるが、詮索するのを躊躇わせる空気を漂わせているので、今は『いい人』だとわかっていればいい。

 

「しばらくはこの人と、パーティー組むことにしたので……。また今度、お願いしますね」

「えぇー、そりゃないよ……」

 

 口々に不満の声を上げながら、うさんくさそうにキリトに視線を投げかけた。

 物珍しそうに辺りを見渡していたキリト。その姿はまるでお上りさん、とは逆で、まだ昔ながらが息づく田舎にやってきた都会っ子の様子。黒を基調とした華美とも強そうともいえない武装ながらも、完全に着こなし切っている落ち着きがそう言わせた。ただし……、口の中でコリコリと『チュッパチャップス』らしき飴玉を転がしているギャップを見せられると、判断に困ってしまう。

 プレイヤーたちの不審な視線が集まったのを感じ、ようやくこちらに顔をむけてきた。

 

「おい、あんた―――」

 

 最も熱心に勧誘してきた背の高い両手剣使いが進み出ると、キリトを見下ろす格好で続けた。

 

「見ない顔だけど、抜けがけはやめてもらいたいな。俺らずっと前からこの子に声かけてるんだぜ」

「へぇ、そうなんだ……」

 

 さして興味なさげに言いながら、彼と彼の仲間らしきプレイヤーを一瞥した。

 威嚇に堪えてる様子がない。その不遜とも言える態度で彼らの顔色に苛立ちが現れる前に、私に顔を向けた。

 

「シリカさんって、予約制だったのか? だとするとオレ横入りになるよなぁ……。追加料金払ったほうがいいかな?」

「予約制? 追加料金って…………ッ!? 

 ち、違いますッ!? そんなわけないじゃないですかッ!」

 

 かぁと顔を真っ赤にしながら、不躾なこと聞いてきた年上を糾弾した。……うら若き乙女に何てこと聞くのよ!

 キリトはニヤリと笑うと、戸惑う両手剣使いたちに向かい直った。

 

「だってさ。

 安心てくれ。オレ、君らと違ってそういう趣味ないから。そういうつもりでパーティー誘ったわけじゃないからさ」

「ッ!? ち、違……俺たちだって、そんなつもりで誘ったわけじゃ―――」

「わかってる分かってるって! みなまで言わなくていいよ。……シリカさんって小さくて可愛いよね」

 

 十二分の悪意が含まれたウインクとともにそう言うと、両手剣使いはワナワナと震え今にも殴りかかろうとした。しかし背後からの、同じく私を勧誘してきたプレイヤーたちの好奇なニヤニヤを感じてか、ぐっと堪えさせられた。

 私も、彼への評価が暴落しそうになり「最低ーッ!」と非難したくなったが、やめた。最後の、お世辞か成り行きでしかないのだろうが褒め言葉に、不意打ちを食らってしまった。

 両手剣使いたちが黙らされて晒し者にもされると、今度は真面目な顔に切り替えた。

 

「彼女50階層に急ぎの用があるんだ。あんたらのレベルと装備だと……頼りないんでね。オレが案内人として雇われたってこと」

 

 キリトさん、なんでここで言っちゃうの……。慌てて止めようとするも遅く、男たちは驚き追及を始めてきた。

 

「50階層って……マジかよ」

「なんでいきなりそんな上に?」

「大丈夫かよシリカちゃん、死んじまうよ?」

「てか、お前こそ案内なんてできんのかよ?」

 

 最後の、不満げな両手剣使いの質問にだけ答えた。

 

「ああ、攻略組の一人に伝手があるんだ。ついでにちょっとした貸しもな。そいつに明日、彼女の用事を頼もうと思ってる」

「え!? そうだったんですか、キリ―――」

 

 ここまできて急に見捨てるなんて……と、心配になって尋ねきる前に、シィーと黙らされた。指ではなくチャップスの棒を器用にピンと立てて。そしてそっと、周りには聞こえないように耳打ちしてきた。「とりあえずそういうことにしておいてくれ」と。

 何か事情があるのかもしれない……。そう察し小さく頷いたのを見ると、もう一度勧誘者たちを見渡した。コレでご納得いただけたかなと、笑顔を振りまく。

 難しそうな/釈然としきれていない表情ながらも、何も言えず。その中で代表としてか、また両手剣使いが進み出て尋ねてきた。

 

「その……用事とやらは、何なんだ? 何しに50層なんて上まで行くんだよ?」

「大丈夫だ、遅くても3日以内には終わるよ。

 そのあとは彼女フリーになるから、声かければいいんじゃないかな。なんたってお前ら、一番先に予約したんだろ?」

 

 さきのネタを引っ張り出すと、両手剣使いのみならず私にも飛び火しした。というか、私が一番の被害者だ。周囲の好奇の視線が痛い。

 顔が赤くなってしまう、助けてもらったように見えて私が元凶のような形で収まってしまった。まぁ実際そうなんだけど……。恨みがましい目でキリトを睨む。

 

「それじゃ、そういうことだから。悪いね」

 

 気軽にそう言うと、手をヒラヒラさせながらその場から離れていった。

 慌ててその背に追いすがる前に、勧誘者たちへ振り返り、

 

「あ、あの……本当にごめんなさい! 

 今はちょっと……ダメなんです。どうしても50層に行かなくちゃいけないんです。だからその……ゴメンなさい。でも! ソレが無事終わればここに戻ってきます。その時にまた誘ってもらえれば……嬉しいです」

 

 言いたいことを言い切り深々とお辞儀をすると、そそくさとキリトの下に走った。これで、めちゃくちゃにされた私のイメージが少しは……修復されたと思う。

 後ろから何か言い縋る声が聞こえたような気がしたが、振り返らず。もう何も言うことはない。おそらく、別に聞かなくてもいいことだろう。

 転移門広場を横切り、メインストリートを進んでいった。

 

 

 

 ようやく勧誘者たちの姿が見えなくなると、ホッと胸をなでおろした。

 肩の荷が下りるとすぐに、隣のキリトに不満をぶつけた。

 

「キリトさん。アレは一体、どういうつもりですか!」

「変に勘繰られるよりはマシだろ?」

 

 さして気にした様子もなく、ガリガリと小さくなった飴玉を噛み砕いた。

 残った棒はプッと吐き捨てるかと思いきや、ポケットの中にしまう。そして、新しい飴玉を取り出しまた口の中に入れた。コリコリと転がす。

 

「それはそうですが……、限度というものがあるんじゃないですか?」

「あそこに集まった奴ら、多かれ少なかれそういうつもりでシリカさんを誘ったんだろ? だったらソレも、ああやって大っぴらにしちまえば、変に捻じ曲がることがなくなって良くなる」

 

 そんなわけない……。反論しそうになったがやめた。そうなのかもしれないと思わせる確信が見えたから。何よりソレが、私の今後を思っての行動なのだと想えたから。

 でも、誤魔化されているように/面白がっていたようにも見えたので……複雑だ。ふくれっ面で睨む。『いい人』だとの印象は、少し修正しないといけないらしい。

 

「……逆に吹っ切れたら、どうしてくれるんですか?」

「そういうのって、先出ししたほうが最終的には負けなんだよ。惚れたら負けってアレ。……ちょっとだけ我慢できればリターンは確実ででかいから、頑張って損はないんじゃないかな?」

 

 他人事と思って……。実際は他人事だけど、彼にそう言われるのは何か釈然と来ない。もうちょっと大事に扱ってくれても……。

 不満が顔に出てしまうが、それ以上は何も言い返せず。この件はこれまででいいと、ため息を一つついた。

 

「……『さん』づけはいらないです。シリカでいいですよ」

「そうか。

 それじゃシリカ。君がここで拠点にしてる宿って、もしかして……ここだったりするのか?」

 

 ストリートに立ち並んだ建物の中、一際大きな二階建て=【風見鶏亭】。指さしたその宿は、まさしく私がここで拠点にしている場所だった。

 

「はい、ここです! ……て、なんでわかったんですか!?」

「いや、今シリカが言ったじゃん?」

「そ、そうですけど……。その前ですよ! 何でここって目星つけれたんですか?」

「お、そこに気づけたか!

 ……まぁ、一番さきに目に付いたからって言ってもいいんだけど、それじゃ納得できないよな?」

 

 コクコクと、頭を振った。

 万が一にもありえないことだが、彼がストーカーだったら……との不安が浮かんできた。そういう行為自体はありえないことではないし、必要な時と場合もある。でも、今と彼にとっての私は違うはず。ソレを払拭したい。

 

「……オレがこの階層で攻略していた時、使っていた拠点なんだ。宿代は高いけど【転移門】から近い。何より、ここで朝夕と出てくる食事が旨くて―――」

「やっぱり、そうですよね! キリトさんもそうだったんですね。ここのチーズケーキってすぅっっごく、美味しいですよね♪」

 

 同志を見つけた! あまりの興奮に思わず、彼の手を掴んでいた。

 

「……チーズケーキって? 親子丼の方じゃなくて―――」

「攻略から帰ったあと、お腹減らしてガマンして帰ってきたあとアレを一口食べると、もう……たまんない♪ 口の中だけじゃなくて、体中までとろけちゃうんですよぉ」

 

 思い浮かべるだけでも、ヨダレが出てきてしまう。

 ここじゃいくら食べても太らないから、というか一杯食べないと生き延びれもしないから、めいいっぱい食べられる。アレだけを大量に食べる。お金も虫歯も関係ない。至福の時間だ……。

 しかしキリトは、その感動に若干引き気味だった。加えて、戸惑いの色も浮かべ首をかしげていた。

 

「……あぁー、悪いシリカ。オレ、それ食べたことないや」

「ほぇ? ……正気ですか? なんでチーズケーキ、食べてなかったんですか? 何かの苦行ですか!?」

「近い、近いって! ……そもそもだ、オレがいた頃にそんなデザートなかったよ」

 

 一瞬、何を言っているのかわからなかった。本当にそこは、この【風見鳥亭】なのかとも疑ってしまった。でも、そんな名前の宿屋はここ以外にはない。

 何が違ったのか……。考えさせられた。知らないうちにチーズケーキがメニューに入るイベントを進めてしまったのか? 嬉しい誤算ではある。でも、ここで活動しているプレイヤーなら誰しもお金さえ払えば食べられるものだ。何か特別なことをしたとは思えない。彼にできず私にできたなども、考えられないし……。

 私が悩んでいると、キリトは宿屋の全貌に目を向けながら推察を述べた。

 

「……オレが使ってた頃は、こんなに立派な外見じゃなかった気がする。だからたぶん、店が繁盛してそれで……新メニューが増えたのかもしれない」

「そんなことって、あるんですか?」

「あんまり見かけたことはないけど、時々下の階層に行くと外観がかなり変わってることがある。こことは違って裏寂れていることもね。……そうなってると大抵、新しいNPCがいたりアイテムが落ちてたりクエストが発生してるんだ」

 

 賄い飯に新しいメニューが増えるのは、初耳だったけど……。新たな発見に、その目の輝きが増していた。笑もワクワクと深まっているように見える。

 なぜか惹かれ、その横顔をじっと見つめてしまうと、不意に見つめ返された。胸が躍り上がる。

 

「今日はオレも、ここに泊まるよ。50層には明日の朝でいいかな?」

「え、あ……はい! 大丈夫です」

「一日あればお釣りが来るぐらいだろうけど、いちおう貴重品とかは『ホーム』に送った方がいいよ。少なくとも明日は、シリカが35層にはいないことが知られちゃったわけだしな」

 

 オレのせいでもあるけど……。苦笑ぎみに、忠告してきた。

 先の動揺が収まらず呆然と聞き流してしまったが、数拍おいて理解できた、そこに全く思い至っていなかったことにも。

 盗人の危険性……。嫌なことだが、ここではそんな被害が多々ある。いくら宿屋の個室は、借主以外には入れない設計になっているとしても、どうにかして潜り込んで盗んでいく。そんな理解しがたい執念を燃やしている盗人プレイヤーが、後を絶たない。……特に、レアアイテムをゲットしたと知れ渡ってしまった人や、女性プレイヤーの部屋に入り込もうとする輩は。

 心配になってくると、キリトが安心させるように、

 

「怖がらせて何だけど、ここの宿の警備体制はかなりいい方だ。オレがいた時よりも繁盛しているようだから、なおさらだろう。従業員も買収されるより規律を守る。

 侵入するには色々と下準備があるし、手間も取るからな。一日開けただけじゃまず無理だろう」

「そうですか、よかった……。て、何だか慣れてるみたいな口ぶりですね?」

「けっこうな回数やられたからなぁ、イヤでもやり方を覚えたんだよ。まぁ、仕返しでやり返したことがない……わけでもないけどな」

 

 そう言うと、イタズラっ子のような笑顔を向けてきた。

 一瞬唖然とするも、感心してしまった。そこには、盗むことは悪だと断じる怒りは見えない。むしろ戯れ合いの一環だと、楽しんでいるようにすら見えた。幸いにもそういう目に遭った事のない私には、おそらく知り合いのプレイヤーたちでもそんな心境は、わかりようがない。それまで『楽しい』とは……受け入れきれない。

 ソレが今の自分の位置/彼との距離。それが分かってしまうと何だか……寂しく感じてしまう。

 

「さぁ、いつまでここで突っ立っても仕方がない。宿に入ろう。シリカご自慢のチーズケーキも、食べてみたいしな」

「……そうですね。きっと頬がとろけちゃうこと、間違いなしです♪」

 

 去来した寂しさを無視するように、あえて朗らかに振舞った。宿に入ろうとするキリトの背についていく。

 

 しかし、門扉をくぐる寸前、隣の道具屋から4・5人ほどのプレイヤーが出てきたのが見えた。先に【迷いの森】の中で喧嘩別れしたパーティーだ。こちらに気づかず別の場所へ向かうも/知らんぷりを決め込もうとするも、最後尾にいた赤い髪の女性と目が合ってしまった。

 やばい、と思うもおそかった。私に気づいた/今最も会いたくなかった彼女が、こちらに近づいてきた。

 

「あら、シリカじゃない。森から脱出できたんだ」

「……おかげ様で」

 

 無事で何よりだね/残念ね、くたばってなかったんだ……。かけられた労いとは真逆の副音声/心の声が、同時に聞こえてきた。

 真っ赤な髪を派手にカールさせた女性、確か【ロザリア】と言ったか。スタイルのよさを誇示するように堂々と、眠たげな瞳で見下ろしてきた、うっすらと嘲りも含めて。

 

「でも、遅かったわね。ついさっき、アイテムの分配は終わっちゃったわよ」

「要らないって言ったはずです! ―――急ぎますので」

 

 無理やり会話を切り上げようとするも、相手は目ざとくも気づいた。いつもは私の肩の付近にいるはずの存在がいないことに、今一番触れられたくないことに。

 

「もしかして、あのトカゲ……死んじゃったのかしら?」

 

 ビクリと一瞬、肩が震えてしまった。怯えが露わになってしまった。

 それで気をよくしたのか、ニンマリとそこ意地悪そうな笑みを向けてきた。

 そうだったんだ、残念ねぇ……。そんな、心にもないことを言われる前に、振り返って宣言した。

 

「ええ、死にましたよ。でも……絶対に、生き返せます!」

「生き返らす? それって……【思い出の丘】に行く、てことよね。でも、あんたのレベルで攻略できるのかしら?」

「できるさ」

 

 私が言い返す前に、キリトが前に出てくれた、私を後ろに庇うような形で。

 ロザリアはそこで、初めて彼に目を向けた。そして、値踏みするように見渡すと、赤い唇を歪め再び嘲りの笑みを浮かべた。

 

「あんたも、その子にたらし込まれた口かい? 見たとこそんな強そうじゃないわね」

「フッ、どうやらその目は節穴みたいだな」

 

 ロザリアの侮辱をものともせず、逆に余裕の笑みを浮かべながら真っ向から返した。

 あまりにもあからさまな態度にも、彼女は笑顔のまま。しかしその目はすぅと、鋭くキリトに向けられた。まるで獲物を見つけた蛇のような眼差し、傍らにいるだけでもゾクッときた。

 

「……あら、それはどういう意味かしら?」

「言葉通りだ。そんなものは、オレの彼女への愛でカバーしきれるんだよ。お釣りがでるほどにな」

 

 一瞬、確信に満ちたキリトのセリフが放たれると、すべてが空白になった。ロザリアもポカーンと、斜め上すぎる答えに目を丸くさせらていた。

 誰も何も言えないのをいいことに、さらに熱く語っていく。

 

「彼女が傍にいてくれれば、オレは誰よりも強くなれる。誰にも負けない。例え50層だろうが関係ない! フロアボスだろうが倒すッ! 邪魔する奴は許されねぇ!! ……愛は全てを超越するんだ」

 

 どこか彼方の楽園を見上げながら、己が想いを宣言してきた、感涙に咽びそうな勢いで。彼の周りだけ異常な/余人には近寄れないフィールドが発生している……ように見えた。

 私は、考えることを放棄していた。してはならないとの奥の奥底の命令に従った。燃え尽きた灰のように真っ白に、心を全力で漂白し続けていた。

 

「えぇ……っと、おめでとうシリカ。よかったわね」

 

 ロザリアもアレに圧倒されたのか、もはや蛇ではなくなっていた。一刻もはやくこの場から/特に彼の前から逃げ出したいと、及び腰になっている。

 そんな彼女に善意溢れる眼差しで、いらぬ手を差し伸べてきた。

 

「信じられないようなら、どうだ? 貴女も一緒に行くかい? 歓迎するよ」

「いえ結構よ! 邪魔しちゃ悪いものね」

「いや、証人になって欲しいんだよ。オレの彼女への愛が、いかに強大無比だったということを世に知らしめるためにね。ソレを間近で見られるチャンスだ、貴女はすごく運がいい」

「ゴメンなさい、ほんとゴメンなさい! お二人だけで、頑張って―――」

 

 もうここにはいたくないと、無理に会話を切り上げそそくさと退散した。

 

 

 

 再び、二人だけになった。……なってしまった。

 ロザリアの背が見えなくなると、私に振り返って、

 

「―――さて、行こうか」

「へ? ……ふぁ、はひぃ!」

「どうしたシリカ、面白い返事だな」

 

 クスクスと、私の慌てぶりを面白がっていた。……そこには先ほどの、愛の伝道者らしき面影はない。

 かぁと、顔が真っ赤に染まった。何をされたのかわかってしまった。

 なので、膨れっ面など言ってられない。破裂させるように叫んでいた。

 

「あ、あんな……冗談でもあんな変なこと、言われたらそのぉ……こうなりますって!」

 

 バッと、言いたいことだけ言い捨てて宿屋に入った。―――はいろうとした。

 

「あ! そこは―――」

 

 しかし、ちゃんと前を向いていなかったからだろう。向かったその先は硬い柱で、そのまま―――ゴンッと、ぶつかった。

 思い切り全力での不意打ち、避けることも受け身を取ることもできず。ぶつかって尻餅をついて、痛むオデコを抑えながら、声も上げられず呻いた。

 大丈夫かと心配するキリトに、よけい情けなさが増してくる。何も言えずうずくまった。

 

 




 長々とご視聴、ありがとうございました。

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