偽者のキセキ   作:ツルギ剣

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 17/11/23、タイトル変えました。


ウルバス 旅の仲間 烏

 

 消え入りそうな断末魔を漏らすと、鷲はようやく活動を止めた。最後の一匹。―――何とか撃退した。

 安堵の吐息を漏らすと、緊張が解けた。気づけば空は茜色に染め出していた=攻略に約2時間あまり/連携が取れればこの半分以下でできた=長丁場の戦闘、その場に腰を下ろそうと膝がよろける。膝を曲げようとした寸前に堪えた、剣を杖にして立ち続けた=ちょっとした強がり。

 傍らではコペルが、地面にへたり込んでいる。しぶとくも生き延びてみせた。

 【ホーネッドホーク】の末路=双角を岩壁に突き刺した間抜けな姿、それが計数体ほぼ一列に並んでいる。

 頭隠せず尻も隠さずの晒しもの。何体か経験値を獲得する前に素材アイテム化=鳥肉&鷲羽&巻角へと変貌/分解してしまっていた。終わってみればお笑いな有様だが、戦っている最中は全く笑えず。今もあまり笑えない。

 

 全ての背中に大量の傷跡=必勝法により隙ができた背中を攻撃した時つけた跡が刻まれている。ほんの二・三筋は胸のあたりに=角の突進攻撃を横スッテプ回避ではなく、懐への前方ローリング回避>回転斬りでつけた傷=ハイリスク&ハイリターンのカウンター。タイミングを誤れば大ダメージ必至だったが、何度か成功した。本来ならもう一時間はかかるところ、それで大幅に節約。ただしオレだけ。コペルは堅実に必勝法通りで倒した。……フロアボスのLAアイテムがあるため、オレには防御力に余裕がある。仕方のないことだ。

 長い激闘の末、二人共ボロボロ。今HPは黄色になったばかりで余裕はあるが、何度かポーションで回復。そのポーションは5を切っている。武装の耐久値はどちらも限界/壊れる寸前=鍛冶屋で修繕が必要。何より、長時間の緊張で精神が参っている。どこぞの美人さんではないが、お風呂に浸かってフカフカのベッドの上でグッスリと寝たい。満身創痍だ。

 オレ以上に極限を強いられたコペルは、肩で息をしながら喘いでいる。己が仕掛けた罠に二度も引っかかった不幸。そこからどうにか生き延びたことを、実感していた。

 彼にはマイナスの印象しかなく「ざまぁ!」と言ってしまえる間柄だ。……のだが、その限界ぶりはさすがに哀れみを引き起こす。オレが巻き込み仕掛けたとなると、なおさらだ。

 

 

 

「久しぶりだな、コペル。あの時は世話になったよ」

 

 できるだけ穏便に声をかけると、睨まれた。怯え二:不明四:怒り四。……こっちの腹を探ろうとしている、かな?

 

「……どういうつもりだ。何であいつらを逃がしたんだ?」

「目の前で人が死ぬのは目覚めが悪いだけさ。特に理由はない」

「盗み聞きしてたんだからわかってただろ? ああいう奴らなんだよ」

「お前と同じだな」

 

 できるだけやんわりと痛烈な返答すると、眉をひそめられた。怯え六:不明一:怒り三。……オレに復讐される、今そうなったらどうしようとでも思っているのだろうか? 

 それなら好都合だ。会話の主導権は握るに限る。

 

「……まず、あの時の謝罪のひとつぐらいして欲しいところなんだが?」

「何を謝るっていうんだ? 僕は囮にされ殺されて、君は必要なアイテムをゲットした。謝ってほしいのむしろこっちの方なんだけどね」

「自業自得だろ、策士策に溺れるとも言うかな。お前の知識不足が招いた事故だよ」

 

 残念ながら、愉快な事実ではないだろうけど……。失敗に向き合ってこそ成長できる。今回は死ななかったのだから、ほんのちょっとは前進したんじゃないかと思う。……間違った方向だけど。

 オレの肩をすくめながらの嘲りに、コペルは眉をピクつかせるもすぐさま平静に。何もない眉間を中指でこする。

 

「……で、何の用ビーターさん? 僕への腹いせ? だったらとんでもなく効果があったよ。これから先僕は、あいつらの復讐に怯えてくらさないといけない」

 

 どうしてくれるんだよ?=言外の非難/責任取れよ……。落ち着いて言っているが、含まれている意味はそんなもの。僕には一切の責任はないと、邪魔したオレが100%悪いと非難してくるだけ。

 図太い神経だ、あまりに太すぎて無いのかもしれない。巻き込んで悪かったなんて哀れみは吹っ飛んだ。

 だからオレの答え=知ったこっちゃない。

 

「それも自業自得だ。こんなデス・ゲームでPKなんてするからバチが当たったんだよ。……せいぜい背中に気をつけることだな」

 

 それじゃぁな……。踵返して、さっさと立ち去ろうとした。コイツにもう用はない。

 

「ちょ、ちょっと待て!? 置いてくつもりかよ!」

「そのつもりだけど?」

 

 それ以外に何があるって言うんだ? ……もうここにいる意味なんてない。というか、一緒にいたくないから。

 不思議そうな険悪の眼差しを送った。その拒絶ぶりにコペルは怯んだ。

 

「……そりゃいくらなんでもないだろう? 人の狩りに勝手に割り込んできたんだぞ、あとちょっとで仕留められたのに。責任ぐらいはとれよ」

「お前が人殺しの道に堕ちるのを止めてやった。善意の人助けじゃないか、責任なんて何もない。むしろ泣いて感謝して欲しいぐらいだ」

「PKやってるような人でなしなら構わないじゃないか。それに、奴らはこれからも続けるぞ。僕に罠に嵌められたことでもっと用心深くなる、次に会うときは厄介な犯罪者になっているはずだ。今のうちに切り捨てておいたほうが、皆のためになったんだよ」

「お前が言うと説得力あるな」

 

 まさしくソレはお前自身のことだからなと、最大限の皮肉をぶつけた。しかしコペルは、眉をひそめるも何も言い返さず、ただ交渉の糸口をみつけようとしている。

 少々大人気なかったこともあり、ダメ押しした。

 

「奴らがまずすることはお前への復讐だ。お前はそのことを知っているから、何らかの対策を練る。今回のことで奴らがレベルアップしたとしても、対処できるような何かをな。その二つがぶつかれば、どちらかが終わる。どちらも無傷では終わらないだろう。それでもまだ犯罪を続けようとするなら、その時オレが制裁をくわえればいいだけだ。……どうせ毒蛇同士喰らい合うだけなんだから、皆様の迷惑にはならないさ」

 

 ぐっと息が詰まる音が聞こえた。コペルは二の句が継げないでいた。余裕の笑顔が剥がれて動揺が露になっている。

 ここまでのようだった。別れを告げる。

 

「もういいよな? それじゃ今度こそ、達者でな―――」

「取引だ!」

 

 再びの引き止め。もう立ち去る気満々だったが、必死の叫び声に足を止めてしまった。

 いい加減にしろよ、オレだって暇じゃないんだ……。装備を一新してクエストをこなし迷宮区を踏破しないといけない。けど、これだけ消耗してしまった。すぐに修復しないとヤバイ。今回のコレは寄り道でしかないんだ。お前なんかに関わっている余裕はどこにも―――

 

 

 

「この層でとれる【エクストラスキル】の入手場所を教える。その代わり、僕とパーティーを組んでくれ」

 

 

 

 息を呑んだ/瞠目した。……今コイツ、何て言ったんだ?

 

「……エクストラスキル、だと? この階層に? そんなものβじゃ見たことなかったぞ」

「ほほぉー。ビーターのくせに、そんなことも知らなかったのかぁい?」

 

 コレは君の弱みだよな。……焦りが消えて戻った含み笑いが、そう伝えてきた。

 黙る/咄嗟に言い返せない、奥歯を噛み締めた。気の利いたはぐらかしもできなかった。ソレが真実だと教えてしまうことになってしまうが、エクストラスキルの衝撃がまだ抜け落ちていなかった。オレの知らない重要情報を、コイツが知っている。

 睨みつけた。腰を落とし背中の剣に意識を集中した。……もし、このことを言いふらしでもしたら―――

 

「安心してくれ、バラすつもりはない。バラしたところで意味がないし、テスター全員がまた不利な状況に戻る。君がビーターになってくれているのは、僕にとっても大助かりさ」

「……お前を助けるためにやったんじゃない」

 

 降参と両手を上げるコペルに、敵意を納めた。……理には適っている。一応そういうことにしておく。

 

「…………で、スキルの名前は?」

「【体術】だ」

 

 そう言うとコペルは、にんまりとまた含み笑い。むっつりと顔をしかめた。

 

「【体術】? 武器を使って戦うこのゲームでか? βでも使っている奴なんて見たことなかったぞ」

「知らないのは当然さ。見つけづらい場所にあるし、何より入手に数日単位の時間がかかるんだ」

 

 ふふ~んと自慢げな笑みを浮かべた。

 腹が立つ……。いつの間に形勢逆転、会話の主導権がコペルに移っていた。先まで立ち去る気だったのに、オレから興味以上の引き止めるに足る反応を引き出す=取引の場に引きずり止めた/止められた。

 少し危険な流れだ。釘を刺しておかないといけない。

 

「……情報提供者はいるぞ」

「アルゴだろ。あいつも知らないさ、僕以外では入手したテスターはいないんだから」

「どうかな、彼女ならそんなことでも探り出しているかもしれないぜ」

 

 方法はわからないが、そんな重要情報なら必ずゲットしているはず。このゲーム一の情報屋を名乗っている以上、そうしているはずだ。……入手している根拠は無いが、彼女のプライドとスキルは信頼できる。依頼すればすぐに見つけ出してもくれるはず。

 ただ、問題が一つだけ―――

 

「……まぁもしかしたら、あいつも知ってるかもしれないね。どこにそんな情報源があるかわからないけど。

 でも、知っていたとしてもだ、果たしてタダで売ってくれるのかな? 君がその情報を買うのは初めてだろうから、かなり値を吊り上げてくるかも知れないよ」

 

 ソレが問題だ。大問題だ。エクストラスキルの入手ともなると、尻の毛まで抜かれる可能性がある。

 時間を惜しまずくまなく探せば、見つかるだろう。だから、そこまで法外な値段を突きつけてくることはないだろうが、手痛い出費になることは間違いない。オレか他の誰かに情報を売った後、あの『攻略本』に載せて全公開してくるはず。それまで待つのも手だ。

 だけど、『ビーター』ならダメだ。誰よりも先に入手しておかないとまずい。オレに「知らなかった」なんて言い訳は無い。……出費は避けられない。

 迷っていると今度は、コペルがダメ押ししてきた。

 

「僕はパーティーを組むだけだ、他に何も要求しない。安いものだろ?」

 

 ほぼタダと同じ。こちらの損失はほぼ無い。だが……、だからこそきな臭い。

 コイツとパーティーを組むということが、何を意味するのか? 何故それだけで重要な情報を売るのか? ……アルゴに払うであろう金と同じ程度、あるいはそれ以上の何かがありそうだ。まったく善意を期待できない相手。

 

「……どうだかな? 高くつきそうな気がしてならないんだが」

「ナイナイ、考えすぎだよ」

 

 大げさな振る舞い/何かを誤魔化す素振りは……、無い。今この場では見えない。いたって普通の朗らかな笑顔だけ。

 だが、ソレに一度騙された。騙している現場も見た。二度あることは三度ある/三つ子の魂百まで。……目の前のコペルのアバターを別人が操作しているとでもなければ、変わりっこない。善意の施し/友誼の証のためなど有り得ない。

 九割疑いの目で見つめ続けると、軽くした雰囲気を拭き取るように真面目に言った。

 

「ビーターを名乗った以上、君はこれからソロでこのゲームを生き残らなくちゃならない。ズルしている君なんかを、誰もパーティーに誘おうなんてしないだろうからね」

「それはお互い様だな。パーティーメンバーを罠に嵌める裏切り者となんか、誰もパーティーを組んだりしない」

「アレはそうするだけのメリットがあったからさ。今回はそんなものない。僕らは互いに助け合えるよ」

「つまり、メリットがなくなれば同じことをするかもしれない、てことか?」

「まさか、君に同じ手は通用しないだろ?」

 

 悪びれもせずに言ってきた。誤魔化すことすら放棄しやがった。

 オレが引き気味に睨んでいると、落ち着かせるようなほほえみを浮かべながら言った。

 

「βテスターの一人として、感謝してる。そして申し訳ないとも思ってるんだ」

「……いきなりなんだよ?」

「君は無理して一人で責任を負おうとしてくれた。これから先トップにたち続けなくてはならない、本当は皆を圧倒するような知識なんてないにも関わらずにね。虚勢を張り続けなくちゃならない。

 でもソレ、必ずしもソロでやる必要はないだろ? トップでいればそれでいいんだから。一人では難しすぎるけど、僕がサポートすれば確実だ。同じくテスター同士なんだから、知識を補填しあえるしね。……少なくとも、足でまといにはならないはずさ」

「そのかわり、背中に気を付けなくちゃならないけどな」

 

 じろりと、睨みつけた。情を利用して油断させても無駄だと、警戒心を露に向けた。

 心外だとばかりにムッとされるも構わず、 無理にでもこの場から離れようとした。

 

「いつ裏切るかも知れない奴とパーティーを組むなんて、願い下げだね! まだビギナーと組んで足を引っ張られた方がマシだ」

「わかったわかった、あのことなら謝るよ。ゴメンね、ゴ・メ・ン! ちょっとばかり考えたらずだったよ」

「それは、『次はもっと上手く罠を張ってから仕留める』て意味か?」

「『君とは敵対せずに友好関係を結ぶべきだった』て意味さ。裏切るべきではなく協力すべきだったよ。それだけ僕に対して被害妄想を抱えられるぐらいならね」

 

 一言多い、妄想じゃなくて事実だ……。匂いについて知っていて別の方法を取られていたら、殺されたのはオレだったかもしれないのだから。

 言い返そうとしたが……やめた。責任のなすりつけ合いなど、どこまで行っても平行線/時間の無駄だ。この提案を本気で蹴飛ばしたいわけでもないので、今までの文句はこれで打ち止めでいいだろう。

 

 出された取引の条件を改めて見直してみた。

 悪くはない。エクストラスキルを入手し、さらにはβテスターのパーティーが手に入る。ソロよりもパーティーメンバーがいた方が攻略の効率は上がる、2・3人ぐらいならプラスにしかならない。

 性格が良いわけでも友情か義理があるわけでもない。むしろ恨みや疑いが多分にある。けど、その知識と能力は期待できる。二度のMPKの罠/その末路を見るに、オレなら対処できる。もし裏切って罠に嵌めようとしても、切り抜けられる隙が必ずある。

 吟味した答え=了承。ただし、条件付き。

 

「情報が先だ。お前が教えたその場所で【体術】を入手できたのなら、パーティーを組もう」

 

 報酬を先にもらってから。その後にパーティーを組むかどうかは、オレを信頼するしかない。報酬だけもらって捨てるかもしれない。コペルにとっては不利な条件だろう。だが、これ以上は譲れない/譲るつもりはない。

 

「OK、それでいいよ」

 

 迷わず即座に了解/案に相違した。

 

「……本当にいいのか? お前にとってはかなり不利な条件だが?」

「取引には信頼関係が重要だ。でも僕は、一度君を裏切ったわけだからね。そのぐらいの不利なら飲み込むさ」

「オレがスキルだけもらってサヨナラ、とは考えないのか?」

「そういう奴なら、そんな忠告しないよ。それに何より、あんな奴らを助けに飛び出したりはしない」

 

 君は必ず、僕とパーティーを組んでくれる。絶対に裏切ったりしない。……そんな確信に満ちた声が、聞こえてきたような気がした。

 別の他人ならこそばゆくなるものの、裏切り者に言われると眉をひそめるだけ。言質を取られたかのような/裏切らないような布石を置かれた嫌な気分だ。今のところは条件通りにするつもりではあるが、その気分を一掃するためにスキルだけ貰ってポイッしてもいいんじゃないと思えてしまう。それをやってしまうと、コイツと同じレベルに格落ちするけど。……これがコペルの狙いだろう。

 大きくため息をついた。肩からも力が抜け落ちる。……不承不承だが、了解。

 

「それじゃ、取引成立だね―――」

 

 朗らかにそう言うと、片手を差し出してきた=握手を求めてきた。

 差し出されるも無視、あからさまに拒否した。

 

「馴れ合いたいわけじゃない」

「ビジネスライクの関係、てわけだね。……まぁ、そっちの方が僕ららしいか」

 

 あっさり手を引っ込めた。

 もう「僕ら」なのか? と喉元まででかかってきたが、ギリギリで抑え込んだ。いちいち目くじら立てては、これからやっていけない。

 

「それじゃ、すぐにでも行こうか!」

「待てよ、まずは装備品を修復しにいかないと」

「ウルバスに戻るの? 今はまだプレイヤーたちがたくさんいると思うけど、いいの?」

 

 君は有名人/ビーターで、あそこに行けば大勢のプレイヤーに顔を晒すことになるけど? どんな目に遭うか想像はつくだろう? ……オレの状況を察しての助言。

 ごもっともだ。コイツの前で認めるのは嫌だが、オレの心臓と面の皮はそこまで強くない。今のウルバスは、オレにとって迷宮区以上の危険地帯だ。

 

「ここからそう離れた場所じゃないんだ。入手の際に戦闘があるわけでもない。でも時間はかなりかかる。入手してからウルバスに戻って修復すればいいさ。

 日が暮れる前に行こう―――」

 

 そう言い切ると、先導していった。オレもそれに従う。

 装備がギリギリなのは不安だが、戻って晒しものになるよりかはマシだ。ほとぼりが冷めるまでの間、ほとんど誰も知らないスキルを入手できるのも良い。―――先を急いだ。

 

 

 

 

 




 長々とご視聴、ありがとうございました。

 コペルの性格は、拙著の独自解釈です。

 感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。

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