偽者のキセキ   作:ツルギ剣

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66階層/狭間 喰らいつく生者

 

 

 

 ―――油断してしまった。

 あの危機的状況、集中しすぎていたのだろう。この結末まで頭が回っていなかった……。

 

 

 

 残心とともに愛剣を背中の鞘に納めると、緊張の糸が僅かに緩んだ。胸の内でもホッと安堵をこぼすと、臨戦態勢が解かれてしまったのを感じていた。棚上げさせていた疲労感が体にのしかかる。

 だから―――

 

「―――ねぇ、こうなるってわかってたの?」

 

 背後からそっと、フィリアの一言。

 何気なしに振り返ると―――ヒュンッ、微かな風切り音が耳に届いた。

 そして、ソレが目に映った時にはもう……遅かった。

 

 バチンッ―――。左手に、鞭の一撃。

 

「ッ―――!?」

 

 強烈かつ正確な打撃にそのまま、左手が背後にはじけ飛んだ。つられて半身にさせられ、よろけ倒れそうになった。

 ギリギリ/偶然だろう、寸前に踏ん張れたので【転倒】は免れた。

 しかし―――握っていたもう一つの剣までは、そうではなかった。

 弾け飛ばされた衝撃で手放し、遠く背後へと落としてしまった。……武器の【取りこぼし】。

 

 落とされたソレを見送りながら/突然の出来事に驚愕しながら、それでも、体は今必要な行動を取っていた。―――すぐさまの臨戦態勢。

 愛剣を握り直し/ギリギリ四足になるほどの腰を落とし、突撃タイプのソードスキルを放とうと身構えていた。速攻の反撃―――

 しかし……ソレは読まれていた。

 顔を上げフィリアに/敵に視線を定め直すと、目の前には―――鞭。すぐさま放たれていただろう鞭撃が、オレの顔面を襲おうとしていた。

 

 反射的に避けた。反撃を強制キャンセルし、追撃の軌跡から頭部を外す。ついでに歯を食いしばり、くるだろう衝撃に備えた。

 強引ながらもソレは、功を奏した。

 鞭撃は、わずかに頬をかすったのみ。耳朶を通り過ぎた時、焼けるような摩擦音を脳髄へと刺し込みながらも、それだけだった。ただ、あまりにも強引すぎた。体を支えられずそのまま、横倒れになっていく。

 それでも、仕切り直し。奇襲を凌ぎ切ったとなれば、結果は上々だろう。後はただ、喰らいつきに行けばいいだけだ。組み伏せてやるのはそう難しいことじゃない。彼女は早まったことをしてしまっただけになる。

 しかし―――甘かった。

 ギリギリで避けたはずの鞭撃の影、もう一撃が隠されていた。

 

 ソレはオレの目に映ることはなく、ただ―――バチンッと、顔面を叩いていた。

 もろに受けてしまった鞭撃。しかも、予想だにしていなかった……。床に横倒れた後、横転からの切り返しのプランは、潰された。

 そのまま倒され、後ろに弾け転ばされていった―――

 

 

 

 転ばされた後、わずかに途切れていた意識を繋ぎ直し、顔を上げられた時にはもう……フィリアに陣取られていた。

 オレが首を切り落としたプレイヤー/彼女の弟、その事切れ虚ろな表情を浮かべている頭部を、悲しそうにも愛おしくか、腕に大事そうに抱えていた。

 その佇まいに―――ゾクリと、首筋が粟立った。

 同時に、彼女の目的が思い出された。共に戦ってきた仲間を売ってまで果たそうとした目的。何のためにここまで/こんな死地まで、オレについてきたのか……わかってしまった。

 

 頭が痺れ、喉が強張る。言い知れぬ躊躇いの金縛り、レッドライン/危険域に踏み込もうとしている警告。

 今すぐとっと逃げろ―――。ソレが正しい選択だ。誰だってそうする、誰かに責められることもない、ここにはその誰かすらいない……。

 しかし/それでも/だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()

 腹の奥底からこみ上げてくる何かが、金縛りを突き破って……言った。

 

「―――馬鹿な真似はよせ。考え直せ」

 

 戻ってこい―――。今ならまだ、引き返せる。

 最後の警告、今オレができる最大の譲歩。ただの気の迷い/冗談で終わらせられる最終ライン……。

 しかし―――フィリアは踏み込んでしまった。

 

「55階層での噂、本当だったのね」

 

 オレに向けてきた瞳は、底冷えするほどに……虚ろだった。

 まるで、その腕に抱えている頭部と同じように―――レッドプレイヤー特有の禍々しさ。

 微かに繋がっていただろう、オレと彼女を結んでいた線は、その虚ろに飲み込まれてしまっていた……。

 

 胸に確かな、痛みを感じた。奥の奥までに射し込んでくる、鋭く致命的な痛み……。

 そんなことはあり得ないと思っていた。そんなことオレには通じないと思っていた。自分が考えている以上に無神経で無遠慮なんだと自覚していた。何の痛痒も感じずにどんな犠牲もものともせず目的を遂行できる、最高にタフなプレイヤー/ビーター。

 しかし……そうじゃなかった。なりきれていなかった。……オレはまがい物だ。

 でも、意地だけは残っていた。

 ソレが顔にまで表れそうになる寸前、唾と一緒に飲み下した。

 

「…………何のことだ?」

「ターゲットだったビーストテイマーの女の子は、実はまだ生きている」

 

 再び迫りきた衝撃にも、何とか耐えた。……耐えれたはずだ。

 オレの前でソレを口に出すということは、確証が無い証拠。【聖騎士連合】の奴らがキッチリと約束を守ってきた証、レッド達にすら漏れていなかった。……ブラフに引っかかるほどお人好しじゃない。

 ただ、時間は必要だ。これから彼女が何をするつもりなのか? この難問を打開する解決策を導き出す時間、今オレにできることは―――

 

「……【生命の碑】にはちゃんと、横線が引かれてただろ?」

「ええ。でも、誤魔化す方法は幾つかあるわ」

「どんな方法だよ? システムにクラックしてダミー情報でも割り込ませる、てか?」

「『碑文に横線が引かれてる』と見えればいいだけ。その時確認した数人が、後から再度確認した数人にも、そう錯覚させればいいだけ。

 個人でその全てを騙しきるのは、不可能かもしれない。けど、()()()()()()でなら、難しいだけで不可能じゃない」

 

 大方の目星は付けられている……。そこまで悟られているのなら、逆に話は早い。

 

「……仮に、そうだったとして。何でソイツらは、()()()()したんだ?」

「それは――― 」

 

 無表情のまま口に出そうとして……止まった。僅かばかり蘇った、フィリアのためらい/心。

 しかし……すぐに虚ろが覆い尽くしてきた。

 その突端を引き戻さんと、すかさず言葉を差し込んだ。

 

「万が一、お前の妄想がすべて当たってるとして、だ。彼女と()とでは、状況が違いすぎるぞ」

 

 後生大事に抱えているソレ、彼女にとってはまだ彼。……糸口はやはり、そこしかない。

 

「もしも、復活させられるとしても。蘇るのは彼なのか、それとも、使()()()()()()()()なのか。はたまた、二人が織り交ざった全くの別人なのかも……わからない」

 

 シリカの場合とは違う。彼女のピナは、普通の使い魔でしかなかった。『自分』というものを持っていたとは、少なくともシリカに匹敵するだけの自分を持っていたとは、思えない。

 しかし彼の場合は、違う。

 あの大猿は明確な自分を持ち合わせていた。しかも、一国の指導者としての強烈な自我を。かえって彼は、限りなく自分を薄められていた、使い魔に操られてしまうほど薄れた自我。さらに致命的なのは、彼とあの大猿の仲はすこぶる最悪だった。……シリカのようになれる可能性は、極めて低いはず。

 それでも―――

 

「―――私にとって重要なのは、()()じゃないの。私を苦しめ続けてきた中身なんてどうでもいい。……どうでもよかったの。

 現実の世界で、あの子の姿をした人が傍で、生きていてくれることだけ。……それだけだったの――― 」

 

 ―――ヒュンッ。

 言い切られるとほぼ同時に、投擲していた。袖口に仕込んでいたワイヤー付きクナイ。

 

 しかし―――パチンッ。

 鞭一蹴、弾かれた。

 呼吸を読んでの奇襲。しかも狙いは、彼女ではなく彼女が守りたいもの/頭部となき別れた胴体部だ。……ダメージを与えればすぐに消滅する。少なくとも/それだけでも、彼女は目的を果たせなくなるはず。

 タイミングは掴んだはずだったが……読まれていた。

 

「……チィッ!?」

「させないわ」

 

 すかさず、二の手―――。愛剣を握りながら、突貫。……少々のダメージは覚悟の上だ。

 真っ直ぐ跳び込んでいった。

 そんな無謀な突貫に、予想通り/予測不能な多方向から鞭撃が、叩き込まれてきた。

 

 不意打ちでしかも不安定な態勢だったのなら、吹き飛ばしも【転倒】もありえた。しかし、覚悟をまとっての突進では不可能だ。そんな攻撃では、オレを妨げることなんてできない―――

 構わず突っ走っていった。そんなオレを遮るように、一本の鞭撃が胸元まで迫り来た。―――鞭の色合いとは異なる何か、『赤白の短冊のような板切れ』が巻きついていた鞭撃が。

 《ソレ》に気づいたときには、もう……遅かった。 

 胸にソレが触れた時、鞭の衝撃が体奥へと突き響いた直後―――()()した。

 

 《爆砕符》___。貼り付けた箇所に小規模な爆発を引き起こす、魔法の短冊。見た目と音の派手さとは異なり、与えるダメージは極微小。しかし、高確率で態勢の崩しと【転倒】を、タイミングが合えば【気絶】まで引き起こせる攻撃・消耗アイテム。

 時限爆弾か千切れる・水に濡れる等、スイッチの入り方は様々にある。今回のソレは、強い打撃にゆらいするものだったのだろう。……鞭の打撃のような。

 

 仕込まれた/引き起こされた爆発に、突進は殺された。仰け反らされその場に、縫い止められてしまった。

 さらに、その無防備の中、繰り出されていた多数の鞭撃が叩き込まれてきた。

 避けることも防ぐこともできず、為すすべもなく叩き続けられていくと―――いつの間にか、元の場所まで押し戻されていた。

 

「―――つぅッ!?」

「近づかせない」

 

 連続打撃から立ち直り/顔を上げると、今一度フィリアと相対し直した。

 しかし今度は、踏みとどまった。……止まるしかない。あまりの鉄壁さに近づくこともできない。

 

 このままじゃ―――。そう焦りが噴き出してくると、気づいた。

 ジリ貧なのは、彼女の方ではないか……? 

 このままオレと戦っても、にらみ合いの持久戦に持ち込むだけ、現に今そうなろうとしていた。援軍がここまできてくれるのは見込み薄だが、来てしまったら彼女の負けだ。オレと援軍達を相手取って逃げ延びれるはずがない。しかも、時間も無い。あの大猿に彼を食べ尽くしてもらわない限り、復活の可能性は0だ。

 ならどうして今、行動にでた……? 

 ここから、今すぐにでも、逃げ出せる算段があるからだ。

 

(でも、どうやって……?)

 

 ここは【狭間】、フロアとフロアの間にある、どこにも所属しないエリア。

 だから、全域が【転移無効化空間】になっている。ここから抜け出すには、歩いてエリア外まで出るしかない。しかし今、その唯一の出入り口は塞がれている。……完全な牢獄だ。

 しかし/だからこそ、【狭間】はレッド達の巣窟足りえた。奴らが拠点を持つとなれば、【狭間】以外にありえない。【狭間】のことはオレや攻略組以上に、奴らの方が知悉しているはず。

 ならば……ありえるだろう。

 この牢獄から抜け出す、奴ら独自の脱走方法が―――

 

 

 

 ―――トゥルルルル、トゥルルルル……。

 突然、奇妙な電子音が、あたり一面に広がった。

 

「―――やっぱり、仕込んでいたわね」

 

 ソレは、彼女が手を突っ込んでいた()()()()()()()()()()()()が、原因だった。ソレに触れることで、この奇妙な鳴動が引き起こされていた。

 そして―――

 

「さぁ、約束は果たしたわ。……今度はそっちが守る番よ」

 

 もう誰もいないはずの頭部に向かって、そう命じると―――()()()()、嗤い声がかえってきた。

 頭部だけになった彼から突然、嗤い声が鳴った。

 ソレは、本来の彼のモノとは明らかに違うだろう。異質な邪悪さがこもっていた。

 

 その不気味な現象に、一瞬真っ白に/眉をひそめてしまうも直後、浮かんできた。その声音の持ち主が、いったい誰なのか―――。

 ソレが喉元まででかかった寸前、フィリアが向き直ってきた。

 いや……オレではなかった。

 

「ねぇ、お猿さん。

 今ほんの少し、その人を止めてくれたら、あなたの兄弟と部下たちは助け出してあげるわ」

 

 ハッ―――と思わず、振り返ってしまった/視線を逸らしてしまった。

 今まで、状況が分からずだろう、静観していたトビ/無理やり使い魔にした猿たちの幹部の一人。……反旗される考慮は、していなかった。

 その心の隙を、突かれた。

 

 マズい―――。やられた。

 見えた呆けていたトビからすぐに、フィリアへと向き直るも……遅かった。

 

()()、【ジョニー・ブラック】――― 」

 

 聞いたことのない呪文が唱えられると―――光の柱。転移時にしか発生しないはずの現象、ここでは発生しないはずの現象。

 ソレがフィリアと周囲を包み込むと……次の瞬間、ポリゴンの欠片を残し掻き消えてしまった。

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 ―――ソレは、偶然がつないだ奇跡だった。

 

 ここまで計算していたわけでは、なかった。

 もう生き埋めの上の手詰まり、何とか生き延びれただけのイッパイイッパイで、次を考える余裕などなかった。ただの偶然、九死に一生。……原因不明は、チートで片付けられることだろう。

 だから、勝手に思うことにした。―――まだ繋がっていたと。

 ちぎられてもなお、絡まっていた。微かにつなげてくれていた。腐れ縁というには短すぎるけど、そんな奇妙な繋がりだろう。

 だから、ソレを残してくれたのが神様とは、言いたくない。きっと/もっと別の何かのおかげだと、信じている―――

 

 

 

『―――おかえり、フィリアちゃん♪

 また随分と、キレイになったね♪』

 

 あぁ、やっぱり『コイツ』だったか……。最悪な予想は、いつだって当たってしまう。 

 

「……アレはどこにいるの?」

『アソコに、総督府に隔離されてるよ♪ 部下のお猿さんたちが一生懸命、()()()を鎮めようと頑張ってる』

 

 そう言うとくっくと、含み笑いをこぼした。

 自分たちの戦況が不利になっているというのに、余裕な態度。舞台に参加しているはずなのに、観客であるかのように楽しんでいるだけ、相変わらずの/いつもながらのムカつかせる態度だ……。けど、今はさすがに訝しまざるを得ない。

 その自信の源は、いったいなんだ……?

 

『急いだほうがいいのは……わかってるか。

 ソレの耐久値もギリギリだろうけど、あっちの方も攻略組たちが攻めてきちゃってさ♪ こっちは指揮官がいなくなって混乱しちゃってるし、もうすぐにでも―――』

 

 バンッと、崩壊すると茶化してきた。

 自分たちの敗北。それは同時に、奴自身の『死』でもある。なのに―――

 

「それにしては、随分と余裕じゃない。何か策でも……て、いいわ。

 そんなこと、どうでもいいことだったわね」

『そう、()()()()()()()()だよ♪ どう転ぼうか、どうなろうが、ね』

 

 僕には関係ない……。すでに/もう、目的は果たしている。

 そう言わんばかりの含みに、改めて考えさせられた。奴にとっての目的/際限のない愉しさ、最高にノれる遊びに興じること。しかし、死んでしまったらそれまでだ。今日以降も生き続ける他のプレイヤーたちを尻目に、途中退場……。そんなみみっちい終幕など、求めていはいないはずだ。

 死なば諸共、巨大な花火でみなを巻き添えにする―――。そんな最低最悪な自爆なのか? 思い浮かんできた仮説に、ゲッソリと呆れ返りそうになると、

 

『……とこで()()、フィリアちゃんなりのお茶目なのかな♪ どう反応したほうがいいものなの?』

「? ……なんのこと?」

『君の後ろにいる人のこと』

 

 ようやく奴から、切り出してきた。

 ココに転移してからすぐに/ずっと、互いに警戒し合っていたが、そんなことはおくびにも出さず。フィリアとの会話に興じてきたが、ようやく指摘してきた。おそらくは/本当に、フィリアがどっちの側についているのか、判断できなかったからだろう。

 なぜなら―――

 

「何をいって―――…… 。ッ!?」

 

 振り返って確認したフィリアが、ようやくそこに、オレがいたことに驚愕していたからだ。あの狭間の地下牢の中、置き去りにしてきたはずのオレが、自分とともにココにいることが。

 彼女が驚くのも、無理はないだろう。当のオレ自身も驚いていた。この偶然がつないでくれた奇跡に、鞭に絡まっていた()()()()()()()()()の存在に。

 けど、そんなことはおくびにも出さず。ニヤリと、不敵な笑みを浮かべながら返した。

 

「―――悪いなフィリア。アンタの願いは、叶いそうにない」

 

 どれだけ犠牲に/切り捨ててきても、叶わない願いというものはある……。そうしてしまったからこそ、叶わないとも言える。

 たぶん、オレがここにいるのは、ソレを彼女のど頭に叩きつけてやるためだと……信じている。

 

 切り返せず/動揺のまま、後ずさりしそうになっていたフィリアの代わりに、

 

『―――ようこそ黒の剣士! やっぱり君が一番乗りだったね♪』

 

 フロアボス以上の黒幕然と、心底愉快そうな顔つき/大げさな身振りも加えて歓迎してきた。

 けど、当然オレは、そんなこと嬉しくともなんともない。

 あるのはただ、ココに転移してから奴を観察し続けての違和感/疑問/仮説。ソレが確信に至っただけだ。

 

「ということは、お前が本体……てわけじゃ、ないな」

『ご明察♪

 ただ……あんまり壊したくない一点モノ、ではあるよ』

「……はぁ。

 相変わらず、お人形遊びが好きみたいだな」

 

 いい加減、卒業したらどうだ? ……ついでに、人生からも。

 事此処に至っても、本体は現さず隠れ続ける、呆れるほどの用意周到さ/臆病さ。いい加減、覚悟を決めて欲しいものだ……。遊びの範疇を越えてしまった遊びは、ただ、ドン引きされる冷めたものにしかならないのに。

 

 胸の内で盛大なため息をつくと、ふと疑念がわいてきた。どうして奴は/ここまで、人形であることにこだわってる……?

 問い詰めてやろうと口を開き直した―――寸前、フィリアが割って入ってきた。

 

「―――ここは、私が受け持たなくちゃならないところね」

 

 自分の不始末は自分で取らなきゃならない……。主武装の鞭とサブのソードブレイカーを両手に、いまいちどオレと相対してきた。虚ろに染まった視線も、再びに―――

 すぐさま、気を引き締め直した。

 浮かんだ疑念は棚上げ、この目前の難敵を/突き崩せなかった障害をどうにかしなければならない。……先の戦いは、オレの敗北だったから。

 

(それに今は、先よりも状況が悪い……)

 

 どうすれば越えられるか……。守りに徹した彼女は、強い。空いた片手からの冷たさが、嫌な汗をもたらす。

 臨戦態勢をとりながら、フル回転で頭脳を働かせていると、

 

『5分ぐらい稼いでくれれば、大丈夫かな。

 それじゃフィリアちゃん、頑張ってね♪ ――― 』

 

 そう残すとジョニーは、彼女が持ってきたソレを抱えて、部屋から退出していった。

 

 第二ラウンドは、その扉の音をゴングに、始まった。

 

 

_




 長々とご視聴、ありがとうございました。

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