偽者のキセキ   作:ツルギ剣

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ドライブシュート!


66階層/狭間 獣の脱獄

 

 

 

 

 刑務所中からゾロゾロと、集まりゆくゾンビたち。何体いるのか見当もつかない。

 まるでもう、勝利を確信したかのように、その正体を突きつけてきた。

 

「貴様らガランを滅ぼす不死身の戦士たち、【獅子猿衆】だ。……二匹だけしかいないのは誤算だったが、まぁ試運転にはもってこいだろう」

 

 不慣れな初見地、閉ざされた空間、完全にコントロールされた大量のゾンビたち。一体一体がどれほど強力かは不明だが、その自信から厄介なことは間違いない。……ここまで詰まれたら、もう逃げの一手しかない。

 ただし、ピアス型の《改造転移結晶》。それに意識を向けて発動させようとするも……できなかった。

 【転移無効化空間】か……。いや、その手の場がもたらす罠の圧力は感じなかった。機能全開にしていた【索敵】が警告してくれないのもおかしい。地下を深く潜りすぎたのが原因だろう。上下のフロアの境に存在する地下階層/【狭間】。いつの間にか、そこに到達してしまったのかもしれない。

 同じく、その危機的な現状を理解したフィリアが、努めてか平静のまま声をかけてきた。

 

「―――閉じ込められた、みたいね」

「そうだな」

「……余裕ね?」

「やりそうなことだと思ったからな。レッド達然り、ソイツらも」

 

 呆れるフィリアをよそに、大猿閣下を睨み返すと、余裕たっぷりにダメ出しをしてやった。

 

「ただ、こんな罠よりも、生き埋めにした方が確実だったろうにな」

 

 詰めが甘い……。そんなことをしたら、目の前のソイツも共倒れだろう。けど、敵を抹殺するには一番効果的な罠。こんなおぞましい研究が陽の下に曝されるリスク、それも同時に解消できる一石二鳥の古典的解決法。

 いや―――なるほどな。……嫌なことは妙に当たる。

 改めて大猿閣下を観察すると、気づかされた。手痛い指摘なはずなのに、むしろニンマリとほくそ笑みを返していた。ちゃんとソレも、考慮にいれていると。

 しかし、口には出さず。かすかな残滓も塗りつぶすように、罵倒を返してきた。

 

「ふん! 知ってて、わざと降りてきたというわけか? ……傲慢なガランだ」

 

 だとすると、逆転の芽もでてくる。生き埋めで圧殺するのなら、自分だけは脱出できる手段を持ち合わせているはず。ソレを奪い取ればいい。

 ただ……望み薄だろう。

 周囲に居るのは、ゾンビたちだけ。奴の部下の姿がない。どれほど完璧な兵器であろうとも、生きている者を守りきれるのは生きている者だけ。信頼の置ける腹心達がいないのは、ありえない。共倒れ覚悟の特攻も考えられるが、指揮者が犠牲になる損失と釣り合いが取れない、それこそ腹心を使うのがベターだ。

 つまり、考えられることは、目の前の奴もまた『肉人形』。もしくは、映像と音だけをリアルタイムで送信している『虚像』だろう。機械化が進んだ現実世界であっても、まだそのような拡張現実技術を開発できたとは知らないが、ココ/仮想世界ならばありえるのだろう。もし後者ならば、礫の一つでもぶつけてやれば判明する。

 結論―――脱出の手段はない。

 

(……オレの命運は、ここまでようだな)

 

 胸の内で自嘲するも、不思議と心は落ち着いていた。

 いずれ訪れるべきことに、出会っただけ。今まで何度か横切られてきたので、遭遇だとは思わない。迎え入れる準備はできていた。……できてしまっていた。

 だからか、まだできていないだろう存在/戸惑っているトビに、情が湧いてきた。

 

「―――コレが、お前の信じている『神様』の姿か?」

 

 お前もこうなりたいか……。チラリと視線だけ向けて、語りかけた。こんなゾンビ達みたいになりたいのか? こんな哀れな者たちを操り悦に浸っている下衆になりたいのか? コレを許容している何者かを許せるのか?

 オレは違う―――。暗に含ませた刺にトビが、大猿閣下まで眉をひそめた。

 

「お前は、死にたいか? それとも、生きていたいか?」

 

 生存欲求……。NPCに、ソレも擬似的だろう彼らに問いかけるのは、甚だ間違っているだろう。あらかじめ書き込まれたコード群に従って、入力された言葉の意図✖/意味○を検索し検出し、正しい唯一の返答を排出するだけだ。ソレは、己の内から湧き出てくる欲とは真逆だ、聞くだけ虚しくなる。

 それでも……想ってしまう、()()()()()()と。ココの創造主/茅場晶彦の策略にまんまとハマってしまっただけかもしれないが、確かめずにはいられない。お前は人間らしい思考を持たされた人形でしかないけど/それでも、『生きたい』と思えるのか?

 

「コレでお前は、お前に課せられた役割を果たした。いや、『使命』と言ったほうがいいか。

 だから()()()()()は、お前の自由だ。お前自身で、何もかも決められる」

 

 決めなきゃならない―――。オレ達もろとも自滅するのも良し。前身はモンスターであろう彼らの原初のコード/『プレイヤーを抹殺しろ』は、ココに連れ込んだ時点で達成された。軍人としての義務も果たされた。だから、もう何も、正答を示してくれる命令は無い。

 状況がソレをもたらした。被せ与えられたトビの意思は、置き去りのままに。だから、ソレが今、根を張ることができたのか、ただのメッキで終わったのか? 確かめなければならない、『生きたい』想いになれたのかどうか。

 ぞくぞくワラワラと、ゾンビたちが集結してくる。……もう出入り口は、見えなくなっていた。

 

「お前は、オレたちのことを悪魔(ガラン)と呼んでいるが、オレ達は自分たちのことを、祈る者(プレイヤー)と呼んでいる」

 

 あるいは、遊ぶ者(プレイヤー)……。どうして、こんなにも違う意味が、一つの音で表現されているのか? 定義した者の意図が知りたい。

 ただ今は、勝手に解釈させてもらう。ソレらは同じものだと思える確信が、湧いていたから。

 

「自分が自分らしくあれる、最もふさわしいと願った決断を下す。その結果、誰も彼もがそうなってくれるように、祈るから」

 

 腹が立つほどの身勝手、甘ったれすぎ理想……。でも、たった一つの生命を賭けているんだ、そのぐらいじゃなければ割に合わない。

 そして―――ソレは叶っていた。

 

「お前はそうなってくれた。だから、次は―――オレの番だ」

 

 そう宣言すると、下げていた愛剣を構え直した。これから克服しなければならない敵に、差し向けた。

 

「……もしも、お前がお前自身の在り方を決められないのなら、オレが決めてやろう」

 

 オレの願いのために働かせる……。少し残念なことだけど、仕方がない。作られた人形にできる、コレがもっとも妥当な答えだろう。

 

「ぬかせ、ガラン!

 コレは、お前たちを滅殺するには充分すぎる暴威だ。ココから生き延びるなど、万に一つもありはせんッ!」

「悪いが、お前に言ってない。このトビに聞いてるんだ」

 

 真っ向から無視すると、一瞬唖然となり、すぐに顔を真っ赤にして激怒した。

 それでも無視して、トビと向かい合うと、

 

「……お前が、ここから無事に生きて出られる姿など、想像できん」

「オレが、お前たちを打ち倒し、お前を隷属させている今の姿は、想像できたか?」

 

 そういうことだ……。大部分が偶然と運の成せる業だった、けど、オレの力と誇示してみせた。トビの芯に住み着いているモノを圧倒するため、何より、今にも慄えそうな自分自身を鼓舞するため。こんな絶望の場所にも光はあると、ハッタリをかます。

 根拠のない自信、逆転の策など持ち合わせていない。しかし/だからこそ、ゾクゾクするものがある。この『慄え』は、『奮え』でもあった。……たぶん今、オレの瞳は、ギラギラと煌めいているのかもしれない。

 ソレが裏付けになってくれたのだろう。大猿閣下からは戸惑いの警戒心が、トビからは目をパチクリとされ反論が帰ってこなかった。

 

 誰もオレの嘘に飲まれそうになる中、フィリアだけはそっと側に寄ってくると、耳打ちしてきた。

 

「……随分自信満々だけど、勝算あるの?」

「さぁね。9割がた、ダメだろうな」

 

 軽くそう返すとポカーン、呆れられた。

 

「…………先まで、あんだけカッコイイこと抜かしたのに、いきなり?」

「ああ、そうさ。オレはいつだってそうさ。ヤバい時こそハッタリかまして、笑うんだ。……そうやって生き残ってきた」

 

 我ながら不思議なことだと思う。けど、そうなってしまっているので仕方がない。

 泣すがっても助けてくれないのに、強がって哂い返すとその通りになる。軽口の一つでも叩けば、コロッと逆転する。……とても歪で、残酷なことだ。

 しかし今、それを愚痴っても仕方がない。

 フィリアに向き直ると、

 

「生き延びたいのなら、オレに協力してくれ。そうすれば、絶対に生き残れる。ここで死にたいのなら……仕方がない、最後まで付き合おう」

 

 どちらにしても、一蓮托生だ……。相手がオレだったのは、ココじゃない本物の神様に文句を言ってくれ。

 一方的に言い切ると、答えも聞かず構え直した、彼女に背中を預ける形で。

 

 ガシャン―――。ゾンビたちの一体が、ココの鉄格子を押し壊し、入り込んできた。

 

「……そろそろ遺言は終わりか、ガラン」

「ああ、待たせたな―――」

 

 もう、出し惜しみなどしてられない。全部でいく。

 コペルとリズベット合作の改造ベルト/《擬似合技(アレイド)発生装置》。その腰元にあるホルダーにカチリ、スイッチを入れた。

 そして―――唱えた。

 

「―――《リプレイ・オール》」

 

 その呪文の直後、ホルダーに収められた結晶から、力の奔流が流れ込んできた。

 

 

 

 

 

 ◆   ◆   ◆

 

 

 

 ようやく牢獄に入ってきた、武装している看守。裸で、しかも手錠までされている自分。

 でも―――

 

(……まだ、その時じゃない)

 

 看守は警戒しながらも、抑えることのできない下衆な感情に従って、近づいてくると……奇形の曲刀、半月型に大きく湾曲したシャムシールと思わしき武器。

 近づきながら腰元から、ゆっくりと抜き出したソレを突然、シュ―――私の喉元に突き出してきた。

 

 刺される!? ……と、体が強ばりそうになるも、恐怖を押し込めた。後ずさりも我慢した。

 その勘は正しかった。―――看守の曲刀の鋒は、寸前で止まった。

 ただ、首の皮一枚。その向こうから、冷たく尖った曲刀の感触が伝わって来て、息も飲めない。

 

 そんな私の様子にニンマリと、嗤いを深めると、スゥ―――と下へ/胸元まで鋒を滑らせていった。そしてそのまま、横にゆっくりと動かしていくと……隠すために下ろした髪がパラパラ、切り落とされていった。同時に、隠していた肌も……露わになる。

 ()()を見た看守は、「おほぉ♪ 近くで見るとけっこうデカいな」と感嘆の声を呟き、さらに嗤いを深めた。……下衆な色合いを、隠すことなく。

 

 怒りと恥辱で、沸点を超えてプラズマ化まで上昇しそうだった。

 けど……耐えた、顔にも仕草にも出さない。高まりすぎて逆に冷静になってしまったのだろうか。「まだ早い」との戦術的思考を優先できた。

 なのでニコリと、微笑んで見せた。……おそらくは、艶然と蠱惑的に。

 

 ソレが功を成してくれたのだろう。

 看守は、曲刀でいたぶる選択肢を選ばず、そのまま胸を突き立てるようにして「ゆっくりと、後ろに下がれ」、命令してきた。

 従ってゆっくり、看守から目を逸らさぬよう、壁際まで下がっていった。

 そして―――ぺたり、カカトが壁に触れた。

 さらに追い立てられ、背中も張り付く。そのまま壁際を横移動させられ、部屋の角まで追い込まれた。

 

 完全に追い込まれた……。看守もそう思ってくれたのだろう。肌に突きたて続けていた曲刀を離した。空いていた片手で私を壁に押さえつけようとする―――……

 

(―――ここだ!)

 

 チャンス到来―――。

 看守の汚い手が触れる……寸前、膝を()()()

 ガくん―――まるで糸が切れたように/落下するように、予備動作なしでしゃがんだ。

 伸ばされた手は空をつかみ、そのまま壁にベタッ、体勢も崩れた。

 

 システム外スキル【再起動(リセット)】___。この体/アバターに恒常的に働いているシステムアシストを、強制的にオフにする技。コレをすると、体のコントロール権を放棄するので、筋力を仲介して行う運動法則から外れる。周囲の環境がもたらす自然法則のみに従うことになる。

 なので、しゃがんだのではなく、()()。足の筋力の支えを取り払って、落ちた。だから、まだ運動法則にしたがっている看守には、目の前の私が、急に消えたように見えてるだろう。『視る』という動作すら運動法則に縛られている。真下の死角から、私を見失っている看守の間抜け面が見える。

 再び/ギリギリ、『オン』に切り替えると、そのまま勢いよく立ち上がった。

 

 ガツンッ―――。私の頭頂部が、看守のガラ空きの顎を、打ち抜いた。

 看守は呻き声すらあげられず、顎を/頭をはね上げさせられ、後ろにのけぞっていった。カラン……と、握っていた曲刀も取りこぼして。

 

 そのまま1歩2歩3歩と……後ずさりするも、踏みとどまた。

 何が起きたのか混乱、しかしすぐに理解すると、狂わされた焦点を元凶に/私に差し向けようとする。

 その間隙―――隙だらけ、立ち上がっていた私はそのまま、看守へ走り向かっていた。

 そして手前、踏み込んだ片足を軸に、もう片方は大きく振りかぶり―――振り抜いた。

 ガラ空きの股ぐらへ、看守の股間へと―――

 

 ―――ドゴォッ!

「おごぅぅッッッッ――― !!?」

 

 あらん限りの力を込めた蹴りは、看守のそこを蹴り上げるのみならず、全身をほんの少し浮かせた。

 

 モロに喰らった看守は、着地と同時にプルプルと、まるでオシッコを猛烈に我慢しているかのように、内股に両手で患部を抑えていた。

 鈍い呻き声を絞りあげながら/私を睨みながら、前のめりに蹲っていきヨロヨロと、言葉にならない罵倒を吐き出そうとして……バタン、頭から倒れた。

 床に倒れた看守は、その場でピクピクと蠕動すると……動かなくなった。

 

 警戒しながらもそのHPバーを覗いてみると、《気絶》とのデバフが見えた。あと、どうでもいいけど《局部損傷》も。……あの一撃で看守は、ノックダウンしてしまった。

 

「―――ほ、本当に……《気絶》しちゃうんだ」

 

 我が所業ながら、びっくりだった。

 

 男性プレイヤーは、股間に強烈な衝撃を受けると、《気絶》してしまう___。女性プレイヤーには無い、男性特有の弱点だ。

 女子同士の他愛のないお喋りの話題の一つ、対男性用の護身術。

 話にその効果は聞いていて、現実世界でもありそうなリアリティで、納得していたけど……実行したのはコレが初めてだった。まさか実行するとも考えてはいなかった。本当にできるかどうかは、半信半疑だったので、手のひらに隠し持っていた暗器の追撃を身構えていた。

 でも、目の前の看守は……完全に撃沈していた。お尻を突き出した何とも形容しがたいポーズのまま、すぐには目覚める気配すらない。

 

 おそる恐る近づき、そばでしゃがむと、その無防備な首筋に―――ぷすり、毒塗りの針をはした。

 少しだけピクリ、動くも……目覚めるまでにはならず。すぐに毒はまわり、HPバーに《麻痺》が追加された。さらに、《気絶》と《麻痺》が同時にあることで、《石化》へと融合/自動変換した。

 これで本当に、看守は一切の行動を封じられた。

 

 ようやくホッと……警戒を解いた。

 すると一気に―――せき止めていたモノが溢れてきた。

 恐怖怒り憎悪、羞恥心無力感罪悪感、それでも死にたくない……。その場に蹲りブルブルと、震えるままに嗚咽を漏らし続けた。

 

 

 

 ひとしお荒波が収まると、遅ればせながら自分の現状を再認識し―――両手で隠した。ここにはもう、看守の飼い犬しかいないはずだけど、それでもこの格好は……恥ずかしすぎる。

 メニューを展開し、すぐに衣服を戻そうするも……気づいた。指輪の無い今では、アイテムのオブジェクト化ができない。

 再度周りを見渡してみても、いるのは動けない看守と、オロオロと様子を伺っている魔犬のみ。牢屋にも見張り番にも、衣服どころか布すらない。

 胸の内でチッ……舌打ちをこぼした。

 

「……仕方ない、わね」

 

 今は緊急事態、何より至急に解決しなければならない。……手段は選べない。

 再度看守のそばにしゃがみ込むと、そのダラリと動かぬ右手を掴み上げた。そして、指を所定の形に整えると……縦一線、メニューを展開させた。

 目の前に、看守のメインメニューが露わになった。

 そのまま指を動かし、アイテムストレージを表示させた。中をスクロールさせ、探す。何か着れるモノ、できれば防具や武器も、細剣があれば言うことなし―――

 

「―――て、な……何よこれ!?

 ちょっとアナタ、なんでこんなもの持ってるのよッ!」

 

 そこに映っていた、探していたはずのアイテムを見て、おもわず罵倒してしまった。

 明らかに女性物の衣服類。しかもかなり、過激なもの、特殊すぎるフェティズムの塊だった。……どういう状況で使われるのか、嫌でもわかってしまう。

 

 絶対にこんなものは、着ない。外にも出さない―――。看守に対してのマイナス評価が、さらにドン底を突き破った。……もう、触れているのすら不快になってきた。他のアイテムすら、汚らわしく見えてしまう。

 それでも今は、使うしかないのか……。自分が今いる場所を再確認させられると、再び「仕方がない……」ため息をついた。

 適当な装備をオブジェクト化させると、着込んだ。衣服や下着すら身につけていない肌に直装備ゆえ、警告表示/音が鳴り続けるも、無視。……さすがに、コイツの服など身につけたくない。

 

 一通りの武装、隙間がなく肌が露出しないような全身鎧タイプのもの、ついでに面ぽうで顔も隠せる兜を身につけ、身支度を済ませると、ようやく人心地がつけた。腰元に佩いた細剣の重みから、勇気と力も湧いてくる。

 それなりに業物な細剣があったのだけは、よかった。曲刀使いだと思っていたけど、細剣使いだったのだろうか、それとも武器集めの趣味があったのか? それとも……奪ったものか。

 どちらであっても、彼のストレージにあるよりは何倍も正しい。そう確信できる。そうしたいとも、思う。

 ただ少しだけ、スースーひんやりと冷たい着心地が、どうしても気になってしまう。そのワケを思い出しそうになり……ブンブン、寸前で振り払った。……考えるな、考えちゃダメよ私。

 ついでに、看守の武装はすべて剥ぎ取り、両手両足を手錠でガッチリ拘束。ストレージ内のアイテムやお金も全部、没収。ソレをギルドへ/【血盟騎士団】本部へのギフトメールに添付して、送信しておいた。

 

 ことを済ませると、牢屋から出た。……できれば、他のメンバーを救い出さないといけない、囚われている場所を把握しないと。

 いき込んで地下牢を上がっていこうとすると……「クゥン」、犬の鳴き声。

 振り返ってみると、看守の飼い犬が所在無げにしていた。ついていきたそうに近づき、でもビリビリ、首輪が光り軽い電撃が流れた。ついていくにも縛られウロウロと、どうすればいいのかとコチラに目を向けている。

 そのショボくれた姿に、哀れな気持ちが湧いてきた。

 

(……この子には、何の罪もないわね)

 

 魔犬のそばまで行くと、目線の高さにあわせてしゃがむと―――カチリ、その首輪を外してやった。

 

「―――さあ、コレでもう自由よ。何処へなりとも、好きな場所に行きなさい」

 

 魔犬はキョトンと、不思議そうに首をかしげるのみ。首輪が取れたことへの驚きでそれどころではないのだろう。

 伝わったかどうか……。苦笑するも、これ以上できることはない。今度こそ立ち去ろうとした。

 すると―――トコトコ、その背に従ってきた。

 おもわず振り返ると、犬は背筋よくお座り。ハアハア口を開けながら、つぶらな瞳で見上げてきた。……まるで、何かを待ち望んでいるかのように。

 何となく察すると、もう一度犬の前にしゃがみ、語りかけた。

 

「……一緒に、行く?」

 

 私の提案に、犬はまたキョトンと目を丸くするも……ひと拍だけ。

 すぐに「ワン!」と、小気味いい返事をかえした。

 

 

 

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長々とご視聴、ありがとうございました。

感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。

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