偽者のキセキ   作:ツルギ剣

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永遠≠帰還

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 たどり着いた場所は、紅く染まった黄昏の世界。幾万の嘆きと鮮血でできた、焔色の花園。朱色の鱗粉が舞い上がり、夜空へ溶けていく。

 昼と夜。どちらにも戻れず/堕ちきれず、輝きを延命し続けている。

 

 

 

 

 

「―――聞いてるんだろ? 聞こえているはずだよな、茅場」

 

 

 

 夕焼けの星空へ、ここにはいないアイツに向かって、独り虚しく吠えた。……決して届くことはないと、わかっていても。

 

 最上層【紅玉宮】。

 あらゆるものを切り捨てて振り払って、やっとたどり着いたゴール/終着点。背負った罪も託された想いも置き去りにした無念も全てが、ここで終わる/報われる/精算される。ようやく解放される、そのはずなのに―――

 ここにはもう、誰もいない、初めから誰もいなかったかのように。静謐だけが佇んでいた。

 

「あんたと彼女の思惑通り、ここまで来てやったぞ。……顔ぐらい見せたらどうなんだ?」

 

 返事はない、来るはずもない。期待もしていなかった。

 コレは単なる愚痴だ、言い訳だ。オレが()であったことの証拠だ、遺言といってもいい。

 今のオレには、ソレを誰かに向けることは許されない、こぼすことすら許されない。全て飲み込み、圧殺しなければならない。……ただ一人、全ての元凶だった茅場晶彦を除いて。

 

「……その必要もない、か。随分と余裕じゃないか。

 オレが全部()()()()()()()()なんて、考えられないか? やれるわけないって、タカくくってるんだろ?」

 

 煽るように脅しつけるも、応えはない。

 全ての決断は俺に委ねられていた、何を選択するも自由だ。ただし、二択しか存在しない。この世界を『壊す』か『延命』させるか、どちらか一つだけ。

 どちらを選んでも、大切なモノが失われる。ソレはオレだけの大切なモノじゃない、全てのプレイヤーたちが等しく大切に想う宝物。それなのに、オレだけで決断しなければならない。他の誰にも任せることができない/背負わせてもならない。

 

 そんなことになれば、きっと、ここは本当の地獄になってしまうから。

 

「ああ、全くその通りさ! あんたは正しいよ、非常に残念なことになッ!

 オレはやらない、守ってやる守り抜いてやる。絶対に壊しやしないさ! …………壊せやしないさ」

 

 どうするのか/どうしたいのか/どうすべきなのか、決まっていた。

 『延命』する、どんなことが起きようとも何があろうとも誰が邪魔しようとも、必ずそうする。ここに辿り着いた瞬間にはもう、いやもっとずっと前から、オレはソレを選んでいた。……選ばされていた。

 オレには始めから、選択肢なんてなかった。ソレを全て切り捨ててきたから、ここまでたどり着くことができた。

 

 世の中は皮肉だ、諧謔に満ちている。悪ふざけが過ぎる。……残酷なほどに。

 

「……あんたらの狙い通りさ。この世界、ここにいる奴ら仲間たち、ここで過ごしてきた全てが俺にとって―――、宝物だ。

 ()()()()()()になんて、できない。したくないしされたくもない。……失くしたくない」

 

 例えそのために、永劫の孤独を生きようとも/生かされようとも……。オレの決意は変わらない/変えられない。

 運命の糸に絡め取られてしまった。もう身動きがとれない。どれだけ暴れても/知恵を巡らせても/加速しても、登り得る天井にたどり着いてしまったから。……もうどこにも飛べない/戻れない。

 

「この城が()()()()()()なんて……、嫌だ」

 

 この世界がなかったら、オレは、皆と出会うことすらなかっただろう。ここで起こった()()が消える、記録も記憶も想いも何もかもが。アスナとも決して、出会うことのなかった並列世界へ……。

 独りのちっぽけなガキだったまま。ただ無為に年月だけ奪われる、そんな現実へ。全てがリセットされるだけ。

 

 顔を上げた。沈む心を振り払うように、これから進むべく/留まりつづける彼方を、睨みつけた。

 

 

 

「―――引き継いでやるよ。オレの力の限り、想像が尽き果てるまで! この夢は終わらせない」

 

 

 

 虚空に向かって、宣言した。あの男へ一撃を叩きつけるように、せめてもの抵抗として……。

 

 ソレは何処にも木霊することはなかった。空へ響き渡り、溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 虚しくなるほどの静寂に、涙がこぼれそうになった。突きつけられた孤独に、体の芯が凍えた。恐ろしさに耐え切れず、震えてしまう。

 だが、ソレをグッと堪えた。押し込んで/振り切って/無理やりにも、哂った。

 

「だけどまだ、安心するのは早いぜ。

 決めれるのはオレだけじゃない。()()は守るが()がそうするとは、限らない―――」

 

 言い終わるまもなく、花園の中に【転移】の光柱が立った。

 

 立ち上った白の光の中から、一人の青年が現れた。黒を基調とした装備を身にまとい、双剣を背負った剣士。まるで鏡写しのように瓜二つな姿形―――。

 さらに嗤った。倒すべき最後の敵が、向こうからやってきた。……()()を倒す()()が。

 現れた侵入者と向かいあう。

 

「せいぜい祈ることだな。オレが俺に負けないように、な」

 

 皮肉げに呟くと、背中の双剣を引き抜いた。

 敵もまた、同じように戦意を向けてきた。

 

 

 

「―――遅かったな《キリト》」

 

 

 

 敵の名前を告げた。オレがこれから滅ぼすべき敵……オレ自身の鏡像を。

 すでに分かたれ別の存在となった者へ、オレに対して俺に対して、そうだと言い聞かせるように/決別するように。

 

 オレの挨拶に《キリト》は、顔をしかめた。何か言おうと口を開きかけるも……、やめた/寸前で堪えた。

 代わりに死線を、滅ぼす意志を鋒に乗せて、差し向けてきた。もはや何も語ることはない。ただ刃でのみ、切り開くだけだと。

 

 求めていた返答にオレは、同じく剣をもって答えた。

 

 

 

「さぁ、始めようか。オレ達の終わりを、な―――」

 

 

 

 言い終わると同時に、戦いの火蓋が切られた。

 この世界の存亡を決する戦い。そして、オレと俺との魂を賭けた、殺し合いが―――。

 

 

 

 

 

 




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