~ノワール キャンプシップ~
「ほら、起きろアホ。」
「んがっ!」
通常通り頭を蹴るように小突いて起こす。
ネージュは頭を擦りながらむくりと上半身を起こす。
「・・・んん?此処はどこ・・・わしは・・・。」
「・・・。」
既に拳を構えている。
「お、起きました・・・ゴメンナサイ。」
「よし。」
「・・・。」
ネージュは辺りをキョロキョロと見渡す。
「わしが気絶してる間に脱出出来た・・・って感じじゃな・・・なんか・・・。」
「・・・そうなるな。」
「むぅ・・・此処で活躍しとりゃノワールにデカい貸し作れたのに・・・なんじゃ・・・また助けられただけなのか・・・。」
「・・・。」
実際何度も助けられたわけだが、あれはこのアホがやった訳じゃない・・・。
だからノーカンだ。
そう自分に言い聞かせるしかない。
何せ調子に乗ると何処までも調子に乗る奴だ。
付きまとわれる身なりによく知っている。
「・・・。」
ネージュは何やら自分の胸や太股をぺたぺたと触り出す。
「・・・何してる。」
「ノワール・・・。」
目をギラリとさせ、にやけながらこっちを見る。
「あ?」
「わしが寝とる間に人には言えないあーんなことやこーんな事しとらんじゃろうな。」
「いやお前みたいなアホに手出すとかないからマジで。」
「返し方冷静すぎるのじゃ貴様!!そこちょっとは動揺するとこじゃろ!?なんか傷つくのじゃぁ!!」
余りに女として敗北感があったのか、半泣き状態で喚いてくる。
「知ったことか。ほら、バカ話してる間に着くぞ。」
キャンプシップがマザーシップの格納庫に入ると、シップ内の滑走路を通って止まる。
『ノワール、ネージュ、二名搭乗のキャンプシップ到着を確認しました。』
管制から通信が入る。
「大至急ウルク総司令に会いたい。渡す物が・・・。」
俺が言伝てを頼もうとした瞬間・・・。
「今すぐキャンプシップを降りて投降してください。貴方達には反逆罪の容疑が掛かっています。」
「は・・・?」
~ラパン 民間居住区 孤児院~
昨日の庭園でまた一緒に本を読もうって約束してたけど、ルナール遅いな。
「・・・。」
ちょっと気になって探して見ることにした。
部屋にはいない。
リビングにもいない。
図書室にもいない。
食堂にもいない。
「・・・?」
「・・・!ーー!!」
入れ違いになってルナールが庭園に着いたのかと思って戻ろうとしたとき、誰かの声が聞こえる。
見ると物置の近くで何人かの子達が何かを囲んでいた。
「・・・!」
囲んでいるのはルナールだ。
それを数人で何かを非難するかのように怒鳴っている。
「ルナール!!!」
「・・・!」
私が叫ぶと囲んでいた子達がこっちを見る。
「あんたたち・・・なにしてるの・・・?」
「・・・。」
「ねぇ!!」
「・・・行こ。」
一人がそう言うと、周りの子達も一斉に何処かへ去っていく。
「・・・。」
これってもしかして・・・。
「ルナール・・・。」
「あはは、ごめんね、待ち合わせ間に合わなくて。」
「そんなのどうでもいい!!」
「っ!」
私が叫ぶとルナールは目を丸くしてびっくりする。
「もしかして私のせい・・・?私と話してたから・・・?」
「ち、ちがうちがう!!昨日、えっと、焼却炉で火焚いてる時に近づいちゃダメって先生に言われてたのに近づいてたの見られてたみたいで・・・。」
「・・・。」
ルナールはすごく無理して笑ってるように見える。
全然信じられる気がしなかった。
「・・・。」
「行こ!ラパン!」
「ルナール・・・。」
「な、なに?」
「私、何があってもルナールの味方だからね。」
本心を言った。
けどルナールは困った顔で・・・。
「もう、訳分かんないよ!」
笑ってた。
~??? マザーシップ 司令室~
オフィスの端末を着けて報告されているデータに目を通す。
『反逆者ノワール、ネージュ、マザーシップに侵入。現在包囲の上、投降勧告中』・・・ね。
反逆者さんの片方の性格を知っているだけに、先の展開が見え透いてしょうがないんだけど・・・。
「大変です!!」
アークスの連絡員が急いで部屋に入ってくる。
「反逆者二名、勧告を無視して包囲を突破しました!」
「・・・やっぱりね。」
「隊長?」
「今いくよ!」
久しぶりの再開だ。
丁重におもてなししないとね。
~ノワール マザーシップ 回廊~
「ハァ・・・ハァ・・・。」
マザーシップの中を走る俺達。
「の、のうノワール・・・。」
「休憩するなら置いてくぞ。」
「いや、そうじゃなくてじゃな・・・。」
「なんだ・・・手短に済ませろ。」
「わしら、なんで反逆者なんじゃ・・・?」
「知るか。大方此処の奴らが研究員の奴らにデタラメ吹き込まれたんだろ。」
「だったらわざわざ逃げんでも良かったんじゃないのか?」
「なんでだよ。」
「『わしらなんにも悪いことしてません!』って言えば・・・。」
「信じる訳ねぇよ。」
「なんでじゃ!やってみなきゃ・・・!」
「俺らが此処に来るまでに連中にはかなり有余があったはずだ。でっち上げのネタなんて山程用意できる。法廷に立てば間違いなく連中の思う壺だ。」
「むむむ・・・じゃあ・・・今わしら何処に向かっとるんじゃ!」
「ウルク総司令の所だ。当初の予定通り、データを届ける。」
「総司令は、反逆者のわしらが出した物、信じるのか?」
「多分信じるさ。連中がどんなに嘘吹き込もうがな。」
「なんでそんな、信じられるのじゃ?お主総司令と知り合いなのか!?」
「全然。」
「ずごっ!!」
ネージュは思わずコケそうになる。
「知らんのになんなのじゃ貴様のその自信!!」
「知り合いじゃないが、どんな人間かは知ってる。」
「へ?」
「ウルク総司令は昔・・・ッ!!」
話そうとしたが、背中からくる殺気に反応し、攻撃を止めた。
「・・・!」
カタナだ。
しかも受け止めて分かった。
一撃が鋭い。
カタナを振るって来た奴は手練れだ。
「あれぇ、今の絶対油断してたと思ったんだけど・・・。」
「・・・。」
カタナの持ち主は前に見た時と風貌は変わっていたが、その金髪と色黒な肌に見覚えがあった。
男はカタナを鞘にしまうと、白いコートを埃を払うように叩いて此方に向きなおす。
「やあ、久し振り。」
男は気さくに挨拶するように手を翳す。
「・・・お前誰だっけ。」
「とぼけても無駄だよ。ノワール?」
バレバレみたいだ。
「おかしいな。前はこんな格好してなかったはずなんだが・・・。」
「君のその銃さ。」
「・・・。」
「え、銃?」
男に指摘されてネージュは中腰になって俺の手に持っている銃を眺める。
「通常の青色とは違い、灰色の光弾を打ち出す、スカルフェジサー『モデルゼロ』・・・テスト段階で五人のうち四人のモニターの命を吸いとった曰く付きの試作品。その銃を持ってるのはアークスで・・・いや、この世でお前一人だよ、ノワール。」
「チッ・・・使いやすいから使ってるけど、こりゃ新調も考えるかな。」
「ノ、ノワールの銃ってそんなおっかない物なのかあ・・・?というかノワール、あやつ誰なのじゃ?」
「セト、昔のちょっとした知り合い・・・。」
「その言い方は無いんじゃない?かつての相棒に対して。」
「あ・・・相棒!!!?」
「・・・。」
めんどくさくなったせいか、頭が痒くて掻きむしる。
あーもう、だから嫌なんだよなあ、こいつ・・・。
~エスカ マザーシップ 研究ラボ~
「もしもし、起きてます?まぁ寝ても起きても一緒でしょうけど。」
ウィルの声がする。
何も見えない。
目隠しをされてるわけでもない。
ただ目の前に明かりがあることしか分からない。
そしていま自分が椅子に座っているのか、ベッドに寝かされているのかも分からない。
何も分からない。
「あなたのスレイヴデューマンになった経歴調べて驚きましたよ!よく今みたいにアークスできますね!」
「・・・。」
言葉も出せない。
言いたい事は山程あるのに。
「かつての種族はヒューマン、職業殺し屋。罪状は『アークス殺害未遂』。前科も合わせれば、これはスレイヴデューマン直行コースですね。」
「・・・。」
うるさい。
黙れ。
「しかも、スレイヴデューマンになってからも戦闘力がかなりあったせいか、どんな過酷な状況になっても自爆する事態に陥らなかった。いやあ、頼もしい!これからその力を奮って貰えるとなると嬉しいですよ!」
嫌だ。
こんな奴の手駒になんかなりたくない!
「おや、この脳波・・・まだ嫌がってるんですか?意識もほとんど無いのにあきらめ悪いですねぇ・・・仕方ない。」
手をパンパンと二回鳴らす音が聞こえる。
「装置の出力上げてください。それと、投薬の量も増やして・・・『死んでしまう』?大丈夫ですよ。彼女思ったより頑丈みたいですし♪」
嫌だ・・・。
嫌だ・・・。
嫌だ・・・。
私は・・・もう・・・。
~ノワール マザーシップ 回廊~
さっきからセトと幾度に渡ってカタナと銃で撃ち合う。
ネージュはさっきからイルグランツなどによる援護射撃の機会を伺っているようだが、俺達が動き回るせいで誤射を恐れているのか、手が出せずおろおろしているようだ。
「!」
セトに間合いを詰められ、カタナを抜かれたので銃で止め、鍔迫り合いの状態になる。
「今一緒にいる子は新しいパートナー?それとも彼女?」
「いや全然全く。」
「だから貴様なんでそこ冷静に返すのじゃぁ!!少しは動揺しろ!!傷つくの通り越してムカつくのじゃぁ!!」
坦々と返すと後ろからわめき声が聞こえる。
「お前どっちの味方だよ・・・。」
「はは、面白いしゃべり方する子だね!」
「変な奴だろ?」
「面白い子だね♪」
「なんでわしばっか弄るのじゃぁ!!」
脚でセトを弾いて鍔迫り合いに状態を放す。
「ガンナーになってから接近戦でも上手く打ち込めなくなったねぇ・・・昔みたいにライフルとかガンスラッシュとか使ってくんない?」
カタナのコーティングの状態を確認しつつ、軽口を叩くセト。
まだ余裕がありそうだ。
「んな事誰がするか・・・そう言うてめぇは武器が小振りになったせいでひねくれた打ち込みが更に磨きがかかってんじゃねぇか。」
「はは、誉めても何も出ないよ!」
「貶してんだよバカッ。」
「まぁまぁ、そんなつれない事言わないでさッ!」
セトは思いっきり間合いを詰めてくる。
カタナを振って来るが、俺はそれを回避し、銃弾を放つ。
セトも身体をずらして回避し、続けざまにカタナを振る。
その繰り返しでラッシュを繰り返していると・・・。
「!!」
突然イルグランツの光弾が放たれたため、セトと俺は互いに間合いを開け、回避する。
「おいアホ!俺まで殺す気か!!」
「アホはどっちじゃ!!こんなことしとる場合か!!それにセトとか言ったか?」
「うん?」
「わしらを捕まえようとするならお門違いなのじゃ!!わしらは寧ろ本当に悪い奴ら捕まえて欲しくて此処に来たのじゃ!!」
「・・・へぇ。」
ネージュの言葉にセトは俺とネージュを交互に見る。
「はぁ・・・ふーん、ふむふむ。」
セトはカタナを鞘に納める。
「面白そうな話だね。聞かせてよ。」
「・・・はぁ。」
めんどくさいが一通り説明した。
「なるほど、スレイヴデューマンね。研究所の奴等まぁたそんな事してんのか。」
「ああ、データを本部に届けようとしたらこの有り様さ。連中は余程データを見られたくないらしい。」
「ふむ。」
セトはカタナの鞘から手を放す。
「行きなよ。」
道を開けるように避ける。
「いいのか?幹部が反逆者見逃すようなことして・・・。」
「心配ない、お前が全て片付ければ問題ないことだろ?それまで適当に言い訳はしとくさ。いざとなったら自分に傷をつけてお前にやられたことにするから。」
「・・・お前ホント最悪だな。」
「お前に言われたくないよ。『暴食の幽霊』君。」
「昔馴染みを悪名で呼ぶか普通。」
「はは、行けよ。」
「ケッ・・・。」
セトの横を通りすぎようとするが・・・。
「・・・。」
ネージュは途中で立ち止まる。
「どうした?」
「お、恩に着るのじゃ。」
ぺこりと頭を下げる。
「いいよ。僕は仕事を全うしてるだけだからさ。それより、今度会ったら最近のあいつのこと、色々聞かせてよ。」
「おう、任せるのじゃ!!」
一通りやり取りを済ませるとすぐに俺のあとを追った。
~院長 民間居住区 孤児院~
孤児院の地下には女神の像がある。
古い文献に載っている神を象って作られた像だが、実のところ、私はどんな神なのか知らない。
この孤児院の院長であり、神父でもある者として恥ずかしい話だ。
だが、私にとっては知っているいないはどうでも良いことなのだ。
人は神の全てを知らなくてもいい。
人は必ずしも同じ考えを皆が持っている訳ではない。
だから神を信仰する者は、各々の意志や理由で信仰すればいい。
それが私の考えだ。
そしてこの女神の像は、見れば見るほどこの世の人に対する慈悲を感じる。
地下に在りながら天に向かって祈りを捧げるその姿は、まるで地上に居る者の幸せを願って居るように見える。
この像がこの孤児院に置かれている理由は、きっと此処に預けられる子供たちを見守る為なのだ。
だからこそ私は今こうして祈りを捧げる。
「今日も子供たちを見守っていて下さい。そして願わくは、子供たちに真の幸せを見つけられるよう、私を導いて下さい。」
そう、私には責任がある。
此処に引き取られ、この孤児院を前の院長から引き継いだ際に誓った。
預けられた子が新しい里親を見つけられるように、叶わずとも成人となってそれぞれで自立して行けるまで責任を持って面倒を見る。
それが私の・・・。
「先生やっぱり此処にいた!!」
「あ、ルナール!」
入口からルナールとラパンが入ってきていた。
「どうした?何か用かい?」
「ラパンがさ!先生に会いたいってさ!」
「ちょ、ちょっとルナール!!」
ラパンは顔を真っ赤にしてルナールに怒る。
「あはは!」
思わず笑ってラパンの頭を撫でる。
「すっかりルナールと仲良くなったね!」
「うぅ・・・。」
ラパンは恥ずかしそうに目を反らす。
「ラパンだけずるい!先生私も!!」
「はいはい!」
ルナールの頭も撫でる。
「エヘヘェ♪」
「ルナールもありがとう。これからもラパンと仲良くしてやってくれ!」
「もっちろん!!」
本当にルナールには感謝の言葉もない。
今のラパンに必要なのは『友達』なのだから。
こうして私の悩みが一つ減った。
だが、これで全て解決した訳じゃない。
ラパンには、この孤児院の子達に仲間として受け入れて貰わないといけない。
一緒に暮らす以上、私達は等しく『家族』なのだから。
~ノワール マザーシップ 回廊~
「のお、ノワール。」
「今度はなんだ。」
相変わらず走っていると唐突に言ってくるなこいつ。
「さっきセトの奴が言ってた、『暴食の幽霊』ってなんじゃ?」
「知るか。」
説明がめんどくさい。
どうせアホだから適当にはぐらかせば・・・。
「さっきお主自分で『悪名』って言っとったじゃないか。知っとるからそう言ったんじゃろ?」
「ぐっ・・・。」
流石にこれでスルーするほどにまでアホじゃないか、くそ・・・。
「・・・ハァ、言えばいいんだろ。」
「おう!話すのじゃ!」
「任務でダーカー必要以上に狩るから『暴食』。帰還命令無視してアークスシップにほとんどいないから『幽霊』。」
「なんじゃ、みから出た・・・ミから出た・・・ドレミ?」
「ピアノかッ!・・・『身から出たサビ』って言いたいのか?」
「そう!それじゃ!ざまあないのう!」
「語学力なくてアホって言われるよりマシだ。」
「貴様何回わしのことアホって言えば気がすむのじゃぁ!!」
「お前のアホが治るまでだ、つまりは一生言う。」
「えーっとそれってつまり・・・あ!貴様!!遠回しにわしのこと『アホが一生治らない』って言ったな!!」
「アホにしちゃよく分かったじゃねぇか。」
「んぬぇーッ!!バカにしおってえええ!!」
「無駄話はここまでだ。そろそろ最深部につくぞ。」
「うぇぇ・・・やっとかぁ・・・。」
ネージュが安堵の溜め息を着こうとしたその時だ。
「!」
咄嗟にネージュを捕まえ、そのまま押し倒す。
「なっ!?」
ネージュは余りに唐突な出来事に驚いている。
「き、きき、貴様!わしに手を出さんとか言っておいて・・・い、いや、それ以前にこ、ここ、心の準備が・・・。」
顔を真っ赤にして慌てふためくが・・・。
「黙れ・・・アホ・・・少しは緊張感持て・・・。」
「へ・・・?」
「・・・。」
ゆっくりと立ち上がり、目の前に向き直す。
「・・・!」
後から立ち上がったネージュは俺の背中を見て目を見開く。
俺の背中には斜めに大きく刃物で切りつけられた傷痕があった。
「お主・・・ケガが・・・いや、それよりも・・・!」
背中の傷痕からは血は出ておらず、電気の火花が飛び散り、幾つか切れた配線が露になっていた。
そう・・・俺は・・・。
「お主・・・キャストなのか・・・?」
キャスト、身体が機械の種族だがロボットと言う訳ではなく、人間に必要な臓器もある、言わばサイボーグだ。
本来のキャストはそれ特有のロボットの様な見た目をしているが、俺のように希に人と同じ形状の身体の奴もいる。
「ったく・・・つまんねぇネタばらしさせやがって・・・しかも・・・。」
俺の目の前にいるのは・・・。
「・・・!!?」
ネージュは目の前の刺客に顔を青くさせる。
「エスカ・・・・・・?」