PSO2 ~創造主の遺産~   作:野良犬タロ

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第二十六章 迷宮の宴

~ノワール アルクトゥス 屋敷~

 

屋敷の庭の中心に着いた所で俺は歩を止める。

「? ノワール、どうした?」

セトはまだ俺が何処かに進むと思っていたようで、立ち止まった事に困惑する。

「此処だ。」

「此処って・・・別に何もないじゃない。」

ラパンもセトと同じ反応だ。

「さっき僕らが見てない間に頭打った?」

「レスタかけようか?」

「うるせぇ、黙って見てろ。」

哀れみ染みた言葉を一掃して庭の中心を向き、両手を肩の高さまで軽く翳す。

確か、こうだっけか?

 

 

「『彼の御光を継ぎし者、此処に在り、我が意を叶え、彼の地へ我等を導きたまえ』。」

 

 

『合言葉』だ。

ついさっきの出来事だから覚えている。

これで合ってるはずだ。

「・・・。」

だが・・・。

「・・・。」

何も起きない。

「・・・。」

敢えて後ろを見ない。

何が起こっているか分っているからだ。

「こいつ最近イタイ漫画でも見たのかな・・・。」

「いや、私も色々本とか小説みるけどこんな状況でこんな台詞吐いたやつ見たことない・・・。」

「さっき気を失っている間に変な夢でも見たんでしょうか・・・いや、それにしても・・・。」

「・・・。」

後ろから容赦のないヒソヒソ声が聞こえる。

頼む、なんでもいいから何か起こってくれ・・・!

この状況だと『間違えたかな?』っていうのですら恥ずかしい・・・!

「ノ、ノワール・・・言っちゃ悪いんだけど・・・。」

「彼の・・・」

「! 見てください!」

女が異変に気づく。

空間が歪み、歪みは穴となり、階段が現れた。

「か、階段・・・!」

「・・・。」

セトを始め、残り二人も唖然とする。

それを見ていると、ヘイルが此処を開いたときの自分を客観的に見ているような気がした。

「『テンプルエリア』に繋がる道だ。」

「お前、なんでこんな事知ってるんだ・・・!」

「ついさっき知った。」

「は!?意味分かんないんだけど・・・。」

「話は後だ。行くぞ。」

「は、はい・・・。」

俺達は歩を進め・・・。

「ねぇ、ノワールさん。」

「?」

後ろから声がして振り向くと、ルナールがいた。

ラパンについてきてたか。

まぁ別におかしい話ではないが・・・。

「なんでさっき言い直そうと・・・って痛い痛い痛いッ!!なんでなんで!!なんでまたこれッ!?」

余計な事を言いそうだったので反射的に前のようにルナールの頭を掴んで押し潰すように上から力を加える。

「ちょっと!ルナールになにすんのよ!」

ラパンは突然のことに驚きながら怒る。

「別に・・・いいだろ、行くぞ。」

俺達は階段を降りる。

降りると以前のように像の道にでた。

だが・・・。

「ハッ・・・ですよね・・・。」

案の定、ダーカーがうじゃうじゃと群がっていた。

 

 

~ネージュ アークスシップ メディカルセンター(七年前)~

 

「・・・。」

わしはなんの目的もなく無く歩いていた。

結局ノワールも消えてしまい、わしはひとりぼっち。

目標はある。

アークスになればノワールに会える。

家族もいなくなった今、わしが頼れるのはあやつだけじゃ。

やることは分かってる。

でも、やっぱり心は浮かばない。

母様やじいやのことが頭から離れない。

気持ちがもやもやするのじゃ・・・。

それに・・・。

「・・・。」

此処には知らない者しかいない場所・・・。

母様は言っておった・・・。

 

 

『ネージュ、他所ではちゃんとした言葉遣いを心掛けるのだ!』

 

 

「・・・。」

他所ではちゃんとやるって言ってたけど、やっぱり無理じゃ・・・。

この話し方以外だと話しづらい。

じゃけど、大丈夫じゃ。

わしから話すような事が無ければ。

「・・・?」

俯きながら歩いておったせいか、何かを見つける。

ロケットじゃ。

「・・・。」

落とした者には悪い気もするが、中身を見てみる。

写真が中にあった。

わしと同じ年くらいの少女とその傍に大人の男がいた。

男の方が此方に手を伸ばしている辺り、カメラを撮ったのが男みたいじゃ。

少女の方は、急に抱き寄せて頬をくっ付けられたのか、顔を赤くして慌てた顔をしておる。

余程仲がいいんじゃな。

親子じゃろうか。

きっとこの親子もわしと母様のように幸せなんじゃろうな。

わしの方はもうその幸せな時には戻れんがな・・・。

「ひっく、うぐ・・・!」

「・・・?」

子供の泣く声がするのでそっちを向くと・・・。

「ひっく、怖かったよぉ・・・!」

「はいはい、でも大丈夫。お母さんもあなたも無事だったんだから泣かないの。」

「・・・。」

泣く子供を母親が優しくあやしておった。

「・・・。」

わしも母親がいればこんなことして貰えたんじゃろうな。

母様・・・。

「・・・ッ!」

涙が出そうじゃが拭った。

なんとなくじゃが、あの親子に泣いとる所を見せたくなかった。

急いでわしは親子の元を離れた。

 

 

~難民区域~

 

とにかく人のいない所へ走ってなんとか落ち着く。

「・・・いいなぁ。」

ロケットを開く。

さっきの親子、ロケットの中の親子。

皆親がおっていいなぁ。

わしだけいない。

なんでわしだけいなくなったんじゃ・・・。

 

 

『泣きたかったら泣け。』

 

 

「・・・!」

ノワールの言葉を思い出す。

「・・・ひく、ひっ・・・ぅぐ・・・。」

声もなく泣いた。

しばらく泣くと涙が出なくなった。

もう平気じゃ。

ロビーに出る。

「・・・?」

奇妙な光景に視線が止まる。

わしと同じくらい年の女の子と小人のようなサイズの女の子の二人組じゃ。

小人のような女の子は金色のポニーテール。

普通の女の子の方は紫色の長い髪。

「?」

あれ、おかしいのぅ。

見たことない女の子なのに何処かで見たような・・・。

「!」

もしかしてと思ってロケットを取り出す。

やっぱりじゃ。

このロケットに写ってる女の子じゃ。

「お姉ちゃん・・・。」

「ルナール・・・。」

小人の女の子は心配そうに紫髪の女の子を心配そうに見る。

「大丈夫・・・大丈夫だよ?」

紫髪の女の子は笑顔でそれに答える。

「・・・。」

「・・・!」

小人の女の子が抱きしめるようにくっついた。

「ルナール・・・?」

「無理しなくていいんだよ・・・?」

「・・・!」

その言葉に紫髪の女の子は震え始める。

「うぅ、ぅぁ・・・!」

「・・・!」

これ、もしかして・・・。

「・・・。」

ロケットを見る。

あの女の子・・・きっと父親と離れ離れで泣いとるのじゃ。

このロケットが落ちてたことを教えれば・・・!

「あ・・・。」

 

 

『他所ではちゃんとした言葉遣いだぞ!』

 

 

母様の言葉を思い出す。

うぅ、話さないようにすれば大丈夫と思っとったけど、これ、話さないとどうにもならないのじゃ・・・!

でも・・・。

「ぁぁ・・・うぁぁ・・・!」

女の子が泣いとるのを見るとつらいのじゃ・・・!

すぐにそれをどうにかできそうなのに、なんでこんな、出来なくなるのじゃ・・・!

「・・・。」

覚悟・・・決めるしかないのじゃ・・・。

「あの・・・。」

「・・・!」

声をかけると紫髪の女の子はわしに気づく。

「なに・・・?」

わしに話しかけてくる。

なんじゃ・・・身体から汗が出るのじゃ・・・。

「この写真に写ってるの・・・あなた・・・ですか・・・?」

ロケットを渡して言った。

うぅ、やっぱり、話しづらいのじゃ・・・!

「これ・・・どこで・・・!」

「・・・!」

言葉を返された。

何処かと聞かれた。

メディカルセンターじゃ・・・!

「えと・・・メディカル・・・センター・・・。」

「メディカルセンター・・・!」

伝わった・・・!

伝わったのじゃ・・・!

女の子は慌てて走り去ろうとするが・・・。

「!」

女の子は戸惑う。

わしが手を握ったからじゃ。

もうひとつじゃ・・・。

もうひとつ伝えたい事があるのじゃ・・・!

「会えると・・・いい・・・です・・・ね。」

そう、見つけ出して欲しい・・・!

その父親と再会して欲しい・・・!

わしはもう母様には会えない・・・だから、わしのようになってほしくない・・・!

精一杯の願いじゃった。

「うん、ありがとう!」

女の子は笑顔で小人の女の子と共に走り去った。

「・・・。」

その場に座り込んだ。

「母様・・・やったぞ・・・わし、頑張ったぞ・・・ふふ・・・。」

胸の奥が暖かかった。

なんでじゃろ。

 

 

『ありがとう!』

 

 

「そっか・・・。」

母様はみんなの為に頑張ってみんなに感謝されておった。

母様って、こんな気持ちで頑張れたんじゃな・・・!

「わし、なるぞ・・・アークスに・・・。」

アークスになるんじゃ・・・!

そして・・・。

「誰かの為に頑張るアークスになるのじゃ・・・!」

母様みたいになりたい・・・!

いつも思ってたことじゃが、前よりずっとそうなりたいと思った。

 

 

~ノワール アルクトゥス テンプルエリア~

 

「ハァッ!」

迫り来るダーカーをセトはカンランキキョウで一閃する。

「このっ!」

カンランキキョウの射程外のダーカーをラパンはイルメギドを放ち、黒い腕がダーカー達を一掃する。

「!」

ラパンの後ろから鎌持ちのプレディカータが現れ、鎌を振り下ろして来るが・・・。

「ふぬんっ!」

ルナールが立ち塞がり、剣で攻撃を止める。

『ルナール、動かないで下さい。』

「え?うん、ってうわぁッ!」

アオの通信にルナールが相槌を打った直後、プレディカータはライフルの光弾に頭を撃ち抜かれ、絶命する。

「! 来るぞ!」

セトが何かに気づいて一同を叱咤する。

少し距離のあるところから数体ダーカーが構えていたからだ。

フレイル状の腕を持つダーカー、サイクロネーダだ。

棍棒の腕を持つキュクロナーダと見た目は似ているが、奴の腕は遠心力で伸び、遠距離からでも攻撃できる。

今にも攻撃しそうな瞬間だが・・・。

「させるかバカ。」

俺が懐に飛び込み、そのひとつ目にサテライトエイムを撃ち込む。

「まだだ。」

続けざまに他のサイクロネーダの目にもエルダーリベリオンで容赦なく弾丸をお見舞いする。

サイクロネーダは目を押さえて苦しみながら闇雲に腕を振り回す。

「くっ!」

伸びる腕のせいか、かなり範囲は広く、普通は近づけない。

だが・・・。

「終わりです・・・。」

「?」

聞き覚えのある声がしたかと思うと、サイクロネーダ達は身体中を切り裂かれ、倒れる。

「!」

倒れたサイクロネーダ達の前からあの青髪の女が現れる。

「・・・これで一先ずは片付きましたね。」

「流石に単身で乗り込んで来るだけはあるな・・・えぇと・・・。」

「『ハドレット』。」

「?」

「本来の名前ではありませんが、呼びにくければそれで・・・。」

「ああ・・・。」

 

 

「キィアアアアアアア!!」

 

 

「!」

聞き覚えのある叫び声が聞こえた瞬間・・・。

「ッ!?」

エルアーダが後ろから突進して腕の刃で俺を切り裂いて通りすぎた。

「?」

しかし痛みがない。

「!」

まさかと思って後ろを見ると同じようにエルアーダが突進してきていた。

さっき通りすぎたのは恐らくは・・・!

「くっ!」

間一髪で横に跳んで回避した。

恐らく今のに当たれば胴体を真っ二つに切り裂かれただろう。

「・・・。」

エルアーダを再度見るとやはりだ。

ゆらゆら跳んでいるので若干見え方がぶれている。

実体のない像を実体が追いかけているような・・・。

あの時ネージュに与えられた予知能力、恐らくは『縁者』の力だ。

「・・・皮肉だな。」

嫌なものを見せられた証と言える代物と言える力が、こんなところで役に立つんだからな。

エルアーダは腕を振りかぶって鎌の斬撃を繰り出すが・・・。

「・・・『首』か。」

像で動きがバレバレだ。

虚像が俺の首を掻き切ったあと、実像が攻撃が当たる寸前で上半身を軽く反らして回避し、その体勢のままサテライトエイムを食らわせる。

動きが見えるってだけで回避だけじゃなく、急所をとらえて攻撃するのも楽だ。

難なくコアにヒットし、エルアーダは絶命する。

「くそ・・・奴らだ!」

セトはエルアーダが飛んできた方角を見て冷や汗を流す。

「クキキ・・・!」

「・・・。」

またあの人型ダーカーだ。

しかも今度は五体いる。

その周りをダーカー達が気持ち悪いほど整った陣形で守っていた。

「僕らはあいつらにやられた・・・!」

セトは顔を真っ青にさせている。

「ああ、確かに並のアークスであいつらの相手は無理だな。」

「ノワール、引き際だ・・・奴らに見つかった以上・・・。」

セトは撤退を提案したが・・・。

「お前らは周りのダーカーを始末しろ。あいつらは俺がやる。」

「な!?」

「は!?」

「ッ!?」

俺の言葉にそれぞれ同時に似た反応を見せる。

「馬鹿かお前!奴は一体ですら一個中隊を全滅させるんだぞ!?」

「だからお前らはあいつの相手すんなって言ってんだ。俺が押さえてやる。」

「ちょっとあんた本気!?セトの話聞いてた!?一人じゃ無理よ!」

「待ってください、二人とも。」

俺の案に非難するセトとラパンに、ハドレットが制止をかける。

「確かに突拍子もない行動だと思います・・・ですが、なにか策がある・・・そうですね?」

「本当か・・・?」

「何よそれ・・・!」

二人が困惑する中、ハドレットは冷静に俺を見ていた。

「・・・あるにはあるが、企業秘密だ。」

「おい!?なんだよそれ!?」

「おしゃべりは此処までだ。行くぞ。」

状況整理ができていない二人を置いて俺は突っ込む。

「だああ!!くそっ、もうどうにでもなれだ!!」

セトはやけ気味に突っ込む。

「もう!!死んだらあんたの部屋に化けて出てやるからね!?ルナール!!いくよ!!」

「うん!!ドロドロ~!!」

ラパンも腹をくくって剣を構えてルナールと一緒に突っ込んでいく。

「挨拶代わりだ。」

俺は人型ダーカーに銃弾を放つ。

しかし。

「キィアアアアアアア!!」

人型ダーカーはガウォンダ四体に指示をだして盾で防がせる。

だが。

「甘いぞッ!!」

俺が銃弾を放って盾の向きを押さえているうちにセトが後ろに回り込み、素早く抜いたカタナで横に一閃、そこからカタナを鞘に納め、さらに抜いて縦に一閃食らわせる。

カタナのフォトンアーツ、『サクラエンド』だ。

だがガウォンダ達はタフでそれだけでは倒れない。

「盾でこれが防げる!?」

ラパンの言葉の直後に一番中心にいたガウォンダが爆弾になったかのように爆発する。

点座標の火炎、おそらくはラフォイエだ。

セトの攻撃の間にテクニックを練っていたみたいだ。

爆発に巻き込まれたガウォンダ達は火炎に包まれて倒れる。

そこを透かさず俺は突破する。

「・・・!」

セトの頭上を通過する際、セトが俺にサインを送ってきた。

 

 

『任せていいんだな?』

 

 

「・・・。」

俺はセトから視線を離しながらサインを送る。

 

 

『せいぜい信じてろ。』

 

 

「・・・。」

俺は人型ダーカーの群れの中心に着地する。

「クキキ・・・!」

人型ダーカーは口から武器を取り出した。

「さぁて、遊ぼうか。アルクトゥスの犠牲者たちよ。」

 


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