~ノワール アルクトゥス 市街地(七年前)~
「・・・何、言ってんだよ。」
『言った通りだ。ネージュを連れて逃げてくれ。』
「どういう事だ、なんでそうしなきゃいけなくなる・・・!」
『ダークファルス二体と戦っている・・・ネージュを連れたままじゃ無理だ。だからネージュを安全なアルクトゥスの外に連れていってほしい。』
「お前・・・それ・・・一人で戦ってんのか!?」
どう考えたって無理だ!
『ああ。』
「それに・・・神託のフォトンを半分って・・・力が半減してんじゃねぇのかよ・・・!?」
『・・・。』
ヘイルは答えない。
「母様・・・は、話が違うのじゃ!ノワールを呼んできてくれって・・・。」
ネージュは顔を青くしてヘイルに叫ぶ。
『すまない、ネージュ。そうでも言わなければそなたは動かないからな。』
「いやじゃ!!母様一人で戦うなんて無茶じゃ!!それにノワールもアークスなんじゃろ!?だったら・・・。」
『残念ながらその者はこの世界に実体を持たない存在なのだ。故にこの世界に干渉することは出来ない。』
「な、何言っとるのじゃ、母様?分かんないのじゃ・・・!」
「こう言うことだ。」
「へ・・・?」
俺は近くの壊れかけの車に触れようとする。
しかし車には触れず、手が車を貫通する。
『この世界の物を触れない。つまり、ダーカーと戦えないんだ。』
ヘイルがネージュに説明する。
「・・・。」
ネージュは立ち止まったまま動かない。
「・・・んのじゃ。」
『ネージュ?』
「分からんのじゃッ!」
ネージュは耳を塞いで叫ぶ。
「二人が何言っとるのかわしには分からん!!分からあぁんッ!!」
ネージュは必死に叫ぶ。
どう見ても分かってて分からない振りをしているだけだ。
『ネージュ、聞き分けろ!そなたを助けるためなのだ!』
「嫌じゃ嫌じゃッ!!!」
「・・・。」
二人が争うなか、俺はそれを静観していた。
俺だって助けられるものなら助けたい。
だが状況が絶望的だ。
苦渋の選択、どっち付かずな状況だ。
だが、采配は俺に委ねられている訳ではない。
決めるのはネージュだ。
俺はこの世界に干渉出来ない。
つまり、こいつに触れられないので無理に連れ出す事が出来ないのだ。
だからこいつが嫌だと言えばそれまで。
連れて逃げるのは不可能だからだ。
「ノワールッ!!」
ネージュは俺のコートの裾を掴んで俺の名を呼ぶ。
「え・・・?」
なんで・・・こいつ・・・裾を掴んでるんだ?
触れないはずなのに・・・!
「母様は今撃たれて怪我しとるんじゃ!今のままじゃ絶対戦うなんて無理じゃ!!お願いじゃ!母様を助けてほしいのじゃ!」
ネージュの話よりも気になって仕方ない事がある。
「・・・。」
ネージュの頭に手を伸ばす。
「ッ!!」
触れた!!
「くっ・・・!」
神託のフォトンを持った奴には触れるのか・・・!
いや、考えてみればあり得ることだ。
俺を見て俺と話す。
他の人間が出来ない事をこいつらはやってのけるんだ。
出来ない訳がない・・・!
くそ、なんてこった・・・!
采配は最初から俺に委ねられていたんだ!
「・・・ぅ!」
急に嗚咽感が込み上げてきた。
『ノワール・・・ネージュを助けられるのはそなただけなのだ!お願いだ、ネージュを・・・私の娘を助けてくれ!』
「・・・!」
そうだ。
俺に出来るのはせいぜいこいつを運ぶことだけ・・・だったら迷う理由なんて・・・。
「嫌じゃ!!嫌じゃ!!連れていくなッ!!」
「ッ!?」
ネージュが泣きながら俺の足元にしがみつく。
「助けてッ!!母様を助けてぇ!!お願いじゃ!!母様を・・・助けでッ!ノワールゥ・・・ぅぐ・・・!お願い・・・お願い・・・!」
「うっ・・・!」
くそ・・・こんなときに罪悪感逆撫でしてきやがって・・・!
俺だって助けられるなら助けたい・・・助けたいんだよ!
でも・・・。
『いや、助けて!!ぎゃあああああッ!!』
さっきの助けられなかった民間人の姿を思い出す。
あの時、銃を出せなかった。
俺はこの世界じゃ戦えない。
「母様を・・・助げで・・・ぅぐ・・・えぅ・・・うあぁっ・・・!」
「くそ・・・ちくしょう・・・!」
俺はこんな泣いている子供を・・・!
「くそがああああああぁぁぁぁぁッ!!!」
「ッ!?」
俺はネージュを掴み、肩に抱えて走り出す。
「戻れッ!戻るのじゃッ!!」
ネージュは必死にもがき、俺の背中を殴りながら叫ぶ。
「うるせぇッ!黙ってろ!!」
「戻らないなら降ろせぇッ!!わし一人だって母様をッ!!」
「お前みたいなガキが行って何が出来るッ!!黙って運ばれろ、このアホッ!!」
『ありがとう・・・!』
ヘイルでテレパシーを送っているが、その声は涙ぐんでいた。
「うるせぇッ!!礼なんか言うんじゃねぇッ!!」
『そうだな・・・すまない・・・。』
「俺に・・・こんな事させやがって・・・!」
『頼んだぞ・・・ネージュの『縁者』よ・・・!』
「・・・ッ!」
『縁者』・・・?
なんだそれは・・・。
「おい、なんだよ、『縁者』って・・・!」
『そうだな、そなたには話しておくべきだな。『縁者』とは、神託のフォトンの加護を受けた者だ。』
「加護・・・?」
『身に覚えはないか?ネージュに力を与えられ、数秒先の未来が見えるようになったり、見えないはずの物が見えたり・・・。』
「・・・まさか!」
そう、覚えがあった。
元の時代のネージュと一緒に不時着したこのアルクトゥスを脱出する際の事だ。
あの時にネージュが力に覚醒し、俺に力を与え、敵の動きが見える上に脱出の為の道筋まで見えた。
『覚えがあるのだな?』
「その時に俺は縁者にされたってのか・・・!」
『そうだ、そなたは縁者・・・だからこそ神託のフォトンに導かれ、この時代に来たのだ。』
「くそ・・・なんで・・・なんで俺なんだよ!」
『不服か?だが仕方ないだろう、それこそ、神託のフォトンの気まぐれというやつだ。』
「ふざけんな・・・ふざけんなよ!そんなのでこっちは二度と見たくないもの見せられたんだ・・・!」
『それはすまなかったな。』
「お前が謝んじゃねぇよ!」
『そうだな・・・。』
「・・・。」
『・・・。』
それから会話が止まる。
『こんな状況だから言うがな・・・。』
「なんだよ・・・。」
『そなたの時代のネージュの話を聞きたかった・・・。』
「・・・!」
そんなこと・・・。
「俺だって話したかった・・・文句言ってやりたかったよ!こいつにどんだけ迷惑被ったか・・・!」
何度もしつこくスカウトしに来たことを思い出す。
「ホントアホだよ・・・こいつは・・・よく纏わりついてきて鬱陶しくて・・・!」
俺がアルクトゥスに不時着したときについてきていた事を思い出す。
「とんでもなくお節介で・・・!」
エスカが操られて自爆しそうになった時、捨て身で助けたことを思い出す。
「誰かを助ける為に後先考えなくて・・・!」
戦闘狂だの言われ、何も言えなかった俺の為に必死に怒鳴りつけたことを思い出す。
「優しすぎるアホだよッ!」
『そうか・・・それを聞けてよかった・・・ありがとう。』
「これで満足かよ・・・!」
『ああ、そろそろ時間だ・・・会話はここまでとしよう。』
「どういうことだ・・・?」
『これからできる限り時間を稼ぐ。その間に逃げてくれ。』
「・・・。」
本当ならふざけるなと言って止めにいくが、今の俺にはそんなことが出来るわけがない。
『ネージュを頼んだぞ・・・。』
「・・・ああ。」
「母様ッ!母様ああぁッ!!」
ネージュが必死にヘイルに叫ぶ声を聞きながら、俺は自分の無力さを呪いつつ市街地を駆け抜けていった。
~ヘイル アルクトゥス市街地(七年前)~
良かった。
無事にネージュは脱出することが出来そうだ。
「・・・ふふ、随分と長く話してしまったな。」
笑ってはいたが、これは虚勢だ。
「これでは殿の意味がないな。」
身体が震えているのを必死に押さえる。
「・・・。」
怖いのだ。
ネージュの前ではいつも毅然としていたが、私もただの人間だ。
宮司の一族だからと言ってもただの人間だ。
本当は私は情けないほどに臆病だ。
これから死にに行くのが怖くない訳がない。
逃げたかった。
ネージュと一緒に地の果てまで逃げたかった。
だがそれはできない。
私は宮司の一族。
例えアルクトゥスの民に知られずとも、感謝されずともアルクトゥスの民を守る守護者なのだ。
それに私はネージュの親だ。
子供を守るために手段を選ぶ訳がない。
例え自分を投げ捨ててでも。
「いや・・・そんなのは言い訳だな。」
そう、これは罰。
ヴァレットを止めることが出来なかった私への罰。
ヴァレットの想いを受け止めることが出来なかった私への罰。
私は最初から全てを知っていた。
彼女がダークファルスであることを・・・。
彼女が仲間と連絡を取り合い、今日の襲撃まで水面下で動いていたことを・・・。
孤児を装って私に近づいてきた彼女を拾った五年前から知っていた。
始めは彼女を餌に仲間をおびき出して一網打尽にして殺すつもりだった。
そうとも知らずに嘘くさい笑みで私に仕えていた彼女が滑稽だった。
しかし、そうした芝居の中で、私は彼女の色々な面を見てきた。
慣れない事には初々しい反応を見せるし、本当に好きなものには見た目相応の可愛らしい笑みを見せる。
それを見るたびに私は彼女を殺すことを先延ばしにした。
そうして先伸ばしにしていくうちに、彼女の嘘くさい笑みは消えていた。
心の底から愛情に満ちた眼を向けてきていた。
そう確信した時、私は彼女を殺す事をやめた。
当然、事情を把握していたじいやには反対されたが、彼女の中に何かが芽生えた気がしたからだ。
私の我が儘だが、最後にじいやは折れて私に賛同してくれた。
だが、彼女はある日を境に私に対し、憎悪に満ちた眼を向けるようになった。
それが何かは分からなかった。
次第に私は彼女から距離を取るようになってしまっていた。
それから息を吹き替えしたかのようにじいやは私に彼女を殺す事を提案した。
彼女が選定の儀を利用して神託のフォトンを手に入れようとしていたからだ。
しかし、彼女の思いも分からずに殺すことは出来ない。
そう言うとじいやは条件を突きつけてきた。
もし、彼女が私に敵意を抱いているなら殺せと。
これが最後のチャンスだった。
だから一人の時に本音を聞いて貰うよう彼に頼んだ。
原因は分からなかったが、結局彼女は私を恨んでいたのだ。
しかしこれだけは言える。
「私が・・・悪いんだ・・・。」
そう、私が彼女から距離を取ったのがいけなかった。
こんな事になる前に彼女と向き合い、本音を聞き出し、わだかまりを解くべきだったのだ。
「なんで・・・なんでこうなっちゃったんだろうな・・・。」
ヴァレットはダークファルスとして私から離れ、じいやは私を守るために犠牲になり、ネージュも私が逃がして離れていった。
「なんでだろうな・・・!」
みんな・・・私から離れていった。
だが、これは全て私の罪だ。
私が全て招いた事だ。
「ヴァレット・・・ごめん・・・ごめんね・・・!」
涙が止まらなかった。
「ッ・・・!」
すぐに涙を拭う。
奴等がネージュを人質に取るために探し回っているかもしれないのだ。
私が注意を引かねばならない。
「私はここだッ!」
叫んで物陰から飛び出した。
人型ダーカーが此方に気づいた。
「逃げも隠れもせん!何処からでもかかってくるがいい!」
最後まで私は戦う。
最後まで宮司の一族として・・・。
最後までネージュの親として・・・。
最後まで・・・『ヘイル』として・・・!
~ノワール キャンプシップ~
道順は分かっていた。
前に神託のフォトンが発動したネージュと共に脱出したし、潜入したばかりだ。
市街地の道筋も分かるので敵を振りきりながらゲートエリアまですぐに駆け込んだ。
端末はネージュの手を使って操作し、キャンプシップを動かし、脱出まで漕ぎ着けた。
「・・・。」
ネージュは最初こそ泣き喚いていたが、今は何も言わず、無表情な人形みたいになっていた。
「・・・。」
俺はというと、そんなネージュに声もかけず、ただ座り込んでいた。
「・・・。」
「?」
ネージュは立ち上がったかと思うと、俺のほうへ歩みより、立ち止まったまま動かなくなる。
「・・・殴れよ。」
こいつのしたい事なんか分かってる。
俺が憎いはずだ。
母親を見殺しにして逃げた卑怯者だ。
殺したいほど憎んでいるだろう。
俺だってそうだ。
大事な奴を殺したり、死なせたりする奴は憎い。
だからこうしてダーカーを殺す殺戮狂に成り果てた。
「ッ!」
ネージュは思いっきり俺の顔を殴った。
「・・・。」
大して痛くなかった。
当然だ。
俺はキャストだ。
見た目をいくら人間に近づけたところで身体は硬い。
寧ろネージュの拳の方がダメージがあるくらいだ。
だが、その拳には憎しみが籠っているのだけは痛いほど伝わった。
「・・・ぅぅ。」
ネージュは殴った拳を押さえて踞る。
「・・・どうした。」
俺は立ち上がる。
「もう終わりか?」
「ッ!」
俺の挑発に、ネージュはかちんと来たのか、何度も何度も腹部を殴り付けてきた。
拳は血が流れてきたが、それでも俺の身体を殴る事をやめない。
「・・・。」
俺は抵抗しない。
当然だ。
俺はこいつに殴る事の何百倍も酷いことをした。
こいつの拳を止めることも、避けることもしない。
その資格はない。
「・・・?」
「・・・。」
ネージュは突然殴るのをやめる。
「・・・どうした。」
「・・・。」
「俺が憎いだろう?殴るだけじゃ気が済まないか?だったら・・・。」
「もういい。」
「・・・?」
なんだ?
「こんなことしても母様・・・喜ばないのじゃ・・・。」
「・・・。」
こいつからは想像もつかない程冷静な言葉だ。
「お主はわしをたすけた・・・母様の望むことをした・・・助けてくれた人にはお礼を言えって母様・・・言ってたのじゃ・・・。」
「・・・。」
「ありがとう・・・。」
「・・・。」
「ありがとう・・・!」
「・・・。」
ふと思ってネージュの手を見る。
震えていた。
拳を握っていた。
言葉にない気持ちが手に取るように分かる。
「ッ!?」
突然のことにネージュは戸惑う。
俺がネージュを抱きしめたからだ。
「・・・このアホ。」
「・・・え?」
「ムカついたら怒れ・・・泣きたかったら泣け・・・。」
「・・・!」
「親と引き離されたガキが我慢なんかすんじゃねぇ・・・!お前は泣いていいんだッ!」
「・・・! ひぐっ・・・えぐっ・・・・!」
俺が言い聞かせた途端、ネージュは目を涙ぐませる。
「うあああああああああ!わあああ!」
ネージュは声を露にして泣いた。
まるで赤子のように泣いた。
泣き崩れ、座り込んだらそれに合わせて俺も座って抱きしめた。
しばらく泣くと、ネージュはまた大人しくなった。
「ノワール・・・。」
「なんだ・・・?」
「わし、これからどうすればいい・・・?」
「そうだな・・・ん?」
自分の身体の異変に気づく。
身体が光始め、段々透明になり始めたのだ。
「・・・!ノワール・・・?」
ネージュも気づいた。
「ああ、なるほどな。」
容易に理解出来た。
「なんじゃ・・・お主・・・どうなっとるんじゃ・・?」
ネージュは分かっていない。
「悪いな・・・俺、もうすぐ消える。」
そう、神託のフォトンが俺をこの時代に飛ばしてやらせたかったこと・・・それは、この時代のネージュをこうして助けさせる事だったのだ。
「え・・・?」
ネージュは顔が青ざめる。
「そんな・・・お主まで居なくなったらわし、どうすればいいのじゃ!」
「さっきも聞いてきたなそれ・・・。」
俺はネージュの頭に手を乗せる。
「いいさ、教えてやる。」
答えは解りきっている。
「アークスになれ。」
「・・・!」
ネージュはきょとんとする。
「そしたら、また俺と会える。」
「・・・ホント?」
「ああ。それに仲間が一人出来る。」
「仲間・・・?どうしてそんな事わかるのじゃ?」
「俺は未来から・・・いや。」
そう言えば未来の事を言えば遮られるよな。
あんまり本当のこと言えないな。
なら・・・。
「俺は予言者だからな。」
「予言者・・・?」
「で、この予言は百パー当たる自信がある。」
「お主にまた会えて、仲間が出来るのか?」
「そうだ。」
「ホントに?」
「ああ。」
「・・・!」
ネージュは途端に笑顔になる。
「わし・・・アークスになる!」
「ああ。」
今の事を知ったら、こいつと初めて会った時の俺は恨むだろうな。
そんな下らないことを考えながら俺は相槌を打った。
「・・・!」
段々視界が薄くなってきて、自分の身体も益々透明になってきたのが分かる。
そろそろ限界みたいだ。
「そろそろ時間だ。」
「・・・!」
ネージュは途端に顔が悲しそうになる。
「そんな顔すんなよ。」
「ぬぁッ!?」
わしゃわしゃとネージュの頭を撫で回す。
「サヨナラじゃねぇよ、『またな』。」
「・・・!おう!」
ネージュは涙目で必死に笑みを見せる。
その必死な笑みを最後に、俺の視界は真っ白になり、次第に真っ暗になった。
・・・!
「・・・?」
何か聞こえる。
なにも見えなくなったが、声のするほうへ歩く。
・・・ール!
「・・・。」
どうやら合っているみたいだ。
声が近くなった。
ノワール!
「・・・。」
歩くのをやめ、走り出す。
すると光が見えてきた。
俺が光のもとまでたどり着くと、今度は光の眩しさで辺りが見えなくなった。
~ノワール アルクトゥス 屋敷(現在)~
「ノワール!おい、ノワール!」
「ちょっと、どうしたのよ!」
「しっかりしてください!」
「・・・。」
セトとラパンと屋敷前で同行した女のうるさい声に目を覚ます。
「え、あ、なんだ。脅かすなよ・・・。」
俺が気がついた事にセトを始めとして三人は疲れきったように脱力した。
「・・・戻ってこれたか。」
「・・・は?」
「何言ってんの?」
起き上がりながら言うセリフに、セトとラパンは声を合わせて困惑する。
「・・・俺はどれだけ寝てた。」
「え、どれだけって・・・。」
セト達は困ったように顔を見合わせる。
「どれだけだよ。」
「いや、どれだけって言われても・・・。」
「早く言え。」
「倒れて数秒で気がついたわよ、あんた。ホントにどうしたの?」
「数秒・・・!」
数秒って・・・。
「たった数秒の間であんなことが起きたのか・・・。」
「は?何言ってんだよさっきから・・・。」
「気にすんな。さぁ、行くぞ。」
すぐに立ち上がる。
「行くって何処に・・・?」
「この屋敷は全て探索しました。貴方も知ってるはずです。」
セトと女は俺に疑問を投げ掛ける。
「大丈夫だ。行き先はもう分かった。」
「「「え!!?」」」
三人は声を合わせて驚いた。
~ネージュ キャンプシップ(七年前)~
「・・・。」
目の前の男は消えた。
最初は憎かった。
でも、わしの事を想って怒ってくれた。
母様みたいじゃった。
それに、凄く嬉しいことを教えてくれた。
いい奴じゃった。
「待っておれよ・・・ノワール・・・。」
そうじゃ、あやつは言っておった。
アークスになれば会えると・・・。
「頑張るからな・・・わし・・・!」
笑顔にしたけどもう限界じゃった。
「わし・・・アークスになるんじゃ・・・絶対・・・絶対・・・!」
涙が止まらなかった。
「母様・・・じいや・・・!わし、頑張るからな・・・!」
そうじゃ、あやつに会うだけじゃない。
じいやも母様もきっとそれを望んでおるはずじゃ・・・!
「わし・・・頑張る・・・頑張るから・・・う・・・うぁ・・・うああぁ・・・わあああ!」
わしはその場に泣き崩れた。