PSO2 ~創造主の遺産~   作:野良犬タロ

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第二十四章 ~母と娘~

 

~ヘイル アルクトゥス 市街地(七年前)~

 

あれから結構時間が経った。

「はぁ・・・はぁ・・・。」

私は傷だらけの状態で息を切らしていた。

「くっ・・・!」

やりたくはないが、已む無く人型ダーカーを凪ぎ払う。

人型ダーカーを無視してダーカーを倒さないといけないが、奴等の数は想像以上に増え続ける。

しかも私を倒す事だけが目的ではなく、進路を塞いだり、取り囲んだりして妨害に撤する者もいる。

しかも奴等は動きも素早く、あまり数で来られると槍ひとつでは足りないほどの手数となるため、已む無く排除を強いられる。

『ヒャハハハ!見物だなおい!民草を守る宮司の一族様が、民間人を殺しまくってんぞ!』

「黙れ、下衆が・・・!」

薄々分かって来たが奴が作り出したかった状況は、どうやらこれだろう。

私の手を民間人の血で染める。

ダークファルスにも色々いるのだろうが、奴は一際下衆な部類と言えるだろう。

「でやあああッ!」

人型ダーカーの群を槍の一振りで凪ぎ払う。

切り裂かれた人型ダーカーは赤黒い液体をぶちまけつつ、中身が露になり、私はその液体を諸に受ける。

「ッ!?」

なんだ?

人型ダーカーが途端に退いていく。

「うわああッ!」

「?」

悲鳴が聞こえ、そっちを向く。

「ひ、人殺し!」

夫婦らしき男女が私を指差して怯えていた。

私の周りは先程の人型ダーカーの媒体となった人間の死体、更に私は赤黒い液体にまみれている。

まずい。

夫婦にとって私が人を殺して返り血を浴びたと取られてもおかしくない!

「ち、違う・・・!」

「あ、あいつ、ダーカーの親玉だ!」

「いやああああぁッ!」

「ひぃ!ま、待ってくれ、置いてくな!」

弁解しようとしても女は逃げ出し男も必死にその後を追いかけた。

『ヒヒ、傑作だな、ダーカーの親玉だってよ!どお?今どんな気持ち?俺達と同じ立場になってみた感想は!』

「ふざけるなッ!正面から戦わずに大口を叩くな卑怯者!」

『卑怯?さっきチート級の能力で【従者】いたぶってたのは何処のどいつだ?』

「黙れッ!!」

『結局俺とお前は一緒なんだよ!立場が違うだけでさあ!それにさお前、今はもう『人殺し』のレッテル貼られてるじゃん!さっきの奴ら、多分今頃合流した仲間かアークスに今のことチクってるぜ?もういいだろ?』

「もういい?何が言いたい!」

『だーから、もういいだろ?殺しながら俺を探せばいいじゃん!『人』をさ!』

「ふざけるなッ!そんな口車に誰が乗るかッ!」

奴は馬鹿か?

そんなことをすれば結局奴の兵隊が増えて悪戯に自分の状況を悪くするだけだ。

第一そんなことを抜きにしても私がこのアルクトゥスの民を殺すはずがないことぐらい、奴にも分かるはずだ。

『じゃあさ、もうひとつハンデをあげちゃおうじゃないの!』

「なにをこんな時に・・・!」

『お前が殺した民間人からは俺は兵隊を作らない!つまり、お前が民間人を殺せば殺すほど俺は兵隊を作る材料をどんどん失い、お前はどんどん王手に近づけるわけだ!あわよくば殺した奴の中に俺が混じってるかもしれないしな!』

「ふ・・・!」

「ふざけるなッ!」

「!?」

私が言おうとした言葉をネージュが先に叫んだ。

「母様がそんなことするわけない!わし、ずっと見てきたのじゃ!!母様は、アークスをやりながら・・・アルクトゥスの誰かが困っていたら皆助けてたのじゃ!!アークスの調査先でボロボロになって帰ってきてつらい時だってあった・・・でも母様はいつだってアルクトゥスの為に頑張ってきたのじゃ!!母様を馬鹿にするなッ!!」

「ネージュ・・・。」

『・・・。』

ネージュが怒るとダークファルスは黙り込む。

『ヒッヒッヒ、泣かせるねぇ!!けど、今その母様は何したって誰も喜ばねぇぜ?目の前でダーカー殺そうが、民間人からは化け物食い殺してる別の化け物にしか見えねえからな!!』

「そんなの関係ないのじゃッ!!誰がなんと思おうと、わしが母様を見とる!母様はアルクトゥスの皆の為に戦っとるって!わしが見てるのじゃ!!」

「・・・。」

どうやら私はネージュのことを子供扱いしすぎていたようだ。

この子は、私の世界でたった一人の最高の娘だ。

『へっ、口が達者なのはいいけどよ、 今の状況をどうにか出来なきゃ、そんなもんただの戯れ言だぜ?ほら・・・。』

「くっ・・・!」

人型ダーカーが襲いかかってくる。

やむを得ずダーカーを凪ぎ払おうとした時だ。

「!?」

突如現れた人影が銃を手に、人型ダーカーを全て撃ち抜く。

「じいや・・・!」

唖然と立ち竦む私に、じいやは振り向き、笑みを返す。

だがその額からは血が、更に見れば足や腕にも銃弾で撃たれたかのような傷跡があった。

「ヘイル様、お待たせ致しました。」

「じいや・・・その傷・・・!」

いや、そんなもの分かりきっていることだ。

「じいや・・・ヴァレットは・・・。」

「・・・『敵』は無事、排除致しました。」

「・・・そうか。」

じいやは私が気落ちしないよう、敢えてキツイ言い方をしているのだろう。

そうだ。

落ち込むのは全てが終わった後だ。

「じいや、すぐにでも民間人の救助を・・・ッ!!?」

じいやが一瞬ほくそ笑んだのに気づく。

「!!?」

身体が停止して意識だけが働く状態になる。

じいやが撃った銃弾が私の腹部を貫いていた。

「ッ!」

意識が身体に戻る。

未来が見えた瞬間だ!

でも、信じられない。

どうしてじいやが!?

「くっ!!」

咄嗟に身体をずらすが、今の気の迷いが判断を鈍らせ、じいやが撃った銃弾は脇腹を突き抜ける。

「がはっ・・・ぐっ・・・じいや・・・何故・・・!」

「『じいや』・・・それは誰のことでしょうか。」

「は・・・?」

困惑する私に対し、じいやは気味が悪い程に優しく微笑む。

「言ったではありませぬか、『敵』は排除したと・・・わたくしの『敵』、『執事長』を・・・。」

「まさか・・・!」

「ふふふ・・・。」

じいやは笑うと、白かった髪が紫に染まり、瞳も赤くなる。

「ご機嫌麗しゅう、ヘイル様。」

「ヴァレット・・・じいやの身体を・・・!」

「満身創痍ゆえ、身体を乗り換えさせて頂きました。」

「そんな・・・!」

『ヒャハハハ!それよそれ!その青ざめた顔!俺が見たかった顔だよ!最高だねぇ!!』

「くっ・・・!」

ヴァレットは一歩、また一歩と近づいてくる。

『これでニ対一だ!さぁどうする!?』

多勢に無勢、しかも敵の一人は手練れ。

明らかに此方が不利だ。

「母様・・・!」

ネージュが私にしがみつき、心配そうに私を見上げる。

「・・・。」

黙ってネージュの頭を撫でる。

「母様・・・?」

「心配するな、ネージュ。母様は強いぞ。こんな状況、すぐになんとかしてやる!」

精一杯笑みを向けてネージュを励ます。

『へぇ?じゃあどうすんの?』

「・・・。」

奴の言葉を無視して槍を掲げる。

『何してんだ?そんな無防備だったら死ぬぞ?ほら。』

ダークファルスの言う通り人型ダーカーは私に襲いかかってくる。

「・・・。」

だが私は動かない。

人型ダーカーは今にもその爪で私の喉元を貫こうとした瞬間・・・。

「ッ!」

今だ!

私は槍の先に意識を集中させる。

すると槍の先から突如眩しい光が放たれる。

『ぐあぁッ!』

遠目から見ていたであろうダークファルスですら、目が眩んだのだろう。

テレパシー越しに苦しそうな声がする。

『くそっ、何処だ!何処に行った!』

私達がいた場所は既に藻抜けの空だった。

 

 

ーーー私達は少し放れた物陰に隠れていた。

奴等と戦いながら民間人の救出は流石に消耗が激しい。

一旦身を隠してやり過ごした方が良さそうだ。

『無駄だぜぇ~?こうやってテレパシーで会話出来んだ。何処にいたって分かるぜぇ?』

「くっ・・・!」

『諦めて出てこいよ?』

「黙れッ!」

『ほら、出て来いよ。』

「・・・。」

焦るな。

奴の挑発に乗れば今やったことが水の泡だ。

いや、待て。

奴とてダークファルス・・・我々人間と同じ感情を持っている存在だ。

逆に挑発してみれば何かしらの隙は作れるのではないか?

「そうやって貴様自身は挑発するしか出来んのだな、直接戦闘が出来んのであれば、貴様自身の力など程度が知れるな。」

『ほらほら、もしもーし?聴こえてんの?何か言い返してみたらぁ~?』

「・・・何を言っても無駄か?」

『ほーら、隠れてるだけだとどんどん民間人死んじゃうよ?いいの?宮司の一族様よ!』

「誰がそんな挑発に・・・。」

何かがおかしい。

『神託のフォトンっつってもそんなもんなの?』

「・・・。」

『んじゃびくびく怯えて隠れてればぁ?民間人見殺しにしたいならいいけどさぁ?』

こいつ、さっきから一方的にしか喋ってないか?

『あーあ、しらけるわぁ、こんな奴に【従者】追い詰められ

「お前の母ちゃんデーベソ。」

てたのー?ダッサ!』

「・・・。」

『まじさぁ、雑魚なら雑魚らしく根性見せようとか思わないわけぇ?ほんっと情けないわぁ!』

「・・・。」

やっぱりな。

奴は此方にテレパシーを送れるが、私達の声が奴に直接聞こえているわけではないようだ。

そうでなければ私が今割り込んでまで言った突拍子もない変な発言に何かしら反応があるはずだ。

奴等は此方を感知する力はない。

テレパシーも通信機で会話をするような物ではなく、一方的にメッセージを送っているだけのようだ。

先程会話が出来ていたのはおそらく、奴が近くに居て声を直接拾っていたのだろう。

「・・・?」

ネージュが何やら私のお腹を見ている。

「ネージュ?」

「母様・・・出べそなのか?」

「は?」

「だって母様、『お前の母ちゃんデーベソ』って・・・。」

「違う!そなたに言った訳ではないぞ!?はっ・・・!」

慌てて私は口を塞ぐ。

「母様・・・?」

「ネージュ、あんなこと言っているが奴は私達の居場所に気づいていない。大声を出さなければ奴に私達の会話は今聞こえない。だから小さい声だ。しーっ。」

「・・・!」

ネージュは慌てて口を塞ぐ。

いつもなら何かしら言う行動だが今はありがたい。

ただ、状況は芳しくない。

『オラどうすんだよ!このままじゃアルクトゥスの奴らみんな死んじまうぞ!?』

「・・・。」

奴の言う通り、このままでは民間人がどんどん死んでいく。

だが出ていけば奴等の包囲からは逃げられない。

それに・・・。

「ッ・・・!」

痛みが走り、脇腹を押さえる。

血が出ている。

さっきヴァレットにやられた傷だ。

「母様・・・。」

ネージュは心配そうに私を見る。

「大丈夫だ。ネージュ、母様がそなたの前で無様に負けたことあったか?」

「・・・。」

「・・・?ネージュ?」

ネージュは目を閉じて私の傷口に手を翳す。

「・・・今治すのじゃ。」

「・・・!」

ネージュの手から微弱だが光が灯る。

レスタだ。

だがまだ子供な上にアークスとして経験の浅いネージュの力では傷を治すには至らず、僅かに痛みを和らげる程度だ。

「むむむ・・・ぷはっ!」

ネージュは息を切らすとすぐに光は消える。

「・・・どう?母様?」

「・・・ありがとう、ネージュ。」

ネージュの頭を撫でた。

傷はほとんど治っていないが、その気持ちだけは嬉しかった。

だが現実は甘くない。

敵はダークファルス二体。

それもネージュを連れた状態で戦わなければならない。

今のままでは勝つことは愚か、ネージュも危ない状況だ。

「・・・。」

方法は無くはない。

だがこの手段は賭けに近い上に奴らへの勝率も下がる。

「・・・ふふ。」

宮司の一族とはいえ、私も人の親だな。

それが一番正しいと思える。

「母様?」

ネージュは急に笑った私の顔を不思議そうに覗き込む。

「ネージュ・・・。」

ネージュの肩に手を置く。

「そなたにしか頼めない事がある。」

 

 

~ノワール アルクトゥス 市街地(七年前)~

 

「ぎゃあああああッ!」

「いやああああああああああああッ!!」

「は・・・はは・・・。」

悲鳴が飛び交う市街地を俺は笑いながらふらふらと歩いていた。

俺はこの時代に来て何がしたかったんだ。

ダーカーの襲撃は愚か、 助けたかった奴らも助けられなかった。

「何が・・・『神託のフォトン』だ。何が『神』だ。」

そうだ。

俺は『あの時』から、神の存在など切り捨てた。

この世界に神なんかいない。

『神託のフォトン』なんて何処のおめでたい頭のやつが名付けた?

俺にこんな仕打ちをする存在の何処が『神』だ!?

「『神』なんかいない・・・いないんだッ!!」

阿鼻叫喚の戦場の中、誰にも聞こえもしない声で叫んだ。

「いるって言うならッ!!」

人々が逃げ惑い、ダーカーが人を殺す残酷な風景に向かって叫んだ。

「何故俺達を救わなかったッ!!」

建物が崩壊し、爆炎の舞う中、人々がダーカーに殺される惨状に叫んだ。

「・・・。」

次第に虚しさが胸の中を覆い尽くし、膝を着き、次第にその気力すら無くなり、横たわる。

「・・・。」

あの時もそうだった。

ただ絶望し、こうして空を見上げたまま意識を失った。

「今度こそ・・・死ねるかな・・・。」

思えば無意味な事をしてきた。

死んでいった奴らへの罪滅ぼしとか言いながらダーカーを狩っていたが、結局のところただの自暴自棄な八つ当たりだった。

そんな所へ過去を変えるチャンスが来たかと思えば、この様だ。

結局、俺はあの甘い頃の自分となにも変わらない、ただのクズだった。

「・・・。」

結局、神託のフォトンが俺にやらせたかったことはなんだったんだ?

まぁ、おそらくはもう出来なくなったことかもしれない。

俺はずっと元の時代に戻れずにここで朽ち果てるだけなのかもな。

「どうでもいい・・・。」

こんな苦しみを繰り返すくらいならいっそ・・・。

「・・・ル!!・・・ール!」

「・・・?」

何か聞こえる。

阿鼻叫喚しか聞こえないはずなのに、その声だけが変に気になった。

いや、気のせいだ。

無意識に希望にすがって何かに耳を傾けただけだろう。

 

 

「・・ワール!ノワール!!」

 

 

「・・・!」

俺は身体を起き上がらせる。

気のせいじゃない。

俺の名前を呼んでいる。

『一体誰が?』という疑問と同時に驚くことがあった。

あり得ないのだ。

俺はこの時代に存在するはずがないのに何故・・・。

「ノワール!ノワール!!」

「!」

声が近くなった事で姿が見え、声の主が確認できた。

ネージュだ。

走りながら俺の名前を呼んでいる。

「・・・。」

急に虚しくなった。

どうせヘイルに名前を聞いて適当に探しているんだ。

第一俺は透明な上に物に触れない幽霊みたいなもんだ。

助けを呼んだつもりだろうが、宛てが外れたな。

「ノワール!!ノワールゥ!!」

「・・・。」

うるさくて仕方がない。

場所を変えるか。

立ち上がり、ネージュの横を通りすぎようとした瞬間だ。

 

 

「お主、アークスか?ノワールって男が何処か知っておるか!?」

 

 

「・・・え?」

今、こいつ・・・。

「・・・。」

落ち着け、こいつはたまたま近くの奴に・・・。

「お主の他に誰がいるのじゃッ!!」

「・・・俺?」

真っ直ぐに俺を見る。

周りを見渡していたが他の人間は此処にはいない。

「まさかお前・・・俺が見えるのか!?」

なんでだ!?

見えないんじゃないのか?

『良かった。ネージュはどうやら合流出来たみたいだな。』

「!!?」

「母様!」

ヘイルのテレパシーだ。

どうやらネージュにも聞こえるみたいだ。

「おい、こりゃ一体どういうことだ!」

『ネージュに神託のフォトンを半分継承し、与えた。』

「継承・・・?ちょっと待て、こいつは選定の儀はやってないだろ!?」

そう、神託のフォトンの継承には本来選定の儀が必要なはずだ。

『しきたりではそうだが、神託のフォトンは本来直接継承することが出来るのだ。』

「どういうことだ!?」

そんなことが出来るなら選定の儀なんて必要ないじゃないか!?

『選定の儀は選定の神狐の像に神託のフォトンを返還し、像が選んだ者に神託のフォトンを与える仕組みだ。宮司の一族は継承者の候補が複数いる場合、跡取り争いを防ぐために、このようなしきたりを儲けていたのだ。』

「・・・とりあえず内容は分かった。けどなんでいきなりこんなことをした!」

『そなたに頼みがあるからだ。』

「頼み・・・?」

 

 

『ネージュを連れて、今すぐこのアルクトゥスから脱出してくれ。』

 

 

「・・・は?」


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