PSO2 ~創造主の遺産~   作:野良犬タロ

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第二十一章 ~過去と邂逅~

 

~ノワール アルクトゥス 屋敷~

 

屋敷の中に入って、俺達が今居るのは書斎のような場所だが・・・。

「・・・。」

何も変わったものはない。

見た感じ、何処かの金持ちが住んでいるような屋敷だ。

ダーカーの浸食さえ無ければもっと綺麗な場所だっただろう。

脱線したようだが困った事がある。

俺が見えていたあの光の道が途切れている事だ。

「・・・。」

嫌な予感がする。

あいつに何かあったんじゃないかと、いや、それしか考えられない。

「くそっ・・・何処に行けばいいんだよ。」

 

 

『汝が心、我が心、過ぎ去りし我が元への道標』

 

 

「・・・!」

声が聞こえた!

いや、ちょっと待て・・・!

「うっ・・・!」

「ノワール?」

なんだ?

意識が・・・!

ね、眠い・・・!

「ノワールッ!!」

セトの言葉を最後に、俺の意識は途切れ・・・。

 

 

・・・

・・・・・・

「・・・!」

気がつくと俺は・・・。

「なんだ・・・ここは・・・!」

さっきの屋敷・・・のようだが違う。

ダーカーの浸食が晴れている・・・?

しかも周囲は薄暗いはずなのに妙に明るい。

なんでだ?

まるでシップ全体が昼間のように明るくなったみたいだ。

「・・・!」

セト達がいない?

「客人かな?」

「!」

声がする方を見るとそこには本を眺めている女がいた。

ネージュと同じ銀髪で青い眼、だがあいつのようにツインテールのように纏めてはおらず、一子乱れず流れるようなストレートのロングヘアから大人びた印象だ。

俺が気づいたことを確認すると本を置いて立ち上がる。

「私はヘイル、そなたの名を聞かせてくれ。」

「・・・ノワール。」

「なるほど、そなたが・・・。」

「母様ッ!!」

「?」

ドアが急に開き、子供が入ってくる。

同じように銀髪と青い眼の少女でこっちは見覚えのあるツインテールだ。

「母様!じいやが呼んどるぞ!」

「こら、ネージュ!また言葉遣いがおかしいぞ!」

「ネージュ!!?」

どういう事だ!?

「うぐっ、だ、大丈夫なのじゃ!他所に行くときはちゃんとするからの!」

「駄目だ!お前はそう言って他所ではほとんど喋らないではないか!宮司一族たる者、威厳が無くてはならんのだ!この場でもしっかり練習せねば、他所でもボロが出るぞ!」

「うぐぅ・・・!」

「それで?じいやが私に何の用だ?」

「ケーキ作ったから呼んで来いって言われたのに・・・こうなったら母様の分も食っちゃる!」

「は?おい!!」

ネージュ(?)はヘイルの言葉を無視して走り去る。

ヘイルは呆れ気味に溜め息をついた。

「さて、本題に移ろうか・・・まぁ、色々と説明の手間が省けたがな?」

「・・・。」

俺がこんなリアクションを取ることも分かっているような態度だ。

なんなんだこの女・・・!

「ネージュを知っていたな。」

「いや、俺の知ってるあいつとは違う・・・他人のそら似だろ。」

「いや、あれは間違いなくそなたが知っているネージュだ。」

「・・・!」

なんでそんな自信満々に言えるんだよこの女は・・・!

「それと、もう一つ、違和感はなかったか?」

「違和感・・・?」

「ヒントは先程のネージュだ。」

あいつが・・・?

「・・・・・・あった!」

そうだ。

目の前に見知らぬ人物。

その俺があいつの名前を口から漏らしたのに何のリアクションも無かった。

「俺に気づいてない・・・!」

「そう、そなたは本来この場に居ないはずの存在なのだ。だからこの世界の者はそなたを見ることも聴くことも出来ない。」

「だったらなんであんたに俺が見える・・・!」

「ふふ、そなたなら薄々気づいているのではないか?」

「・・・。」

そもそも俺がこうなったのは神託のフォトンの訳の分からない力のせいだ。

だったら・・・。

「神託のフォトンか・・・。」

「御名答だ。」

「俺は神託のフォトンの力で過去に飛ばされた・・・それで神託のフォトンの力を持つ奴以外には見えない。そう言うことだな?」

「ああ、察しが良くて助かる。」

ヘイルは満足気だ。

だが・・・。

 

 

「だったら今すぐあんたの力で俺を元の時代に戻してくれ。」

 

 

「・・・!」

俺の言葉にヘイルは目を丸くする。

「俺はすぐにでもやらなきゃいけない事があるんだ。」

「・・・それはネージュのことか?」

ヘイルの顔が途端に厳しくなる。

「ああ・・・。」

俺が言葉を返すと、ヘイルはまた元の落ち着いた笑みに戻る。

「であれば、神託のフォトンの導きに従うしかあるまい。」

「導き?」

「神託のフォトンは意味のない事はしない。そなたがこの時間軸に飛ばされたのにも必ず意味があるのだ。此処で成すべき事をすれば、おのずと元の時代に戻れるだろうさ。」

「成すべき事って・・・そんな悠長な事してる余裕なんかないんだ!」

「そうは言われてもなぁ・・・それにしても・・・。」

「・・・?」

「ケーキの事が気になってきた・・・ネージュの奴、食べると言ったらホントに食べかねんからな・・・。」

「は?」

こんなときにケーキ!?

何考えてんだこの女!

「じゃあ、すぐ戻るからな!」

「おい!」

俺の制止も無視してヘイルは足早に去って行った。

「ったく・・・。」

こんなことしている場合じゃないのに・・・!

 

 

~ラパン 民間居住区 孤児院~

 

あれから私はすぐ別の孤児院に引き取られた。

「ナベリウスって色んなお魚いるんだね!」

「うん・・・。」

ルナールと一緒にベンチで図鑑を読んでいた。

「おいまたこいつ変な小人と本読んでるぜ?」

「・・・。」

声がする方を見ると数人の男の子が私を馬鹿にするかのように見ていた。

「読書が趣味ですーみたいなアピール?」

「暗すぎるの誤魔化したいだけじゃね?こいつその変な小人としか喋らないし!」

「一人で人形遊びしか出来ないなんて気持ちわりー!ぎゃははは!」

馬鹿にするように笑い出す。

「・・・。」

黙って立ち上がる。

そして男の子達の方へ向く。

「お?なに怒った?」

「アークスで初めてダークファルスに打ち勝った『三英雄』、そのうちの一人で今も初代のまま生き残っているのは?」

「・・・は?」

「答えは『レギアス』、『カスラ』は二代目、『クラリスクレイス』は二代目だったけど消滅し現在は空席。」

「なんだよ。」

「オラクル船団の祖先に当たるアークスにフォトンの力を与えた先住民は?」

「何が言いたいんだよ!」

「答えは『フォトナー』、アークスにフォトンを与えた理由は自分達がフォトンを扱えなくなったから。」

「そんなこと知ってるからなんだよ!」

「あんた達が馬鹿にしてた『本』から貰った知識だよ。これでもほんの一ページ程度の内容だけどね。」

「それがどうしたよ!」

「あんたたちみたいな馬鹿と遊んでるより、ルナールと一緒に本読んでる方がよっぽど有意義だって言ってんの。」

「おいこいつ、嘗めてるぜ俺達を!」

「いっぺん泣かした方が・・・。」

「『フォイエ』。」

私が手をかざして言葉を口にした瞬間、小さな爆発音と共に炎が上空に飛んでいった。

「うわっ!?」

「『これ』も本で覚えたこと・・・でもこれ、本気じゃないよ?」

「は!?」

私は男の子達に掌を向けてテクニックを練り始める。

掌の前で炎が渦巻き始める。

「次は本気で撃つけど・・・。」

「ひっ!?」

「『泣かす』程度じゃすまないかもね?」

「「「うわあああっ!!」」」

男の子達は逃げていった。

「お姉ちゃん・・・!」

ルナールが心配そうに歩み寄る。

「大丈夫だよ、ルナール。」

ルナールを抱き締める。

「ルナールは何も心配しなくていい。」

そう、これはルナールが私にしたこと。

一人で苦しんでまでルナールは私を友達だと言って見捨てなかった。

私が出来る事なんてたかが知れてるけど、それでも今のルナールを守れるなら、私はなんだってする。

「そうだ、外に出よ?」

「え、でも・・・。」

「大丈夫!周りがどう見てても私は気にしないから、ルナールも気にしないで!」

「う、うん・・・。」

ルナールと手を繋ぎながら一緒に市街地に出る。

 

 

~市街地~

 

「ほわぁ~・・・。」

ルナールは町行く人を見ながら色々と目移りしていた。

「・・・?」

前から走っている男の子がいた。

髪は金色だが、耳が尖っているあたり、ニューマンみたいだ。

何かに急いでいる様には見えない。

ただ軽く、ペースが落ちないように、ジョギングのような足取りだ。

男の子は私の脇を通り抜けていく。

「・・・?」

何かスポーツでもやってるのかな・・・。

「ねね、お姉ちゃん!見て見て!」

「ん、なに?」

ルナールに手を引かれて見てみると、ルナールは服を着たマネキンを指していた。

「可愛くない!?この服!!」

「あ、うん・・・えっと・・・。」

咄嗟に返事をしたけど、その服を見てみる。

薄い布地だが、袖の口が大きい服だ。

「浴衣・・・。」

本でも見たことがない。

暑い時とか着てて涼しそうな雰囲気あるけど、部屋着にしては柄がちょっと派手な気もする。

足周りの裾は長いのと短いのがあるが、ルナールが指しているのは短い方だ。

「うん、でも実際着ると足見えすぎて恥ずかしいかも・・・。」

「え、なんで?動きやすそうだよ?」

「い、いやルナール・・・まぁ、いいけど・・・。」

「着てみたいなぁ・・・!」

「・・・!」

「お姉ちゃん?」

「な、なんでもない!」

改めて現実を知る。

ルナールは普通の人間では無いことを・・・。

ルナールは身体が極端に小さい。

わざわざそんなサイズの服を売っている店なんて無いのは当たり前だ。

「・・・いや、大丈夫。」

「へ?」

「ルナール!私、お金いーっぱい稼げる仕事ついて、ルナールの服作って貰えるお店に頼んでルナールの服作って貰う!」

「おお、『おーだーめいど』って奴だね!」

「うん!」

「ありがと!お姉ちゃん!」

「もっとお店みて回ろっか!」

「うん!」

それから色んな所を見て回った。

何一つ買える物なんてないけど、それでもルナールと一緒に見て回るのは楽しかった。

そして夕方になり、帰る途中・・・。

「今日楽しかったね!」

「うん!」

笑いあって戻っていると・・・。

「!」

ふと目の前に見覚えのある人影が見える。

またジョギングしている男の子だ。

昼間も見かけたから覚えてる。

いや、ちょっと待って?

もしかして一日中走ってたの!?

「ハァ・・・ハァ・・・。」

それを物語っているかのように彼の顔は疲れきっており、その足は普通の人が歩いた方が早いほどペースが落ちていた。

しかも身体中何故かすり傷だらけだ。

「ぐえっ!」

私の横をすり抜けようとすると男の子は転んだ。

「・・・。」

恐らく先程のすり傷は散々転んだ事に依るものだろう。

「ハァ・・・くそっ、あとちょっとだ・・・!」

男の子は立ち上がってすぐ走ろうとするが・・・。

「待って。」

呼び止める。

「・・・?え、俺?」

「傷見せて。」

「え、え?」

男の子が戸惑っている打ちに足に手を翳し、レスタをかけて傷を治す。

「え、これ・・・テクニック!?」

「知ってるの?ってああ・・・。」

これ見てすぐテクニックだって言うってことは・・・分かった、色々と。

「一日中走ってたのはアークスになるため?」

「な、なんでそれが!?ていうか、なんで俺が走ってた事を!?」

「これがテクニックってすぐ分かるならアークスに関してちょっとは勉強してるってこと、走ってたのは昼間見かけたから。」

「もしかして、お前もアークスを目指してるのか!?」

「ううん、『目指してた』けど今は違う。」

「なんでだ!?テクニック使えるのに勿体無いじゃん!」

「・・・実はね。」

私は男の子にアルクトゥスに居たときの事を話した。

長くなったので近くに腰かけられるスペースで横並びに座っていた。

「そっか・・・目標を見失っちゃった訳か・・・でもさ、そのロケットがこっちのシップに運ばれたんなら先生って人も居るかもしれないじゃん!」

「駄目・・・探したけど見つからなかった。メディカルセンターの人も『盗んだ人が落としたんじゃないか』って・・・。」

「そっか・・・でもさ、やっぱりおかしいよ。」

「え?」

「そんな古ぼけたロケット、盗む程の物に見えないよ!俺だったらもっと金になりそうな物狙う!」

「!」

「ぐぇ!?」

急にかちんと来て男の子の胸ぐらを掴む。

「先生が作った物・・・馬鹿にしてるの?」

「うわあ!違う違う!だから、それやっぱり先生が持ってたんじゃないかってこと!」

「でも、先生、居なかったし・・・保護された人の名簿にも載ってないって・・・。」

「諦めんなよ!先生に会いたいんだろ!?」

「会えないんだから仕方無いでしょ!?なんでよ!なんで会ったばかりの私にそこまで言うの!?」

「俺だって諦めたくないからだ!」

「・・・!」

何?

「何それ・・・?」

「俺もお前と一緒で、ダーカーの襲撃受けて生き別れた家族がいるんだよ。」

「え・・・?」

「勝手に色々やって、物なくして俺を勝手に問いただして探させる・・・ホントに憎ったらしい所あるけどさ、それでも、俺の姉ちゃんだからさ・・・。」

「保護されなかったの?」

「されるわけないさ、だって姉ちゃんは・・・目の前で黒い霧に拐われたんだからな。」

「それ・・・アークスになったら・・・見つけられるの・・・?」

「ああ、きっとな。」

「・・・。」

確かにアークスになればオラクル船団の各シップ所か色んな所に行ける。

だったら先生も・・・。

「私も・・・。」

「うん?」

「アークスになってみようかな・・・!」

「え、マジで!?なんで!?」

「なる理由が出来たから・・・かな。」

「おお、じゃあ俺と同期になるかもな!」

「う、うん・・・。」

「俺、アフィン!」

「私ラパン、この子はルナール・・・ッ!?」

少し離れた所から音楽が聞こえる!

マズイ!

あれ、孤児院の門限の音楽だ!

「ご、ごめん!門限近いから行くね!」

「おお、そうか、悪い悪い!んじゃ、また何処かでな!」

「うん!」

私達とアフィンは正反対の方角へ走り出した。

 

 

~ノワール アルクトゥス 屋敷(七年前)~

 

「こら、ネージュ!今イチゴ取っただろ! 」

「早い者勝ちなのじゃー♪」

「こいつぅ!」

「・・・。」

ヘイルは先程の落ち着いた堂々とした態度から一変して娘とケーキを前に苺の一つで喧嘩・・・。

こうしてみると普通の母子に見えるが、とてもこんな金持ちが住んでいる様な館の主には見えない。

と言うか気になる事がひとつ・・・。

「・・・ッ!」

「・・・。」

さっきからショートヘアーのメイドらしき少女が物凄い剣幕でこの光景を眺めている事だ。

しかもなんか、ブツブツ何か言ってるし・・・見ているこっちが気が気じゃない。

「まあまあ、そうお気を曲げなさいますな、ヘイル様。」

「?」

突如声が聞こえ、見てみると・・・。

「!!?」

見覚えのある執事服、見覚えのある白髪の老人の男・・・!

間違いない・・・!

【従者】だ!

「ケーキはまだ作りおきが御座います故。」

「む、さすがだなじいや。」

まさか既に化けてこの中に・・・!?

「おい!」

慌ててヘイルに声をかける。

(なんだ?)

「!?」

頭の中に直接声が聞こえる。

(おっとすまない、透明人間のそなたと話して周りに違和感を持たれても困るのでな・・・テレパシーを使わせて貰っているよ?)

「そ、そうか・・・。」

これも神託のフォトンの力ってやつか?

何でもありだな・・・あれ?

この台詞、前にも言ったような・・・。

(それで、どうしたのだ?)

「ああ、大変だ、ーーーーー!!・・・!?」

『ダークファルスがいる!!』と言おうとしたら声が、まるでノイズがかかったかのように雑音に阻まれる。

(ん?なんだ?何かの声芸か?)

「違う!ーーーーー!!」

(ふむ、そなたのその様子、どうやら何かを伝えたいようだが、そのノイズに阻まれて聞こえなくなるようだな。)

「ああ、どうなってんだこれ・・・!」

(ふむ、何かは分からないが、その様子から何か良からぬ事があるのだろう。用心しておこう。)

「あ、ああ・・・!」

くそっ・・・まさか未来に関する事は喋れないのか・・・!

なんなんだよ!

今にも寝首掻かれ兼ねないってのに・・・!

「・・・。」

それにしても・・・。

「母様!苺一つで大人気ないのじゃ!」

「誰のせいだと思ってるぅ~???」

「大体そんなに食べられるのが嫌なら早めに食べときゃいいのじゃ!」

「そなたには『お楽しみはあとに取っておく』と言う思考回路が無いようだなぁ?」

「なんじゃそれ?」

「はぁ・・・やはりそなたにはまだまだ色々教える事が多そうだ・・・。」

「・・・。」

こいつはやはり俺の知っているネージュで間違いなさそうだ。

こんなアホはオラクル船団の何処を探しても見つからないだろうしな。

(まぁ、そなたも肩の力を抜いてゆっくりしておけ。どうせ見るだけの状態なのだからな。)

「ゆっくりって・・・。」

俺にはこんな事してる暇ないのに・・・!

 


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