第二章 ~奴隷の刺客~
~ラパン 民間居住区 孤児院~
孤児院に入ってから此処の院長、私は『先生』って呼んでるけど、その人が好きになった。
いつも優しい言葉をかけてくれる。
悪いことをしたら叱られる事もあるけど、毎日パパにもママにも怖がられてた私にはなかったコトだからそれすらも嬉しかった。
でも・・・。
「おい、またあいつだよ。」
「うわ、こわぁい。なんであんな・・・。」
此処に一緒に暮らしてる子供たちはキライ。
私の事をいじめてくる訳じゃないけど、こうして避けては、距離を取ってはひそひそと内容が分からない陰口を叩いている。
「意味分かんない・・・。」
なんで・・・なんでなの?
『私何もしてないのに・・・!』
「・・・!」
今の言葉が脳裏を過った時、前の家での出来事を思い出す。
パパとママが私を怖がっていたあの姿がその言葉を思い浮かばせた。
同じだ。
あいつらはパパとママと同じように私を見てるんだ。
どうして・・・!
「どうした?ラパン?」
後ろから不意に頭に手を置かれる。
「先生・・・。」
私が振り向くと先生は優しく微笑んでそのまま私の頭を撫でる。
「また何か悩んでる?」
「・・・。」
黙っていると先生は私の前に立ち、屈んで私と顔を合わせて微笑む。
「言ってみなさい。」
「私・・・普通の子じゃないの・・・?」
「ん・・・?んー・・・。それはまた随分とアバウトな質問だね。」
「ここの子たちも、私を怖がってる・・・パパとママみたいに・・・私を見た人はみんなあれが普通なのかなって・・・。」
「あはは、全く!馬鹿馬鹿しい事を考えるね!」
先生は急に笑い出す。
「え?」
「そんなのが当たり前なら、どうして私がこうやって話してるんだ?私が変なのかい?」
「・・・分からない。」
「でしょ?」
「?」
「『分からない』から、変に悪いことを想像しちゃうんだ。ラパン、君はちょっと年齢の割に考える事が大人すぎる。だから尚更だよ。」
「そう・・・なのかな?」
「だからさ、子供は子供らしく、遊んでる子たちのとこ行って『仲間に入れてー!』って言えばいいんだ。友達なんて、そうやってたらすぐ出来るよ?」
「・・・出来るかな。」
「出来るよ。」
そう言うと先生はまた私の頭を撫でる。
「ラパンは頭がいいからね♪」
「うぅ・・・。」
恥ずかしいけど、ちょっと嬉しい。
こうやって先生に頭を撫でて貰ってる時が今の私にとって一番大好きな時間だ。
~エスカ アークスシップ ゲートエリア~
「捜索任務?」
「またノワールか!?」
任務管理のカウンターで任務を言い渡された私達、ネージュはまだ彼と決まった訳でもないのに目をキラキラさせている。
いや、仮にそうだとしても目をキラキラすることじゃないからな。
「いえ、捜索して貰いたいのは研究室の研究員です。」
「なぁんじゃぁ・・・。」
一気に熱の冷めたネージュはつまらなさそうに頬を膨らませてそっぽを向く。
「それで、何処の惑星なんだ?」
「惑星リリーパです。何故彼がそんな所へ行ったのかは不明ですが、アークスでもない非戦闘員がダーカーやエネミーが存在する惑星へ単独で降り立つのは危険なのでこの度貴女方へ任務が降りました。」
「また人探しか・・・。」
「上でも貴女方の豊富な捜索の経験を買っての任務です。度々地味な仕事をさせるようで申し訳ありませんが・・・。」
「いや、任務が下った以上、現場は上の指示に従うだけだ。」
「よろしくお願いします。」
「ああ。」
私達はカウンターを後にし、準備の為にショップへ向かう。
「あ、ネージュちゃんだ!ほら、あそこ!」
「わ、ホントだ、かーわーいーいー!」
「たまんなーい!もうペットにしたーい♪」
通りすがりのアークスの女子達が黄色い声援をネージュに送る。
ネージュは童顔で背が低いせいか、可愛く見られがちで、言わばこのシップではマスコットキャラのような存在であり、可愛い物好きな女子や、子供好きな中高年のアークスに人気がある。
だが時々、変な男がアメを持ってネージュに近づくことがあるので、私が全て撃退している。
私はと言うと・・・。
「エスカさんもいるよ!」
別に嫌われている訳ではないが・・・。
「凛々しくてカッコいいよねぇ、惚れ惚れしちゃう・・・。」
「ああ、エスカお姉様・・・素敵ですわ・・・。」
同性にこう言う熱い視線を受けるのは女としてどうだろうか。
異性にも評判は悪くないが・・・。
「おい見ろ、エスカ様だぞ!」
不意に男の声がする。
いや、『様』ってなんだよ。
「あの凍りつく様なオーラ、たまらんな!」
「あの冷たい視線で蔑みながら踏んで貰えないだろうか。」
どうにかならんのかこの反応!
ネージュの方を見てみる。
周りの反応はいつもの事だから気にせず、任務がノワールの捜索ではないことをつまらなさそうにぶーたれているのを想像したが・・・。
「ムフフ~♪」
何故かご機嫌だ。
「なんでそんなに機嫌がいいんだ?」
「『貴女方の豊富な捜索の経験を買っての任務です。』じゃって~!まぁ、そんな頼られたら仕方無いのぉ♪」
「はぁ・・・。」
そうだった。
ネージュは単純すぎるからこうやっておだてられるとすぐにこうやって天狗になるやつだった。
「それってノワールが帰還命令を無視して惑星に留まって、私達がそれを何度も連れ戻しに行ってただけだからな?」
「でもそれでこうやって指名されて任務が来るんじゃろ?結局、わしらは上に認められる功績を上げとる訳じゃ♪」
「知り合いの尻拭いで功績になるとか・・・。」
「功績は功績なのじゃ!胸を張れエスカよ!その豊満なるバストを!」
「反論ついでにセクハラ発言するんじゃない!全く・・・。」
「ふふふ♪」
「!!」
話している間にショップエリアのアイテムショップのカウンターまで来ていた。
今笑ったのは店員のフェリシアだ。
「ごめんなさい、笑っちゃって。でも、仲がいいんですね。貴方たち。」
「な!?」
「おうともさ!わしらはチーム!仲間!友なのじゃ!」
「やめろネージュ!」
「なんでじゃ?違うのか?」
「いや、別にそう言う意味じゃなくて・・・。」
そう、別に違うわけじゃない。
私はなんだかんだでチームとして、仲間としてネージュの事は信用している。
ただ・・・。
「だったらなんでじゃー!」
「・・・照れ臭い。」
「へ?」
「うるさい!さっさと準備済ませて任務いくぞ!」
~ノワール 惑星リリーパ 壊世区域~
惑星リリーパ、砂に砂漠に覆われた砂の惑星。
それだけではなく、独自に機械の文明があるのか、機工種と呼ばれる機械のエネミーが蔓延る惑星だ。
そのせいなのか、この惑星には機械仕掛けのような地下坑道があり、まるで古い工場のような惑星である。
俺がいるのはその地下坑道の中にある壊世区域、深遠なる闇の復活の影響なのか、機工種が異常進化して凶暴化し、そのせいなのか、元の古ぼけた坑道と違い、道も壁も真新しくコーティングされている。
此処には更に地下にダークファルス【若人】が封印されているせいなのか、ダーカーがよく確認されている惑星だ。
壊世区域に深遠なる闇の直属の眷属である、『アンガ・ファンタージ』が出現したという報告があって、こうして俺は討伐に来た訳である。
壊世区域のエネミーは凶暴性、強さが普通の区域とは比較にならないため、カウンターの管理官には、一人では無茶だと言われたが、これは俺のやり方だ。
危険だと言われようが曲げるつもりはない。
「うわああぁぁっ!」
「?」
悲鳴が聞こえてその方角を向くと、白衣を着た男が此方へ走ってくる。
後ろには機工種のエネミーが数体、男を追いかけていた。
恐らくはアークスシップ研究室の研究員だろう。
「・・・。」
ダーカー以外のエネミー討伐に興味はないが、此処で何もせず見過ごせば後々面倒なので救出することにする。
追っ手の機工種は二足歩行の中型ラピドギルナス一体と獣の様な四足歩行の小型カイザーバルガー三体だ。
「まずは・・・。」
「やめろ!殺すなあ!」
「?」
研究員は突如叫ぶ。
どうやら俺に言っているようだ。
この黒ずくめの格好のせいでエネミーと勘違いしてるのか?
「俺は味方だ!」
「私を追いかけてるこいつらを殺すなあ!」
「・・・!?」
俺のことを勘違いしている訳ではなさそうだが、何を言ってるんだ?
あまりの恐怖に気が動転しているのかも知れない。
「すぐ終わらせる。」
「やめろぉ!」
男の言うことを無視して銃を抜き、エネミーの群れに突っ込む。
奴等は男をターゲットにしているせいか、攻撃よりも走る事を優先しているようだ。
先ずは射程ギリギリから弾丸の連撃である『エルダーリベリオン』の火力をラピドギルナスに集中させる。
しかしラピドギルナスはタフで、これくらいでは倒れず、なおも進撃する。
だがそれが狙い通りだ。
『エルダーリベリオン』を食らわせている間に敵は俺の目と鼻の先に来ていた。
「この間合いなら!」
奴の頭にフォトンの炸裂弾、『サテライトエイム』を喰らわせる。
さすがに耐えきれず、ラピドギルナスは火花を吹いてその場に倒れた。
「・・・。」
その隙に俺の横をカイザーバルガー達がすり抜けて男の方へ向かっていく。
「逃がすわけねえだろ・・・!」
俺は筒状の手投げ爆弾をカイザーバルガー達に投げつける。
爆弾は奴等の近くで破裂するとその場に黒い渦が起こり、敵を吸い込むように集めた。
『グラヴィティボム』、起爆させた場所に重力の磁場を発生させて複数の敵を一点に集める爆弾だ。
「チェック・・・。」
吸い寄せられたエネミー達に高く跳躍して飛びかかり、弧を描く様に宙返り様に踵落としを喰らわせる。
一点に集まったせいでエネミー達はすべてこの踵落としの一撃を喰らってしまう。
「メイト・・・。」
近距離から銃を目にも止まらぬ速さで連射してエネミー達に浴びせる。
体術と銃撃のコンボ、『ヒールスタッブ』だ。
これらを喰らったカイザーバルガー達は既に機能を停止していた。
「やめろと言っただろう!」
男は怒鳴る。
「何を意味が分からん事を言ってるん・・・だ?」
男の怒鳴りに口答えしているうちに男の容姿に目を疑う。
黒いボサボサ髪に似合わない銀縁眼鏡でだらしなく生えている顎髭。
「エリック・・・!」
「何故私の名前を・・・!」
向こうは気づいていない。
無理もない、前に合った時はこんな姿じゃなかったからな。
「俺だ、ノワールだ。」
「ノワール・・・!」
エリックは俺の名乗った名前にハッとする。
「ノワール・・・なんて偶然だ・・・!」
彼はエリック。
俺がアークスになるに当たって色々世話になった奴だ。
「身体はちゃんと動くみたいだな。」
「ああ、おかげさんでな。それより・・・なんでこんな所に・・・!」
「ああ、それが・・・あ!」
「!!」
エリックの反応に気付き、咄嗟にその視線の先に銃を盾の様に向けると間一髪で何かを止める。
「!?」
カタナだ。
遠距離用のバレットボウと合わせて遠近の弱点もなく戦える、ブレイバーをクラスとするアークスの武器だ。
「こいつッ・・・!」
カタナを弾くと、その持ち主は離れる。
「・・・。」
持っているカタナはヴィタカタナ、武器ショップでも簡単に手にはいる最もポピュラーな武器だ。
見たところ、どう考えてもアークス駆け出しのデューマンだ。
「おい、誰だか知らんが、此処は壊世区域だ、来る所を間違えてるんなら帰れ。」
「うわあ・・・最悪だ・・・!」
エリックが項垂れている。
「なんだ、エリック。俺があんなのに遅れを取るとでも・・・。」
「違う、奴は普通じゃない!」
「・・・?」
エリックの言葉が気になり、注意深く相手を観察する。
服は、カイゼルハウト、男性デューマンがよく最初に着ているスーツによく似た服だ。
顔の表情は、なんだか感情を感じない、目が何処と無く虚ろな赤と紫のオッドアイ・・・。
「・・・?」
『赤と紫のオッドアイ』・・・?
何処かで見たような・・・。
「・・・る。」
「?」
何かぶつぶつ言ってるな・・・。
「・・・する。」
「・・・!」
何を言ってるか確認する間もなくデューマンは此方へ攻撃をしかけてくる。
カタナの抜刀の速さを活かした一閃で俺を斬りにかかるが態勢が低すぎる。
すぐに足を斬りにかかると分かった俺は、軽く跳んで回避する。
その後も一閃を何度も撃ってくるが、難なく回避する。
足や首を狙っても回避されると悟ったのか、今度は真ん中の胴体に向けて一閃を放つ。
だが分かりやすい。
難なく俺は銃でカタナを止める。
鍔迫り合いのような状態になるが、俺の銃はもう一丁ある。
余裕を持ってデューマンの左肩に弾丸を命中させる。
怯んだデューマンは間合いを取る。
「・・・。」
予想以上に弱い。
とてもこの壊世区域に来れるとは思えない。
「・・・じょする。」
さっきから何をぶつぶつ言ってるんだ?
そう思っているうちにまたデューマンは仕掛けてくる。
さっきと同じ胴体への一閃。
俺は銃でそれを止める。
これではさっきと同じ展開・・・だが。
「!?」
デューマンは意外な行動にでる。
カタナを手放し、俺の手を掴む。
さらに逃がさないようにするためか、俺のコートを掴む。
「!」
デューマンの異変に気づく。
ぶつぶつ言っていた口が開いたまま止まっている。
まずい!
わかったぞ、こいつは!
「うっ!?」
急に耳鳴りがしたかのような、キィィィンという音がする。
目の前のデューマンがやったわけではない。
寧ろデューマンも俺と同じく異変に気づいたようで、これからしていたであろう事を中断して視線を音の方へ向ける。
「出やがった・・・!」
普通のダーカーとは比べ物にならない程の巨大なコア。
そのコアに操られているかのように浮遊している胴体と腕。
深遠なる闇が直属の眷属として従えている大型ダーカー、『アンガ・ファンタージ』だ。
「・・・いじょする。」
またデューマンが何かぶつぶつ言っている。
「排除する・・・排除する・・・。」
近くにいたのでどうにか聞き取れた。
どうやら同じ言葉を繰り返していたみたいだ。
不気味な奴だ。
アンガ・ファンタージに気づいたからか、俺から手を放し、カタナを拾って奴に対して構える。
「・・・。」
いつもの俺なら『手出しをするな』と言うところだがあえて何も言わない。
こいつには何を言っても無駄な事を知っているからだ。
「まずいな・・・。」
早急に手を打たなければこいつは・・・。
「!」
考える間もなくアンガ・ファンタージは攻撃の構えを取る。
「くっ!」
俺は咄嗟に横に跳ぶ。
俺達がいた場所にビームが放たれる。
デューマンの方は、反応が少し遅れたのか、脇腹に攻撃を受ける。
だが痛みを感じていないのか、デューマンはそのままアンガ・ファンタージに向かっていく。
アンガ・ファンタージはデューマンに狙いを絞ったのか、前屈みになり、腕先を彼に向ける。
デューマンが飛びかかると腕の爪を使った刺突攻撃が放たれる。
デューマンはカタナでそれを防ごうとするが、カタナが腕から弾け跳ぶ。
だがそれでも後退せず、そのまま身をよじって腕を回避し、アンガ・ファンタージの胴体にしがみつく。
「・・・。」
デューマンはぶつぶつ言葉を止め、また口を開いている。
「待て!!」
無駄だと分かっていたが叫ばずにはいられなかった。
「・・・。」
デューマンは歯を強く噛み締める。
するとデューマンの体が白く光り、すぐにその光は眩しい光となり、アンガ・ファンタージの身体を全て巻き込む程の大爆発が起こった。
自爆だ。
当然ながらデューマンは跡形もなく消えていた。
アンガ・ファンタージの方もダメージが強く、胴体が消しとんでコアだけが残った。
「・・・くっ!」
俺はこのあとの展開を知っている。
残されたコアは光り出すとまた胴体が現れる。
「くそがっ!!」
そう、奴は一度だけ復活するのだ。
俺はアンガ・ファンタージに向かっていくが・・・。
「!!」
どこからともなく、バレットボウの矢と銃弾と法撃の炎が飛んできて、アンガ・ファンタージに命中する。
「・・・?」
弾道は全て同じ方角からだ。
アークスの援軍かと思ってその方角を向くと・・・。
「嘘だろ・・・。」
そこにはデューマンの男女が数人・・・全てが赤と紫のオッドアイ。
最悪の援軍だった。
~エスカ 惑星リリーパ壊世区域~
「なんだ、今の爆発は!」
ナビゲートが反応を探知するままに壊世区域へ行くと爆発音が聞こえ、私たちはその現場に走って行く。
するとそこには・・・。
「・・・!!」
アンガ・ファンタージだ。
だが奴は数人のデューマンにしがみつかれ、それを振り払おうともがいている。
「おい!!」
「!!」
声がするかと思ったらノワールが人間を肩に抱えてこちらに走ってくる。
よく見ると、その抱えている人間は、私たちが探していた研究員のエリックだ。
「おお、ノワー・・・」
ネージュが呑気な声をあげようとしたその時だ。
「伏せろおぉッ!!」
ノワールはそのまま両手を広げ、私たちの肩を掴み、そのまま覆い隠すように押し倒した。
するとアンガ・ファンタージのいた方角から物凄い大爆発が起こった。
爆発を諸に受けたアンガ・ファンタージは、コアだけが残り、次第にそのコアも腐敗していくように霧となって消えていった。
「あ・・・あぁ・・・!」
立ち上がったワタシは目の前の光景を見て立ちすくむ。
私はこの光景を知っている。
いや、あのデューマン達をここにいる者の中で一番よく知っている。
どうしようもない絶望感が脳裏をよぎると、次第にその怒りがわき、即座に研究員の男にダガーを突き出す。
寸止めなどするつもりもない。
殺す気だ。
だが、ダガーはノワールが即座に拳銃を抜いて止める。
同時にノワールは拳銃で私のダガーを止めていない腕で研究員の胸ぐらを掴んでいた。
「エリック・・・!」
「ち、違う・・・!」
「どういうことか説明しろ・・・『スレイヴデューマン』は既に廃止されてるだろ!」
「・・・。」
『スレイヴデューマン制度』・・・アークスの中で密かにあった非人道的な制度。
アークス及び、民間居住区で重大な犯罪を犯した者をデューマンに改造し、戦場の駒として扱われる制度だ。
『死刑にせずアークスに協力させる』と言う大義名分を掲げているが、歯に体内に仕込んだフォトンの自爆装置を起爆させる装置を仕込まれたり、生き残れるはずのない戦場に駆り出されたりと、ほぼ捨て駒の奴隷のような存在にされる。
しかも改造されたデューマンは特殊な精神制御をかけられており、感情、特に『生への執着』を抑制されており、自ら進んで死んでいくのだ。
あまりに非人道的な制度だが、それなりの成果が出ていたために黙認されていたが、ウルク総司令が今の階級に就任した際にアークスの制度を見直すなかで他の不要な制度と共に廃止された。
「この外道が・・・!」
デューマンの出所は研究所と考えればこの研究員の男は確実に一枚噛んでいる。
「違うんだ!話を聞いてくれ!」
「ああ、言え。なんであれが出回ってる・・・!」
私とは対照的に、ノワールは怒りを抑えてエリックを問いただす。
「私の仲間が彼らを作った・・・だが私はこの研究を恐れてデータを持ち出して逃げたんだ・・・。」
「ふざけるなッ!そんな話が信じられるわけが・・・!」
「落ち着け・・・!」
私が罵声を浴びせるのをノワールがダガーを止めた銃に力を込めて止める。
「あのデューマンの一人は最初、こいつを狙っていた・・・これに関しては当事者の俺が証人だ・・・こいつが本当にデータを持ち出していたなら全て辻褄(つじつま)が合う。」
「・・・。」
ノワールが嘘をついているとは考えにくい。
この男と知り合いのようだが、庇うほどの間柄には見えない。
第一、ノワールは簡単に嘘をつく奴じゃない。
分かっている。
分かっているんだ。
だが、気持ちに整理が着かないのは事実だ。
「エスカ・・・。」
ネージュが心配そうに私の肩に触れる。
「・・・。」
私はダガーを落とす。
「君のその目は・・・!」
エリックは私を見て目を見開く。
「・・・。」
私はデューマン、目は赤と紫のオッドアイだ。
「すまない・・・君には謝っても謝りきれない・・・。」
「・・・。」
そう・・・私は・・・。