PSO2 ~創造主の遺産~   作:野良犬タロ

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第十八章 ~兎と狐~

 

~ラパン アークスシップ 研究室(七年前)~

 

研究員の人達に言われるままに廊下を歩いていた。

「・・・。」

念のため周りの反応も見ていたが、怖がっている素振りは全くない。

本当に私の背中の黒い影はみえていないみたいだ。

「さあ、ここだ。入ってくれ。」

「?」

誘導されるままに部屋に入る。

中には人が一人入れそうなカプセル状の装置が真ん中に設置してあった。

「此処に連れてきたのは『彼女』についてだ。」

「!!」

カプセルの中に入っていたのは・・・。

「ルナール!?」

ルナールは口にマスクの様な装置を嵌められており、外から見えるのはそこだけであとは機械の中に埋まっていて見えない状態だ。

「やはり君の友人か。」

「ルナール、これ、大丈夫なの!?」

「落ち着いて聞いてくれ。」

「・・・!」

研究員の人達の表情が重苦しい。

「ひどい話をするようだが、彼女はこのままだと助からない。」

「そんな・・・!」

せっかく保護されたのにそんなのあんまりだ・・・!

「・・・ッ!」

はっとする。

「キャストにするのは!?身体が弱った人でもそれで一命を取り止められるんでしょ!?」

本で見たことがある。

アークスの医療技術で、身体が弱った瀕死の他種族はキャストになることによって寿命を伸ばしたって・・・。

キャストになる前の記憶は無くなるらしいけど、それでもルナールが生きてるなら・・・!

「詳しいようだがそれはオススメできない。」

「なんで!?」

「キャストも臓器などは他の種族と変わらない人間の物だ。彼女はハンターのフォトンの才能があったようだが無理に酷使したせいで既に全ての機能がボロボロだ。とても手術に耐えられる状態じゃない。」

「そんな・・・じゃあもう助からないの・・・!?」

「方法は・・・無いことはない。」

「え・・・?」

不意に後ろの扉が開く。

別の研究員の人が何かを乗せた小さいベッドのような物を押しながら入ってきた。

「!?」

ベッドの上に乗っていたのは女の子だ。

一回り小さく、人というより童話に出てくる小人のようなサイズだ。

けどそんなことより驚いたのは、顔がルナールにそっくりなことだ。

「開発中の擬似生命体だ。これに彼女の脳情報を移植する。」

「脳情報を移植・・・!」

「彼女の意志、記憶、性格の全てをこの擬似生命体に写し変えるんだ、そうすることでこっちの彼女の本来の肉体は完全に機能が停止してしまう。だが彼女の『存在』は残すことが出来る。」

「それでルナールが助かるの!?」

「・・・。」

研究員の人達は表情を更に曇らせて目をそらす。

「・・・?」

「君に尋ねて起きたいことが二つある。」

「なに?」

「先程も言ったがこれはまだ開発中の物だ。一度もこんなことは試した事はない、理論上は上手くいくはずだが、百パーセント成功するとは言えない。それでもやるかだ・・・。」

「・・・。」

そんなの、決まってる・・・!

「でもやらなかったらどのみち、ルナールは助からないんでしょ?」

「そうだな・・・これは無意味な問答だった。それじゃあもう一つ。」

「もし成功したとして、これは擬似生命体だ。『彼女が助かった』と言えるかだ。」

「なに?よくわかんない・・・?」

「人格が同じだからと言って彼女が彼女と言えるかどうかだ、その違いは恐らく君が一番よく分かるはずだ。」

「ルナールがルナールで無くなるってこと・・・?」

「そうなるかもしれないってことさ、特に君にとってね。」

「・・・。」

どういうことか分からない・・・。

でも『どうなるか分からない』ってことは分かる。

どうしよう・・・。

 

 

『『分からない』から、悪い方に考えちゃうんだ。』

 

 

「!」

先生の言葉が不意に過った。

そうだ、後先考えても始まらない。

それに、どの道ルナールが助からないなら同じこと・・・!

「私・・・信じる、ルナールは変わらずルナールのままだって・・・!」

「じゃあ・・・いいんだね?」

「うん・・・!」

私は研究員の人の目を真っ直ぐに見た。

 

 

~ノワール 惑星ウォパル 海底エリア~

 

今日は原生民が離れた集落へ会いに行く人がいるとかで護衛をした。

護衛対象の原生民はしばらく留まるようなので俺達だけで元の集落へ戻ることにした。

その帰り道だ。

「ねぇ。」

不意にラパンが話しかける。

「なんだ?」

「あたしの発作について昨日ルナールから聞いたでしょ?」

「!」

即座にルナールを睨む。

「ご、ごめんなさい・・・!」

ルナールは泣きそうな顔でラパンの後ろに隠れる。

「お前、言うなってあれほど・・・!」

「ち、ちち、違うの!これは・・・!」

 

 

~ルナール 惑星ウォパル 海底エリア(昨晩)~

 

とにかくノワールさんと話したことは黙っていよう。

マスター、まだ寝てるかな・・・ 。

「・・・?」

寝床に戻ったけどマスターがいない。

「ルナール・・・。」

「ひッ!」

後ろから声がして振り向くとマスターが仁王立ちしていた。

「ま、まま、マスター?どうしたの?」

「・・ どこ行ってたの?」

「ちょっと・・・トイレどこかなって・・・。」

「・・・。」

マスターは黙ったまま動かない。

「ほ、本当だって!」

「まぁいいわ。」

マスターは寝袋に向かって歩いていく。

「どこでなにしようが、『あいつの所行こうがね』・・・。」

「ッ!!?」

もしかして見られた!?

だとしたらマズイ、なんとか誤魔化さないと・・・!

「な、なんでもないよ!ただ、アオのマスターだし、話とかしたかっただけで・・・ちょ、ちょっと話してる様子とか見てておかしかったかもだけどそれでも何でもない話で・・・!」

「ふーん・・・行ったんだ、あいつのとこに。それで何か私が気になるような雰囲気で話してたんだ。」

「え、え・・・?」

マスター、何言ってるの・・・?

「マ、マスター・・・?見てたんじゃ・・・?」

「あたし一度も『あんたがあいつの所に行くとこ見た』なんて言ってないわよ?」

「・・・あッ!」

しまった!!

罠だッ!!!

「ルナアアアァァァァルウウウゥゥゥゥ?」

「あわわわわ・・・!」

マスターが後ろに魔神的な何かでも居そうなオーラで私を睨んでいた。

「マスターとしての命令よ。洗いざらい全て吐きなさい。」

「で、でも・・・口止めされてることとか・・・。」

「・・・ふーん、逆らうんだ。」

「い、いや、別にそう言う意味じゃ・・・へ?」

マスターは急に私を押し倒す。

「マ、マスター!?痛ッ!」

更に左手で私の両足を押さえつけ、右膝で私の両手を押さえつけて身動きを封じる。

「覚悟しなさい?あんたの弱いとこ全部知ってるから・・・。」

マスターは自由な右手をわきわきさせる。

「ひッ!や、やめて・・・いやああああああああああああああああああ!!!」

 

 

~ノワール 惑星ウォパル 海底エリア~

 

「・・・とまぁ、カマかけたら一発だったわ。」

ラパンは途中からルナールと交代し、涼しげに説明を終える。

「ったく、このポンコツが・・・!」

「し、仕方ないんだよ!度重なる拷問(くすぐり)に耐えられなかったんだよ!!」

「こいつに秘密握らせたら百パーあたしの耳に入るってこと、覚えときなさい。」

「・・・よくわかったわ。」

「納得しないでぇ!!」

ルナールは半泣き状態で喚く。

「それと・・・あんたの『手』だけど。」

「・・・。」

ったくポンコツサポパめ、余計な事まで喋りやがって。

「お前に言う義理はない。」

「不公平でしょ?話しなさい。」

「なんでそんなこと・・・。」

「あんたがルナールと共謀して、あたしの発作に関してお節介焼くからよ。だったらあたしだってお節介焼く、それでトントンでしょ?」

「言ってる事がめちゃくちゃだぞお前・・・。」

「借りなんて作るの酌なの。それに・・・。」

ラパンは急に黙り込む。

「それに・・・なんだ?」

「あんただってそのまんまの状態でアークス続けたらきついんじゃないの?」

「俺のは条件が分かりきってる奴だ。気を付けてさえいれば・・・。」

「そうやって自己犠牲であたしを助けようとするのが迷惑なのよッ!!」

「・・・。」

ラパンは怒鳴ると、震えながら息を切らす。

「マスター・・・。」

ルナールがおずおずとラパンを見上げる。

「ごめんなさい・・・。」

「え?」

ルナールの言葉にラパンは困惑する。

俺から見てもなんで謝るのが意味がわからない。

「な、なんであんたが謝るのよ!」

「よく・・・分かんないけど、申し訳ないというか・・・。」

「・・・。」

ラパンはしゃがんでルナールの肩を掴む。

「あんたは関係ない!だから謝らなくていいの!」

「う、うん・・・でも、ごめんなさい・・・。」

「だから・・・。」

「あーもう分かった分かった、分かったっての!」

面倒くさくなって俺から割って入って会話を切る。

「・・・話せばいいんだろうが。」

 

 

面倒くさいが手の発作に関して説明をする。

「・・・ダーカー以外殺すと手が震える?」

「ああ、殺す対象にも依るがな。」

「・・・分かった。」

「は?」

「それの治し方探すの手伝ってあげる。その代わり、協力してほしい事があるの。」

「おい、何勝手に話進めて・・・!」

「私、探してる人がいるの。」

「探してる人?」

「あたしがアークスやってるのも・・・その人見つける為なの。」

「そうかよ・・・。」

勝手に話を進めるので半分流し気味にだが聞いてやる。

「『ロイド』って言う人、あたしが小さい頃、孤児院にいた時の院長だった人。」

「特徴はなんだ。」

「髪は割と大人しめで、よく神父の服を着てた。身長は・・・あたしが小さかったから具体的には分からなかったけど、高かった・・・と思う。」

「・・・。」

「知ってる?」

「・・・知らねぇな。」

「・・・そう。」

「それに、そう言うのはもうお前のサポートパートナーが頼んでるだろ?」

「え?」

ラパンはルナールを見る。

「あ、あぁ!アオに話してたねそう言えば!」

「・・・。」

ラパンの目が段々細目になっていく。

「それとは別!情報収集は協力者が多いと効率がいいの!」

「だったらどっかチームに入ればいいじゃねーか。」

「い、嫌よ!これは私の個人的な目的よ!チームなんかに入ったら色々巻き込んじゃうじゃない!」

「只でさえ一人で戦うと危ねえ身じゃねぇか。アークス続けるつもりならそれくらい身の安全を確保しとけ。」

「それって寄生してる様な物じゃない!私は人の迷惑になる事は嫌なの!」

「死ぬよりマシだろうが。」

「イ・ヤ!!」

「お前が嫌とかそんな問題じゃ・・・。」

「うるさいバカッ!!お節介!!根倉仮面の真っ黒黒介!!」

子供染みた罵倒をするとラパンはまた走り去る。

なんだよ、真っ黒黒介って・・・。

「ふふ・・・。」

「・・・?」

ルナールが此方を見てニヤニヤしているのに気づく。

「・・・なんだよ。」

「マスターってさ、案外ノワールさんの事嫌いじゃないと思ってさ!」

「・・・お前の目は節穴か?今のやり取りの何処にそんな要素がある。」

「マスターが私以外にあんなに生き生き話すとこ見たこと無いもん!第一、マスター素直じゃないからね・・・。」

『それ、何処かで聞いたことあります。確か、『ツンデレ』でしたっけ?』

「そうそれ!よく知ってるねアオ!」

通信機越しのアオにルナールは更に楽しそうに話す。

ったく、こいつはともかくとして、アオはそんな言葉何処で覚えた。

「・・・肝心な事は何一つ言わず、無駄にでかい態度でぎゃーぎゃー喚き散らすってだけだろ、話す相手は迷惑この上ないんだよ。」

「でもノワールさんもマスターのこと嫌いじゃないよね!」

「は?何を根拠に・・・。」

「だって昨日は『アークスを辞めろ』って言ってたのに、今日は『チームに入れてもらえ』って言ってたもん!マスターがアークス続けられるように考えてくれてるんだよね!」

「馬鹿言うな、死なれたら目覚めが悪いだけだ。それに昨日みたいに言えばまた反発して聞かねぇだろ。俺なりに妥協点を考えただけだ。」

「マスターが死なないように考えてくれるんだから、それだけほっとけないってことだよね!なんだかんだでノワールさんもツンデレ・・・ って痛い痛い痛い痛い痛い!!」

減らず口を叩くルナールの頭を鷲掴みにして上から潰すように押し付ける。

「やめてやめて!!縮む!!ちーぢーむーぅ!!」

「元々小っせぇだろうがッ!!ったく・・・。」

すぐにルナールから手を離す。

「ノワールさん?」

「此処にいろ、お前のマスターを連れ戻す。はぐれたら後々探すの面倒だからな。」

「ノワールさんやっさし・・・。」

「あ"?」

「ゴメンナサイ、マッテマス、イッテラッシャイマセ。」

睨み付けると片言でロボットの様に固まる。

「ふん。」

ラパンが走り去った先に歩を進める。

 

 

ーー数分後

 

「此処にいたか。」

「・・・。」

水が深い池の様な場所の前でラパンはしゃがみこんで池を眺めていた。

「さっさと戻るぞ。」

「・・・。」

俺が声をかけても返事はない。

当然と言えば当然だが、機嫌が悪いようだ。

「あー、もう。さっきのチーム云々の話は無しだ無し。」

こう言う駄々っ子はこっちが折れなきゃテコでも動かないからな。

「ねぇ、ずっと気になってたんだけど・・・。」

「あ?」

「あんた・・・なんでずっと仮面つけてるの?」

「なんだよ、今聞くことか?」

「・・・。」

「ハァ・・・面倒くせ・・・言えばいいんだろ。」

『言わなきゃ動かない』と言いたげな沈黙だ。

マジで面倒くさいなこいつ。

「・・・顔を見せられる生き方をしてないからだよ。」

「・・・なにそれ。その電子音の声、あんたキャストなんでしょ?だったら顔を変えればいいじゃない。」

「・・・事情があるんだよ。」

「事情ってなに・・・。」

「俺のこの体はキャストになる前の姿に似せてるんだ。」

「え?」

ラパンは目を丸くして振り向く。

「あんた、キャストになる前の自分のこと、分かるの!?」

「ああ。」

「だってキャストってキャストになる前の記憶が・・・!」

「俺は稀なケースなんだよ。」

「そ、そう・・・。」

ラパンは立ち上がる。

「それで?なんでわざわざそんなことしてるの?」

「この姿の時の自分が憎いからだ。」

「憎い?」

「この姿の時、俺は甘い奴だった。その甘さで大事な奴等をダーカーに殺された・・・だから、この姿でダーカーを狩るのが、ダーカーと殺しを嫌うかつての自分への復讐であって、そいつらへの罪滅ぼしなんだよ。」

「だったらなんで仮面を?」

「周りは関係ないからな。」

「関係ない?なにそれ。」

「俺がこの姿で復讐すんのは俺だけの事情だ。だからこの姿、仮面の中を知るのは俺だけでいい、そう言うことだ。」

「周りを自分の事情に付き合わせたくない・・・巻き込みたくない・・・ってこと?」

「どう捉えようがお前の勝手だ。」

「ふーん、成る程ね。」

ラパンは俺の横を通りすぎる。

「決めた。」

急にラパンは振り向く。

「あんたのその仮面、あたしの目の前で取らせてやるから!」

「は?」

何言ってんだこいつ。

「言っとくが、駄々を捏ねられようがこればかりは・・・。」

「正々堂々、正面から勝負してやるっつってんの!」

「・・・そんなことして、お前になんのメリットがある。」

「だって・・・。」

「?」

ラパンは俺の目の前まで歩み寄って仮面をデコピンする。

「その方が、面白そうじゃん!」

歯を覗かせ、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「・・・!」

不覚にもその笑みが少し可愛いと思ってしまった。

いや、普段つり目気味の目だし、怒ったり仏頂面だったりで見たことの無い表情だからそう見えたはずだきっと。

錯覚だ、絶対にな。

「勝手にしろ・・・。」

ラパンの横を通りすぎるが・・・!

「!!?」

少し放れた所に見覚えのある人影が見える。

「セト・・・!」

だがいつもの飄々とした余裕面なあいつからは想像もつかない状態だった。

カタナを杖代わりにしてなんとか歩いている状態だ。

「あ・・・!」

セトは俺の姿を確認すると何を安心したのか、その場に倒れる。

「おい!」

すぐに駆け寄り、頭を抱き抱える。

「へへ・・・お前の事だから此処に来ると思ってたよ・・・!」

「んな事言ってる場合か!」

「もしかして良い雰囲気のとこ・・・お邪魔だったかな・・・!」

「おいこのゴミ此処に捨てといてもいいよな。」

「そうね。」

「ゴメンナサイ僕重症・・・!助けて下さいお願いします・・・!」

立ち上がって去ろうとするとセトは慌てて引き留める。

「ふん、案外余裕じゃねぇか・・・おい、レスタかけてやれ。」

「あたしは『おい』じゃないわよ、全くしょうがないわね。」

ラパンがレスタをかけると、セトは一息ついて起き上がる。

「いやぁ、助かった!回復薬補充せずに来たからキツかったんだ!」

傷は治りきって居ないだろうが、それでもケロッとしていつもの減らず口を叩く。

「ったく、なんでそんな事になってんだよ。」

「急ぎだから手短に説明する。」

「・・・?」

セトの表情が途端に真剣になる。

「お前の所属してるアークスシップが襲撃を受けた。」

「まさか・・・!」

「そう、【従者】だ。あともう一つ。」

「なんだ?」

「・・・。」

セトは表情を曇らせる。

「早く言え。」

 

 

「ネージュが拐われた。」

 

 

 

「!?」

「な・・・!」

セトの言葉に、俺とラパンは表情を凍らせた。


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