~ラパン 民間居住区(七年前)~
『緊急警報発令!ダーカー襲撃発生!市民の方はアークスの指示に従い避難を!繰り返します、市民の方は・・・』
「みんな、こっちだ!」
「ハァ・・・ハァ・・・!」
先生に誘導されるまま、私達はダーカーによってめちゃくちゃにされている道路を走る。
アークスが街に到着するまでに、出来るだけ早く安全地帯であるシェルターに行かなくてはならない。
先生は護身用に孤児院に飾ってあった銃を持っているが、ダーカーに対抗出来るかは分からない。
とにかく今は逃げないと・・・!
「!」
急に赤い霧が周りに発生したかと思うと、周りに何かが現れる。
「あぁ・・・!」
黒い四足歩行の虫のような怪物。
「ダーカー・・・!」
本で見たことがある。
虫型のダーカー『ダガン』、一体一体は弱いけど必ず集団で襲ってくるダーカー。
五体程現れ、私達は囲まれている。
「どうしよう・・・!」
「くっ・・・!」
ルナールが心配そうな眼差しを向けると、先生は前方のダガンに向けて銃弾を放つ。
弾丸は頭に命中しダガンは怯むが、傷を負った気配は無い。
「くそっ、やっぱり効かないのか・・・!」
先生は後退りし、ダガン達は一歩一歩とにじり寄ってくる。
このままじゃやられちゃう・・・。
「くそっ・・・!」
「先生・・・!」
みんなが不安そうな声を上げる中・・・。
「・・・。」
私だけは黙っていた。
恐怖のあまり声が出ない訳じゃない。
『あれ』をやろうか迷っていた。
でもこの状況を打破するにはもうこれしかない。
「メギド・・・!」
咄嗟にメギドを前方のダガンに放った。
しかし球体の速さは遅く、ダガンは横に移動してかわす。
しかし私の狙いはダガンでは無かった。
「・・・よし!」
球体はダガンの真後ろにあった車に飛んでいき、球体が車に当たって破裂すると、車は派手に爆発し、その爆風はダガンを巻き込んで吹き飛ばした。
「みんな!!今!!」
私が合図すると、先生と子供たちは一斉に走り出し、ダーカーの包囲を突破する。
私もあとに続いて走り出そうとするが・・・。
「危ない!!」
「え・・・?」
何かに突き飛ばされて後ろを見ると、ルナールがダガンの攻撃から私を庇っていた。
「ルナール!!!」
「くっ・・・こん・・・のぉ!!」
ルナールは拳を固めてダガンを殴ると、ダガンは想像以上に派手に吹き飛ばされた。
ハンターの身体強化のフォトンを拳に込めて殴ったんだ。
「ルナール!」
先生がすぐにルナールに駆け寄る。
しかし他のダガンがそこに襲いかかる。
「このっ!」
私はダガンにメギドを放ち、牽制する。
その隙に先生はルナールを捕まえ、背負って子供たちの元へ合流する。
私もそれについていき、一緒にダガンの群れから逃げる。
「ハァ・・・ハァ・・・。」
しばらく走ると、ダガン達は追いかけて来なかった。
振り切れたみたいだ。
「ここまで来れば、しばらくは・・・。」
先生は安堵してルナールを降ろす。
「君たち、民間人だな!?」
「!」
声がする方を見ると、そこにはフォトンでコーティングされた剣を持っている男がいた。
アークスだ。
「もう安心だ!」
「・・・!」
一同に安堵の笑みが浮かんだ。
助かった。
誰もがそう思った。
「早くこっ・・・!」
アークスの人は突如吹き飛ぶ。
「ぇ・・・!」
アークスがいた場所には黒い巨体のダーカーがいた。
一つ目で右腕が棍棒の様になっている。
本で見たことがある。
「キュクロナーダ・・・!」
「くっ・・・!」
アークスの人は起き上がろうとするが、違和感に気づく。
「あ・・・!」
手に持っていた剣が無い。
良く見るとキュクロナーダの足元に剣があった。
おそらく吹き飛んだ際にうっかり手放してしまったんだろう。
「な!?」
更にアークスの人の周りに黒い霧が発生したかと思うと、取り囲むようにダガンが現れた。
「や、やめろ・・・やめろ、ぎゃああああああ!」
アークスの人の懇願は聞き入れられず、ダガン達は容赦なくその鋭い爪を振るい、まるで獣の群れが獲物を食い漁るようにアークスの人を殺した。
「う、うわああああああ!!!」
「ぎゃあああああ!!」
子供達は恐怖のあまり絶叫する。
「ど、どうしよう・・・!」
そう思ったのも束の間・・・。
「わああああああ!!」
声がしたかと思うと、ルナールがダガンの群れに飛び込んでいた。
その手には先ほどのアークスが持っていた剣があった。
「でりゃ!!」
身の丈以上の大きさをもつ剣を、ルナールはいとも容易く振るい、ダガンを切り裂いた。
「ルナール、右!」
「!」
私が警告すると、ルナールは直ぐに剣を盾のように構え、ダガンの攻撃を防いだ。
「はっ!!」
私も即座に炎の前方放出テクニック、フォイエで援護する。
ダガンの数は着々と減り、最後の一体をルナールは縦一文字に剣を降るって切り潰した。
「残るは・・・!」
キュクロナーダだけだ。
奴はルナールに狙いを定めているようで、ゆっくりと近づいてくる。
二人が接触する前に私はフォイエを放った。
しかしキュクロナーダは怯みもせず、ルナールに棍棒のような右腕を振るう。
「ぐっ・・・が・・・!?」
ルナールは咄嗟に剣を盾にしたが防ぎ切れずに後ろによろめいて後退りする。
「このっ!」
私はメギドを放つが、キュクロナーダは対して痛がる様子もなく平然とこちらへ向かって歩を進める。
「駄目だ、私たちじゃどうしようも・・・!」
諦めて逃げる事を考えた時だ。
「!」
キュクロナーダの目に弾丸が飛んで当たる。
するとキュクロナーダは目を押さえ、苦し紛れに腕を闇雲に振り回す。
「・・・!」
まさかと思い見てみると、先生は銃を構えていた。
間違いなく先生が撃っていた。
「今だ、みんな逃げるぞ!」
「う、うん・・・!」
再び走ってシェルターを目指す。
でも流石に続けて走るのにも限界があるから隠れられそうな物陰を見つけてみんな休む。
「先生。」
「なんだい?」
気になって声をかける。
「よくあいつの弱点が分かったね。」
「・・・!」
先生は黙って目を反らす。
「先生・・・?」
「・・・偶々だよ。」
「・・・?」
先生の様子がおかしい。
「なんとなくやってみたら・・・っ!?」
先生はこっちを見ると目を見開く。
「ラパンッ!!」
「え・・・?」
私が気づいた時にはもう『それ』は私を捕らえていた。
黒い霧が突如私を覆い尽くすように包んでいた。
「これ・・・!」
知ってる・・・これ確か・・・!
「くっ・・・!」
先生が手を伸ばすがもう遅かった。
途端に視界が真っ暗になる。
「・・・?」
少しすると視界が戻る。
だが、周りには先生やルナール、他の子供たちの姿は無い。
あったのは・・・。
「ヒッ・・・!」
思わず声を漏らす。
周りにはアークスらしき人たちの死体があった。
更に私の周囲は赤黒い蔦のような物で囲われている。
「やっぱり・・・!」
最近アークスの本を見て知っていた。
ダーカーの捕獲兵器、『ファンジ』だ。
先程の霧が一人の獲物を捕らえ、遠くへ隔離させて檻の中に閉じ込めるのだ。
此処にある死体のアークスは、恐らくみんな此処に個別で捕らえられて殺されたんだ。
「!!」
周りにダガンが現れる。
どうしよう、このままじゃ・・・!
「!」
足元に杖があった。
殺されたアークスの人の中でフォースの人が持っていた物かもしれない。
咄嗟に拾ってテクニックを練る。
「・・・!」
いつもと違う。
身体の中を巡るフォトンの動きが違うのが実感出来る。
フォースの杖は放出するフォトンを増幅させるのか。
今なら・・・!
「ギフォイエ・・・!」
周囲放出型の炎のテクニックを発動させると、以前ルナールと訓練して出した炎とは比べ物にならない程の炎が発生し、ダガン達を全て焼き払った。
「ハァ・・・ハァ・・・。」
良いことばかりじゃなかった。
放出するフォトンが多い分、身体への負担が大きい。
「!」
またダガン達が出現する。
「そんな・・・!」
もしかして何度も現れるの、これ・・・?
「こんなの・・・キリがないよ・・・!」
誰か・・・誰か助けて・・・!
~エスカ アークスシップ ゲートエリア~
「何!?」
「申し訳ございません。」
任務のカウンターの受付から、信じ難い言葉を受ける。
「ネージュが暫く出撃停止!?」
「えぇ、先程上の方から辞令がありまして。」
「・・・。」
【従者】の件か。
「・・・そうか、分かった。ネージュに伝えておく。」
「ええ、助かります。」
踵を返してショップエリアへ向かう。
ネージュには先にアイテムを揃えて貰っていたので伝えに行かないと。
「・・・。」
上はどうやらあいつの保護を決定したみたいだな。
だがあいつもれっきとしたアークスだ。
出撃出来ないなんて状況を突きつけられたら堪えるんじゃないだろうか。
何せまたあのバカがいつもの帰還命令無視をしたせいで捜索任務に出られるって張り切ってたからな。
「今日のエスカさん、なんか機嫌悪そうね。」
「心配ですわ、エスカお姉様。」
「・・・!」
周りの声を聞いて自分の状態に気づく。
顔に出てたか。
平常心だ平常心。
「・・・。」
無理だ、平常心なんて・・・。
なんかあいつ今日物凄く上機嫌で張り切ってたし・・・。
「ハァ・・・。」
「エスカ様今日は何かあったのか?溜め息ついてるけど・・・。」
「バカ、あの物憂げな感じがクールでいいんだろうが!」
「・・・。」
こんな時に男集団の言葉は鬱陶しい・・・!
「! 今こっち睨んで無かったか?」
「あぁ、たまらん!この射ぬかれた感じがなんとも・・・!」
「・・・。」
ホントどうにかならんのかこの反応・・・!
~ノワール 惑星リリーパ 採掘遺跡エリア~
「・・・揃いも揃ってうじゃうじゃと。」
ダーカーが大量発生したって言うから来てみれば、異様な数だった。
怯えるリリーパの原生民族を尻目に我が物顔で徘徊している。
なんとも不愉快な事だ。
粗方倒して帰還命令が下ったが、当然ながら無視した。
こうして高台から見下ろしても数体確認できるしな。
アオにも別の場所を当たらせて索敵させる限り、何体か確認出来たらしい。
「さて・・・。」
掃除開始だ。
高台から飛び降りて砂の大地に降り立つ。
ダーカー達は俺の存在に気づくと、敵意を露にするように鳴き声を上げる。
敵は鎌持ちの鳥型のリューダソーサラー三体。
鳥型のソルダ数が九体。
まぁ、一人で相手取るには充分行ける数だ。
「まずは・・・。」
ダーカーの群れに向かおうとした時だ。
「!!」
突如俺の後ろから脇を黒い大きな腕のような物が高速で通りすぎていく。
腕はソルダ種を襲い、四体ほど貫通して命を奪った。
「『イルメギド』・・・?」
今のは高速追尾型の闇属性テクニックだ。
一体誰が・・・?
「! お前は・・・!」
後ろを見ると見覚えのある帽子と黒コート。
片手に持った黒い剣。
「あれ、あんた・・・。」
あの時ネージュの側にいた少女だ。
「・・・話はこいつらを狩ってからだ。」
「・・・まぁいいけど。」
俺はリューダソーサラーに狙いを絞って突っ込む。
敵は俺が向かってくるのを確認すると、鎌を片手で回し始める。
「その挙動は・・・。」
リューダソーサラーが回した鎌を横凪ぎに振るうと、斬撃が回転しながら飛んでくる。
俺は一旦止まる。
そして鎌が目前にきた瞬間に上に跳んで回避する。
奴の斬撃は追尾力がある。
早めに回避すると軌道が変わって諸に喰らってしまうため、敢えて待ったのだ。
「さあて。」
すぐに距離を積める。
リューダソーサラーは鎌で俺を凪ぎ払おうとするが、奴の動きは余りに大振りすぎて楽に回避出来る。
鎌を振った直後の奴の顔面にサテライトエイムをぶちこんで仕留める。
「!」
足元に赤い魔方陣が出現する。
これは敵の攻撃だ。
すぐに横にズレた直後、自分の元いた位置へ突き上げるように光線が魔方陣から発射された。
「うぜぇよ・・・!」
これもリューダソーサラーの攻撃だ。
すぐに犯人と思われる一体に狙いを定めて飛びかかろうとした瞬間・・・。
「とりゃああ!!」
何かが掛け声と共にリューダソーサラーに飛びかかる。
金髪のポニーテールを下げた、浴衣姿のサポートパートナーだ。
手に持った大剣でリューダソーサラーの腹部を切り裂く。
すると弱点のコアを覆っていた霧が晴れて弱点が露になる。
「・・・。」
チャンスを逃さず、俺は続けてサテライトエイムを撃ち込んでとどめを刺す。
「おい、サポートパートナー。」
「うん?」
俺の急な呼び掛けにサポートパートナーはきょとんとする。
「お前はマスターを守ってろ。」
「大丈夫!私のマスター強いから!」
「・・・?」
少女の方を見ると・・・。
「・・・。」
少女の周りには生き残ったソルダ種が群がっていた。
だが少女は慌てた様子もなくテクニックを練り、周囲放出型の炎テクニックのギフォイエを放つ。
二体程焼き払ったが、炎が止んだ瞬間に双剣持ちが飛びかかって仕掛けた斬撃を剣で止め、弾き飛ばして双剣持ちを切り裂く。
続け様に今度は大剣持ちが剣を降り下ろした所を、上手く剣でいなしてその勢いを殺さず、流れるように剣で大剣持ちを切り裂く。
最後に槍持ちが離れた所から突きを放つが、身体をずらして回避し、フォイエを放って焼き払う。
ソルダ種はわずか数秒の間に全滅した。
「ね、すごいでしょ!」
「・・・ああ、大したもんだ。けどな・・・。」
「え?」
俺はすぐに少女の元へ駆け寄る。
「え?なに?」
少女が戸惑っていると、その後ろから黒い霧が現れ、リューダソーサラーが現れる。
「マスター!!危ない!!」
「!!」
少女は剣を構えようとしたが、リューダソーサラーは既に鎌を振り上げている。
「甘いんだよッ!」
あらかじめ読んでいた俺はすぐに敵の顔面にサテライトエイムを撃ち込んで仕留めた。
「敵の数を見誤るな・・・今みたいに油断して死ぬぞ。」
「・・・!」
少女は顔をカッと赤くさせる。
「な、なによ!!貸しでも作ったつもり!?」
「別に、ただ目の前で勝手に死なれたら後味悪いだけだ。」
「うぅ・・・!れ、礼は言わないわよ?あんたが勝手にやったんだからね?」
「結構だ。じゃあな。」
振り向かず軽く手を降りながら場を後にしようとした瞬間・・・。
『マスター、すみません。』
「ん、アオか?」
アオから通信がかかる。
『ちょっと待って貰えますか?』
「どうした?」
『ルナール、私です!アオです!』
「あ、アオ?こないだぶりー!」
「「え!?」」
突然の事実に俺と少女の反応が被る。
「え、じゃあ・・・!」
「まさか・・・!」
「じゃあこの人がアオのマスター?なんか想像してたより物凄くコワモテだね!」
『ええ、でも優しくて面倒見がよくて素晴らしい方です。』
「ちょ、おい、アオ!」
『マスター?』
慌てる俺に、アオは通信機越しできょとんとした声を出す。
「・・・。」
恐る恐る少女の方を見ると案の定ぷるぷると笑いを堪えていた。
「・・・なんだよ。」
「あっはっは!何慌ててんのダッサ!!」
「うるせぇ、ほっとけ。」
『申し訳ありませんマスター、何か不手際がありましたか?』
アオは訳もわからず戸惑っている。
今更知ったがアオって意外に天然だな。
「いや、別に・・・もういいだろ、行くぞ。」
『は、はい・・・。』
さっさと場を後にしようと踵を返した瞬間・・・。
『現在惑星リリーパに滞在中の全アークスに通達!』
「!!」
急に管制から通信が入る。
『惑星リリーパ採掘基地周辺に大多数のダーカーを感知!直ちに基地防衛に向かって下さい!』
「・・・。」
急な召集だが願ってもない話だ。
奴等が纏まって動くなら一気に殺せる。
「そういう事だ、俺は先に行ってるからな。」
「あ、ちょっと!待ちなさいよ!!」
少女は走り去る俺を必死に追いかけた。
~エスカ アークスシップ ショップエリア~
「えぇ!?そ、そんな・・・あんまりじゃぁ・・・!」
ネージュに例の件を伝えると、案の定驚いて項垂れた。
「仕方ないだろ、上もダークファルスの標的にされてるアークスをみすみす敵の前に晒すようなことしたくないだろうからな。」
「わ、わしだってアークスじゃぞ!?なのに出撃出来んって、こんなのあんまりなのじゃ!!」
ネージュは涙目で訴えてくる。
「まぁ、調査に出れないのは確かに死活問題だろうけどな、だけど何も出来ない訳じゃないからな?」
「どういうことじゃ?」
「調査に出るアークスばかりじゃアークスシップもがら空きになる。だからシップに残るアークスが居れば有事の際にはすぐ対応出来る。」
「う、うん・・・なるほど?」
「・・・分かってるのか?」
「わ、分かっとるぞ、つまりぃ、あれじゃろ、アークスシップがゆうじ?で残って対応、じゃろ?」
「・・・分かってないんだな?」
「エ、エスカの説明が難しいのじゃ!!」
「別にそんなに難しくないだろ・・・。」
相変わらずのネージュの頭の悪さに呆れつつも説明をしようとすると・・・。
「あぁ、良かった。此処にいたのか!」
「?」
声がする方を見るとエリックがいた。
「やぁ、二人とも。」
「ああ、あんたか。この間は世話になったな。」
「いや、いいよそんなのは!」
軽く頭を下げるとエリックは照れ臭そうに首を横に振る。
「それより、今回は少し用事があってね、探してたんだ。」
「用事?」
「あぁ、ネージュ、ちょっといいかい?」
「ほぇ?」
「?」
なんだ、一体・・・?