黄金の虎   作:ぴよぴよひよこ

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第五十一話

 

 

 

 妹の必死な呼びかけにやっと自我を取り戻した大河ではあったものの、いまだ戦闘体は異形のままうごめいている。自意識は戻っても落ち着きを取り戻したわけではなく、『フェンリル』は大河の心境をまざまざと表現し続けていた。

 

《何が「少しは落ち着いた」よ。あたしに嘘つくなんていい度胸してるわね》

「《……悪かったよ》」

 

 憤るミサキの声に、若干心が静まっていくのを感じる大河。兄とは妹に勝てない生き物なのだ。

 とはいえ、若干である。この名状しがたき怒りをそう簡単に消せるかと問われれば、彼とて否と答えるしかない。

 

《兄貴が怒ってたら勝てるもんも勝てないでしょーが》

「《でもよう、あいつら……!》」

 

 いまにも地団太を踏み出しそうな様子で近界民を睨みつける。

 まるで駄々をこねる子どものようなその姿に、しかしミサキは諭すような声音でゆっくりと話しかけた。

 

《だから落ち着いてって。したら、あたしが兄貴を勝たせてあげるから》

「《むう……。わかった、頼む》」

 

 そうしてようやく大河は本当に落ち着くことができた。

 いままでも、おそらくはこれからも、ミサキは大河の生命線足り得るだろう。その事実に頭の隅で冷静さが生まれ、そこから温度が伝播していくように気勢が失われる。

 強化戦闘体はいくつかの骨格を破損してはいたが、幸いなことに重要な器官は無事であったようだった。膨張時と同じく不穏な音を立てつつも、ゆっくりと元の姿を取り戻していく。膨れ上がったぶんの過剰なトリオンは、ミサキの調整によりあえて治癒機能を止めた傷口から噴射する勢いで排出、大気と反応させ消滅させた。

 

 大河が再起動すると同時に、敵の近界民も気を取り直したらしく、二人いるうちの若そうなほうが円環状のブレードトリガーを射出した。

 

「《でもどうすんだ? あいつら緊急脱出(ベイルアウト)持ってるっぽかったけどよ》」

 

 サイドエフェクトで特殊な効果はないと見た大河が攻撃を回避しつつそう尋ねると、ミサキから呆れたような声音が返ってくる。

 

《むしろあたしが聞きたいわね。兄貴はどうやってあいつら殺す気だったわけ?》

「《ぐ……! 悪かったって!》」

 

 彼女の言う通り、考えなしに敵を叩き潰していたら、それこそそのまま逃げられていたであろう。

 痛いところを突かれた大河はしかし、心当たりが一つだけあった。

 戦闘体の行動を封じる攻撃方法。トリガーの発動をも封鎖する内部攻撃。

 『思考追跡(トレース)』で大河の考えを読み取ったミサキも同意を示す。

 

《そ。電撃なら緊急脱出(ベイルアウト)を防げるかもしれない。でも結局それは本人の意思での起動を妨害するだけであって、戦闘体の破壊を引き金(トリガー)に自動で発動するタイプなら撃破は無理よ》

「《んじゃどうするんだよ》」

《ボーダーで使ってるものと同じ性能と仮定するなら、不発させるには距離が必要ね。でもこいつらを基地から引きずり出して数キロ先まで行くなんてのは現実的じゃない》

「《まあ、ふつうに警戒区域外だしな》」

 

 感情を押し殺した冷たい頭で考えても、敵の脱出を防ぐ術は出てこない。

 しかしミサキはあっけらかんと答えた。

 

《だから仮想空間に放り込む》

「《あ、なるほど》」

《具体的にはあたしたちの部屋か開発室にある兄貴専用の広域空間。仮想空間である時点で脱出先とのリンクは切れるだろうけど、念のために距離も稼いでおきたいし》

 

 仮想訓練システムによる空間保持は向こう側(ヽヽヽヽ)のスペースを利用することで成り立っている。それは基本的に玄界外周から取られるものであるが、仮に敵の遠征艇が近くを漂っていたとしても完全に隔絶された空間であるため通信も届かず、また緊急脱出(ベイルアウト)の有効範囲にも含まれない。

 ただしそれは敵の緊急脱出(ベイルアウト)システムがボーダーと同じものであることが前提だ。

 先ほど大河が一人仕留めた際に見た限りでは、敵のそれは小型のゲートを開いて脱出する仕組みであることがうかがえる。詳細がわからない以上、隔絶空間かつ、長距離をとってから発動させるのがベストであろう。

 その点で言えば大河用の仮想空間はすべての項目を満たしている。

 中心となるボーダー基地から半径50km――上空含む――に設定されているのだ。敵の脱出機能の有効距離をボーダーの十倍と仮定してもお釣りがくる。

 そこへ仮想訓練用ではなく実際に空間を生成して入り、緊急脱出(ベイルアウト)も遮断状態にすれば内部から脱出することが不可能な檻となるはずだ。

 

「《避難警報も出てないし開発室は人がいるか》」

《そーね。あたしたちの部屋ならスイッチボックスで一発だし》

 

 狙いは決まった。

 けれども事がそう簡単に運べるとは限らない。

 

「《しっかし難しいことには変わりねーな。狙いは一人に絞りてえけど、たぶんこいつら一人落ちたら脱出すんだろ》」

 

 敵が使うチャクラムのような武器と犬型のトリオン兵。そして巨大なアームを展開した異形のトリガー。それらを素手(ヽヽ)で捌きながら大河がぼやく。

 頭は冷えたが怒りは未だ消えていない。いま虎爪を起動すればおそらくミサキの制御を振り切って長大なものになってしまうだろう。ゆえに大河は徒手空拳による回避を主な行動としていた。

 それはさておき注目すべきは敵の動きだ。

 完全にはバラけず、かといって固まっているわけでもなく。木崎のような巨躯の近界民を、部下であろう若い近界民がサポートする形の陣形を組んでいる。

 それでいて素手である大河に対してもかなりの警戒をしており、前がかりな戦い方はしてこない。メインとサポートがはっきりしている以上、それが崩されたら終わりだと彼らも認識しているようだ。

 

 そしてそれは正解だった。

 

 

 

 ガトリンは敵兵の異様な変形からの回復、その際に観測できた膨大なトリオン値を確認してから、たった二人で相手をするには荷が勝ちすぎると判断していた。

 だが武器トリガーを使わず、――これも常軌を逸しているが――素手での回避行動をとり始めたのを見て、そこになんらかの狙いを見て取った。

 

「《手加減……されてますよね》」

「《おそらくな》」

 

 ラタリコフも不穏な空気を感じ取っている。

 本気を出せば黒トリガーでもない自分たちなど歯牙にもかけない実力を持っているであろう玄界の兵。それをあえて、しかもあの異常な激憤のあとに戦闘を長引かせる意味とは。

 ――おそらくは、捕縛を狙っている。

 やはり、と言うべきか。脱出機能を見たあとにそのような戦法を取るのであれば、その上からトリガー使いを無力化する技術なりトリガーなりを持っているとみて間違いないはず。

 

(いけるか……?)

 

 ガトリンが手に持った大砲を見やる。

 もうすぐ二発目の充填も終わる。隙を見て格納庫に叩き込めば任務は終了する。しかし自分かラタリコフのどちらかが落ちれば確実にそれは失敗するだろう。そして邪魔者がいなくなったあと、敵は捕縛のために動き出すはずである。

 

「《繰り返すが俺がやられたら即離脱。これを徹底しろ》」

「《了解です》」

 

 己を補佐するラタリコフに再三忠告する。

 いまの状況が危険であることは百も承知。だがここまできて撤退というのも憚られた。

 おそらく敵基地への侵入ができるのは、いまが最初で最後。()では敵戦力の追加があったらしく、トリオン兵の損耗もかなり激しいようである。このままでは足止めすらできなくなるほどに。

 本国からの追加派兵という手もあるにはある。しかしそこまでするとガロプラの負担が大きすぎる上に、玄界に対し完全なる戦争行為を始める意味となる。玄界の戦力を見たガトリンとしては、向こうが「根絶」を考え始めるような行動は慎みたかった。

 

(ドグの残りは……五体か。出し惜しみは無意味だな)

 

 もう何匹目かもわからないドグがまた頭を捻じ切られ、その身体を『踊り手(デスピニス)』の盾にされる。数を出しすぎるとコントロールが利かなくなるが、多少動きが雑になろうとも『虎』の意識が割ければそれでいいとすべてを解き放つ。

 そしてそれらがまた粉砕される前に、ガトリンは賭けに出ることにした。

 

「《俺が『処刑人(バシリッサ)』で組み付く。大砲はおまえが撃て》」

「《接触するのは危険ではありませんか? いまの距離で何もしてこないということは、もし敵が捕縛用トリガーを持っていた場合、接触して発動するタイプの可能性が高いと思われますが》」

 

 そのもっともな言い分にはガトリンも頷きつつ、しかし己の考えでもってそれを否定した。

 

「《接触して発動するタイプと思えるが、やつ自身はこちらに接近する様子を見せていない。確証はないが相手が多数いると意味がないか、もしくは簡単に防げるものなのだろう。たとえば触れている間は相手の動きを止められるが自分も動けなくなる、とかな》」

「《……なるほど》」

「《一人ずつ仕留めないところからして、一撃・一瞬で捕縛できる類のものではないことは確実。俺が組み付いたあと俺を撃破するか無力化しようとするかのどちらかだろうが、その隙さえあれば大砲を撃ちこむのに支障はない》」

「《わかりました。……お気をつけて》」

 

 ラタリコフの警告にガトリンは当たり前だ、と無言の肯定を示した。

 異常な膂力をもった戦闘体。超硬度を誇る『処刑人(バシリッサ)』であっても油断はできない。

 そして敵がトリガーを使わない理由は未だ不明であるが、最初に使用したシールドだけは確認している。硬く、分厚いそれをどの程度の距離にまで発動できるかはまだわからないのだ。もしかすると捕縛用のトリガーを使いながらでもシールドだけは発動できるという可能性も少なからずある。

 ゆえにできるだけ距離を取り、敵の動きを止めて遠征艇を破壊する。

 それは現状で立てられる作戦のうち、もっとも効果的かつ効率のよいものであった。

 

「《…………いまだ!》」

 

 ガトリンが隙を見計らって『虎』にアームを叩きつけた。同時に大砲をラタリコフへと投げ渡す。

 さすがにアーム先の爪部分を避けるように受け止めた『虎』はそれを視線で追い、しかし止めようとはせずに『処刑人(バシリッサ)』の大型アームに手をかけた。

 途端、耳障りな音を立ててひしゃげ、歪み始める『処刑人(バシリッサ)』。超硬度を誇るガロプラ自慢の逸品、そのもっとも硬く太い部分に指がめり込み、ひびが広がっていく。

 驚くべき光景にしかし、ガトリンは想定の範囲内だと歯を食いしばって敵を押さえ込むべく全力でトリガーを稼働させた。

 すでに大砲はラタリコフの手にある。

 数秒、あと数秒耐えきれれば任務は完了する。

 ガトリンは己が立てた作戦が着実に成功に向かっていることを確信していた。

 

 ただひとつ、誤算があったとすれば。

 

 

 

「……馬鹿な!?」

 

 大河の背後で大砲が弾かれたことを受け、敵の近界民が驚愕に目を見開く。

 そこには翡翠色の巨大なスクリーンが浮かび上がっており、それが絶大な威力を誇るはずのトリオン(カノン)を完全に遮断したのである。

 シールド。一言で言えばただのそれ。

 先ほど大河が使ったものと同じであり、大型になったぶん面積当たりの防御力は減少してはいるものの、それでもなお近界民たちが信頼していたであろう高火力砲を防ぎきる力を持っている。

 

「あー、大丈夫とわかっててもヒヤヒヤするぜ。なあオイ? よくもやってくれたよなあ、クソ野郎……!」

「……!」

 

 身体を押さえつけるトリガーのアームを砕き潰し、そのまま大河は敵近界民の顔面を掴んで床に叩きつけた。

 いま大砲を防いだのは大河ではない。あれはミサキによるものだ。

 ただし本人のトリガーではなく、搭乗している遠征艇のもの。

 ミサキにより『空飛ぶタイガー号(ティーゲル・ボラーレ)』と名付けられた大河専用の遠征艇は、彼の莫大なトリオン量の恩恵を受け、さまざまな機能を有する戦闘兵器である。

 本人に負けず劣らずの広範囲爆撃を可能とする攻撃用トリガーをはじめ、透明化や探知無効化などのステルス機能、そして強固な防御機能をも獲得している。

 トリオン兵を模した遠征艇は外骨格もそれなりに頑丈にできているものの、さすがに素の状態でいまの大砲を受ければ破損は免れない。しかしながらトリガーを用いての防御、すなわちシールドを発動すれば大抵の攻撃は無に帰すことになる。

 そしてもっとも特筆すべきは、大河自身のトリオンを使ってはいても、それは一時的に貯められたものであるという点である。

 

「ラタ!!」

 

 格納庫から噴き出す光の奔流のような攻撃に、隊長格が部下の名らしき言葉を叫ぶ。だがラタと呼ばれた近界民は呆然と突っ立っていた場所から逃げることもできずに消し飛び、脱出機能を発動させて消え去った。

 

 貯蓄トリオンの使用。それすなわち、莫大なトリオンを持ちながらも異常な出力によってまともに運用できない大河とは違い、遠征艇のトリガーは豊富なトリオンを効率的に使いこなせるということ。

 完璧にコントロールできるからこそ、いまこの場、基地内においても遠征艇トリガーの使用は禁止されていない。

 近界侵攻において殲滅戦を仕掛ける場合、本来であれば大河が搭乗したまま無限に等しいトリオンを供給して遠征艇による攻撃を行うのがもっとも効率がいい。そうしないのは単に近界民を殺してトリオン器官を抉ることこそが大河の目的であるからに他ならない。

 ともあれ、当初の目論見通り大河は敵性近界民との一対一に持ち込むことができた。あとは――

 

「てめえは逃がさねえ!」

「な――がああああアアあああッ!!?」

 

 大河は試作型放電用トリガーを発動し、敵の動きを封じにかかった。

 このトリガーだけは暴走状態にあっても無理なく発動することができる。それは発電効率が著しく悪いのに加え、『フェンリル』の伝達系に耐電性を持たせることができたからだ。いまでは最初期の実験において、自殺行為としか思えなかった出力の連続稼働でさえも耐えきることができる。

 

「ぎぃあっ、あああぎゃあアアアああああ!!」

 

 プラズマが発生するような超高圧高電流が絶え間なく注ぎ込まれ、近界民の戦闘体に紫電が覆いかぶさった。トリオンでできた床も戦闘体も形こそ失わないが、空気が破裂し、閃光が迸る様子は地獄もかくやと言ったところ。もしこの地下格納庫に誰かが生身でいたならば、少し離れた程度では目と耳に異常が発生していたことだろう。

 

「ああああっがァアア、っ、っあああアア!!!」

 

 強力な電気攻撃が内部回路に食い込んでエラーを引き起こさせる。痛覚の遮断も、緊急脱出(ベイルアウト)発動の意思も関係ない。それが伝達系を通る信号である限り、不規則に発生し続けるエラーがその自由を許さない。

 

「痛てえよなあ、痛てえだろ。さんざん自分で味わったからその辛さはわかるぜ」

 

 凄惨な笑みを浮かべて挑発するも、それが近界民に聞こえることはない。

 連続的な電気的攻撃はあらゆる誤作動を引き起こす。つまり、感覚器官は強弱設定を絶え間なく繰り返し、結果として視界の明滅・失聴・断続的な激痛などをもたらすのだ。

 この極大電流を一瞬でも痛覚透過率100%で受ければ、文字通り死ぬような痛みが全身に駆け巡る。だが実際の生身は感電もしてなければ損傷もしておらず、トリガーホルダー内での生命活動になんら影響を受けていない。たとえ痛みに気絶しようとも、不規則に襲い来る地獄の激痛が意識を強制的に覚醒させてしまう。そして満足に動かせぬ身体では脱出することさえかなわない。

 実験を重ねた結果、とくに伝達脳付近に両手を置いて発動するとより効果的にその苦痛を与えられることがわかっている。ちなみに犠牲者は三輪である。

 

 哀れな弟分の献身はさておき、いまの時点で脱出機能が発動していないところを見るに、これはトリガーチップのような後付ではなく、ボーダーがそうしているようにトリガー自体に機能を付随させているものと思われる。でなければ稀に武装のオンオフも引き起こしてしまう電撃では逆に脱出機能の発動を促してしまっているはずだ。現に近界民のアームはもがくように暴れており、追加武装らしきものが辺りに散乱し始めている。

 

 これも実験で判明したこと。度重なる放電が行われても、『ジャガーノート』は誤爆したが緊急脱出(ベイルアウト)は発動しなかった。まあ、前者が発動した時点で連鎖的に緊急脱出(ベイルアウト)もするはめにはなるが……理論的には誤作動では「武装」しか発現しないとわかっている。

 この部分は賭けでしかなかったが、大河たちはそれに勝てたらしい。

 しかしながらいつまでも続けられるわけでもない。

 いくらエラーが起ころうとも電撃のみではトリオンでできている回路自体を傷つけることはできず、また各感覚の不協和音のなか難しいだろうが緊急脱出(ベイルアウト)起動の意思を固く保ち続ければ、いずれはそれが発動する可能性もわずかながらある。

 

 電撃を止めたあと戦闘体の機能が回復するのにおよそ五秒ほど。その時間で訓練室に叩き込み、仮想空間に送らねばならない。

 放電攻撃の発動中、大河自身も耐えられるとはいえ電波状の信号がかき消されるためか通信が行えず、かといって基地上層での戦闘は禁じられているがゆえに歩いて向かうわけにもいかない。しかしそこはミサキのサイドエフェクトにより完璧なフォローがなされた。

 

「頼むぜミサキー」

「よっと。んじゃワープ設置しとくよ。先に行って準備してるから」

 

 大河の背後にワープすると自身も危険に晒されるので遠征艇から現れ、短い時間ですぐにまた姿を消すミサキ。

 通信はできないが会話は可能。いや、いまも落雷を凌駕する轟音が響き渡っているため実質的に音声会話は不可能であるが、『思考追跡(トレース)』さえあれば意志の疎通はできる。

 大河にそれは備わっていないものの、事前の打ち合わせがあればこれからどうすればいいかくらいはわかる。タイミングなどはミサキが合わせてくれると信じてもいた。

 

「そんじゃあ地獄に招待してやるとすっか。てめえには聞きたいことも言いたいことも山ほどある」

 

 痛みに叫喚し続ける近界民を見下ろし、そう(うそぶ)く大河。

 この近界民を殺すことはもう諦めた。いや、この近界民はもう殺してやらない(ヽヽヽヽヽヽヽ)

 遠征艇とミサキ、およそ自分が大切にしているものすべてに刃を向けたこの近界民に対し、大河はただ殺すなんてだけで矛を収められそうになかった。

 ガロプラとかいう国を消す。潰してやる。完全に、完璧に、徹底的なまでに殲滅してくれよう。そのさまを特等席で眺めさせてやる。そうして初めて、初めて(ヽヽヽ)抱いた激情を収めることができる。大河はそう思っていた。

 ここで起きたすべては己の責任によるもの。ならば捕らえた近界民の処遇もまた、己に一任されるが道理。

 そうしてどす黒い感情を顔に張り付けたまま、スイッチボックスによる転移で大河は姿を消した。哀れな捕虜を握りつぶさないように気をつけながら。

 

 

 

 




 




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