黄金の虎   作:ぴよぴよひよこ

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第十話

 

 

 本部会議室ではボーダー幹部の面々が顔を突き合わせて議論していた。

 内容はもちろん、玉狛支部の(ブラック)トリガーの件についてである。

 バン! と強く机を叩いた鬼怒田はその手を忍田本部長に突き付けた。

 

「どういうことだ! 忍田本部長、なぜ嵐山隊が玉狛側についた!? なぜ近界民を守ろうとする! ボーダーを裏切るつもりか!」

 

 作戦を遂行中のオペレーターから伝わった迅の妨害、そしてそれに伴う遠征部隊の潰走。

 全滅はしていないらしいが、戦力を大幅に削られた状態で黒トリガーを相手にするのは街を危険に晒しかねない。撤退も時間の問題かと思われる展開に、鬼怒田は我慢ならんとばかりに口角泡を飛ばす。

 怒声を浴びせられた忍田はしかし、己もまた静かに怒りを燃やして目を鋭くさせた。

 

「裏切る……? 論議を差し置いて強奪を強行したのはどちらだ。もう一度はっきり言っておくが私は黒トリガーの強奪には反対だ。ましてや相手は有吾さんの子……これ以上刺客を差し向けるつもりなら、次は嵐山隊ではなく私が相手になるぞ、城戸派一党……!」

「……っ!?」

 

 厳かな会議室がにわかに揺らめいたと思えるほどの気迫。

 発せられた怒気は城戸派、その中でも急進派筆頭である鬼怒田や根付の顔色を変えさせるほどのものであった。一人くわえ煙草の男、唐沢は議論を俯瞰的に見て冷静に判断を下す。

 

(忍田本部長は最前線を退いたとしても、未だボーダー本部において最強のノーマルトリガー使い……怒らせたのはまずかったな)

 

 やはり懐柔策を取るべきだったか、と口には出さずとも己の陣営の失敗を確信する。差し向けられた刺客の中には特殊なS級隊員も含まれていたが、地上(ヽヽ)での戦闘となるといろいろと制限がついて分が悪い。

 ちらりと本部最高司令官の席を見やると、城戸が手元のコンソールに目を落としていた。何か、新しく状況が動いたのかもしれない。

 

「……ふむ。例の黒トリガーは投降したようだ。木場・三輪の両隊員が捕縛したとの報告が上がってきている」

「何!?」

「おお、そうか!」

 

 実行部隊のオペレーターの一人であるミサキから送られてきたそれを城戸が読み上げると、忍田は驚愕し、鬼怒田は揉み手をして喜んだ。

 

(木場を使ったのか……? 街への被害を考えればそれはないと思っていたのが甘かった……! 城戸さん……!)

 

 忍田が歯噛みして城戸を睨みつける。

 彼も木場大河という存在はそれなりに知っていた。規格外のトリオン能力を持つというS級の本部司令直属隊員。破壊の権化のようなトリガーと、それを助長させるような人間性を持ち合わせた危険な人物。そう認識している。

 例の遠征内容は忍田派の人間には特に厳しく秘匿されていたため詳細を知ることはなかったが、それでも大河の異常性は既知の事柄であり、忍田は彼のことを危険視していたのだ。

 

 だが件の黒トリガー使いは「捕縛された」と言っていた。

 忍田の思考に一筋の光明が差す。近界民と見れば殺しにかかる木場と三輪がそのような甘さをみせるとは考えにくかったが、生きているのならまだ話し合いの余地はある。

 説得は難しいが、なんとかしたい。そうして忍田は腕組みをして考えを巡らせていった。

 

「ふぅ……投降とは意外でしたが、かえって激しい戦闘にならなくてよかったですよ」

 

 額をハンカチで拭いながら根付がそうこぼすと、鬼怒田はフンと鼻を鳴らす。

 

「だが捕縛する意味はあるのか? 黒トリガーだけ奪い取って始末すればよかろう」

「穏やかじゃないですねぇ。しかしあの木場くんと三輪くんがそうしたのですから、それだけの理由があったのでしょう」

「まぁいいわい。新たな黒トリガーさえ手に入ればな」

 

 随分と勝手な物言いに忍田が声を荒げかけたが、それは喉を通して出ることはなかった。

 突如として会議室の扉が開き、そこに議題渦中の人間が軒並み顔を連ねていたのを見たからだ。

 

「どうもみなさんお揃いで。会議中にすみませんね」

「迅……!」

「迅!?」

 

 飄々とした迅悠一の登場で場の空気は一変した。

 この男が余裕を見せている時、それは彼の中で物事が思い通りに進んでいる証左。強力なサイドエフェクトがそうさせる軽々とした態度に、城戸派は先ほどまでの楽観的な考えができなくなり、忍田はどこか安心感を覚えた。

 

「貴様、よくものうのうと顔を出せたな!」

「まぁまぁ鬼怒田さん、血圧上がっちゃうよ」

 

 厳つく歯ぎしりする鬼怒田をよそに、城戸がじとりと並んだ顔を見渡す。その中のひとり、自分が四年前から重用している大河に視線を定めると真一文字に引き絞られていた唇を開いた。

 

「木場、これはどういうことだ」

「んー……、どこから話そうかな。……まず結論から言うと、黒トリガーは回収できません」

「何ぃ!?」

 

 大河がきっぱり答えると鬼怒田がまた頭に血を上らせた。

 捕縛したのに回収できないとはどういう意味か。誰もが思ったそれを、城戸が短く問いただす。

 

「それは何故だ?」

「んっとですね、この黒トリガーは完全にこいつ専用なんですよ。奪ったところで誰も起動できやしない。だから回収できないってより、回収しても意味がないって言った方が正しいかな」

 

 黒トリガーは使い手を選ぶ。元の人格の影響か、"好き嫌い"がある特殊なトリガーだ。それが極端に少ない風刃であっても起動できる人数はボーダーにも二十人程度。主に国を救うために造られることが多い近界民(ネイバー)の黒トリガーは、他国の人間というだけで使用できないことも多々ある。

 空閑のものに関していえば、これは完全に空閑遊真個人のために造られた黒トリガー。肉親にのみ扱える、と極めて限定的な条件が課されていてもおかしくない。

 

「どうしてわかる」

「そういう匂いがしたんで」

 

 すん、と鼻を鳴らす音。

 大河のサイドエフェクトにそれなりの信頼を置いている城戸は黙ったが、鬼怒田はそうはいかなかったらしい。

 

「そんな曖昧なことで認められるか。だいたい意味ならあるだろうが! 近界民が、しかも黒トリガー使いが玉狛に入隊するなど放置できるはずがなかろう!」

「だーから、そのための交渉をしに来たんじゃん、鬼怒田さん」

「交渉だとぉ……?」

 

 そんな余地があるか、と声を荒げた鬼怒田を無視して大河は空閑の背中を押し、幹部たちの前に突き出した。

 

「どうも初めまして、空閑遊真です」

「……」

「君が有吾さんの息子の……!」

「あ、親父の知り合い? どもども」

 

 城戸の鋭い視線に晒されて、しかし呑気そうに手を振る空閑に忍田が会釈を返す。

 その白い頭にぼふっと手を落として、大河は城戸へと笑ってみせた。

 

「こいつは使える(ヽヽヽ)よ、城戸さん」

「……おまえが近界民を見逃すとはな」

「俺は使えるものはなんでも使う主義ですからね」

 

 大河は城戸へ忠誠を誓ってはいるが、盲目的に狂信しているわけではない。命令されたことには基本的に従っても、もっといい方法があれば迷わずそちらを選択する。もっとも、それで城戸の期待を裏切ることはしないが。

 己を信じて遠征に送り出してくれた城戸にはそれなり以上に感謝もしていて、彼の不利益になるようなことは決して行わない。「使える(ヽヽヽ)」とは、大河に対してと同時に、ボーダーにとっても有用な意味を持っているのだろう。それを知っている城戸はひとまずは話を聞くくらいの様子を見せた。

 

「ほれ、空閑」

「ほいほい。えーと、タイガー先輩と"交渉"したんだけど。おれのユーヨーセーを示せばボーダーに入れるかもしれないって」

「なるほど……『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』、か」

「隊務規定を盾にするつもりですか……」

 

 唐沢と根付が白い頭の空閑を見つめる。

 

「有用性だと?」

 

 額の傷に指を這わせた城戸がそう問うと、空閑が腕を伸ばした。

 

「レプリカ、頼んだ」

『心得た』

 

 腕先からにょろりと顔を出したレプリカがまた炊飯器のような形をとって浮遊する。鬼怒田や根付が驚いたように口を開けたが、何も言わずにその様を眺めつづけた。

 

『初めまして、私の名はレプリカ。ユーマのお目付け役だ』

「…………」

『私はユーマの父ユーゴに造られた多目的型トリオン兵だ』

「有吾さんが……」

 

 浮遊するレプリカの言葉に城戸と忍田がそれぞれ思うことがあるのか、なんとも言えない表情で黙り込む。

 

『タイガとの交渉でこちらが出すのは近界(ネイバーフッド)の情報。ユーゴが自らの目と耳と足で調べ上げた、およそ六十以上の国々の国力、風土、生活様式、そして知る限りのトリガー技術の情報を明け渡す代わりにユーマのボーダー入隊、及び安全を保証してほしい』

 

 レプリカの取引条件に城戸の眉間にしわが寄る。

 たしかに近界の情報は有用性という点では評価できる。しかし玉狛の黒トリガーとそれはなんら関係はない。なんなら近界民である空閑を殺し、レプリカというトリオン兵さえ確保してしまえばそれで済む。

 そんな城戸の考えを察したのか、レプリカはふよふよと浮きながら硬質的な声で釘を刺した。

 

『私はユーマの黒トリガーとほぼ一体化している。ユーマを殺せば私もまた消滅するだろう』

「ふん……」

 

 思考を読まれたと思った城戸が鼻を鳴らす。

 レプリカの後ろでは空閑がこっそりと首をかしげていた。

 別に空閑とレプリカは一体化などしていない。レプリカの解析能力がなければ黒トリガーの運用に少なからず支障は出るものの、レプリカ自体は完全に独立したトリオン兵である。

 だが口に出すことはなかった。何も全てを正直に明かす必要はないのだから。

 今は"交渉"の場。自分や仲間たちに武器を突き付けられた尋問とは違い、どれだけこちら側の要求を通せるかの話なのだ。レプリカは大河の「トリオン兵にはサイドエフェクトが発動しない」という言葉から、一体化との嘘を混ぜ込んだらしい。

 レプリカの作戦に気付かない大河は空閑の頭をわしゃわしゃとかきまわして城戸に話しかける。

 

「何回も遠征に行く身としては、こいつらの情報はぜひとも欲しい。いろんな国のトリガーの情報はきっと鬼怒田さんも満足すると思いますし」

「そりゃ、そうだが……」

 

 水を向けられた鬼怒田も渋々だが頷く。大河の遠征成果は数多あれど、トリガー技術はいくらあっても困ることはない。いや、実際は山ほどのトリガーを持って帰ってきた大河のせいで技術者(エンジニア)たちは昼も夜もなく解析に勤しんでいるのだが……まあそれは嬉しい悲鳴というやつであろう。

 

「しかしその情報と、玉狛に黒トリガーが入隊するのとではつり合いが取れない。空閑の所属が玉狛になれば、もたらされる情報は平等、もしくは玉狛に利が多い。パワーバランスが崩れる懸念は消えないだろう」

「ああ、それに関してなんだけど」

 

 なおも首を縦に振らない城戸に迅が片手を上げて割り込んでくる。

 視線を集めた彼は腰に佩いたホルスターから黒い短刀のような形をした『風刃』を抜き取り、会議室の机に差し出した。

 

「今の話に加えて、玉狛(こっち)からは風刃を出す」

「何……?」

「風刃を――本気か、迅!?」

 

 彼の提案に机上の人間は誰もが瞠目した。特に風刃の製作者(ヽヽヽ)が迅の師匠であると知っている城戸と忍田の驚きようは他の幹部たちよりも大きい。

 怪訝な顔をした城戸はその真意を探るべく迅に向き直った。

 

「……何を企んでいる、迅? この取引は我々に有利すぎる」

 

 その言葉に鬼怒田と根付も内心で頷く。

 今持ちあがっている問題は近界民そのものより、玉狛が黒トリガーを二つ所有することの方が重要である。だが先ほど大河が告げた「他の人間には起動できない」という言葉を信じるなら、風刃と件の黒トリガー、どちらの価値が大きいかなど考えるまでもない。

 何よりA級数部隊を返り討ちにした風刃があれば、天羽、そして大河の戦力を加えることで玉狛と近界民が何を画策しようが力で押し込めるのだ。この取引は悪くないどころの話ではない。

 

「別に何も企んでないよ。ただうちの後輩をかっこよく支援したいだけ。本当は陰ながら、が理想だったんだけど……」

 

 ちら、と大河を見やり、少しだけ悔しそうな顔をして続ける。

 

「もうひとつ付け加えるなら、うちの後輩たちは城戸さんの『真の目的』にも、いつか必ず役に立つ」

「……!」

「おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

 

 それきり、しばらくの間無言の時間が会議室を支配した。

 誰もが己の内に回答を吐き出している。

 

 黒トリガー。パワーバランス。

 近界民。情報。

 ――恩人の子。

 幹部たちは各々、空閑の入隊もアリではないかと喉を鳴らす。

 

 仲間。後輩。

 敵。有用性。

 ――殺戮の足掛かり。

 隊員たちの内心はばらばらではあるものの、絶対反対だと言う者はいなかった。全ての決定は上に依る。若干一名分、危険すぎる思惑が紛れ込んでいるが果たして気付く者が何人いたか。

 

「……、…………いいだろう」

 

 長い沈黙を破り、城戸が鋭い視線を伏せ気味にしながら口を開いた。

 

「近界の情報、そして風刃と引き換えに……玉狛支部、空閑遊真のボーダー入隊を正式に認める」

「や、やった……!」

 

 承諾の言葉にこの会議室へ入ってから初めて声をあげた三雲が視線を集め、過去最高の早さで冷や汗を顔中に張り付けた。もしそれがトリオンであったならば彼は大河に次いで有能な能力の持ち主だったやもしれない。

 

 途端に緩み始める会議室の空気、それを嫌うかのように城戸が号令をかけた。

 

「……では解散とする。木場隊員と三輪隊員は残るように」

「は、はい、失礼します」

「ありがとーゴザイマシタ」

 

 短い命令に全員が席を立つ。名指しで居残りを命じられた二人以外はそれぞれ何やら言い合いながら会議室の扉をくぐっていった。

 ぞろぞろと会議室をあとにする面々の姿が消えてから、城戸はじろりと据わった視線を大河に送りつけた。

 

「木場、どういうつもりだ?」

「どういうつもりって?」

「あれだけ近界民を殺したがっていたおまえが、なぜよりによって今見逃すのかと聞いている」

「ああ……」

 

 殺したいと駄々をこねたくせに、どうして今になって手を返すのか。

 問われた大河はがりがりと頭を掻いてから拍子抜けしたように答えた。

 

「だってあいつ、もう死んでるんだもん」

「何……?」

「黒トリガーの力でかろうじて生きて――いや死ぬまでの時間が伸びてるだけ。死んでるやつを殺すのは俺の趣味じゃない」

 

 生きているから殺せるのだ。生きているから、その匂いに惹かれる。

 大河は遠征中にも味わえなかった黒トリガー使いの臓腑(はらわた)の匂いを楽しみにしていたのに、実際に現れたのは既に死に体の野良近界民。すっと引いていく興味に、ようやく迅の言葉が届いて叶ったのがあの"話"だった。

 

「だったら情報引き出して、もっともっと殺すために役立てた方がいいじゃないっすか?」

「…………」

 

 彼の言い分に呆れかえりつつも、なんとか納得はした。

 城戸は効率主義者である。その鉄面皮に隠された奥底にどれだけ激しい感情が渦巻いていても、決して表には出さずに組織の運営を最優先する。今となってはパワーバランスの懸念も消え去り、残るは直属隊員への疑問のみだ。

 続けざまに隣の三輪にも視線を送った。大河と違い、純粋な憎悪で近界民を排除することを願った彼は、何を思って空閑の連行に応じたのか。

 

「三輪」

「……俺は……」

 

 先ほどの話し合いにも参加せず、ずっと黙り込んでいた三輪は戸惑ったように言葉を濁した。

 近界民は殺すべき相手。それは今も変わらず思っていることだが、「もっと殺すために」と軽く言ってのけた大河に影響されて揺らぎ続けていた。

 三輪が返答できずにいると、城戸は瞳を閉じて小さく嘆息する。どうやらこのごたごたには如何な彼とて疲れを感じていたらしい。

 

「……、まあいい。あの近界民が問題を起こした場合、処分はおまえたちに任せる」

「はい、それはもちろんです」

「りょーかいっす」

「ではおまえたちも解散しろ。この件については報告書の提出は不要とする」

 

 それきり、三輪と大河も会議室をあとにする。

 こうしてボーダーの派閥間による黒トリガー争奪戦は、静かに幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 会議室を出た大河はミサキの待つ作戦室に帰るべく廊下を歩いていた。

 木場兄妹は任される任務の特殊性ゆえ、ボーダー本部基地にほぼ住み込みで暮らしている。

 当初はボーダーの建てた仮設住宅が彼らの家となったものの、両親もおらず大河がS級隊員となり、果てはミサキも入隊してからは『木場隊作戦室』に割り当てられた部屋が彼らの生活の場となっていた。とはいえ、ほとんど遠征で出払っているので彼らの姿を見る職員もまれなのだが。

 

 木場隊作戦室は他の部隊のそれと比べて少々優遇されており、主にミサキの要求により生活感が溢れるどころか別世界のような様相すら呈している。

 トリガー技術を無駄遣いした仮想空間露天風呂をはじめ、遠征中に撮り溜めたTV番組や映画を楽しむ巨大スクリーン、ゲームに本。果てはミサキ独自の研究開発スペースまで。ありとあらゆる娯楽が詰めこまれたそこは長旅の疲れを癒すと同時に鋭気を養う彼らの城だ。

 

「木場さん!」

「ん? 三輪か。どうした、まだ帰らないのか?」

 

 そんな自分の巣に帰る途中、三輪に呼び止められて足を止める。

 駆け寄ってきた彼は口を開きかけしかし、言葉を探すように押し黙った。

 

「なんか用か」

「あ……はい、その……」

 

 そのへどもどした態度に大河は首を傾げ、目の前の少年が落ち着くのを待つ。

 基本的に己の価値観で人を見る大河ではあるが、ボーダー隊員……というより玄界人(ヽヽヽ)に対しては「殺してはならない」という一般常識も持ち合わせているので意外と素直な面を持つ。殺戮部隊であることと乱暴者であることはイコールではないのだ。

 しかしまあ素直すぎて逆に殺意も隠さないため忍田のような者にも目を着けられてしまうのだが本人は特に気にしていない。城戸派の人間は時たま頭を痛めているが。

 しばらくして三輪は意を決したように顔を上げた。

 

「木場さん……、木場さんの遠征の話を、聞かせてもらえませんか」

「遠征の?」

 

 オウム返しに聞き返された言葉に頷く三輪。

 彼は城戸に大河の存在を教えてもらってからずっと話がしたいと思っていたが、何の話をするかはまだ決めていなかった。どうして司令直属隊員になったのか、どうして単独遠征などというものを望み、かつそれを許されるのか。聞きたいことは山ほどある。

 それらをまとめると、やはり遠征で何をしてきたかという話に収束した。遠征先で本当に近界民を殺してきたのだろうか。それも含めて三輪は大河に極秘任務の内容を尋ねたのだった。

 

「あー……そのことは誰にも話すなって城戸さんにも言われてるからなあ」

 

 「これからの遠征」「もっと殺すために」などと既に示唆するようなことは言ってしまったが、実際に何をしてきたかは絶対に言えない最重要機密(トップシークレット)。困ったように頭を掻いた大河に、三輪は目に力を込めて大丈夫です、と詰め寄る。

 元よりこの極秘事項を教えてくれたのは城戸司令。彼がそうしたということは、むしろ大河の話を聞くことを暗に勧めているのではとさえ三輪は思っている。

 

「俺は木場さんと同じ司令直属の隊員です。木場さんの帰還前には司令により同様の守秘義務を課せられています」

「ああ、そうなのか。じゃあいいかな」

 

 そこまで踏み込んだならば遠征内容を話しても問題ないだろう。そう判断した大河は三輪の頼みに頷くことにした。どうせ本部基地にいる間は仕事も少ない。というより、仕事自体はあるがほとんど基地の"電池"扱いされているため暇を潰せるなら話の一つや二つは苦ではない。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 色よい返事をもらえた三輪は滅多に見せない笑顔を浮かべて頭を下げた。彼をよく知る者が見れば驚いてしまうくらいにはいい笑顔だ。

 

「今日はもう遅いし明日でいいか? 明日は一日中開発室にいると思うからそこで」

「はい!」

 

 年相応の少年の顔になった三輪は元気よく「では失礼します!」と挨拶してから去っていく。

 それを見送った大河は妙に懐いてくる三輪に対し、

 

「……変なやつ」

 

 などと身も蓋もないことを呟いて、今度こそ己の巣に帰っていった。

 

 

 

 






みんなみんな、生きているんだトモダチなんだ殺せるんだ。
とまぁ、遊真を見逃した理由はそれ。完全にサイコキラー。
さすがにワートリ主人公を殺す勇気はなかった・・・・。

そして原作キャラで深く関わるのは主に三輪です。なのでもっとも原作剥離が激しいのも彼です。



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