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二日目 一二:四五 海軍省軍令部 廊下
昼食を終えると、それぞれが一旦部屋へと戻ることになり食堂を出たところで、上条は後ろから声をかけられた。
「あのさ、提督」
「なんでしょう?摩耶さん」
「あー、呼び捨てでいいよ。アタシも比叡も。提督の麾下なんだし、島風だけ呼び捨てって言うのも差別されているみたいでさ」
「わかった。それで摩耶、上条さんに何か用?」
「…その、もしよかったらなんだけど、アタシの制服も改造してくれないか?」
上目遣いで上条を見て、若干頬を染めながら摩耶は言った。
「袖付きでスカートも少し長めにしてくれると、嬉しいかな」
そう言われて上条が改めて摩耶の制服をよく見ると、袖なしのセーラー服から横乳は見えているし、スカートは今にもパンツが見えそうな感じだったので、慌てて視線を逸らした。
「あ、ああ。わかった。じゃあ今すぐ工廠に行こう。夕張さん居てくれるといいんだが」
「え?いいのか?」
「いいに決まってるだろ。それに工廠って凄いんだぜ。島風の制服も一〇分で修正し終わっちまったからな」
「…ありがと」
「いや、上条さん的にも精神的安定が得られるから一石二鳥ですことよ」
「ははっ、なんだよそれ」
「美女の露出が高い服装って、男子高校生には刺激が強すぎるんですよ」
「美女って、アタシが!?」
「もちろん摩耶もそうだけど、艦娘さんってみんな美人じゃん」
「そ、そっか」
摩耶はぶっきらぼうに言って上条から視線を逸らすと、赤くなった頬に手を当てながらぼそっと呟いた。
「美人なんて言われたの初めてだけど、まあ、悪くないぜ」
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一六日目 一七:〇〇 海軍省軍令部 元帥執務室
「これで一通り鎮守府の運営方法についてのカリキュラムは終了じゃ」
「頭がパンクしそうです」
「だが、大体の流れは理解できたのではないかな。その証拠に筆記試験の方も悪くはない出来だしの」
「いや、結構いっぱいいっぱいですよ」
「まあ、実際には秘書艦のサポートもあるから、君が思っているよりも幾分楽はできると思うが」
「そうであることを願います」
「まずは立て直しが急務だからの。暫くは哨戒と近海警備に重点を置いてくれれば良い」
元帥の言葉に、上条は手を上げて反論する。
「前任者の変な命令が残っていないかを確認するのが先ですよね?」
「はっはっは。上条君も言うようになったね。だが確かにそれも大事なことであるな」
「夜中に襲われたりするのは嫌ですからね。鎮守府に配属されたら絶対に確認させてもらいますからね!」
「うむ。許可しよう」
満足そうに頷きながら、元帥は上条に微笑んだ。
「約二週間、鎮守府の運営方法について叩き込ませてもらったが、何か質問はあるかね?」
「質問というよりもお願いなんですが、麾下の三人と配属される鎮守府の艦娘さんたちをある程度は鍛えたいので、そのための資材を頂けますか?」
「ほう。艦娘たちを鍛えるとな?」
「工廠の妖精さんに艦娘さんたちは殆どが練度二〇で改造きるし、摩耶は練度一八で改造できると聞きました。でも実情は改造できる練度まで育てていない。これは宝の持ち腐れじゃないかと上条さんは思うのですが」
「改造するメリットは何かね?」
「装備が強くなったり装備スロットが増えたりするそうです」
「ふむ。工廠妖精が言うのだから間違いなさそうじゃな。わかった。軍令部から資材を出そう」
「ありがとうございます」
(彼ならばもしかしたら現状を打破してくれるかもしれぬな)
上条を見つめながら、元帥は期待を抱かずにはいられなかった。
「上条君。最初に訪れた鎮守府を覚えているかね?」
「はい。大淀さんが提督代理を務めていたとある鎮守府ですよね?」
「そうじゃ。君にはその、とある鎮守府の提督を任せたいと思っている」
「艦娘さんは全部でどのくらい居るのでしょう?」
「大淀、とある鎮守府の戦力を読み上げてくれ」
「了解しました。とある鎮守府には正規空母二、戦艦三、軽巡五、駆逐艦七、工作艦一、給糧艦一が在籍しております」
「そこに戦艦比叡、重巡摩耶、駆逐艦島風が加わって上条君の艦隊になる」
元帥の言葉に上条は少し考え込む。
「ちょっとバランスが悪いかな。とある鎮守府にはどのくらいの資源があるのですか?」
「とある鎮守府の昨日現在の資源量は燃料四三五一、弾薬三二一四、鋼材三九一一、ボーキサイト二八六〇です」
「…あと各五〇〇〇くらい欲しいですね。正規空母と戦艦を鍛えるには、資料を見る限りではかなりの資材を必要とするし、最低限で何回か建造も行いたいですね」
「ほう。なかなか良いところをついてくる。よろしい、就任祝いで相応の資材を贈らせてもらおう」
「あ、ありがとうございます。頑張ります」
「はっはっは。上条君、そんなに固くならなくても良い。新任の提督でそこまで艦隊の運用を考えられるのは賞賛に値するよ」
「艦娘さんたちの命がかかってますからね。俺に出来ることはなるべくやっておきたいです」
「うむ。艦娘たちのケアも頼むぞ」
「努力します」
そんな上条の言葉を聞いて元帥は満足げに頷くと、机の上に置いてあった書類を手に取って上条に向き直った。
「上条特務少佐。明日ヒトマルマルマルより貴官をとある鎮守府の司令官に任命する。よって麾下の艦娘を伴い、明日マルキュウマルマルにとある鎮守府へ出立したまえ。曳航ボート及び簡易コンテナはマルキュウマルマルまでには第一埠頭に出しておく」
「了解しました。麾下に連絡をするため、そちらをお借りしてもよろしいですか?」
「ああ」
「お借りします。軍令部作戦本部付上条提督麾下の艦娘は、本日ヒトハチマルマルに食堂に集合。…ありがとうございます。艦娘さんたちにはマルキュウマルマルに異動になると言えば、準備とかしてくれますかね?」
「うむ。それで問題ない」
「俺や島風たちの制服のデータとかは夕張さんに言えば貰えるんですかね?」
「それは資材と一緒の簡易コンテナにとある鎮守府の工廠用のデータを入れておくよう指示するから大丈夫じゃ」
小さく微笑みながら元帥は言うと、上条に向かって敬礼をする。
「明日も見送りはするつもりだが、不測の事態が起こるやもしれんので、今、この場で貴官の武運長久を祈らせてもらう」
「ありがとうございます。元帥」
上条もぎこちなく敬礼をすると、元帥は先ほどの書類を丸めて筒に入れて上条に差し出した。
「とある鎮守府に着いたら、大淀提督代理にこれを渡したまえ」
「はい」
両手で筒を受け取り、上条が緊張した面持ちで元帥を見る。
「あまり気負いすぎぬようにな。上条君」