君の名は、白き望み。 作:氷桜
<9:白望>
一日早く着いてしまった、東京。
一日中、昼でも夜でも人が出歩く日本の首都。
全国大会は、この場所で行われる。
どれだけの精鋭が集まるのか、或いは消え去っていくのか。
自由行動、と評した観光中。
そんなことを考えるつもりは、無い。
いや――――それを考える余裕は、今の私にはない。
「…………。」
はぁ、と小さく息を吐く。
歩くのすら面倒、と言うよりは考えられない。
……理由。
先程、街中で妙な声を掛けられたから。
それと。
手と、腕に感じる熱のせい。
「ねえ、どこいくの?」
「一人? 俺達とどっか遊びに行かない?」
……誰に言っているのだろうか。
最初は、それすら理解できなかった。
「ねえ、其処の銀髪の娘!」
……多分、私なんだろうなぁ、と思った。
でも、面倒だから。
聞こえなかったことにして、歩き続ける。
「ねえって!」
ぐい、と。
強く肩を引かれた。
最初に思ったのは。
痛い、という身体が示す信号だった。
文字通り、どうでもいい。
そんな存在の呼びかけに、いつもの調子で視線を向けた。
……仲間には向けない、何の感情も無い目を。
「う……暇だったらさ、遊び行こうよ。」
「…………。」
知らない。
声すら返さない。
返す価値すら感じないから。
それが、相手がどう思うかすら気にせずに。
「ね、ねえ。」
「あ、すいませんね。 彼女、俺の連れなんですよ。」
だから。
いい加減焦れたのか。
強引に、腕を引こうとする見知らぬ男を止めた。
金髪の彼……京太郎を見た時。
不思議と、安心した気がする。
「え、でも……。」
「お待たせしました。 行きましょ、シロさん。」
ぐい、と手を引かれて歩いて行く中。
手、だけじゃなく。
身体の中から、熱が湧き上がってくる気がして。
……彼の腕に、そっと抱きついた。
不思議と、嫌がられることはなかった。
それに。
それだけ、のことに。
少しだけ、安心した。
<9:京太郎>
東京。
一日中、昼でも夜でも人が出歩く日本の首都。
全国大会は、この場所で行われる。
どれだけの精鋭が集まるのか、或いは消え去っていくのか。
恐らく、消えるのは俺の方なんだろうな。
そんな、達観が先にあった。
俺自身は、運が極めて悪いと思っている。
ただ。
その運の悪さを突き詰めた結果、今の打ち方が有るとも思っている。
その打ち方が、通用するのか。
それ自体が、不安で仕方ない。
男子の大会は、女子の大会の後。
だから、実質的に。
8月の間は、東京にいることになってしまう。
幸い、トシさんの伝手で泊まり先は問題なく確保できてはいるけれど。
無駄遣いが出来るわけもなく、自由行動の中一人歩いていた。
「ねえ、どこいくの?」
「一人? 俺達とどっか遊びに行かない?」
そんな声が聞こえたのは、駅前を歩いていたときだ。
何処にでも有るナンパ。
東京なら、やはりあるんだろうな。
そんな思いで、視線だけを向けた。
「ねえ、其処の銀髪の娘!」
……視線の先にいたのは、シロさん。
どくん、と心臓が跳ねるのが分かった。
「ねえって!」
ぐい、と肩を引かれる姿が映る。
最初に思ったのは、怒りだった。
何をしているんだ。
ふざけるな。
そんな強い思いが、俺の身体を動かした。
「う……暇だったらさ、遊び行こうよ。」
「…………。」
睨みつけているようにも見える、彼女。
何を考えているのかは、俺にも未だに読めない。
けれど。
今、困っているのは確実に分かった。
「ね、ねえ。」
「あ、すいませんね。 彼女、俺の連れなんですよ。」
その、肩を掴む手を握った。
笑った、つもりで。
「え、でも……。」
「お待たせしました。 行きましょ、シロさん。」
その手を離し。
シロさんの手を握って、強引に歩き出す。
出来る限り、距離を取るように。
その場から、離れようと。
……途中。
する、と。
腕に抱きついてくる、シロさんがいたけれど。
出来る限り、顔に出さないようにして。
その幸せを、甘受した。
誰にも、この幸せを分け与えたくない、と。
そんな、独占欲すら想いながら。
髪色何と言っていいかわからなかったのでこのSSだと白髪でなく銀髪、としています。
若干青みがかってるようにも見えるんですけどね。