君の名は、白き望み。 作:氷桜
<8:白望>
想いは積もっていく。
願いは消え去っていく。
いつ、聞いたんだったかは忘れてしまった。
ただ、そんな歌詞の曲を。
ずっと昔に、聞いた気がする。
「……。」
はぁ、と一つ息を吐いた。
大会前、その為の調整。
トシさんの家に全員で泊まり込んで、夜遅くまでの打牌。
他の皆は疲れて寝込む中。
どうしても眠れずに、居間の窓から星を見上げていた。
トシさんも、来た頃とは姿が変わった。
既にモノクルは付けていなくて。
そのモノクルは、塞の顔に輝いている。
能力の調整。
能力の強化。
誰が与えたんだろうか、私達が持ってしまっているこの異常。
こんなもの……欲しくて得た物では無いのに。
「シロさん、こんなところにいましたか。」
「ん……京太郎?」
「隣、良いですか?」
「……ん。」
多分、最も変わった原因。
多分、最も変わった当人。
私達に、団結力を与えて。
私に、迷いを与えた後輩。
「何、してたんですか?」
「……星。」
「星……ああ、今日は晴れてるから。」
静かに瞬く大三角形。
強く、弱く光を届ける星々の欠片。
そんな中、私と彼はたった二人でいる。
「……。」
ぽすん、と肩を倒した。
隣に、彼がいるのを分かっていて。
「おっと。 ……声くらい、掛けて欲しいとこですけど。」
「……ん。」
目は、空を見たまま。
身体は、触れ合ったまま。
妙に、迷いが消えていく気がして。
「……。」
すぅ、すぅと。
静かに眠り出した彼から肩を退かし。
自分の膝の上に、その頭を乗せて。
長く、短い時間の間。
ずっと、星を見ていた。
<8:京太郎>
大会前の、最後の調整と言っていた。
一人頭、最低でも10戦。
その上で、意識した異常な打ち方の練習。
牌譜を見た上での検討。
確実に血肉になっていく感覚と、頭を使い過ぎた頭痛。
ハンドボールの頃と同じ、成長する感覚。
今が、とても楽しかった。
既に、他の人は眠っているのだろう。
妙に冴えた頭が、眠気を阻害して。
飲み物でも飲むか。
そう思い立って、居間へと向かう。
この人数だ。
先ず間違いは起きないのは分かっている。
ただ、それでも念の為、と言った形で。
俺の部屋と、先輩方の部屋は大体正反対側にあった。
だから。
「シロさん、こんなところにいましたか。」
居間で、いつもの彼女を見た時。
妙な感覚を覚えた。
「ん……京太郎?」
「隣、良いですか?」
「……ん。」
断って、隣へと腰掛ける。
何も無い、冷えた床に二人。
「何、してたんですか?」
「……星。」
「星……ああ、今日は晴れてるから。」
長い沈黙。
慣れた、というには若干早く。
ただ、心地いい空気だけを感じた。
「……。」
「おっと……声くらい、掛けて欲しいとこですけど。」
「……ん。」
肩に感じる重み。
微かに感じる匂い。
心に感じる温かさ。
それらが、直ぐ側にある幸せ。
少しだけ離れて、直ぐに感じた柔さかと、風。
……気付けば、居間に二人。
毛布を掛けられて、眠っていた。