君の名は、白き望み。   作:氷桜

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<6:白望/京太郎>

<6:白望>

 

地方大会、優勝。

それが、私達の残した結果。

地方大会、三位。

そして、それが京太郎の残した結果だった。

 

一年生で個人戦に勝ち残った。

それは素晴らしいこと。

全員で全国大会に行ける。

それは、誇らしいこと。

男子と女子で、強さや環境が大きく違うとは言え。

それを成し遂げた事実だけは変えられない。

幾ら、面倒でも。

幾ら、目を逸らしても。

 

「…………忘れた。」

 

「一応、俺は持ってきてますけど……。」

 

そんな、京太郎と私。

突然の夕立の中、たった二人で立ち往生。

雨が降る確率について、面倒臭がって調べなかったのが仇になったのか。

或いは――――。

 

「…………止む、かな。」

 

「どうでしょうね……雨雲はそこそこ大きかったですけど。」

 

ざあざあ振り続ける暁に染まった曇天の空。

俗に言う天気雨、狐の嫁入りにも似た不可思議な天気。

 

「……傘、貸しますから。 シロさん、帰れますよね?」

 

「……京太郎は?」

 

「俺は走れば帰れますから。」

 

いつも、そうだ。

彼は笑って、自分を犠牲にしようとする。

忘れたのは、私なのに。

彼には責任なんてないのに、笑って何かを背負おうとする。

それは、私とは正反対。

真逆。

鏡の先の、私自身。

 

「……ね、京太郎。」

 

「どうしました、シロさん。」

 

「……傘、入れてくれる?」

 

「いや、ですから。 俺は走れば。」

 

「……入れて。 良いよね。」

 

「……はい。」

 

たった一本の傘の中、二人。

傘が立てる雨音の中。

とくん、と心臓が鳴ったような気がして。

初めて、私の中の迷いに向き合った気がした。

 

 

<6:京太郎>

 

個人戦、三位。

全国大会出場の切符を手にした時、夢でも見ているのかと思った。

 

散々、打ってきて理解していたこと。

「最初の手牌にとっての不要牌を引く」。

多分、これはどうやっても変えられない。

だから、最初から待ちの広い手牌だった場合は敢えて狭めていった。

自分の運の悪さは、ある意味信頼しているから。

その結果が、三位。

飛び跳ねて、全員で喜んで。

まだ、一緒にいられるんだと。

そう、思った。

 

「…………忘れた。」

 

「一応、俺は持ってきてますけど……。」

 

その次の、月曜日。

天気予報では降水確率30%。 何とも言えない雨の確率。

念の為、持ってきていた傘が役立つタイミング。

だけど、シロさんは持ってきていなかったらしい。

 

「…………止む、かな。」

 

「どうでしょうね……雨雲はそこそこ大きかったですけど。」

 

大会の直後、というのもあって一日空いていた日に直撃。

だから、此処にいるのは俺とシロさん、たった二人。

薄ぼんやりと開いた目で、困ったように空を見上げる彼女。

表情が余り変わらないとは言え、数ヶ月近くにいれば何となく察せる。

 

「……傘、貸しますから。 シロさん、帰れますよね?」

 

「……京太郎は?」

 

「俺は走れば帰れますから。」

 

男子と女子。

先輩と後輩。

そのあたりを考慮するなら、俺は走ってでもなんとかなる。

風邪を引かせたくない。

余り困った顔をして欲しくない。

何故だろう――――考えると、胸が苦しくなる。

 

「……ね、京太郎。」

 

「どうしました、シロさん。」

 

「……傘、入れてくれる?」

 

「いや、ですから。 俺は走れば。」

 

「……入れて。 良いよね。」

 

「……はい。」

 

そう。

彼女に、困った顔をしてほしくないから折れて。

たった二人、雨の中。

傘の下、歩く。

……出来れば。

もう少しだけ、歩いていたいと。

すぐにやってきた、家の前で。

確かに、思った。

 


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