君の名は、白き望み。 作:氷桜
<3:白望>
「というわけで、改めて。 今日から教えることになった熊倉トシだ。 宜しくね。」
我が”新生”宮守高校に、新しく顧問がやってきた。
モノクルを付けた、温厚そうなお婆さん。
以前から時折顔を見せてはいたけど、正式は今日から。
そして、其の隣に所在なさげに立つ少年。
多分、今朝見た二人組だろう。
「…………そっちの、少年は?」
聞かなくても良いことなのに、何故か口に出ていた。
正直に言えば、珍しい。
言わなくて良いことなら、私は言わない。
口を開くのも億劫、とまでは言えない。
特に、この部活<バショ>では。
「ああそうだね。 ほれ、京太郎。」
「分かってるよ。 須賀京太郎、本日入学しました。 宜しくお願いします、先輩方。」 ペコリ
「私は姉帯豊音。 ねーねー、トシさんの知り合いだったりするのー?」
「ええ。 遠縁の親戚でして。 トシさんが此方に赴任するっていうんで付いてきました。」
金髪の、若干不良にも見えなくもない少年。
私より、10センチ以上は高いだろうか。
見上げるように見るその眼は、どこか澄んでいて。
「そっか、トシさんの。 私は臼沢塞。 で、此方が鹿倉胡桃。」
「エイスリン、ウィッシュアート、デス。」
「宜しくお願いします、先輩方!」
「ほら、シロも。」
急かすように、塞……同級生の友人がそう語ってくる。
必要ないと思うのに。
私みたいなのの、挨拶なんて。
「ん……小瀬川白望。 …………宜しく。」
だから。
そんな風に、雑に挨拶を返した。
<3:京太郎>
たった五人の部活、麻雀部。
そう、前もって言われてはいた。
両親が海外出張で三年程いなくなる関係上、元住んでいた長野から離れざるを得なくなって。
遠縁の親戚の、トシさんに預けられた俺。
時々麻雀を教わっていたから、多少は打てる。
一応、中学時代はハンドボール部として頑張ってきたけど。
高校では、麻雀に集中して頑張ってみたいと思っていて。
だから、今回の同行は渡りに船、でもあった。
「というわけで、改めて。 今日から教えることになった熊倉トシだ。 宜しくね。」
目の前にいるのは、見知らぬ先輩方。
今年から共学になった関係上、上にいるのは全員女の先輩。
上手くやっていけるかが、とても心配で。
「…………そっちの、少年は?」
だからこそ。
固まっていた俺を動かしたのは、そんな小さな声だった。
「ああそうだね。 ほれ、京太郎。」
「分かってるよ。 須賀京太郎、本日入学しました。 宜しくお願いします、先輩方。」 ペコリ
「私は姉帯豊音。 ねーねー、トシさんの知り合いだったりするのー?」
「ええ。 遠縁の親戚でして。 トシさんが此方に赴任するっていうんで付いてきました。」
やけに身長が高い人。
明らかに留学生っぽい人。
そんな人達を纏めているであろう人。
でも。
そんな色んな人がいる中で。
「ほら、シロも。」
「ん……小瀬川白望。 …………宜しく。」
一番、俺が気になったのは。
最も言葉を発しない。
何処か希薄な、その人だった。