君の名は、白き望み。   作:氷桜

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100人お気に入り記念……どういう速度なの?


<ex04:雑踏の中、貴方と。>

段々と、街の人の服が変わっていく。

薄着、羽織、厚着。

寒さに耐えるために、人が培った技術。

そんなものを見ながら、駅前のベンチに腰掛ける。

 

雑踏は、嫌いだ。

もう少し踏み込んでしまうなら。

「他人」は、嫌いだ。

心を理解せずに。

自分の利益を求め。

最後には、襤褸雑巾のように放り捨てる。

そんな、人の群れは嫌いだ。

 

だから、私は境界の内側にいた。

境界を通して。

冷めた目で見たつもりになって。

時折、踏み込んでくる人を友人として扱って。

それでも、私はたった一人。

古びた、迷宮の中で彷徨っていた。

 

「……っと、おはようございます、シロさん。」

 

「……ん。」

 

厚着というか、薄着というか。

襟から見るに、中に一枚。

薄手の長袖を羽織るようにした、青年。

須賀、京太郎。

 

そんな、私から変わったのは。

間違いなく、彼の影響だろう。

私に近づいて来て。

迷いを深め。

そして、迷いから解き放った本人。

 

「こっちの方は寒いですねー……。」

 

「前の場所……は?」

 

「長野ですか? 似た感じでは有りましたけども。」

 

「……そうなの?」

 

「向こうは寒い、と言うよりは涼しい、といった感じで。」

 

岩手と、長野。

地図上で見れば、距離など殆ど無いのに。

実際の距離、時間はやはり掛かる。

それだけ、本来なら離れていた筈なのに。

こうして、巡り合った。

 

「……ん。」

 

「……今日は何です?」

 

「良いから。」

 

有無を言わせず、前から抱き締めた。

熱が伝わる。

少しだけ寒かった身体が、熱を増していく。

ただ、それは。

表面からのものだけじゃなく。

多分に、私の身体の中から産まれるものもあったと思う。

 

「……恥ずかしいんですけど。」

 

「……私も。」

 

「……なら、何で?」

 

「……なんで、だろうね?」

 

寒かったから、だけじゃない。

多分。

なんとなく、だけど。

寂しかったから、だろうか。

昔を、思い出して。

今を、憂いて。

未来を、想って。

 

「……なら、やめません?」

 

「……じゃ、運んで?」

 

「今からですか!?」

 

冗談、だよ。

まだ、運んで貰わなくても大丈夫。

本当に疲れた時は、分からないけど。

ただ、今は。

 

「……じゃ、手。」

 

「それ代わりになるんですか……?」

 

一緒に、歩きたい。

顔を見ながら。

手を、握って。

たった、二人で。

言葉には、出さないけれど。

 

「……分かりました。」

 

「……ありがと。」

 

京太郎には、伝わっていると信じて。

差し出された手を、握って。

指を、絡めた。

たった、それだけなのに。

なんだか、気恥ずかしかった。

 

「……何処行きます?」

 

「……いつも通り。」

 

「また俺任せですか。」

 

「……嫌?」

 

「いいえ。」

 

これでも、彼氏ですから。

そう呟いた囁きに。

……私も、彼女だから。

そう、答えを返すのをやめたのは。

言わなくても、通じることだったから。


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