君の名は、白き望み。 作:氷桜
先輩方の夏は終わった。
部活動に打ち込んでいた、この夏は終わった。
だけど、学校生活はこれで終わりのはずがない。
「良いんですか? 先輩方。」
「ま、他に部員もいないしねー。」
部活は卒業。
残る部員は俺だけ。
たった一人のチャンプ。
まあ、麻雀は普通にやるのなら一人でできるものではない。
だから、先輩たちの好意に甘えて、腕が錆びない程度に打ったりする。
最近は、駅前に出来た雀荘にも顔を出し始めた。
じゃらじゃら、と鳴る洗牌の音。
たん、と静かに響く打牌の音。
それらが、ある程度で収まった頃。
「とりあえず……今日はこんなところで大丈夫です。」
「え、まだ付き合えるよ?」
「受験勉強だって有るでしょう?」
うっ、と一瞬引く顔に苦笑いで返す。
俺だって、勉強なんてしたくない。
だけど、テストだって有るし。
三年の場合はセンターも有るし、本試験も有る。
勉強しないわけには行かない……のだ。
「…………。」
「だから、シロさんも勉強しましょうね。」
「……やだ。」
「子供ですか!?」
自分のためだ、というのにも関わらず。
周囲が宥め賺しても動かない。
相変わらず猫のような人だ、と思いつつ。
……後で出そうと思ってたんだけど、仕方ないか。
「……シロさん。」
「……何、京太郎。」
「とりあえず、頑張ったらご褒美用意してます。」
「……釣られると思う?」
「家で焼いてきたクッキーです。」
鞄から取り出した、適当に包装した焼き菓子。
余り興味を持っていなかったが、現在の家は意外と調理器具が充実している。
トシさんは本当に最低限しか使わないし、元々備え付けだったのだろうけど。
折角あるのに、使わないのも勿体無い。
家事も分担して行っているのだから、と。
最初は失敗してばかりだったけれど。
最近は人に出してギリギリ恥を搔かない程度には上達したつもりだ。
「へー、こんなこともできるの?」
「手隙な時間にちょちょっと、って奴ですね。」
どうぞ、と一袋渡す。
やたら興味津々に見つめる4人と1人。
紐を緩め、ある程度柔らかさを残したそれを口へ。
感想が、凄い気になるが。
「……ん、美味し。」
「ワ、ワタシニモ!」
「私もー!」
「慌てなくても有りますよー。」
そんな取り合いにならなくても。
……ただ、シロさん。
じーっと俺を見ても分けませんからね。
「オイシ!」
「これ、どうやって作ったの!?」
「おからで色々と。」
じー。
ですから、動いて下さい。
じー。
で、ですから。
じー。
…………あの、ですね?
じー。
…………無理だ、勝てない。
横に動いても、先輩と話してもずっと見てる。
多分、あれは。
ずるい、と言いたい目だ。
私のなのに、という目だ。
「……勉強、します?」
「……努力する。」
子供じゃないんですから、するって言いましょうよ。
仕方がないので、一つ取って目の前に運ぶ。
……小さく口を開き、指毎飲み込まれた。
指への甘噛み。
舌での掠め取り。
指に伝わる妙な感触。
凄い、むずむずする。
指を引き抜いて、唾液に塗れた指に小さく溜息を付いた。
洗ってこなきゃなぁ、と。
「……どうです?」
返答は、無く。
小さく口を開いた。
また、指を入れろということか。
……回りに、先輩もいるのに。
……ただ。
仕方ない、と思いながら。
付き合ってしまうのだから――――真底惚れてるのだろうなぁ、と。
改めて、自分に思って。
また一枚を、摘み上げた。