君の名は、白き望み。 作:氷桜
<side:京太郎>
海、水、快晴。
言ってしまえば夏真っ盛り。
そんな中、高校生らしい元気さではしゃぐ女子校生9人。
一人と男子校生一人は、やや離れたところでそれを傍観する。
理由は単純だ。
「行くよー!」
「わ、やりましたね!」
「ちょっ、姫様!」
あの異様なテンションについていけないからだ。
昔――――ハンドボールをやっていた頃なら、まだついていけたかもしれない。
ただ、今。
ある程度体を動かして保っているとは言っても、鈍っているのは確実。
それに。
あの女子の群れの中に突撃できるほど、勇気がない。
「……暑いですねー、シロさん。」
「……だね。」
ぷかぷかと、浮き輪に捕まって漂い続けるだけ。
割と涼しいし、これはこれで楽しい。
ただ、波に体を任せ続ける。
自分の予想しない場所に移動していく、ただそれだけ。
それだけ、なのに。
「…………ん?」
目の前にいる、彼女との時間が一番楽しい。
一分一秒が愛おしい。
小さく首を傾げる仕草。
少しだけ緩めた口元。
よく見なければ分からない、表情の変化。
逆に言うなら――――見れば、分かるのだ。
「……なんでも、無いです。」
「……そう?」
だから。
そんなそっけない返事をしながら、小さく笑っても。
其の意図は通じると、信じている。
俺に分かるのだ。
シロさんが。
理解してくれないはずは、無いから。
<side:白望>
「はい、胡桃!」
「任せて、トヨネっ!」
「はーいっ!」
海で遊ぶのも飽きたのか。
彼女達は、砂浜でビーチバレーしてる。
明らかにトヨネがいる時点で有利な気がするけど。
「……平和ですねー。」
「平和……嫌?」
「いや、此処暫く忙しかったじゃないですか。」
それは、京太郎だけだと思うけど。
砂浜の上、シートの上。
私達は、互いに肩を貸し合って。
只時間が過ぎるのを楽しんでいた。
気付いてしまえば、私の迷いはなんてことなかった。
ただ、ずっと気づかないフリをしていたのだろうと思う。
もし、私だけの押し付けだったら。
もし、京太郎が離れてしまえば。
そんな”if”を怖がって。
関係を変えるのが怖くて、前に進もうとしなかった。
今のままで、良いのだと。
十分、幸せなのだからと。
そんなことは、無かったのに。
――――だから、迷い続けていたのだと思っている。
「……それは、京太郎だけ。」
「いやー、まぁそうですけど……。」
苦笑いを返す、彼。
彼は約束を守って。
私達は、恋人になれた。
だからといって、何かが大きく変わるわけでも。
変えようとするわけでもなかった。
ただ、互いの気持ちが通じ合ったのが分かれば良かった。
……それを思うと、胸の奥が暖かくなる。
「……ふぁ。」
「……やっぱり、疲れてる?」
「慣れないことでしたからね……。」
まあ、インタビューに慣れてる高校一年生もどうかと思うけど。
ただ、これから先はずっと期待される。
それを理解していない、京太郎では無いと思う。
「…………ね、京太郎。」
「はい?」
「…………少し、休んでも。 良いよ。」
だからこそ。
私は、膝をそっと撫でて。
「……今だけ、特別。」
「……ずるいですって。」
私は、ずるいよ?
誰にも言ってないし。
誰にも、する気はないけど。
京太郎にだけは――――良いよね。
これから先、苦労が待っている彼には。
少しだけでも……休んでほしかったから。
膝の上の、心地よい重み。
太陽の光に反射する、髪を撫でながら。
静かに、時間を過ごしていった。