君の名は、白き望み。   作:氷桜

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<ex02:白波の中、二人。>

<side:京太郎>

 

海、水、快晴。

言ってしまえば夏真っ盛り。

そんな中、高校生らしい元気さではしゃぐ女子校生9人。

一人と男子校生一人は、やや離れたところでそれを傍観する。

理由は単純だ。

 

「行くよー!」

 

「わ、やりましたね!」

 

「ちょっ、姫様!」

 

あの異様なテンションについていけないからだ。

昔――――ハンドボールをやっていた頃なら、まだついていけたかもしれない。

ただ、今。

ある程度体を動かして保っているとは言っても、鈍っているのは確実。

それに。

あの女子の群れの中に突撃できるほど、勇気がない。

 

「……暑いですねー、シロさん。」

 

「……だね。」

 

ぷかぷかと、浮き輪に捕まって漂い続けるだけ。

割と涼しいし、これはこれで楽しい。

ただ、波に体を任せ続ける。

自分の予想しない場所に移動していく、ただそれだけ。

それだけ、なのに。

 

「…………ん?」

 

目の前にいる、彼女との時間が一番楽しい。

一分一秒が愛おしい。

小さく首を傾げる仕草。

少しだけ緩めた口元。

よく見なければ分からない、表情の変化。

逆に言うなら――――見れば、分かるのだ。

 

「……なんでも、無いです。」

 

「……そう?」

 

だから。

そんなそっけない返事をしながら、小さく笑っても。

其の意図は通じると、信じている。

俺に分かるのだ。

シロさんが。

理解してくれないはずは、無いから。

 

 

<side:白望>

 

「はい、胡桃!」

 

「任せて、トヨネっ!」

 

「はーいっ!」

 

海で遊ぶのも飽きたのか。

彼女達は、砂浜でビーチバレーしてる。

明らかにトヨネがいる時点で有利な気がするけど。

 

「……平和ですねー。」

 

「平和……嫌?」

 

「いや、此処暫く忙しかったじゃないですか。」

 

それは、京太郎だけだと思うけど。

砂浜の上、シートの上。

私達は、互いに肩を貸し合って。

只時間が過ぎるのを楽しんでいた。

 

気付いてしまえば、私の迷いはなんてことなかった。

ただ、ずっと気づかないフリをしていたのだろうと思う。

もし、私だけの押し付けだったら。

もし、京太郎が離れてしまえば。

そんな”if”を怖がって。

関係を変えるのが怖くて、前に進もうとしなかった。

今のままで、良いのだと。

十分、幸せなのだからと。

そんなことは、無かったのに。

――――だから、迷い続けていたのだと思っている。

 

「……それは、京太郎だけ。」

 

「いやー、まぁそうですけど……。」

 

苦笑いを返す、彼。

彼は約束を守って。

私達は、恋人になれた。

だからといって、何かが大きく変わるわけでも。

変えようとするわけでもなかった。

ただ、互いの気持ちが通じ合ったのが分かれば良かった。

……それを思うと、胸の奥が暖かくなる。

 

「……ふぁ。」

 

「……やっぱり、疲れてる?」

 

「慣れないことでしたからね……。」

 

まあ、インタビューに慣れてる高校一年生もどうかと思うけど。

ただ、これから先はずっと期待される。

それを理解していない、京太郎では無いと思う。

 

「…………ね、京太郎。」

 

「はい?」

 

「…………少し、休んでも。 良いよ。」

 

だからこそ。

私は、膝をそっと撫でて。

 

「……今だけ、特別。」

 

「……ずるいですって。」

 

私は、ずるいよ?

誰にも言ってないし。

誰にも、する気はないけど。

京太郎にだけは――――良いよね。

これから先、苦労が待っている彼には。

少しだけでも……休んでほしかったから。

 

膝の上の、心地よい重み。

太陽の光に反射する、髪を撫でながら。

静かに、時間を過ごしていった。

 

 


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