君の名は、白き望み。 作:氷桜
「須賀選手! 優勝おめでとうございます!」
「気持ちをお聞かせ下さい!」
……ただ、疲れた。
文字通り、全てを出し切ったつもりだった。
優勝。
ふわふわとして、実感が全くない。
文字通り、奇跡でも起こったんじゃないかと。
自問自答してしまう程に、違和感があった。
「……すいません、後で落ち着いたら……。」
今は、何を話しても駄目だと思った。
だから、記者やアナウンサーを遠ざけて歩いて行く。
少しずつ、距離が離れていく。
歩いて行く。
少しずつ、距離が近付いていく。
歩いて行く。
目指す場所は。
目指す相手は。
たった一人。
たった一つ――――。
「……京太郎。」
選手用の区域に入ったところで。
その、たった一人が待っていた。
やや跳ねた髪。
銀色の、眠そうな目。
宮守高校、団体戦先鋒。
全国5位の、区間賞受賞者。
小瀬川白望、先輩。
「……勝ちましたよ――――シロさん。」
「……うん、見てた。」
それだけで、伝わる。
それだけで、通じる。
互いが、互いを待っていた事。
何方ともなく、そっと抱き合った。
「……約束、護りましたよ。」
「……うん、見てたから。」
約束。
「優勝したら、答えを話す」。
他愛もない、夢物語。
何も知らない人は、そう笑うだろう。
けれど。
俺はそれを叶えて。
彼女は、それを信じていた。
だから、俺達にとってはそれが真実。
必ず叶うと、分かりきっているような。
そんな矛盾した真実。
「ですから――――俺の、答え。 聞いて、貰えますか。」
「……うん。」
俺は。
「貴女のことが――――好きです。 シロさん。」
誰よりも。
何よりも。
その為に、勝ちました。
「……私も。」
「私も。 京太郎のことが、好き。 ……やっと、分かった。」
誰も来ない、通路。
色気も何もない、只の廊下。
にも、関わらず。
互いに、通じあったこの場所は。
何よりも代えがたい場所に感じた。
「……同じ、だったんですね。」
「……そう。だね。」
「もう少し、早く気付けてれば。 何か、違ったんですかね。」
「……どう、かな。」
「それって……どういう?」
「……だってさ。」
気付いてても。
気付かなくても。
私たちは、多分一緒にいたよね、と。
互いに、抱き合ったすぐ近く。
耳元で囁き合う。
子供のように。
悪戯好きな、大人のように。
……恋人のように。
「そう……ですよね。」
「そう、だよね。」
だから。
互いに、何方ともなく笑いあった後。
影を、重ねた。
――――ずっと。
一生。
死ぬまで。
今日のことは、忘れない。
確かに…………俺達は、此処にいる。
甘さと、熱と、想いを重ねながら。
そう、思った。
マヨヒガ。
無欲な者には、幸福を。
強欲な者には、何も与えない。
そんな山奥にあるとされる不可思議な建物。
ずっと迷い続けた少女は、生まれながらにして無欲で。
だからこそ、最も求めたモノ――――少年を得た。
ただ、それだけのお話。
そんな、幸福な物語。
ご愛読有難うございました。
若干のネタバレを活動報告に上げておきますので時間があればそちらも参照下さい。